印刷工場で働いた体験談 仕事

印刷工場で働くとち○こが飛び出てしまって大変なことになるからやめた方がいい

学校のコミュニケーションと会社のコミュニケーションは違う。

学校だと、いくら一匹狼でもいい。勉強や運動ができなくても自己責任で済む。お笑いのセンスのような素の人間力がそのままヒエラルキーに反映される。

会社だと、今まで学生時代にバカにしていたような、トランクスを履いているような奴にヘコヘコしなければならない。またどれだけ人間関係を上手くやっても、仕事ができないと会社に居られなくなってしまう。

どこの会社もそうだが、「理」で回ってはいない。俺は印刷工場とソフマップとデイサービスを経験してきて、アルバイトを含めればケンタッキーやまねき猫で働いたこともあるけど、どの職場も、ポークジャーキーみたいなゲスがすべてを握っていた。

彼らを観察していると、非常によく仕事ができる。本当に落ち着いていて、自分の部屋で本を読んだり棚にしまうように淡々と仕事をこなす。モーツァルトが作曲するように、ゲーテが詩を書くように、彼らもまた工場やソフマップで働くように運命づけられた人間なのだ。生まれた時からその職場にいるんじゃないかという自然さで呼吸する。

彼らは見た目がひどく、5年以上同じニットを着て通勤してくるし、大学も出ていないし、哲学的思索は猫にも劣るのだが、仕事ではほとんどミスをしない。

才能が違うのだ。多くの人は仕事に力が半分ぐらいしか出さなくて一日が終わってしまうが、彼らはそんなに努力をせずとも、自然に100%の力が発揮できる。孫正義やビル・ゲイツよりも彼らの方が、この方面の仕事はよくできる。そして、自然と周りに押し上げられて、更にその地位を不動のものにしていく。

しかし本当のところは、彼らは頭が悪く、褒められた存在じゃないのだ。何も疑問を感じないところに強さがあるだけなのだ。ちょうど与えられた仕事と器が一致するだけだ。

元々賜った生命エネルギーが少ないから、社会の端役というか、ごくごく小さな歯車を廻すのに適した存在に過ぎない。

しかし、その小さな歯車を廻すことは重要じゃないか! お前もその恩恵にあずかっているじゃないか……! と言われるかもしれない。

あればそりゃ使うけど、なければなくていい。尊い人間の犠牲の上に成り立つ文化ならない方がいい。やはりこんなのは人間がやる仕事ではない。機械が台頭してくれるまで人間は手をつけずに待つべきだ。そこに一切の不幸がある。

一見、理で廻っているようだけど、廻ってない。確かに仕事は彼らを必要としているけど、世の中は必要としていない。彼らはやはり仕事をすべきではない。彼らのような存在がいつも、黒い霧を吐き出しているから、普通人が迷惑を被るのである。

彼らはみんな嫌な顔をしている。人間の醜悪さは顔に必ず現れる。こういう顔をした人は働く前に滝に打たれて座禅をしなければいけない。そして彼らはみんな健康状態が不良だ。顔色が悪く頭痛が多く、いつも苦しそうな顔をしている。どの職場でもこういう人はみんな病気がちだった。この辺りは因果応報が働いているのだろう。

みんなブラック企業がどうとか、就職難とか、働きたくないとか死にたいとかいうのは、すべて彼らのせいである。

彼らの狭量の頭脳と狭量の仕事がこれ以上ないほどに一致するために、人の上に立ってしまうから、こういう悲劇が起こる。

だから、やはり一見理で廻っているようで、やっぱり廻ってない。

コンテナに積まれた印刷物を20枚くらい手にとって、パラパラとちゃんと糊がついているか確認する。また、名前や住所が表に書かれている印刷物は、それが正しく印字されているか、もしくはその名前や住所が一番手前の位置に封緘されているのかも同時に確認する。これを通称「パラ検」という。

パラパラめくって、調べて、また、流れてきたのをパラパラめくって、見て、何も見ちゃいないんだけど、見て、とにかく暇で退屈で死にそうだった。時間が経つのが遅くて、誰かに殺してもらいたかった。半狂乱のように頭がボーッとしてきて、もう限界……。それを7時間も8時間もずっとやってる。その場にへたり込むわけにはいかないので、ただ立っているのが精一杯だった。

誰だって、どんな仕事であれ、マクドナルドでもケンタッキーでも交通整備、事務仕事、期間工、コンビニや接客業ですら、ほとんどの仕事は単純作業の連続だ。しかも他人の仕事の手伝いときてる。これから機械に取って代わられる仕事をしてるなんて、嘲笑を禁じ得ないが、まぁやるしかない。

別に印刷工場でなくてもすべての仕事がこんなもんだろう。ただ突っ立って単純作業だけが続いていく。続いてるのか止まってるのかもわかったもんじゃない。生きてんのか死んでるのかもわかったもんじゃない。

これを地獄と呼ばずになんと呼ぶだろう? 我々は本当に印刷物を作ってるのかそれとも不幸を作っているのか。印刷物なんて送りつけられても迷惑でしかない。Gmailですら腹が立つくらいなんだから。

人間の能力や可能性や生理を全て無視して、一連の機械のように機能するために限定していく。

あうあうあう………

あうあうあう……あ……あ……

身体中の穴という穴から汁がこぼれそうになっていた。意識をしっかり持って肛門をキュッとしていなければ全てが漏れそうだった。

どうして座らせてくれないんだろう? せめて椅子があれば大分変わってくるのに。

周りも俺と似たような顔をした。1日1日白髪とシワが増えていくようだった。家族に「行ってきます」と言ってここに来た人もいる。家族はわかっているのか? 子供はわかっているのか? お父さんが死人のような顔で印刷物をパラパラめくっているのを。こんなのは仕事ではなくて労働だ。「行ってきます」と言って両手を差し出して手錠をかけられているのだ。

サラリーマンの9割は天変地異を期待していると言われているが、本当だろう。みんなそんな顔をしている。死ねないから生きていると言う。好きな仕事をしている人か学生以外は、みんな死にたいと口を揃えて言う。殺してくれ、殺してくれ、と言いながら巻きを運んでセットしている。

ウガ………!! アアアアアァァァァーーーーーーーーーーーーッ!!!!!

頭を壁に叩きつけて今手に持っている印刷物を宙にばら撒けたらどれだけ幸せだろう……! 何度もそんな衝動に駆られて、それを押さえつけるのにもエネルギーを要した。

彼らの中の本当の彼らがのた打ち回って、死のダンスを踊っているのがよく見えた。黒い影が、両手で後頭部を押さえてクネクネ動いていた。

俺はこの8時間をどういう精神状態で過ごしたらいいか毎日試行錯誤試してみたけど、結局わからなかった。集中して頑張ろうとしても5分も持たないし、ダラダラやっていても時間は長く感じる。頭も身体も完全に意識を断って、ヨダレが垂れてても気づかないくらいぽかんと空っぽにすれば、多少はやり過ごすことができた。もちろんパラパラめくってるだけで、印刷物のデキなんてチェックしていない。さらに無へ、さらにさらに無へ……という風に、どんどん意識をなくしていった。そうすることでしかその場に立っていることは適わなかった。

それでも数時間が限度で、突然発狂して、いてもいられなくなってくる! まだあと6時間ある……。いや……、いやだ……、いやだいやだいやだ……!! いやだ、うわあああああああーーーーーーーーーーッ!! となってしまって、涙が溢れてしまって、その場で立っていられなくなる。それでも座り込むにはいかないから台に必死に寄りかかる。赤い閃光と黄色の閃光が交互に脳内にきらめいた。今まで食べてきたものをすべて吐き出しそうになって、そしてまたぽかんと無になる。しかしまたすぐに限界が迫ってきて、限界は何だろう? もう限界なのに、まだ6時間あるから、ええと、もう限界なのに、6時間あるからあれ、あれ? とどうしていいかわからなくなってしまう。外国で迷子になってしまったように、自分がどこで何をやっているのかわからなくなり、つらい早く帰りたい助けて死にたい殺してと内面の声が千語くらい一度に襲いかかってきて、それを支えきれない神経は焼き焦げてしまう。ガタガタと規則正しく揺れ動くレーンに、この燃え尽きた身体を運んでもらいたかった。

トイレだけが救いだった。1時間に1回はトイレに行った。便器にすがりついて泣いた。そしてまた戻ってパラ検をやった。放心したり、神経を焼き焦がしたり、また放心したり、数時間が経った。そしてなんとなく下を向いたら、チャックからちんこが飛び出ていた。

当時は金欠だったので、ビリビリに破れたパンツを履いていた。放心してトイレの後にチャックを開けたままにしてしまったから、パンツの防壁を介さず、ちんこが飛び出てしまっていたのだ。

俺はちんこを飛び出したままパラ検をやっていたのだ。これには本当にびっくりした。真っ青になって、慌てて周りを見て確認したけど、みんな気づいていない様子だった。

全員半死人みたいな顔で仕事していて、放心してしまっていたから、他人のちんこが飛び出ているかどうかなんて知ったことじゃないようだった。というか、こいつらも飛び出ていても不思議じゃなかった。

これには本当に驚いてしまった。人間は壊れてしまうと、ちんこが飛び出たまま気づかなくなってしまうのだ。

© 2024 しまるこブログ Powered by AFFINGER5