友達「お前、結局出会い系で何人ぐらいあった?」
しまるこ「たぶん80人から90人ぐらいかな? 100人はいってないと思うけど」
しまるこ「お前は?」
友達「多分40人くらい」
しまるこ「40人と出会っといてなんで誰とも付き合ってねーんだよ!」
友達「お前がいうな(笑)」
友達「いやー、しかし桁がもう一つ増えても、彼女ができるか怪しいわ」
しまるこ「確かに」
友達「一番いい出会いとかある?」
友達「成功とか失敗とか抜きにして」
しまるこ「そうだねー、一人とんでもない別格の美人がいたね」
しまるこ「今まで出会った女の子の中でも一番美人だったかもしれない」
しまるこ「めっちゃくちゃ美人だったなぁ〜〜!」
友達「へー、そんなのが出会い系にいたんだ」
しまるこ「24歳の音楽家っていうか、ヴァイオリニストだった」
友達「へー」
しまるこ「なんでも、高校2年の頃に急にヴァイオリンに目覚めて、たった2年で音大に受かったらしい」
しまるこ「で、その後も大学の4年間もひたすらヴァイオリンの練習漬けで、卒業後はプロのオーケストラ団員となって演奏して各地を回っているっていう子だった」
友達「なんで出会い系やったんだろうね」
しまるこ「ホントにね」
友達「歌とか上手そう。カラオケとか行ったら楽しそうだね」
しまるこ「カラオケは一度も行ったことがないんだって。歌謡曲もまったく知らないんだって」
友達「筋金入りだなぁ」
しまるこ「なんか容姿が人と違うんだよ。ヴァイオリンを演奏することで、その旋律的な波動が、彼女の肉体に宿っていったような、そんな容姿だった」
しまるこ「普通のかっこいいとかかわいいを超越していた。卓越した気品があった。可愛いんだけどね。可愛いというよりも美しいというか」
友達「ふーん」
しまるこ「乃木坂の与田祐希って言えばわかるかなぁ? あれにすごいそっくりだった。でも与田祐希より可愛いかった! 目の感じが本当にそっくりで、儚い透明感があって、ガラス細工のような吸い込まれそうな目だった」

しまるこ「俺の方をほとんど見ずに、どこにも焦点が合ってない夢遊病のような虚ろな目をしてた」
しまるこ「なんかさ、グイグイ目を光らせてこっちの目を見てくる人だと、目を背けたくなるじゃん? 反対にどこか一点を見つめてる人の前だと、安心してその人の目を見続けられちゃうというか。俺、平気で彼女の虚ろな目を見つめ続けたよ。彼女も構わずぼーっと一点を見たままで。そんな不思議な時間がずっと続いた」
友達「吸い込まれそうっていうか、吸い込まれてんじゃん(笑)」
友達「出会い系の男が儚く見えたのかね」
しまるこ「(笑)」
しまるこ「かもね(笑)」
しまるこ「でもヴァイオリン折ったらすごい怒りそうだった」
友達「折らなくていいよ(笑)」
しまるこ「趣味がまた高尚で、サンドウィッチマンが好きらしいんだよ。YouTubeでサンドウィッチマンのコントをよく見るらしい」
友達「へー」
しまるこ「オリエンタルラジオの中田の変なダンスとか、EXILEとか3代目とか、ああいうの好きな出会い系女は多いけど、格別の美人となってくるとセンスも格別になってくるんだと思ったわ」
友達「サンドウィッチマンは誰が見ても面白いっていうだろうけどね」
しまるこ「でも、俺が気になったのは、ずっとニヤニヤしてるとこだったんだよ」
友達「うん?」
しまるこ「まったくニヤニヤしない人間っているじゃんね?」
しまるこ「人間が一枚でできてるっていうか、豪放快楽というか、単純というか、信号機みたいな人間というか。そういう人間ってニヤニヤすることがないんだよ」
しまるこ「ニヤニヤって複雑な感情だと思うんだよ。多くの人が見落としがちな小さな繊細な無形のものに気づいて、静かに噛み締める高等感情なわけだよ」
しまるこ「ちょっと面白いことがあって、小さくニヤッと笑うとかだったら誰にもあるけど、そうじゃなくて、なんにもないのに、ずっとニヤニヤしてたんだよ。理由がないのにニヤニヤしてるやつ、たまにいるよね?」
友達「いるね」
しまるこ「感情が繊細にできてるんだよ。だから小さな機微も拾えてしまえるんだよ。常に気づいてる感じだった」
友達「ふーん」
しまるこ「そこら辺はやはり芸術肌な人間だからだろうね。妙な落ち着きというか、感情の一滴一滴を漏らさずに掴まえるのが習慣になっていたんだろう」
しまるこ「だから笑いのセンスも良くなって、サンドウィッチマンの動画を見るようになったんだろう」
友達「そこまでその子のことを解明できるんなら、付き合えそうなもんだけどね」
しまるこ「本当に今時こんな清楚な格好するかっていうぐらいびっくりするほど清楚な格好をしていて、長い黒髪で、ベージュのニットに真っ白なロングスカートを履いて、細くて小柄なんだけど、おっぱいはかなり大きくって」
しまるこ「細くておっぱいが大きいだけで信じられないほどの天分を受けているのに、一体どこまで運がいいんだって思ったよ」
しまるこ「足ひとつ取ってみても美しかった。細いけど、体のラインがすごいしっかりしてるの。均整のとれた身体つきで、神様が本気で丁寧に創った作品に見えた」
しまるこ「運がまるで違った! 大抵の出会い系の女ってなんか運が悪そうな感じがするじゃん? サゲマンっていうか、こいつと一緒になったら人生が悪くなって、底の底まで沈んでいきそうな。結婚したらチャーシューの取り合いで喧嘩している絵が浮かぶんだよ」
しまるこ「この子と会ったとき直感したのは、なんか運命が開けていくような、人生が前進しそうな、パワースポットのようなものを感じたね」
友達「ふーん」
友達「よっぽどモテただろうね」
しまるこ「そう思って聞いてみたんだけど、付き合ったのは一人で、ほとんど恋愛経験ないっていうんだよ」
しまるこ「大学時代、ケーキ屋でアルバイトしたら、店長のおっさんからお願いだから付き合ってくれって、泣きながら土下座までされたっていってたけど」
友達「かっこ悪い大人だなぁ(笑)」
しまるこ「特に彼氏が欲しいと思わなかったんだって。これからも別に欲しいと思ってないし、結婚願望もないんだって」
友達「ヴァイオリンが恋人だったんだね。人生にうまくいってない人間ほど結婚したがるものだしね」
しまるこ「今の自分の仕事が本当に楽しくてたまらなくて、例えば今日も朝起きたら午前中は作曲して、午後は演奏会に行って、そしてその帰りに俺と会ったっていってたから」
友達「作曲もすんの? すげー」
しまるこ「でもこれからは長期のツアーに出かけるから、しばらくは暇がなくなるっていってたけど」
友達「それは私のこと誘わないでくださいってことだよ」
しまるこ「知るか(笑)」
しまるこ「結婚願望もないこともないけど、今の生活が幸せ過ぎるから、もし今の自分の生活を認めてくれる人であれば結婚もありだっていってた」
しまるこ「こんな信じられない美人で完璧な子が一生独身なんてことがあっていいのか? って思ったよ」
友達「やっぱり自分の好きなことをやってる人って、男にしても女にしても魅力的だね」
しまるこ「出会い系で自分の好きなこと仕事にしてるっていった子は、この子だけだった」
友達「出会い系は介護士と保育士しかいないからね。安月給で血反吐吐いてのたうちまわってるのしかいないからね」
しまるこ「結局仕事だね。好きな仕事やっている人ってみんな性格いいわ。ストレスがないから人に優しくできるんだろう。嫌々仕事やってる男と結婚したら家族は大変だろうね。そんな男がほとんどだけど」
しまるこ「美貌も性格もセンスも金も、やりたいことも、ぜんぶ持ってる子だった」
しまるこ「そしてこれらがぜんぶ繋がりあってるように感じた」
友達「一体そういう人は誰と付き合うんだろうね」
しまるこ「好きなタイプはオードリーの若林っていってた」
友達「へーそうなんだ(笑)」
友達「まあ品がいい感じがするもんね。品の良いお坊ちゃまっぽいのが好きなのかな?」
しまるこ「でも身体は春日が好きっていってた」
しまるこ「美人ほどさー、マッチョが好きっていうけど、あれって本当かもね」
しまるこ「俺が女だったらマッチョに抱かれたいしなぁ」
友達「ふーん」
しまるこ「もう美的な面は十分に極めてしまって、鏡を見る度に自分で満足できるから、自分にはない野性的な筋骨隆々とした男らしさを求めるのかもね」
友達「マッチョに抱かれると、いい男とセックスしたっていう気分になるらしいよ」
しまるこ「わかる気がする」
しまるこ「あとは、無言でいられる人が好きっていってた。自分が無言でいることが多いから、同じ無言の中で一緒にいられる人がいいっていってた」
友達「一番いい答えだね」
しまるこ「俺もそう思う」
しまるこ「そう思ったから、それから俺ずっと無言でいたんだよ」
友達「急に無言になったの?(笑)」
友達「っていうか、会って間もないのに無言は無理だろ(笑)」
しまるこ「そしたら彼女ずっと鶴折ってたわ」
友達「女がデート中に手遊びをしだすのは帰りたいの合図らしいね(笑)」
※
しまるこ「もう一つ大事なところがあって、美人ほど積極的なんだよ」
しまるこ「LINEしてたら『わたし、しまるこさんに会いたくなってしまいました(>_<)』って急に送られてきたんだよ!」
友達「マジか、すげえな」
しまるこ「しかも、『明日はお暇ですか?』って、向こうから誘ってきたんだぜ? 急に! 明日に!」
しまるこ「LINEのやり取りも、かなり質問してきてくれて、『動物飼ってますか?』って聞いてきて、『猫』って答えたら、『猫ちゃん可愛いですよね(>_<)』って、動物の話から進めていくっていう満点なアプローチをしてきたんだよ」
友達「とても恋愛経験が少ない女とは思えないね」
しまるこ「芸術的なセンスで、日常生活のすべてにおいて勘が働くんだろう。とりあえず会ってみなきゃわからないってことに気づいていた感じだった。普段からグズグズした消極的な自分を戒めている感じもあった」
友達「ほう」
しまるこ「出会い系で会った子で、顔面偏差値がずば抜けて高かった子は、みんな必ず積極的だった。間違いなく顔と性格の良さは相関する」
しまるこ「意志の強さを感じた。大人しいんだけど、強烈な意志を」
しまるこ「こういう子は好きになると自分から落としにかかると思う。普段は大人しいけど、火がついたらその男に猛アピールしそうな力強さを感じた。だけどもし相手のことが好きじゃなかったら、その相手にいくら強引に口説かれても絶対に好きにならなさそうなところもあった。私がいいと思った人と付き合う、そうじゃなかったら必要ないっていうはっきりしたものを感じた。なんにせよ、消極的な気持ちを乗り越えていく強さを感じた」
しまるこ「女子力が高すぎてオーバーフローすると、女は男らしくなるみたい」
しまるこ「欅坂の渡辺りかみたいな感じ? 渡辺りかとタイプは異なるけど、すべてに気づいている様子は似ているね。やっぱり人間は気づきだよ。すべてに気づいていることから、彼女の美しさやセンス、すべてがきている」
友達「渡辺りかがわかんないけど」
友達「で、結局付き合えなかった感じ?」
しまるこ「聞かなくてもわかるだろ(笑)」
しまるこ「なんで口にした(笑)」