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ネッツトヨタのお姉さんに半年ぶりに会ってきたよ!

さいきん車を走らせていると、トランクの下から、ちゃぽんちゃぽんと、水が暴れているような音がするので、ネッツトヨタに行って見てもらった。

後部パネルの隙間から、雨水が入ってしまっていたらしい。予備タイヤが浸かるほど浸水していた。雨水って。小生はタンク内のガソリンが暴れているものだと思っていた。小生の車は、雨が降るたびにタプンタプンになってしまうらしい。寒天みたいな車だ。

修理は10万ほどかかるといわれた。水漏れしているところにパテを塗るだけだろうに、なるほど足元を見てやがる。もう10年選手になる車だ。「まだ乗られるんですか?」と担当に笑われながら言われた。

ネッツトヨタに行くと、いつも綺麗な受付のお姉さんがいる。こんなところで働かせておくにはもったいない美人だ。とはいえ芸能界を渡り合っていけるとも思えない、難しいラインの女性である。

背は高めで足が棒のように細く、ほんのり品のいい茶髪をしている。年は26歳くらい。小生は25歳までの女としか付き合えないロリコンだが、このお姉さんなら、幼女の雁首の束を差し出しても付き合いたいと思う。

お姉さんを見るたびにもったいないと思う。女優やアイドルにちょうど一歩劣る。個性があまりない。個性がないから芸能界ではやっていけないだろう。しかし、その没個性的な、地味で控えめな、古来の大和なでしこを思わせる家庭的な女性の魅力が一つ一つの仕草から出ており、その庶民性がかえって芸能界で重宝されるかもしれない。と考え直してしまう。いやしかし、26歳だからなぁ。うーん、芸能界はきついか。市井でいちばん光るタイプか、と、小生はいつもお姉さんのことで頭を悩ませていた。

26歳(推定だが)。結婚適齢期だ。お姉さん自身もそろそろかと思っているし、周りの連中もそう思っている。職場の男連中は、付き合ってもいないのに、そろそろ自分とお姉さんが結婚してもいい頃かもしれないという顔をしていた。

修理の打ち合わせのため、フロアに待たされていると、お姉さんがやってきた。 「お飲みものはどれにされますか?」 小生にドリンク表を差し出してきた。お姉さんは、今日もちゃんと綺麗だった。マスクをしていたのが残念だった。

定期点検の関係で、半年に一度、ネッツトヨタに行くのだが、半年ぶりに見たお姉さんはちゃんと綺麗だった。今のところ劣化の兆しはない。小生は安堵した。小生はこうして半年たびに、お姉さんの劣化チェックをやっている。

「すいません、修理費なんですが、PayPayで払えますか?」と、お姉さんに聞いてみた。別にいつも通りカード払いでもよかったが、お姉さんと会話をしたかった。

「ぺ、PayPayですか……!? 少々お待ちください!」 お姉さんは小走りで上司のところへ駆けていってしまった。なんだかイジワルをしてしまった気分だ。つーか、電子マネー決済が可能かどうかなんてわかれよ。新人じゃあるまいし、知ってて当然だろ。まあ、PayPayで車を買おうとするバカなんていやしないだろうが。

小生は半年に一回しか会えないから、職場の連中と比べると大分不利である。せっかく会えても、こうして差し出されるドリンクを飲むだけだ。ここのネッツトヨタは工場も併設しているので、営業マンから事務やら技術者まで何でも揃っている。お姉さんはこの中から結婚するのか。お姉さん以外の女は全員ブスなので、男連中からすると凄まじい競走である。仲間がオーライオーライなんて後ろでやっていたら、事故に見せかけて一人づつ減らしていきそうなものである。

どの男スタッフの顔にも、お姉さんと結婚したいと書いてあった。一夜限りの恋ではなく、はっきりと、お姉さんと結婚したいと書いてあった。妻子がいる男の顔にもそう書いてあった。

彼らがきょう仕事を頑張れるのは、お姉さんがいるからである。もしお姉さんがいなかったら、小生のヴィッツは余計にポンコツになって返ってくるだろう。クラスに一人も可愛い子がいなかったら、定期テストもスポーツテストも、散々な結果に終わる。学校と同じ、そういうことだ。だから、この工場に愛車を預けるのは嫌だった。定期点検の後は、いつもイカ臭いニオイがした。エンジンオイルやウォッシャー液でなく、変な液体を注入されたような気がした。

理系の技術者は、天パでオイル塗れの作業着で、鼻と股間を膨らませてお姉さんに話しかけていた。技術者が営業と連絡をとるのはわかるが、受付に何の用だろうか。無理やり用事を作って話しかけているようだった。(営業はやめておいた方がいいですよ。営業はダメです。口ばっかりでロクに知識ありません。いつも営業の尻拭いをしているのは僕達です。僕達は営業もできるけど、営業は営業しかできません)そんな顔をしてお姉さんに話しかけていた。お姉さんはどこに行っても男から話しかけられていた。客からも話しかけられていた。

ネッツトヨタというと、最低でも明治か中央あたりは出ていないと採用されなさそうなものだが、お姉さんの仕事を見ていると、客に飲み物を出すか、フロントに立って電話しているだけだったから、お姉さんは高卒採用かもしれなかった。技術者たちは、「君はお金を稼げなくても大丈夫。僕はたくさん自動車の資格を持ってるからね!」と言わんばかりだった。

それでも一番大変なのはお姉さんだ。お姉さんだってバカじゃない。自分がどう見られているかわかっている。乃木坂のようにWセンターシステムが採用されればお姉さんも楽なのだが、センターどころか、このネッツトヨタで、まともに舞台に立てるのはお姉さんだけだった。美女としての責任を、お姉さんが一人ですべて負わねばならなかった。

疲れた顔は厳禁。残業だろうが休日出勤だろうが、飲み会やキングヌーのライブの翌日だろうが、女の子の日だろうが、お姉さんの日だろうが、疲れた顔だけは見せてはいけなかった。男どもは、平気でボサボサの頭でお姉さんの前であくびをしたり、チンコをかいたり、チャックが開いてたり、風俗に行く日は少し冷たかったり、パチンコで負けた翌日はデスクを殴ったりするが、お姉さんはいつも、展示されているアクアのように光輝していなければならなかった。

脇毛の処理を怠る日だってある。深夜までアメトークを見る日だってある。朝、どうしてもクマが消えず、何度も化粧をやり直して慌てて家を出る日もある。そういう日に限って、技術部門のチン毛頭が、僕のプリウスのPHVはうんたらかんたらとマイカー自慢をしてくる。もし一日でも決まらない日を見せてしまったら、「劣化した」とか、「ヤリマン」とか、「性にだらしないから見た目に表れてきてる」とか、「〇〇さん、ちょっと仕事遅れてるよー!」と、優しかった上司からも怒られるようになる。「劣化したから僕のレベルでも付き合えるかもしれない」と、これまで名乗りあげてこなかった、もっと凄いチン毛頭にちょっかいを出されることもある。

職場のアイドルに比べれば、武道館のアイドルなんて可愛いものだ。彼女たちだって、朝の9時から18時まで笑顔を振りまいているわけではない。楽屋では腹を出して寝ていても構わない。お姉さんは昼休憩ですら、うさぎのフンが入っているかのような、ちっとも胃が膨れなさそうな、小さなお弁当箱を広げて食べるのだ。

いったいこれをいつまで続ければいいのか? 結婚するまで? 退職するまで? 女子力によって歓喜し、女子力によって破滅する。思えば人生、女子力に振り回されてばかりだった。

もう楽になりたい。疲れた顔だけは見せたくない。疲れた顔が出るのが先か。結婚が先か。技術のバカが手をすべらせて工場を爆破させるのが先か。もう、メイクしているとき、口紅を顔面にめちゃくちゃに塗りたくなってくる。その顔で出勤してやろうか。チン毛頭もびっくりしてストレートになるだろう。

マスクだけが救いだ。メイクの誤魔化しがきくからではない。疲れた顔を隠すためだ。もうダメになりそうになったとき、マスクだけが助けてくれる。

(私はあとどのくらい走れるの?)

お姉さんが、10年選手の小生のヴィッツと重なって見えた。ちゃぽんちゃぽんと聞こえる水の音は、お姉さんの涙だったのかもしれない。

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