どうでもいいシリーズ

減るとか減らないとかいうやつは、キスをすると減るらしい

しまるこ「ニートになって一年経つけどどう?」

友達「うーーーん。すぐ飽きると思ったけど、これずっとやってられちゃうね。マジでまだまだやってられるわ。お前がなんでずっとニートしてられんのかわかったわ」

しまるこ「いつも何してんの?」

友達「映画見てるよ。一日三本くらい見てる」

しまるこ「一日映画三本見れるって才能だよ。普通そんな見れないよ」

友達「前に見たやつも見たりしてるからね。ターミネーター2なんて40回くらい見たわ」

しまるこ「ふえー。俺は一万くれるって言われても一日に映画三本なんて見れんわ」

友達「この前、風俗行ったんだよ」

しまるこ「うん」

友達「あまり期待してなかったけど、結構可愛かったんだよ。あーハズレ引かなくてよかったぁって安心してたんだけど」

しまるこ「うん」

友達「あのさぁ、あの、風俗嬢のさぁ、覚悟を入れてる顔ってわかる? 部屋に入ってくるときの、『よし、がんばろう』って気合い入れてやってくる顔。気合い入れるっていうか、スイッチを切ってるのかもしれないけど、人間性を捨ててる時の顔。あの顔されるのがきついね」

しまるこ「わかるよ」

友達「これからよく知らない男とキスをする、ちんこを舐める、毛むくじゃらの汚いものに肌を溶け合わせるって、どこかスイッチを切らないとできないんだと思うんだよ。たとえイケメンだったとしてもさ、嫌なんだよ思うよ。すごくね」

しまるこ「うん」

友達「『こんにちはー!』って、やってくる声がもう心のない声なんだよね。元気なんだけど、空元気というかね。心が擦り切れちゃってて、なんか可哀想なんだよ。音を出しているだけの声っていうか、こんにちはー!って言った後も、機械みたいにずーっと言葉を捲し立ててているのね。俺の方もほとんど見ずにね。人間性を維持しながらやっていける仕事じゃないんだろうね。接客業の人なんかも少なからずそういうところはあるんだけど、みんな仕事で嫌な人と接するときはそうしてるんだろうけど、その比じゃないね。だって、稀にめちゃくちゃ気持ち悪い男と当たるかもしれないわけじゃん? そういう時、心の奥の、さらにまた奥の扉を閉めていって、それが続くと、ああなっちゃうんだなと思った」

しまるこ「そこまで気持ちがわかるなら、案外それを言ってみてあげてもいいかもしれないね」

友達「風俗嬢に?」

しまるこ「うん」

友達「それはダメでしょ」

しまるこ「ダメか」

友達「ダメでしょ。っていうか、風俗嬢が客に言われるといちばん嫌な言葉が、『本当は僕みたいのとセックスするの嫌でしょ? ごめんね』って謝られるのがいちばん嫌なんだって。それが客に言われたら嫌な言葉のアンケートの一位らしい。すごい気力が下がるんだって」

しまるこ「なんでアンケートの情報知ってるんだよ(笑)」

友達「(笑)」

しまるこ「お互い騙し騙しでないとやってられないところがあるのかもね」

友達「心を閉ざした状態であれば、どの客も大差ないって感じで、なんか烏合の衆の一つというか、まったく俺というものが認識されてない気分だったよ。明らかに俺を見ていないの。さっきお前が言ってた、ありのままに相手を見るっていうの? それと真逆にあるのがこの風俗嬢のパターンだと思ったんだけど、どうだろ?」

しまるこ「うん」

友達「終わった後、茫然自失となるんだろうね。あれは慣れるってことはないんだと思う。きっとホテルに来る車の中でもゼロ化していたと思う。神経が壊れる一歩手前でギリギリで、見たくないものを見ないようにして、それでこんなふうになっちゃってるんだろうなぁって。ひろゆきが、可哀想だから風俗にいけないって言ってたけど、俺も同じ気持ちになったわ。でも、あんまりこういう目で見られるのもきっと嫌だろうから、興奮したフリをして通したけどね。金ももったいないし」

しまるこ「ベテランになってくればくるほど、すごそうだね」

友達「その子は3年やってるって言ってた。3年もやってれば、すり減らしてしまった部分というのは、取り戻せない気がしたなぁ。別に風俗嬢やAV女優が幸せになれないなんて言ううつもりはないけど」

しまるこ「うん」

友達「でね、風俗嬢によるアンケートによると、されると嫌なことの一位がキスなんだって。キスがいちばん嫌なんだって。フェラや本番よりもキスが嫌なんだって」

しまるこ「だからどこのアンケートだよ(笑)」

友達「でもわかる気がしない? 俺が身体売る立場になったとしても、キスがいちばん嫌だもん。やっぱりプラトニックな部分が残ってるんだね。キスはやっぱり好きな人としたいっていうのがあるんだろうね」

しまるこ「わかる気がする」

友達「そういう前情報持ってたこともあるけど、やっぱりキスしているときがいちばん嫌そうだったよ。キスやめてください、はやく次に行ってくださいって顔してた。顔には出さないんだけどね。心でそう言ってるのは伝わってきたよ、キスしている間、私のこと好きにならないでくださいねって言われている気がした」

しまるこ「そこまでわかってんならキスするなよ(笑)」

友達「(笑)」

しまるこ「何がしたくて風俗に行ってるんだよ(笑)」

友達「よく、減るとか減らないとかいうやつあるじゃん? あれはこれを指してるんだろうね。キスしているとき、すごい減ってるような顔をしてた」

しまるこ「キスすると減るんだ」

友達「うん。で、終わった後にさぁ、一緒に風呂入ったのね」

しまるこ「うん」

友達「そしたら、その女の子が、ボディソープで身体を洗っているときに、ボディソープで泡立てた泡を、棒状にして、自分の股間に盛るようにして、「みてみてー、アイナのおちんちん」って言ってきたのね」

しまるこ「バカだなぁ(笑)」

友達「バカだよね」

しまるこ「みんなにやってるんだろうね(笑)」

友達「絶対にね」

しまるこ「お前はなんて返したの?」

友達「俺のより立派だねって」

しまるこ「それは、男側もみんなそう返してるね(笑)」

友達「たぶんね(笑) んで、俺、そのとき聞いてみようと思ったんだよね。俺が男してどう映ったのか。厳しめに、まじでぜったい怒らないから、俺が男としてどんな印象を持ったのか言ってほしいってお願いしたの。もう二度と会うわけじゃないじゃん? だったらこれを利用する手はないなって。自分を磨くために協力してほしいって、風俗行ったときはいつも聞いてるんだってお願いしたの。厳しければ厳しいほど嬉しいって」

しまるこ「熱心だなぁ」

友達「女の子も真面目な部分があるんだろうね、そう言ったら、本気で関わろうとしてくれたの。女の子の目が人間らしくなって、それまでの空気が一変したの」

しまるこ「風俗嬢の風俗モードを解くにはそれが効くのか」

友達「それで、女の子は「うーーーーん」って考えだして、言ったのが」

しまるこ「うん」

友達「ホテルの外に、汚い自転車が立てかけられてあって、この自転車の持ち主とセックスすることになるんだろうなと直感したんだって。で、俺の顔を見た時に、あ、この人があの自転車の持ち主だ、って思ったんだって」

しまるこ「(笑)」

しまるこ「言うなぁ(笑)」

しまるこ「他の部屋の客のものかもしれないだろ(笑)」

友達「従業員のかもしれないしね(笑) でも、聞いてよかったと思ったよ。俺ってボロくて汚い自転車乗ってそうなイメージがあるってことでしょ? そうじゃないと結びつかないでしょ?」

しまるこ「うーん、これからラブホでセックスするって事になって、そのホテルの前に自転車がかけられてあったら、なんか、その相手とセックスする事になるかもしれないって、思うこともあるんじゃない? しらんけど」

友達「女ってそういうところあるよね。勝手によくわからないイメージと結びつけられるっていうか、なんなんだろうねあれは? セックスしている間、ずっと俺のことボロい自転車で来た人だって思ってたって事でしょ?」

しまるこ「っていうか、どうでもよかったんだと思う。かけられていた自転車、フロア、花瓶、画布、エレベーター、部屋、お前の顔、全部が一つの風景として通り過ぎていったんだと思う。最初に目に入ったのが自転車だったんだと思う」

友達「俺もなんとなくそんな感じがしたんだよね、あ、どうでもいいんだぁって。どうでもいいから、そんなどうでもいい印象と一致したってことでしょ? つまり、どうでもいいんだってことだって思ったよ」

しまるこ「たぶん、そういうことだろうね」

友達「あと、ひょっこりはんに似てるって言われた」

しまるこ「結構ズバズバ言うね、その子」

友達「他は特にないって」

しまるこ「『特にない』か。あんがい、それがいちばんきついかもね」

友達「気をつかって、言いあぐねている感じじゃなかったんだよね」

しまるこ「うん」

友達「心が壊れていると思ったけど、誰かを見て誰かを冷静に評価する心がちゃんと残っていて、ちゃんと生きてるんだなぁって思って、ちょっと安心したり、ちょっとへこんだり」

しまるこ「もう一回言うけど、なんのために風俗行ったんだよ(笑)」

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