さて、これだけ出会い系で女と出会ってきて、ボロカスばかりいいやがって、お前は一度くらい良い出会いはなかったのか? と思う読者もいるかもしれない。結論からいうと、何人かいた。
今回はその中の一人を述べようと思う。
その人は27歳の人妻だった。
人妻はエロいというが、その分に漏れずとにかくエロかった。LINEをしていると頼みもしないのに、エロい話題を提供された。
人妻というのはその通り結婚しているので、みんなが一番求めてやまない安定というやつを手に入れている。結婚までは猫を被ったり、あれこれ頭を回さなきゃならないが、結婚してしまえば不安は消えるかもしれない。
しかるに、結婚前の女というものは、どこまでいっても将来というものに邪魔をされて、動物のようにただ性を享楽することができないでいる。彼女は、性的な、ただその方面のみを求めていた。俺の生態とか経済はどうでもよく、エロければよかったのだと思う。俺が男の色を出して性的な話や雰囲気になると、彼女は喜んだ。割り切りがよく関係がはっきりしているので、後腐れがなく、お互いの中に憤りが生まれなかった。
さて、果たしてこれから結婚しようという男に、こんな話ができるだろうか? 彼女は楽しそうに以下の話をしてくれた。
「大学のときに消防士とセックスした。マッチョとのセックスに興味があった。マッチョはすごい。マッチョに一回でも抱かれると、マッチョ以外とできなくなるっていうけど、あれは本当!」
「二対二の乱交をしたことがある。お酒を飲みながら、立ちバックされている女同士でワイングラスを掲げて『ウェーイ!』って乾杯した。ふだん仲良くしている友達が、隣で喘いでいる姿は新鮮だった」
「ゲストハウスで生活していた頃、一緒に住んでるほとんどの男とセックスした。その中には友達の好きな人がいて、寝度って絶交されたこともある。相手をイカすことを研究しているタトゥーの男がいて、毎晩調教され続けた」
「お酒を飲んでヘベレケ状態になってセックスするのが好き。お尻を叩かれるのも好き。『うるさい!』と怒られてお尻を叩かれるのが好き。だからわざとデカい声をだす」
彼女はそんな奔放な生活をしてきたが、1年前に結婚した。彼女が26歳で、相手は36歳の普通の会社員だった。同じ会社の先輩だった。
「本当に冴えない人だけど、今までエロくて派手な男とばかり付き合ってきたから、結婚するときは真面目な人にしようと思った。容姿は本当にどうでもよかった。とにかく浮気さえしなければいい。背が小さくてハゲてるけど気にしなかった。そして私は高望みさえしなければ、どんな人とでも結婚できる自信があった」と彼女はいった。
つくづく真面目なサラリーマンほど不幸はないと思う。満を持して、懸命に仕事をしてきて、やっと出会った頃には、他の男に酸いも甘いも舐め尽くされた出涸らししか残っていないのだから。そして、そんな出涸らしと結婚するために、死ぬほど骨を折らなくてはならない。
男は結婚に対してなかなか妥協できないものだけど、女は男のそれに比べて簡単にできてしまう。俺はそういう女を何人も見てきた。女の中には、小さな城の城主になれるなら何でもする者がいる。精液の薄い脆弱な友達等は見事に手網を握られて、馬車馬のように働かされている。これは強い男に対しては絶対にやらない。俺がいくら猫を被って弱い振りをしても簡単に見破られてしまう。彼女たちの眼力は鋭い。本当に弱い男にだけ生足を出して近づいていく。
さて、話を戻そう。
不思議なことだが、彼女は結婚してから一度もセックスをされないという。付き合っている最中はヤりまくっていたらしく、仕事が深夜に及んで疲れ切っているのに、その後ラブホに行くのはしょっちゅうだったらしい。オフィスで二人きりのときは、よく立ちバックをしたらしい。それほど熱心だったのに、結婚してからは一度もしなくなってしまった。彼女も旦那も、ともにやる気が起こらないらしい。
「旦那さんは帰ってきたら何してるの?」
「ずっとスマホいじってる」
「スマホで何してるの?」
「モンスト」
「ふーん。37歳だよね?」
「うん」
色んなご飯を作っても同じ反応しかない。化粧を変えてもすっぴんにしても同じ反応しかない。会話もない。二人でずっとスマホをいじっている。18時から24時までずっといじっている。これなの? 幸せってこれなの? 結婚ってこれ? 私はこれを求めていたの? 多くの男女たちはずっとこれを夢見て頑張ってきたの? ただ愛されたい。私に関心をもってほしい。 邪な性欲だとしてもいい。ただ女として必要とされたい。 犬のようにハァハァ息を荒くして発情されたい。
付け加えると、彼女は専業主婦で、朝に旦那さんを送り出した後は何もやることがなくなる。1LDKのアパートに暮らしているから掃除も一瞬で終わってしまう。就職を機に北海道から上京してきたので、地元の友達もいない。ほんっとーに死ぬほど退屈らしい。 子供がいれば変わってくるかもしれないけど、そもそも子作りがない。
それで彼女は寂しくなって出会い系を始めて、俺と出会った。
さて、ここまでこの子の外見について触れなかったが、幸か不幸か、大変見た目は可愛かった。そんじゃそこらの可愛いどころの騒ぎではなく、コンビニで100万で売られていても、すぐに買い取ってもらえただろう。
これだけ性に奔放な様子をいうと、シングルマザーによく見られる下品で派手でやさぐれた外見を予想するかもしれないが、そんなことはなかった。タバコは吸うけど、とても清楚で、ファッションも落ち着いていて、ニットのセーターを着て、髪はセミロングでほんのりとした暗い茶色で、童貞ホイホイというか、フジテレビのアナウンサーのような見た目をしていた。ふとした瞬間の横目が神聖で、淡い悲壮感やノスタルジックや、詩的めいたところがあり、俺はその横顔を見るのが好きだった。話しかけなければどこまでも静かにしているところがあった。唇も薄いピンクでいい具合に濡れていた。そして凄まじい巨乳で、一緒にゴルフに行ったときも、乳が邪魔してまともにスイングできない程だった。
たまに十分ぐらいずーっと無言が続いて、うつろな視線でボーッとしているので、何を考えているのかわからず、こちらが話しかけなければ永遠と一点を眺めていて、それでいて緊張している様子もなかったので、対処に困った。これまでセックスし過ぎてきて、その反作用が働いて止まってしまう病気なのかと思った。しかし堂々としていた。やはり不倫は、肝が座っている女でないとできないのかもしれない。
俺は不倫をしたことは初めてではなく、過去にもう1人したことがあるけど、不倫する女は、一周回ったところがある。性を遠くから見ている。性で遊んでいる。しかし本気の遊びだ。命懸けの遊びだ。独身がセフレと遊んでいるわけじゃない。旦那がいるのにセフレと遊ぶのだ。一歩間違えば全てを失う中で性に飛び込んで遊ぶ姿は、あっぱれだった。
だからというか、遊びの一つ一つに男らしさがあった。それはしっかり勉強して大学に入って順風満帆の人生を送っている女の子には見られないものだった。
大体の女は、将来について考え過ぎて相手に求めるのが多すぎて、何でも引っ込み思案になってしまい、引っ込み思案と貞淑さを混同しており、男に尽くしてもらわないと何もできなくなってしまうが、不倫する女に、そういうところはない。
俺は「好きなタイプは?」と聞かれると、「男らしい女」とどうしても答えてしまう。出会い系や合コンとかでこんなことをいったらシラケてしまうことはわかりきっているのに、これを答えてしまう。
この人と初めて会った時も「しまるこさんですか?」と、向こうから声をかけてくれた。出会い系を死ぬほどやってきて、向こうから声をかけてきてくれたのは彼女だけだった。大体の女は、駅の前でスマホを持ったままずっと下を向いている。これから地底人と会うつもりなのか? 地下に俺がいるわけでもないのに。
出会う前のメッセージも簡易だった。「今日これから会えませんか?」と二通目で持ちかけてきた。これも出会い系では信じられない凶体だ。結局会ってみなければわからないということを彼女は知っていた。メッセージのやりとりなんか続けたって時間の無駄でしかないことをわかる女性がいる。いつも男性的な考えをする人だった。
グラビアアイドルのほとんどは、サバサバした性格をしているという。 確かにみんな、「どうぞ私で抜いてください」という顔をしている。グラビア界は、男性目線を理解して、性に達観してなければ勝ち残れないだろう。女はいくら頭が良くても収入があっても自分に自信が持てるものではない。グラビアアイドルはみんな自分に自信を持っている。この子もさきほど、「私は高望みしなければ大体の人と結婚できると思う」といっていた通り、自信がある子だった。女の自信はただ美によって作られる。 だから行動の一つひとつに男らしさがあった。「 今日はゴルフの打ち放題に行こう」とか、「今日はあたしの結婚式の動画を友達が編集してくれたから一緒に見よう」とか、(そんなものを不倫相手に見せるなんてどうかしているが笑)、そういったことを一回いっかい提案してくれるところが楽だった。
俺が毎日、深夜にバットの素振りをやっていることを話すと、
「他の人だったら怖いけど、しまるこ君はイケメンだから許される」
「今日はしまるこ君を近くでよく見て顔を観察してたけど、どこからどの角度から見ても本当にかっこよかった。イケメン風っぽい人はたくさんいるけど、正真正銘のイケメンだった。こんなにかっこよくて、面白いし優しいし、デートもしっかりエスコートしてくれて、一度話した話は全部覚えていてくれるのに、どうして独身なんだろうね? そんなにイケメンの31歳で結婚できないんじゃ結婚に向いてないんだよ」
これを聞いた俺は嬉しくて天にも昇る気持ちだった。こんなことをいってくれる子はこの子だけだった。
結局こうして書いていてわかったけど、これもしてくれた〜、あれもしてくれた〜と。とにかく俺は相手に何かしてもらうのが好きだ。褒められるとすぐに好きになってしまう。男なんてもんはそんなもんだけどね。真理を求めて生きる以上、真理の正体が愛である以上、愛されるよりも愛することを必然として生きていかなければいけないのに、道は遠のくばかりだ。
さて、結局何がいいたいかというと、欲望に正直な人は、いろんな所にも正直になって、清々しい人間になる。貞淑面は褒められたものではないかもしれないけど、立ちバックでワイングラスを合わせて『ウェーイ!』って乾杯して、欲望のままに感覚器官を燃やし尽くして、その先にある沈静に行き着いているようなところがあった。中村うさぎみたいなことだろうか。文字通り、一周回ったところがあった。
しかし、そうやって完全燃焼した女というものは、再び瑞々しい英気を取り戻すことがあるのか? 彼女の行動力はヤケクソにヤケクソの火がついてまわっている種類のようなものだった。もう私は自分のいちばん大事な部分を全部なくしてしまったのだから、あとは何でも構わないという。そして、男は、俺の場合はどうなるんだろう?
いちばん驚いたのは結婚式に俺を招待したことだ。一度しかない自分の晴れ姿を見てほしいとのことだった。人間の幅が広がり過ぎるとこういうことも起こり得るらしい。「明日結婚式だよ〜。怖い、どうしよう、ドキドキする!」といわれて(結婚式の前日にも俺と会っていたw)、俺は「そうか」と一言だけいった。
「しまるこ君はがんばれっていわないんだね」
「結婚式にがんばれって言葉は違うと思う」
それを聞いた彼女は、これまででいちばん静かに優しい笑顔をして、「ありがとう」といった。言葉の意味を汲み取ってくれた唯一の女性だった。