どうでもいいシリーズ

小生は頭が悪いので死にたい

投稿日:2020-08-23 更新日:

ある人が、「優れた物書きは読む分にはいいけど一緒にはいたくない人」といっていた。確かに、これは多くの優れた物書きには当てはまるかもしれない。

しかしゲーテぐらいになってくると、その最高の著作と同じ練度で日常生活を送ることができた。ゲーテは、遠くの読者からも近くの知人からも愛されて死んでいった。

小生は自動車の運転が下手で、相当に意識を集中していないと、すぐに事故を起こしてしまう。小生はこれまで2回、累計点数が6点になり、2回、違反者講習に行った。

結婚相談所では、「初デートは必ずドライブにしなさい」とアドバイスされるらしい。運転にその人のすべてが表れるからだという。小生はこの論を認めるわけにはいかず、長い間ずっと異を唱えてきた。が、ついに断念した。今はこの説を心から正しいと思う。

小生は運転しているとき、「バッキャロー!」とか「ぶっ殺すぞ!」とか、引っ越しババアのようにずっと怒鳴っている。前のバスが搭乗者の乗降のために停車していると、待ちきれずにイライラして、片側一車線だとしても通り越そうとしてしまう。そして、向かい側からきた車とぶつかりそうになったことがある。そのときの、運転していた女の人の顔が忘れられない。

色んな人から注意力がないといわれてきた。

ある日、TSUTAYAの入口の押し扉を、お姉さんが押し続けていた。子供を中に入れさせるつもりだったらしい。子供の後ろに続いて小生も入っていった。一緒にいた友達に、「すごいよ。お前あれはすごかった。おれ、あの女の人の顔、一生忘れられそうにないわ」といわれた。小生はその女の人を顔を見なかったのでわからないが、上の運転で驚かせてしまった女性と同じ女性かもしれない。

仕事の送迎で、軽自動車の後部座席に3人乗せてきてしまったことがある。雨で濡れた靴のままフロアを歩いて床をビチャビチャにし、患者さんを転ばせてしまったこともある。カルテの患者さんの名前を書き間違えたので、その名前を棒線で消して、その上に正しい名前を書いたこともある。パスタ屋でバイトをしたときは、掃除して溜まったバケツの水をキッチンに流した。

俗にこういうのをADHDというらしいが、小生は自分をこれにカテゴライズしていない。実際にそうかそうでないかは置いておいて、自分のことをADHDといっている人間があまり好きではないからだ。

実家に帰った。

2階にあったタンスを1階に運んだ。不用品回収に出すためだ。

この大きさのものを一人で無理して運んだ。床を引きずりながらいったら、階段の滑り止めをぜんぶ壊してしまった。

「ねえ、なんでこういうことするの? 15時に回収の人がくるんでしょ!? そのとき運び出してもらえばよかったじゃん! 一人で運べるものじゃないでしょ!」

母に怒られてしまった。小生はもうすぐ35歳だ。

小生はなぜこんなことをしたのか。バカなのか。バカには違いないが、それ以上に欲に囚われていた。

ミニマリストの性がじっとしていられなかった。綺麗な部屋を見たかった。すべて断捨離した後の、スッキリした部屋をはやく見たくて、15時まで待てなかった。

小生は掃除が好きである。ゴミ屋敷を見ると綺麗にしたくなる。友人の部屋へ遊びにいくと掃除したくてたまらなくなる。起動に10分かかるノートパソコンを使ってる人を見ると捨ててあげたくなる。小生はこういう仕事に向いているかもしれない。片付け作業になると、みんなが休憩しているときでも、小生だけはまったく休まず動き続ける。

いつも捨てられるものを探している。これも、十分にものに囚われているといえるだろう。

「15時に業者さんくるんでしょ? そのときに運んでもらえばよかったじゃん」

母はそういった。小生は朝の7時に運んでしまった。15時まで待てなかった。

本当に大変だった。階段から下ろしていると、途中で階段の天井が低くなるところがあり、ちょうどすっぽりタンスが階段に埋まってしまった。

「ちょっと二階に行けないじゃん!」

洗濯カゴを持って現れた母親が下から叫んだ。これから2階のベランダで洗濯物を干したいらしい。2階へ引き戻そうと思っても、ぴったり綺麗に埋まってしまったから、引き上げられなかった。横もほとんど隙間なく埋まってしまったので、裏にすら回れなかった。

「えっなにこれ」

今度は姉ちゃんが出てきた。朝食を食べ終わったから、2階の部屋にいきたいらしい。

「えっ仕事遅刻するんだけど」

「……」

午前7時。一番忙しい時間だった。確かになぜ小生はこんな時間に運ぼうとしたのだろう。朝7時。家庭内の導線がいちばん荒れる時間帯だ。

小生は、長いこと一人暮らしニートをしているから、仕事という概念がなかった。朝の7時も夜の7時もかわらない。一日中、昼下がりのティータイムの感覚が続いている。だから、朝の7時に誰かが仕事に行くという発想がなかった。

「ねえ、本当に遅刻するんだけど」

9年ぶりに姉と話した。小生と姉は世界でいちばん仲の悪い兄弟で、何十年も同じ家で過ごしてきたが、ほとんど会話をしたことがなかった。最後に話したのは小生が25歳の頃だった。小生が姉のチキンラーメンを勝手に食べてしまい、「50円払って」といわれたので「わかった」といった。それが最後だった。

小生にも小生の計算があった。本当は、姉が仕事に行くことを計算していなかったわけではない。姉はご飯を食べるのが非常に遅く、なんと朝食を食べ終わるのに30分かかるので、その間に運びきれると思ったのだ。タンスの中身をぜんぶ抜いたら案外軽かったので、30分? 5分もいらねーよと思って、小生は作業の開始に踏み入ってしまったのである。

「本当に迷惑なんだけど」
「ほんと、余計なことしてくれるよね」

「…………」

ブツブツいわれながら、タンスと格闘するのはつらかった。なんでここにタンスがハマっているんだろう? すごい存在感だった。ぬりかべ? ドッスン? ファンタジーの世界に見えた。写真を撮りたかったけど、スマホは2階だった。

無理やり引きずりだしたら、激しい摩擦で、木屑やら破片やらがたくさん散らばってしまったので、小生はそれを雑巾で拭いていた。

すると2階から、「ちょっと何これ!」と姉の叫ぶ声がした。

台所の流しが詰まってしまったらしい。どうやら2階の洗面器は勢いよく水を流すと、すぐに詰まってしまうらしい。小生は長男としての誇りを取り戻すべく、せめて後片付けぐらいはちゃんとしようと雑巾を濡らしたのだが、洗面台は、ネッシーが出てきそうな湖みたいになってしまった。

「歯磨けないんだけど」

姉がいった。

お前が歯磨かなかったとしても誰も困らねーだろと思ったけどいわなかった。

今日はよく姉と話す日だ。9年分話した気分だった。

「ねぇお姉ちゃん、仕事間に合うの?」母が姉に尋ねた。

「わかんない」と姉はいった。

姉はいつも7時45分に家を出る。女というものは、7時45分に家を出るとしたら、5時半に起きて、シャワーを浴びて、お弁当を作って、化粧をするものだと思うが、小生の姉はいつも7時に起きていた。そして30分かけて朝食を食べて、歯を磨いてうんこをして、五分で化粧をして、7時45分に家を出る女だった。いや、女なのかもよくわからない。お兄ちゃんなのかもしれない。仲が悪いから、性別もよくわからなかった。

「この流しはちょっとずつ開けないとすぐ詰まっちゃうから、気をつけなきゃなんないのに」

イライラしながら母がいった。

んなもんしるか。じゃあ張り紙に書いとけ。たまにしか実家に帰んねー俺にわかるわけねーだろ。一体なんなんだこの家は? なんでこんなボロいんだ? 俺は本当にここに何十年も住んでいたのか? 他人の家にしか見えない。

「本当余計なことしてくれるよね」
「こんなことするくらいなら帰ってきてくれなくていいって感じ」

2人でブツブツいっていた。

「ねえ。大体、たまにしか家に帰ってこないのに、何でそんなに部屋を片付けたいわけ?」

母は率直に小生に疑問をぶつけた。

「…………」

上級ミニマリストは、実家の部屋も綺麗にしたくなるのである。上級と中級の違いはそこにある。たまにしか帰ってこない実家の部屋を、家族に迷惑をかけてまでミニマムにする者が、上級ミニマリストと称される資格をもつ。

小生は、詰まりを解消できそうな細いブラシのようなものを探すために、1階へ降りていった。箸もスプーンもあるけど、汚れていいものとなるとなかなか見つからなかった。台所の棚をたくさん開けていると、2階から声が聞こえた。

「なんかさ、あいつが独身なのわかるよね」
「ぜったい結婚したくねー」

それは、女が合コン中のトイレで語る男性評に似ていた。

久々に本気で人を殺したくなった。細いブラシは見つからないけど、包丁はすぐに見つかった。

小生も悪い。いや、小生が悪い。小生はこれだけのことをしておいて一言も謝らなかった。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。謝りたかったけど、タイミング的にうまく切り出せなかった。家族相手だと素直に謝りづらかった。

しかし、「帰ってこなくていい」「結婚できない」の言葉は許せなかった。どうしてこんなことが平気でいえるんだろう? 小生とこいつらは本当に血が繋がっているのか? 小生がやらかしたこともひどい。でもそれだけ暴言を吐いたのならイーブンだろう。だから謝らない。それでいいだろう。小生の脳内では、こういった計算結果が叩き出されていた。

結局見つからなかったので、手ブラで2階に戻った。姉は排水溝を割り箸でほじくって直そうとしていた。「お姉ちゃんもういいよ。あとはあいつにやらせよう。1階の洗面台使いなよ」と母がいった。

あいつ? やらせる?

だから、言っていいことと悪いことがあるだろうが。母親のこの口の悪さは今に始まったことではないが、34年生きてきて、慣れることはなかった。ミスをして人に迷惑をかけた人間には何をいってもいいと思ってるのか? 魔女狩りじゃねーか。俺は悪い魔法使いか? ここは中世のキリスト異端審問所なのか?

だから家庭内殺人が起きるんだよ。ニートが母親殺すんだよ。用件だけいえばいいだろ。用件だけを。

『壊れたすべり止めを弁償して』
『詰まった洗面台を直して』

これだけでいいだろうが。グチグチいう必要はどこにあるんだよ。こっちは悪いことしたってわかってるんだから、あとは俺がどう責任取るか、それだけだろうが。感情がいらねえっつってんだよ。感情が。感情が余計なんだよ。なんでどいつもこいつも感情を抜きにして用件だけで話せねーんだよ。

俺はてめえの半分しか生きてねぇけどそれができるぞクソババア。俺はお前より三つ若いけどそれができるぞクソブス独身女。

こんなのと結婚したくねー? こっちのセリフだよ。そっちのセリフでもあるけど、こっちのセリフだよ。いつもトイレのドア開けながらウンコしやがって。1階のトイレは母親の領分。2階のトイレはお前(姉)の領分になってるからって、扉開けながらウンコしてんじゃねーよ。バカじゃねーの? 弟が帰ってきたときぐらい閉めろよ。わかってるよ。癖になってて閉められない身体になってんだろ。別にいいけど、よくそれで人の結婚がどうとかいえるな。

小生は感情を抜きにして用件を話すことはできるが、朝の7時にタンスを運ばないということができない。だから、感情を抜きにして用件だけを話すことができる妻と結婚したとしても、いずれ感情を芽生えさせてしまうだろう。

小生はこの部屋を8時間はやく見るだけのために、今回の犠牲を支払った。

before

after

ただこの景観を見たいがために、小生は……。

小生は……。

一人でマンション生活をしていると、こんな事件は起こらない。すべて自分の思い通りにできる。あのマンションにいるときは世界でいちばん自由だ。マンションに帰りたい。隣の部屋には、朝7時になると、TRFの『Boy Meets Girl』を目覚まし代わりに大音量で流すジジイがいるが、そんなのは可愛いもんだ。あいつもそんなことをやってるから追い出されてきたんだろう。あのマンションのやつらはみんな、平気で朝の7時にタンスを運びそうな顔をしている。

小生は、あのマンションがあるから、母親を殺さずにすんでいる。母親を殺してしまうニートは、その犯罪的気質よりも環境的要因の方が大きい。

サラリーマンは、毎日こんな日々を送っている。仕事先でも、家に帰っても、今日の小生のような出来事が続いている。このブログの読者方はそういう人が多いかもしれない。しまるこの野郎、まーたクソくだらねえことでピーピーいってやがる。女とヤレるとかヤレないとか、ずいぶん楽しい悩みじゃねーか。こっちにもお裾分けしてもらいたい悩みだね! こっちはそれどころじゃねーんだよ。毎日生きるのに精一杯なんだよ。死ぬのに精一杯なんだよ。天変地異を期待して家を出てるんだよ。電車が転覆するのを期待しながら吊り革握ってんだよ。会社に着いたら更地になってるのを期待して曲がり角を曲がってるんだよ。しまるこ、俺たちはな、俺たちの望みはたった一つだけなんだよ。休みが欲しい。それだけだ。毎日休みのくせにグダグダいってんじゃねえインチキしまるこが!

すごいと思う。小生には無理だ。誰とも働けない。誰とも生活できない。小生は物の断捨離は得意だけど、人間の断捨離はもっと得意だ。友人もたくさん切り捨ててきた。結婚しても、嫁と子供を断捨離してしまいそうだ。

だから、小生を断捨離するのがいちばんいい。小生が死ぬのがいちばんいい。みんなと一緒に生きていくことができないから、こうして一人で生きているけど、この生活だってそんなにしたいわけじゃない。考えていることは、既婚者と一緒だ。無になりたい。永遠の無になりたい。それだけだ。休みとは永遠の無だろう。

小生は一人でマンションで生きている分には幸せだけど、実家に帰ってお母さんに怒られると死にたくなる。小生はずっと一人でいたい。誰とも結婚したくない。一人は寂しいし、飽きることもあるけど、ハズレを引いて失敗よりマシだと思う。だから小生は一人で生きていくことにした。

小生は何もできない。書くこと以外何もできない。書くこと以外のことをすると人に迷惑をかけてしまう。だから早くあのマンションに帰って続きを書くことにした。マンションに帰ろうとすると、母はごはん6包と、キウイのパック、塩昆布、焼き海苔、ミックスナッツを用意してくれた。小生が寝ている間に、保険屋に行って、車の保険の手続きを済ませておいてくれた。うちの駐車スペースは縦列駐車で面倒くさい仕様なのだが、小生がすぐに出発できるように、姉の車を入れ替えて前に出しておいてくれた。小生は心の底から感謝した。感謝したり、殺したくなったり、死にたくなったり、忙しい。殺したり死んでいる暇はないので、続きを書くことにする。

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