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コンビニ店員を恫喝すればモテる理由

友人で身長が155cmしかないチビの男がいるのだが、こいつが信じられないほどモテる。

今まで付き合った彼女は10人をこえていて、一度付き合うと長い。2股3股もよくやるし、3Pも4Pもやったりしている。部屋もゴミ屋敷みたいな汚部屋で、コンドームやティッシュが散乱し、便器も白より茶の面積の方が多く、こすっても二度と落ちなそうな年季物のうんこがびっしりこびりついているのだが、そんな部屋に女を連れ込んでしまう。そして10年以上洗われた形跡のないシーツの上で抱いて寝る。

顔はかっこいいわけではない。年は33になるが、ファッションには異様にこだわっていて、川谷絵音みたいな雰囲気や髪型を真似ている。背が低いのを逆手にとり、チビが何かを話すと、周りが『いいからはやく立てよ』といい、チビが『立ってるわ!』と返す。職場でも合コンでも結婚式でもどこでもこのネタをやる。

付き合ってすぐに30万円の結婚指輪を買ってしまったり、少しLINEを無視されただけで女の職場まで押しかけたりする。女に別れようと言われると本気で暴れるし本気で泣く。一度女が電車で寝過ごして遠い駅に着いてしまい、「怖い」といって電話をかけてきたことがある。俺は反対行きの電車に乗ればいいだけだから行かなくていいとチビに言ったが、チビは行ってしまった。

俺はそんなのは優しさではないと思ったが、これ以上の優しさはないらしい。女はあのとき迎えにきてくれてよかったと月9を語るようにいつもロマンチックに話した。ちなみに女は25歳。狂ってる。どの女もみんな初歩の哲学の森に迷い込んでしまうから、俺はもう疲れた。みんな馬鹿になって愛を求めている。知性的な優しさなど冷たくされているのと同じらしい。履き違えた靴で車に乗らず電車にも乗らず走って迎えに行くのが一番いい。愛愛愛。愛を求めすぎておかしくなっている。まあしかし、この辺りはチビの血液型がB型というのも関係しているだろう。俺のように相手がこれくらいLINEを送ってきたらこれくらい返そうとねちっこい計算をするA型は今の時代に合わない。

このブログだから言ってしまうが、チビは高校のとき、朝の4時に起きて、女子テニス部の部室に忍び込んで歯磨き粉の中に精子を入れていた。おもちゃの水鉄砲に精子を入れて、街行く女子高生に発射して自転車で逃げるということも繰り返していた。これはバレて、親と一緒に近所を謝罪して回った。

10代の頃に満たされなかった欲求はいくつになっても消えることはないとフロイトがいっていた気がするが、チビを見ているとその通りに感じる。

チビは青春を取り戻すように、25歳の彼女に制服を着させて自分も学ランを着て一緒に模擬制服デートをしたりするが、そんなことを何度やっても、学生のころに夢見た甘い青春を取り戻すことはできないらしい。いくら綺麗な大人の女と恋愛してもこの感情だけは克服できず、手を繋いで制服デートしている高校生カップルを見ると、後ろからあいだを走り抜けたくなるといっていた。

おそらくチビはこのまま順風満帆に人生を歩んでいったとしても、死んだら制服を着て化けて出るに違いない。制服を着たジジイの地縛霊になって校舎をずっと眺め続けるのだ。それは校長の英霊だけが許されるのだが。

屈折した感情は、チビをオラオラ系に変化させた。小さくて喧嘩が弱いから男の前だと「立ってるわ!」しかいわない小判鮫キャラなのだが、女の前だと校長のように大きくなる。女と恋愛をしすぎたのか、初歩の哲学の森に迷い込んだのか、オラオラの方が単純にモテるからか、チビだからか、チビは最近どこでもオラオラするようになってしまった。最近は店員に対してもオラオラする。

ある日、俺と友達とチビと3人で遊んでいたとき、チビの彼女が合流して、4人でコンビニに向かった。

チビがペットボトルのお茶を買ってお釣りをもらう際、店員がかなり高いところからチビの手に落とすように金を渡した。するとチビは、「そんなに俺の手が汚ねーんだったらここにおけよ!」と店内全域に響き渡るような怒声をあげてレジ机をバン! と叩いた。

店員も、チビの隣にいた彼女も、俺も友達も客もみんなびっくりして何事かと思った。店員は顔が青くなって何度もすいませんと謝っていた。
「すいませんじゃねーよ! 客の手に触れんのが嫌なんだろう!? だったらここに置けよ!」と再度レジ机を凄まじい勢いで叩いた。

「もういいよゆう君! いいから行こうよ!」彼女は必死にチビの袖を引っ張って連れ出そうとしたけど、チビは頑なに動かなかった。店員も謝ってるのだからもう用はないはずなのに、ずっと睨みつけるという何の時間かわからない時間が続いた。彼女は泣き出してしまった。店員はユニフォームと同じくらい顔が青くなってしまっていた。

彼女は泣き出してしまった。わんわんと顔をぐちゃぐちゃにして泣き腫らし、店内は騒ぎになった。
(おかしい……。コンビニでお茶一つ買うだけで何がどうしたらこんなことになってしまうんだ?)
宙から金を落とされても別にいいだろう。そんなにギュッと握り締めてもらいたかったのか? 部屋を見るかぎり俺だって触りたくないし、背が低すぎて届かなかったんじゃないのか? なんで彼女は泣いているんだ? 女はでかい声を出されるとすぐに泣く。

「映画みたいだな」
と友達が呟いた。
「ふ」と俺は笑った。

コンビニの中で大きな感情がうごめいていた。登場人物がみんな感情的で、感情的な人間が揃うと、それだけで些細なことが劇的になる。お茶を買うだけでカタストロフィーになる。

「仕事なめてんじゃねえよ。いい加減に仕事してんなよ?」
「すいません」
「ゆう君! もう行こうよゆう君! うわああああああ」

この世の終わりのように泣き崩れていた。コンビニは鉄くずも残らぬほど砕け散るかと思われた。俺はこのバカ二人を見て気持ちよさそうだと思ってしまった。セックスしているようにしか見えなかった。

その後、4人で静かな夜の街を歩いていたら、今度は嘘のように意気消沈していた。
「お願いだからもうあんなことはしないで……」
「わかった。もうやんねーよ……」
こういうヤツらが『今日から俺は』の視聴率を支えているんだろう。

女の顔を見ると、頬をピンクに染めて、すっきりしたような顔をしていた。一段とチビのことが好きになったようだった。チビも夜風を浴びながらポケットに手をつっこんで、激しいバトルを終えたあとの主人公みたいな顔をしていた。

クソみたいにくだらなかったが、彼女に満足を与えたのは事実だ。俺と友達は端役もいいところだ。チビを引き立てるために今日俺と友達は服を着替えて通勤用ではない靴を履いて出てきた。どんなときも怒らず騒がずにじっとしている男というのは、女の目から見たら舞台に上がっていない人間に映るらしい。

彼女は俺たちのことを優しいからすぐに彼女できるという。「落ち着いてる人が好き」「店員に優しくできる人が好き」と口ではいうが、たった今起こったできごとをどう説明するのか。つけまつ毛を外してチビをもう一度よく見てほしい。

DVされる女が何度もDVする男と付き合うように、頭では否定しても心では求めてしまう。カルマだろう。でかい声を出されて耳をつんざくような爆音が子宮いっぱいに響いて、いやあああああと叫んで、その後二人でぼんやり宙を見つめてあたし達死んじゃおっか……というまでがワンセットだ。手の込んだセックスなのだ。俺と友達と店員は前戯に使われた。

まあこれも仕方ない。俺も自分が女になったつもりで世の中を歩いたことがあるが、男はどれもこれも全員同じに見える。全員黒縁メガネに髪のサイドを刈り上げてコンビニ弁当を食ってるだけだ。上下に振ってもライターとパチンコ玉と風俗の割引クーポンしかでてこない。だるそうに椅子に座ってる姿を見ると殺したくなる。ドトールで女が机に頭を突っ伏して寝てる姿は可愛いけど、男が突っ伏してると殺したくなる。

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