友達との電話シリーズ

自分の頭で考える人間がいないことに友達が怒ってる

友達「やっとわかったわ、自分の考えを話している奴がいないわ」

友達「マジでよく注意して見たけど、誰もいないわ」

友達「どこかで、みんな、かならず、いくえに枝分かれする既成の価値観のどれかに引っかかっちゃって、そこで紋切り型になって締め出されてる」

友達「面白い、つまらないは別にしてね? どんなにつまらない、センスないものでも、“自分の”考えから話すのであれば、会話としては、かならず意義深いものになると思うんだけど」

友達「ってか、たぶん、つまらなくならないと思う。その人がその人の頭で考えてたどった道筋を話すのであれば」

友達「どいつもこいつも大谷の話しかしないし」

友達「大谷がホームラン打って騒いでるけど、仕事終わりに居酒屋でみんなで騒ぎたいの全国版になってるだけだと思う」

友達「一人じゃよく楽しめないんだよ。ディズニーランドとかもそう、スマホゲームなんかも運営が盛り上げて、その盛り上がっている状態がないと、何も楽しめない。応援しているふうだけど、あんなのは応援なんてしてないよ。ファンでもなんでもない、大谷が打てば喜ぶけど、打たないと不機嫌になる。2、3試合不調が続くと、だいじょうぶだいじょうぶ、次はいけるよ! なんて言ってるけど、半年も三振が続くと、大谷はクソとか、デクのぼうとか言い出す」

友達「大谷が打つから嬉しいんじゃなくて、自分が酔っ払いたいから、大谷というビールを飲んでいるだけ。まぁ、一人じゃビールも飲めないんだけど。たぶん大谷と酒の違いもわかっちゃいないよ。もしニュースで大谷が取り上げられなくなって、別の話題で騒ぐようになったら、もう次の瞬間には忘れてるんだから。大谷のお母さんだけだよ、ファンなんてものは」

友達「酔っ払ってるから、何があったかもよくわかってない。ホームラン、ホームランって言ってるけど、ホームランだったのか、ゴロだったのか、よくわかっちゃいないよ。サッカーだったのかもよくわかってないよ、あれぇ? 大谷ボール蹴ってた気がするなぁ?なんて。大谷バロンドール達成!って言ったら、ウワアアアアーーーー!!!!!👏って叫ぶよ」

友達「夜になると、猫が鳴くでしょ? 一匹がにゃおおおおーーーんって鳴きだすと、他の猫たちも、にゃああああ、うおおオオオオオオオんーーーって鳴きだすけど、あれと似てるわ。本当に猫かって声出すけど」

友達「会話って知的作業じゃんね? 動物的な営みとはまた違うじゃん、マジでちょっと動物側なんじゃないかなって思うんだよね。たまに、鳥類とかと同じ顔をしている奴とかいるもん。大脳系の働きが停止しちゃってるような」

友達「他人の欲望が自分の欲望になっちゃってる」

友達「本人たちもね、よくわかってない。みんな、いつも、自分で何言ってるのか、わからないで話してるよ」

友達「マジでわかってないよ」

友達「たぶん、楽しいとか、おいしいとか、暑いとか、寒いとか、それもよくわかってないんじゃないかなぁ」

しまるこ「暑いか寒いかはわかるだろ(笑)」

友達「いや、たぶん、それもあんまりわかってないよ」

しまるこ「まぁ、自分で空調の温度を下げておいて、寒い〜🥶って言って、カーディガン羽織りだす女とかいるからね」

友達「(笑)」

友達「たぶん、よくわかってないよ」

しまるこ「ペットボトルの水を買って飲んでる連中は、水に金を出したら負けとは思ってないだろうね」

しまるこ「喉が渇いたって言って、みんな飲んでるからと言って、バッタみたいにぴおおぉ〜〜〜ん♪ってペットボトルに飛びついて、ちゅおおおおお♪って吸いついてる」

友達「血い吸いバッタのペットボトルバージョンだ」

しまるこ「水だぜ? なんで水飲むのに金払わなきゃいけねーの? 酸素を吸うために金を払えって言われても、ぜったいに払いたくないじゃん?」

友達「まぁ、金を払って空気を吸ってるようなもんだけどね。住んでいる賃貸に金を払ってるから酸素を吸ってられるんでしょ? 変わんないよ。今も金を出して酸素を吸ってる」

しまるこ「水も似たようなもんか。水道代はらって水道の水のんでるしな」

友達「例えばね、うちの職場のリーダーだったおばさんがさいきん左遷されたんだけど、そのおばさんが同じ部署の若い男と不倫したのね? それが病院中でウワサになって、けっきょく院長から退任を言い渡されるかたちになっちゃったんだけど」

しまるこ「うん」

友達「今は別の人がリーダーをやってて、そのおばさんは別の部署でケアマネやってる。ケアマネの資格持ってたからね」

友達「で、そのことをみんな、『不倫したからしょうがないね』って言うんだよ。その部署の連中も、べつの部署の連中も、そう言うんだよ。ぜんぜん違う職種の人、べつのほかの誰に話しても、みんな、『不倫じゃしょうがないっすね』って言うんだけど」

友達「不倫の何がいけないのかもわからないまま、不倫がよくないって言ってる」

友達「院長が左遷させたんだけど、院長もよくわかってない、医学辞典はぜんぶ頭に入ってるかもしれないけど、たぶん、どうして不倫がいけないのかはわかってない。鼻くそ飛ばすようにして、えーいままよ!って言って、追い出しちゃってる感じ。ほくじった鼻くそってピンッて飛ばしたくなるじゃん、あんな感じで、よくわからないで飛ばしてる」

しまるこ「世論はまだそんな感じなんだ。Xだと、けっこう、もう、みんな、『芸能人の不倫で騒ぐのはもうやめにしない?』『それは僕たちには関係ないことだよ』『他人のことじゃなくて自分のやることに集中しようぜ💪』 みたいなコメントけっこう見かけるけどなぁ」

友達「マジ? 俺エックスとかやらないからよくわかんないわ」

友達「職場だとぜんぜんだよ。ぜんぜん、ぜんぜん、前前前世。とくに病院とか古い奴らの古いことがまかり通っている場所だと、不倫すなわち悪。ゼッタイアク。不倫ダメ絶対。悪・即・斬って、お前みたいな浮浪人を見かけたら、『天誅ーーーー!』って言って斬りつけてくるよ。たぶん新撰組の時代から変わってねぇんじゃねぇかな? みんな新撰組のハチマキまいて病棟歩いているようなもんだよ」

友達「で、怒ってるのが、もう腹も出て、パンツなのか腹巻きつけてんのかわかんねー看護士の50くらいのおばさん達なわけ。いや、お前が怒るなよ、不倫が罪だっていうなら、そんな格好しているほうは罪にとわれないわけ? それで、夫の性欲を著しく激減させておいて、その責任は自分にはないっていうなら、刑法にそれは条文としてのってても良さそうなレベルだけどね。腹巻きつけちゃダメって」

しまるこ「まぁ、不倫がいい気分がしないのはわかるけどね。不倫を許したとして、パートナーが不倫して帰ってきて、『さぁ夕食にしましょう♪』って言われて、おいしくご飯が食べられるかっていうね」

友達「それは当事者間の場合でしょ? 俺が言ってるのはそっちじゃないよ。関係のない人間が文句言ってることについて」

しまるこ「そっちか」

友達「そう」

友達「俺も、不倫自体は、よくはないなって思っている派だけど、でも、まわりは関係ないと思う。それは絶対の自信をもって言える、本当に、なんでこれがわかんないのかなぁっていつも思う」

しまるこ「俺が思うに、じきに正されてくるようになると思うけどなぁ。さっきも言ったとおり、エックスでも、そういう考えの連中が増えてきているし、世論の動きは、ゆっくり、着実に、変わってきているから、じきに、お前んのとこの病院でも、不倫ばんざーい♪🎉って、みんなでラッパ吹いて歩くようになるよ、院長けっとばしながら」

友達「いや、お前、ナースステーションで偉そうにふんぞりかえりながら、介護士をあごで使っているあの看護士たちの姿を見て同じように言ってられるかなぁ? お前も実習で見てきたでしょ? あの、ナースステーションで、ナースコールをバックミュージックにしながら紅茶を飲んで、介護士をあごで使っている看護士たちを」

しまるこ「オセロみたいなもんだよ。ちょうど、ひっくりかえるタイミングがあるんだよ。もう片方の端っこの石が置かれたとき、「う、うわあああああ!」って言って、その他大勢の石といっしょにひっくりかえっちゃう。挟まれていた石たちが自分の意思で色が変わるんじゃないように、盤面のひっくりかえる勢いで、黒にもなってしまうし、白にもなってしまう」

友達「意思と石をかけてるのかしらないけど」

しまるこ「だから、いつ、どこで、もう片方の石が置かれるのか、それは俺にもわからないけど。そのときはくるよ」

友達「俺には、そのすでにもう置かれているらしい端の石すら、割れているような気がするけど」 

友達「辞職させた院長も、それを見てしょうがない、気の毒だねぇって言ってる連中も、どうして気の毒なのか、しょうがないって言ってるのか、わからないで言ってる」

友達「もう、俺、そういう奴らに囲まれて過ごすのがいい加減しんどくなってきた」

友達「これだけ狂った人間しかいない世の中で一人だけ正気でいるのはきついわ」

しまるこ「(笑)」

しまるこ「ヨガナンダ先生も、「この地上は巨大な精神病院です。精神病患者しかいませんって言ってたけど

ヨガナンダ先生 引用

友達「それって俺の言ってることと同じことでしょ?」

しまるこ「『自分の頭で考えられない』っていう病名だと思うわ」

友達「障害物競争みたいなもんだろうね。ゴールという名の、“自分の考え”にたどり着くまでに、たくさんの落とし穴(他人の意見)が張り巡らせてあって、途中、それに落ちるかどうかなんだろうね。なかなかみんな穴に落ちちゃうわ。ゴール手前の、いいところまで行く人もいるんだけど、やっぱり穴に落ちちゃって、あー失格みたいな。ゴール近くても、穴は穴だから、落ちた時点でもう終わり。自分から穴に落ちていく人もいるし、開始そうそう、落ちちゃう人もいるし」

しまるこ「サスケみたいだ」

友達「(笑)」

しまるこ「トルストイが定義している芸術の条件で・誠実であること・明快であること・新鮮であることの3つがあるんだけど、今回あてはまるのは、明快ということだろうね。ちゃんとよく考え抜かれているか、ってことを言ってると思う」

しまるこ「それは、作家の世界でも、自分の考えていることをわかってないまま書く輩が多い」

「正しく書く秘策は 賢くあること」 (ホラティウス『詩について』三〇九)

しまるこ「一般人が口でしゃべるように、作家も手で書くのが多いんだ」

しまるこ「たいてい、インテリ、学者なんていう連中も、この落とし穴にかかってる。自分でものを考えられる人間は、高学歴の世界にもめったにいないよ。むしろ暇さえあれば知識をつめこんでいるから、自分の考えは遠のくばかり。消化不良を起こしてゲーゲー言ってる」

友達「考えがつまらないとか、稚拙だとか、センスがない、とか言ってるんじゃないよ? それはぜんぜんいいさ、自分の考えで話せないことを言ってるの。たぶんだけど、どれだけつまらないことでも、それがもし、本当に、自分の頭で考えたことだったら、聞く方としては、聞くに値するような関心をよびおこさせられるはずなんだよ。それがまったくない。もう話しているそばから、あ、こいつ自分の考えで話してないなって、すぐにわかっちゃう。それで気持ちが冷めちゃう。だから病院のやつらと話す気になれないところがあるね。いや、普通にちゃんと話してるんだけどね。20代の若い奴らでもそうだよ。変な、5秒や10秒で画面が切り替わるショート動画を見て、脳みそをマインドブラストされたように、昼休みのあいだ、ずっとそれを見てる。若い奴らの方が症状は深刻かもしれない。べつにね、みんながみんな、芸人みたいに面白いことを言えっていってるわけじゃないよ? 自分の考えを言えって言ってんの、だってさ、20年でも、40年でも、50年でも、生きてきて、それが他人の考えになってるっておかしいでしょ?」

しまるこ「うん」

友達「考えるにあたっても、既成の用意されているものを使って考えようとするから、その材料すら疑いなく信じきってるから、考えるそばから崩壊していってる。こういった面で、他の何も頼りにしないで考えられる人ってほんとうにいないね」

しまるこ「マッチングアプリでうまくいかないのも、俺はそれが原因だと思ってるよ。何も考えていないもの同士、うまくいくんだよ。何も考えていないもの同士がマッチングしているだけ」

友達「寄せていかなきゃいけないしね」

しまるこ「そう、考えている方が、考えていない方に寄せていかなきゃならない。考えていることがバレると、この人は考えてる!っていってブロックされる(笑)」

しまるこ「おーい! こいつ考えてるぞー! 運営さーん! こいつ考えてまーす! て通報されて、アカウント凍結される(笑)なんで、考えている側が、考えていない側に寄せていって、バカなふりして、バカな会話をしなきゃいけないのか、それが面倒くさくてアプリやってない」

友達「俺も同じ理由からかな」

しまるこ「今、こうしてお前としている会話を女とできるんだったら、毎日でもやるよアプリ」

友達「俺は、ちょっとこの会話は、女としたくないわ(笑)」

しまるこ「まあ(笑)」

しまるこ「俺はもう自分の考えを自分の言葉で語りたいから、ちょっと今はアプリはできないわ」

しまるこ「倫理が影響しているところもあるんだろうけどね。みんな、自分の思っていることが言えないのは、倫理的に、これを言っちゃよくないっていう気持ちがあるからだとは思うんだよ」

友達「うん」

しまるこ「まわりの目を気にして思ったことを言えないで、そうやっているあいだに、自分の考えていたことを、誰かに先を越されて言われちゃうこともある。そして、その考えが、『その考えは素晴らしい!』って絶賛されることもあって、そうなると、黙っていた方としては、手柄を横取りされた気分になる。倫理面を盾にとって張り合おうとしてくる輩が多いのは、あれは、自分が倫理面の理由から言えないでいたことを、先に言われちゃった悔しさからきているね。この場合、張り合おうとする気持ちが先にきていて、倫理はその後釜として都合よくあてがわれただけ。倫理が聞いて呆れるよ。本当のところでは、出し抜かれたような、手柄を横取りされたような、嫉妬心を起こしている。『私もそれを考えてました!』ってあとから言っても、『今さら言っても遅いよ〜♪』『嘘つきぃ〜♪』『はい後だし〜♪』って言われるから」

友達「証拠はないからね」

しまるこ「そう、タイムレコーダーで記録していたわけじゃないから」

しまるこ「そういう意味で、いちばん最初に言った人だけが栄冠を勝ち取れるシステムだからね。だから、どちらかというと、知性よりも勇気の面が大きいと思う。本当は、けっこう、みんな、思ってることはあると思う。日々の生活の中で、違和感や、自分の中で感じていること、でも、それは、まわりの人たちの考えや社会通念や常識に照らし合わせると、かならずしも口に出さないほうがいい場合が多いから、黙っている。だから、復讐というかたちで、相手の手柄をなきものにしてやろうって、途中のリタイア組が、その他大勢側に加わることもある」

友達「考えている人っぽい人に出くわしたとしても、あれ?って思うことがない? あ、なんだ、こいつもけっきょく落とし穴におちてんじゃんみたいな。けっこう、罠をすり抜けてきて、この無数とも思える数の網の目を潜り抜けてきた猛者かと思っていたら、え、こんな穴に落ちんの?って思うこともあるじゃん。だからね、やっぱり、誰か、何かしらは引っかかっちゃうと思うんだよ。これは高望みしすぎかな? まぁ、俺もどこかで、引っ掛かっちゃってることはあるとは思うんだけどね。こんな話できないじゃん? 一歩外でこんなことを言ったら、『非国民だーーーーーーー!』って言って、石を投げられるでしょ? だから、肩身が狭いわ。みんな、息苦しくないのかなぁ? こういう気持ちを抱えて生きている人って少なくはないと思うんだけど、でも、でもなんだけど、でも少なくとも、俺たちの場合は、こういう気持ちを抱えてる者同士じゃなければ、恋愛は難しいんじゃないかと思う。だって、俺、この感情がわからない奴といても、結婚して、一緒に生活していくのは難しい気がするもん、例えば、その女と、こんな話をして、その気持ちわかるよって言われても、しばらく生活したら、ほら、やっぱり考えてないじゃんってなりそうだし。俺自身も、昔から、一回いっかい話すたびに、それが自分のオリジナリティの部分から出ているかって、一回いっかい振り返りながら話していたのが癖になってるから、子供の頃からずっと癖でやってきているから、これを相手に求めるっていうのは、無理難題ふっかけているような気はするんだよね。人間は好きなんだけどね、人は好きなんだけど」

しまるこ「…………」

友達「…………」

しまるこ「何かに洗脳されている、何かに心を奪われている、何を考えているのかわからないっていう状態の人間は、遠く感じるものだからね。人が人を遠く感じる、人が人を気持ち悪く感じるというのは、そういうところからくるのかもしれない。夫婦が生活の中で、もうこの人は嫌! 一緒にいるのは耐えられない! って思うのは、そういうときじゃないかな? だから、そういう意味じゃ、たとえどんなに素晴らしい“真理”といわれるものでも、捨ててしまったほうが得策なんだろうね。しかし俺は、その“捨てること”を指しているのが、いわゆる真理のうつし鏡といわれる聖典の意味していることだとは思うんだけど」

友達「どこの落とし穴にも落ちないようにするってこと?」

しまるこ「そう」

友達「お前、ロバート秋山のボッチの動画みた?」

しまるこ「なにそれ」

友達「ロバート秋山のクリエイターファイルのボッチで検索して見てくれない? マジで超面白いから」

友達「ロバート秋山は天才だと思うわ。もうかなり評価されていると思うけど、まだ、ぜんぜんその実力に見合った評価を受けてないわ。もっとみんな大騒ぎしなきゃいけないレベルだと思う」

しまるこ「ロバート秋山は天才だね。今、本当の意味で救われている芸人の一人といってもいいだろう」

しまるこ「他の芸人は、小器用に、上手い言い回しや大喜利が強いのはいっぱいいるんだけど、お笑いの参考書が出まわってきて、みんなでそれを使い回しして、テストで高得点取れるようになっている状況だね。だから、お笑い優等生はとても多いけど、みんな似たような答案になっている」

しまるこ「ロバート秋山は一人だけ違う道を歩いているね。本人が楽しんでいるというのがいちばん大きいと思う。他の芸人たちは、ロバート秋山より面白いコントを瞬間的には作れてしまうこともあるかもしれないけど、それでも、一回いっかい、意志と忍耐とで作っているような気がする。ロバート秋山は楽しんでいるね」

しまるこ「たぶん、それを可能にしているのは自己信頼だね、自分で感じる“面白い”は、他者にとっても“面白い”んだって、信じきっている。あるとき、気づいたんだろうね。振り切っちゃってもいいんだって。一線を超えたような顔つきをしている。あれは確信犯だね」

自分の考えを信じること、自分にとっての真理はすべての人にとっての真理だと信じること―それが天才というものだ。内に秘めた信念を口にしよう。そうすれば、それはみんなのものになる。内なるものは、いずれは外に出るのだから。そして、最初に浮かんだ考えは、最後の審判のラッパの音とともに、自分のもとへと帰ってくるのだから。

ラルフ・ウォルドー・エマソン. 自己信頼 . パンローリング株式会社. Kindle 版.

友達「そうだと思う」

しまるこ「そういう意味で、他の芸人とは一線を画している。この一線は、芸人にとどまらず、全てのクリエイターが越えなければならない一線だろう。俺が見たところ、芸人でこの一線を越えているのはロバート秋山だけだ。今でも一人抜けているけど、これからどんどん差は大きくなるだろう」

しまるこ「ジャルジャルも、この手のきらいはあるけど、ロバート秋山の方が骨格が大きいね」

友達「骨格?」

しまるこ「やっぱり身体つきからして違うよ。身体がね、霊肉みたいじゃん。そんなに筋肉質でもなければ中年じみたおっさんの醜い身体でもない。太り方がなんか異様だよね。でもそんなに汚らしく見えるわけでもない。ちょっとヨガナンダ先生と身体つきが似ているね。ああいう身体をしている人は油断ならないよ。霊性が内側から肥えてきて、ああなってる気がするんだ」

しまるこ「印象論に聞こえるかもしれないけど、ゲーテもシラーについて同じようなことを言っているよ」

ゲーテは言った。「彼(シラー)のその他の事はすべて高慢で尊大だったが、彼の眼は穏やかだった。そして彼の才能は彼の体格のようだった。彼は大胆に大きな題材を掴み取り、観察し、あちらこちらと転がしては眺めたりいじったりした。いわば、彼は題材をただ外面から見た。内面から静かに展開することは、彼の持ち前ではなかった。彼の才能はむしろ飛躍的なものだった。従って彼はまた始終不決断で、まとめる事ができなかった。たびたび彼は試演のすぐ前に一役を変えてみたりした。 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ; エッカーマン. ゲーテとの対話(上) . KotenKyoyoBunko. Kindle 版.

しまるこ「やっぱり大きいよ。他の芸人がノートに書いたり消したりしてやっているなか、ロバート秋山だけは迷いというものを感じられない。怖がってないものね。これは面白いかとか、どうだろうとか、他人の目、自分の目が入り混じると、どうしても歩みが遅々となってしまうけど、ロバート秋山は、他人の目も自分の目も気にしていない。ただ生活の中で、自分が面白いと感じるものがあったら、それは絶対に正しいものとして無条件に外に放射している。その一つがたまたま外れても構わないし、別の予期しなかった一つがたまたまウケることもあるから、結果に対して執着していない。だからあれだけポンポンたくさん作れてしまうんだろう」

しまるこ「自分がふだんの生活の中で、つらつら考えごとをしていて、おもわず爆笑してしまったこと、それをそのままなるべく元の状態から損なわない形で外に表せたらと考えているんだろうね。ゴールから逆算して作っている感じだね。もう頭の中で絵はできあがってる。ほかの芸人は頭から順につくってる、ほかの芸人は組み立てて作ろうとしているね。まぁ、いっても、いうほどには、俺は秋山の作品は見てないんだよ。クリエイターファイルも2、3作品しか見たことはない。じゃあどうしてわかるかっていうと、一流はどこを切り取っても一流の顔をしているから。B級はどこを切り取ってもB級の顔しかしていない」

しまるこ「ロバート秋山は完全に信じきってる。自分が思わず吹き出してしまったほうが正しいのだと」

しまるこ「クリエイターが弾ける瞬間というのは、こんなふうに自分を信じきったときだよ。自分の考えていることは他人が考えていることと同じだって、そう確信したとき、迷いがなくなる」

しまるこ「ロバート秋山にも、迷走していた時期があることはしっているよ。でも彼は30代半ばか、その辺りに手応えらしいものを掴めたことが俺にもわかった。もっとも、彼の周りにいた芸人仲間、相方の馬場や山本でさえ、それに気づいていたかどうかは怪しかったが」

しまるこ「これは創作に限った話じゃないよ。会社だろうが、病院勤めだろうが、主婦だろうが、学生、生きとし生けるもの、地球上の民、全員に言えることなんだ」

しまるこ「なぜなら、生きるということは、“創る”ことにほかならないから」

しまるこ「われわれは、一つ語るごとに、一つ試されている」

しまるこ「この人生航路を歩む上で、行き先にたくさんの罠(他人の考え)が張り巡らされている。それを一つひとつすり抜けながら、自分の意見を言うこと! それが創作なんだ!」

しまるこ「ロバート秋山はコントという形でわれわれにそれを教えてくれている。われわれはそれをアホウのような顔をして笑って見ているんじゃなくて、彼のそういった精神を見習わなければならない。サンドウィッチマンやミルクボーイなんかも確かに面白いよ。だが、彼らの中のできのいいコントを3つか4つ見れば十分だろう。いつも同じところから出発しているから。それに彼らは一線を越えているとは言い難いからね」

しまるこ「最悪なのは、いろいろ他人のコントやらを見て、その方法や、それらの法則や根底をつらぬいている一本の線を見いだして、その線をたよりに創作しようとすることだね。名前はあえて伏せておくが、べつに伏せる必要もない。ほとんど全員がそうだからね、ロバート秋山いがいは」

しまるこ「私は一般人だからそれはあてはまらない、なんて考えてちゃいけないよ。むしろ一般人といわれる人たちの方がこの問題を切に受け止めなきゃならないんだから。自分の人生を生きないこと、自分の考えを自分の言葉で話さないことは、それは思っているよりもずっと深く自身の生命を蝕んでくる。今では、その歪みに気づかず、そのためにおかしくなっていることに気づかなくなっているという深刻な事態を招いてしまっているほどに。いわゆる、みんなが普通といっている人たちの顔とは、そういう顔をしている人のことを指すのだから」

しまるこ「作家は作るから作家なんだよ」

しまるこ「この作るというのは、けっして物語とか、ストーリーとか、キャラクターとか、そういったものを指しているわけではない。“自分”を作っているんだ」

しまるこ「われわれ一人ひとりが、作家なんだ!」

しまるこ「本当は、一人ひとりが新しい人間なんだよ。一人たりとも類型なんてものはありはしない。生まれつきオリジナリティがない人間なんてけっしてない。どこかで他人の落とし穴に落ちてしまったからオリジナリティが発揮されないだけで、もし誰もがこの落とし穴におちずに歩いて行けるなら、私たちはまったくオリジナルな人間だ」

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