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教室で男達がクラスの女のエロ話で盛り上がってるところに、当人が出くわしてしまったら

高校時代、修学旅行でハワイに行ったとき、ホテルのベランダから外を歩いている外人に向かって小便をかけた。

大問題になり、帰国した後も俺は、毎日放課後に職員室に呼び出されて説教を受けた。担任まで一緒に怒られていた。

説教が終わって、俺はカバンを取りに戻るために教室に向かった。

教室の前につくと、廊下で顔を赤くして突っ立っている胸のでかい女がいた。

常田 夏美(とこた なつみ)。クラスの女だ。俺が最も抜き散らかしてる女だった。こいつのせいで、ティッシュを買っても買っても追いつかない。部屋が白い海になってお母さんに怒られてしまう。

なんで顔を赤くしてるんだろう。

「どうかした?」

俺は常田に話しかけた。いつも抜き散らかしている女に話すのは緊張した。今日初めて話した。

「うん……。ちょっと……」

話せて嬉しかったけど、俺は常田と付き合えないことはわかっていた。外人に小便をかけた事件は、学校中に知れ渡っていたからである。

「長嶋君達が、話してて……」

彼女の赤い顔。廊下で突っ立っていること。長嶋というワード。すべてが合致した。

長嶋といったらクラスで一番のエロ助だ。エロいこと以外は絶対に口にしない。毎朝俺の顔を見るたびに、昨日俺がオナニーしたかどうか当ててこようとする男だった。

「なぁしまるこ。部屋でオナニーしてる女に出くわしたときは、レイプしてもいいと思うんだが、どう思う?」と真顔で言われたときは、担任に報告しようか迷った。俺より絶対に説教した方がいいと思った。

「やっぱ常田だよな」

「ああいうのが一番抜きやすい」

「ちんこに響くルックスだよな」

「巨乳だけど乳輪はどうだろうな?」

「小さいに決まってるだろ」

「パイオツがあんなにでかくて乳輪だけ小さいなんてことありえるか?」

「わかんねーべ! そういうおっぱいもあるべ!」

「乳輪が小さかったら国民栄誉賞もんだな」

「林が、なんかの全国大会優勝で横断幕張られてるけど、常田が張られるべきだよな」

「『乳輪が小さい』って張られんの?」

「『巨乳だけど乳輪が小さい』な」

「その方が学校のPRにいいかもしれんな」

「男子校になっちまうべ」

「あれは天然物だな。肥料を与えてデカくした作物は中身がスカスカだが、常田のは自然農法で育ったものだろう。化学肥料の臭いがしない」

「化学肥料の臭いがする乳なんてねーだろ」

「モビルスーツだよ、あれは」

「色はどうだろうな?」

「ピンクはピンクだろ」

「でも肌は黒いべ」

長嶋を中心に三人の男達がエロ話に花を咲かせていた。当人に聞かれてるとも知らずにペラペラエロいことを話していた。

常田は恥ずかしそうだった。俺にまで聞かれてしまっている。

俺は唖然とした。同時に、よかったと思った。俺は四人目のメンバーとして、いつもあの場に座っているから、職員室に呼び出されてよかったと思った。

「大丈夫?」

俺は頭がまとまらないうちに、常田に話しかけた。

「うん……」

何が大丈夫なのか、何がうんなのか。

巨乳というのは下品で馬鹿と相場が決まっているが、常田は上品で利口だった。常田の笑った顔は、巨乳がよくする鈍感な笑顔ではなかった。おとなしく普通に学校生活を送りたいだけの女の子の笑顔だった。

肌は黒く健康的で、髪は暗めの茶色。陽光を浴びてすくすく育った稲穂の様で、背丈や肉づきが丁度よく、抱きしめたら一番気持ちいい身体に違いなかった。抱き枕に生命が入って動いてるように見えた。しかし、最も肝心なところは、細身なのに巨乳ということだ。なぜ胸だけ肥大することに成功したのか。

おそらく視線だろう。男子生徒達のいやらしい視線をいっぱいに浴びて育った。明くる日も、明くる日も、じっとり見られ、ねっとり見られ、その一つひとつの視線には質量があり、このおっぱいとまれといったふうに集合されていった。

常田もその視線に気づいていた。しかし恥じらえば恥じらうほど、女性ホルモンが活性し、大きくなる矛盾があった。恥じらいという種に、太陽のような視線が届いて育った。立派な自然農法だった。

ただ胸がでかいだけなのに、変なジジイから、「最近の女子高生はけしからん」と言いがかりをつけられたような顔をして登校していた。

私はただ普通に学校生活を送りたいだけなのに、どうしてこんなにイヤラシイ目で見られなければならないんだろう? ぜんぶこの胸のせいだ、この胸のせい……と、よくそんな顔をしていた。

しかしその顔がまたよくなかった。そんな風に葛藤している顔さえも、クラスのハイエナ達にとって、弁当を食べ忘れて午後の授業にバタバタ倒れてしまうほどの、旨いご馳走だった。

「彼女にするにもセフレにするにも嫁にするにもいちばん都合がいいよな」

「常田、処女かなぁ」

「難しいところだな」

「あんまり男と話してるとこ見たことねえな?」

「あんなエロい胸ぶら下げてるくせに、男と話す時は挙動不審になってるわな」

「いつも地味な女達とつるんでやがる。下ネタの一つも言えねーようなメガネ達だ。そいつらさえ、常田と話すときは目のやり場に困って下向いたりしている。同性でも、目のやり場に困るんだな」

「じゃあ処女だべ」

「じゃあってなんだよ」

「今の話のどこに処女性があったんだよ」

「難しいところだな」

「オナニーはしてるべ?」

「さあな。常田がオナニーしているところに、運よく出くわすことができればセックスできるんだが」

「長嶋、それどういう理屈だべ?」

「長嶋、俺達にもわかるように話してくれ」

ひどい会話だった。こんなエロガッパ達と同じ教室で授業を受けていると思うと恥ずかしくて転校したくなった。

「万が一にも付き合える可能性はないけど、いてくれるだけでいいよな」

「可能性でいったら、画面の向こうのアイドルと変わらないべ。ファンとして楽しめばいいべ」

「俺は逆かな。常田を見ると鬱になる。常田が誰かとセックスする未来を考えると死にたくなる」

「いつかはセックスするべ」

「だから迷惑なんだよ。あいつの存在は」

「全員とやるか誰ともやらないかにしてほしいよな」

「こんな思いにさせるなら学校に来ないでほしい」

「常田の机、窓から投げ捨てるべ」

「やむを得んな」

「まったく人を幸福にも不幸にもするおっぱいだ」

「右のおっぱいには天使、左のおっぱいには悪魔が潜んでるんだろう」

「右からはミルク、左からは墨汁が出るべ」

「いっそ殺しちまうか」

「常田の命を何だと思ってんだよ!」

「喧嘩すんなべ!」

「常田を殺しておっぱいだけ生かす方法はないものか」

俺は性欲異常者達の会話に唖然とした。なんだこいつらは。俺も外から見たらこんな風に映っていたのか? その横で、どう俺に向いていいのかわからずに迷子になってる常田の視線に気づいた。

「あ、えーと、ところで、こんなところで何してんの?」

俺は常夏に尋ねた。

「あ……、うん。さっきまで、風紀委員会の打ち合わせがあって、終わったからカバンを取りに教室に戻ってきたんだけど、そしたら、長嶋君達が……」

風紀委員会だと? 風紀を乱しといてよくいうぜ。冗談は胸だけにしてほしい。

「しまるこ君は?」

「俺もカバン取りに来た」

「でも、しまるこ君、いつもカバン持たないで登校してくるよね?」

「いつもじゃないよ。体育がある日は、体操着を持ってこなきゃならないから、カバンに入れて持ってくる」

「そうなんだ……ごめん」

「別にいいよ」

俺は体育がないときは、いつも手ぶらで登校していた。

「じゃあ、お先に」

ということにはならない。

「カバン取ってこようか?」

「え!?」

常田は驚いた顔をした。本当に驚いている顔をしたから、俺の方が驚いてしまった。この場に居合わせておいて、取ってこない男などいるはずがないのに。

「いいの……!?」

「うん」

教室にいたら、俺が一番性的感想文を述べていたかもしれないのに、調子のいい口だった。

「お母さんは何もいわねーのかな?」

「いうって、何を」

「注意したら小さくなんのかよ」

「でも、娘の乳があんなにデカかったら、料理のときに手を切っちまうべ」

「どうして私をこんなおっぱいに産んだの? という話し合いは何度かあったやもしれんな」

「男に産んでよ! みたいな?」

「てめぇ常田が男に産まれたらおっぱいどうなっちまうんだよ!」

「代わりにちんこがでかくなって産まれるに決まってんだろ」

「常田のおっぱいに謝れ!」

「人のおっぱいで喧嘩すんなべ!」

「おう。しまるこ」

「こってり怒られたか?」

「まあな」

「おいしまるこ! それ常田のカバンじゃねーか!」

「しまるこ。いくらモテなくても女子のカバン持って帰っちゃダメだべ」

「それはまずいだろ」

「お前今怒られてきたばっかだろ」

「しまるこ……! お前やっていいこととやっちゃいけないことの区別もつかなくなっちまっただか!」

「職員室で頭殴られ過ぎたのか?」

「おい……しまるこ!」

「本当に持っていきやがった」

「中、何入ってんだろうな?」

「横断幕だべ」

「あいつ、持って帰って何に使うんだ?」

俺は常田にカバンを渡した。

「ありがとう! しまるこ君!」

子供のような笑顔だった。やはり巨乳がする笑顔には見えなかった。男に話しかけられると漫画のように頭上に表れる汗マークが消えていた。

「ありがとう! バイバイ!」

常田はカバンを肩にかけると、ニッコリと手とおっぱいを振って、小走りで駆けて行った。突き当たりの階段にあたると、またこっちを向いてニッコリと笑った。

俺は家に帰った。道中はすべての景色がおっぱいに見えた。車がおっぱいに見えて飛び込みそうになった。なんとか無事に家に着いた。ただいまの代わりにおっぱいと言った。ベッドにダイブして、そのまましばらく横になって天井を見つめた。もちろん天井の染みがおっぱいに見えた。そして、自分のカバンを取ってくるのを忘れたことを思い出した。

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