「本当にやり方が上手いと思いました。こっちが断れない理由を準備してアプローチしてくるんです。こっちもそんなことは見え透いてわかってるけど、断れないんですよね。みんなコロッとやられちゃいますよ。ああいうのに。23歳のくせに、そういうところをついてくる老獪さがありました。
でも、だんだんと感じてきたのが、この人はそこまでして私と付き合いたいんだ……ということです。そんなに私が好きなんだ。私のどこがいいんだろう? 他の子と何が違うんだろう? 鋼の覚悟がぼうぼうと私に伝わってきたんです。私からは何もしないし、彼の提案に頭を縦に振ったり横に振ったりしているだけなのに、彼は何度もめげずに挑戦してくるんです。そういう人は十人に一人もいません。私が断っても嫌な顔をせず、残念な空気を残さず、また機会をみて誘ってくれるんです。そういうとき、少し泣きそうになって来るんです。この気持ちは同情か、それとも……。
自分で言うのもなんだけど、女の子と何がなんでも付き合いたいなら、ただ、好き! 好き! 好き! 好きっていうことです! とにかく好きって気持ちが大事なんです! もう、ほんっとに、大好きなんだと……! その気持ちが大事です! ん〜〜。声に出すのとは、また違いますねぇ……。それを行為で示す……? 行為に置き換えるっていうのかな? その行為が告白みたいなものじゃないですか。好きっていってるものじゃないですか。たぶん、直接好きだってぶつかってこられたら、私、逃げちゃったと思うんです。巨岩に迫ってこられたみたいに、怖くなっちゃいます。今ですか? 今は、1年付き合って、やっぱり違うなって思ったんです。これは前進していく関係じゃないなって思ったんです。この人と将来は考えられないなぁ……と。確かに彼といると心地よくて、いつも彼が熱い気持ちでぶつかってきてくれたから、大体の場合はなんとかなったんですけど(なんとかなったって、ひどい言い方ですよね。ごめんなさい……)、楽しいんだけど、楽しいだけというか。彼のことを尊敬できないんです。やっぱり私も追いかけたいじゃないですか。尊敬できないと、一緒にはいられません。
初めの気持ちが蘇ってきたんです。初めて彼を見たとき、正直軽薄な人間だと思いました。調子が良さそうな人だなって。こういう人でも、底を叩いてみれば、厚い音が聴こえてくることは知っているけど、それでも、最初に調子がいいなと思った人間は、分析を終えた後でも、調子がいい人間であることが多いです。彼もそうでした。パチンコや風俗やお酒をやるわけじゃないけど、ひとつひとつのタッチが荒いんです。車の運転も、お寿司の出前を取るのも、家に帰ってきた後のカバンの扱い方とか。見た目ですか? なんでそんなこと聞くんですか?(笑) いつも笑ってる感じですね。含みのない、酔っぱらってる感じの笑い方です。彼の笑顔は安心します。坊主に近い超短髪で、野球少年が大きくなった感じですかね。追いかけるのがボールではなく、私になった感じです。
今ですか? 今は、私は別れたいっていったんですけど、なかなか折れてくれなくて……。なんだか雰囲気的に保留になっちゃってる感じです。今も、『今日は誰と飲みに行くの?』『今はどこ?』『店出たら教えて! 迎えに行くよ!』と10分単位でLINEが送られてくるんです。彼のガッツは一体どこから生まれてくるんでしょうね。私は面を切って別れたいといった相手に、ここまで引き下がらないことはできません。性欲なのかな? 年がら年中発情してますね。1年経っても、私のうなじから良い匂いがするように、有難がって、クンクン嗅いでくるんです。嬉しくないわけじゃないけど、不毛な感じがするんです。彼と結婚することは、小さい子供と結婚するのと同じ感じがする。それは彼に限ったことじゃなくて、ほとんどの男の人に感じることだけど。女が結婚するとでかい顔をするようになるのは、こういう理由だと思います。やっぱり、夫が子供のように感じてしまうんです。
彼の愛情を吸い尽くして、もうお腹いっぱいなのかもしれませんね。うっとおしく思うこともあります。でも、尊敬もしています。私と付き合い続けるために、頭を下げ続ける人だから。欲しいものを欲しいっていえるのはすごいと思います。ましてや、その対象が人間で、異性なんですから。プライドがないのかなって思いますけど。やっぱり振り切れないのは、彼の希求が嬉しいからだと思います。
ほとんどの女性は、24なら結婚すると思います。またイチから頑張るのは大変ですよ。私も、後になって後悔するような気がします。多分、彼と結婚してもそんなに悪い将来にはならないと思うんです。それなりの企業に勤めて、それなりに勤め上げてくれるんだろうから。両親も喜ぶと思います。高望みし過ぎなんですかね? しまるこさんは、女が何を求めているかわからないといいましたけど、私にもわかりません。今は尊敬できる人だと思っているけど、それも、今私が彼を小馬鹿にしてしまっている反動心からきているのかもしれないし、尊敬する人と付き合っても、今度はまた別の足りない何かを求めていくような気がします。外に解決を求めて、他人に完璧を求め続けていくほど、不幸なことはありませんよね。本当に自分が嫌になります。ちょうどいい時にちょうどやって来て、愛してくれたらいいなぁ……。私が、もし私が、自分のやりたい事をしっかりやっていたら、誰と結婚してもいいと思うかもしれないなぁ。何だかそんな風に思ったら涙が出てきてしまいました」