月に60000円で生きる上級ミニマリストの節約術

出前館で事故って骨折した 2

言われた通り、3時間待った。お婆さんは自分の診察はとっくに終わっていたのに、俺の隣に座って一緒にいた。

17時を過ぎたころ、受付の男がやってきて、「それではレントゲンを撮りますので、レントゲン室前の待合室まで移動されてください」と言って、俺を車椅子に移してくれた。

俺は車椅子に座って、バカみたいにでかいウーバーバッグを膝の上に乗せた。このバカ丸出しのリュックを抱き抱えて病院内を移動しなければならないことが一番恥ずかしかった。

(いかにも大事そうに抱えてるじゃねーかよ)

バッグは凄まじい存在感で、この人はフードデリバリーで事故して怪我をしたというのに、大事そうにウーバーバックを抱えている、というフーデリ崇拝者のような姿になってしまっていた。

「頑張ってね、負けちゃダメよ」

お婆さんは俺を見送った。俺が別フロアに差し掛かって姿が見えなくなるまでこちらを見続けていた。

俺は一人レントゲン室前の待合室に向かった。病院内のさまざまな景色が目に飛び込んできたが、俺の関心は内部に向けられていた。それは3時間待っている間、いや、今日一日中、朝からずっと胸のいちばん奥のところにあったものだ。

こういうときだ、こういうとき、良い方向に考えることができるか、か。

いい方向に考えるでも、何も思わないでも、どっちもでいいが、綺麗さっぱり取り除いてやること、か。俺は友達に言ったばかりだ。友達は出会い系の女に4万ぼったくられて、へこんでて。「よかったじゃん、これは起きてよかったんだって」と俺は友達に言った。そのときは友情が壊れかけそうになったけれども。

この感情だけが余計だ。砂利の上を走らなきゃいい、それだけだ。今回のことで反省するのはそこだけだ。あとは、まぁ、本当は拠点に電話しなきゃいけなかったし、救急車呼んだ方がよかったかもしれない。せめて公道は走っちゃならなかった。だけど、今度から病院にどう掛け合ったらいいか知ることができた。最小限の怪我で知ることができた。痛い目見ないとわかりっこないしな。いいことだらけじゃねーか。いいことしか起きてない、のか?

車の運転で人をはね殺してしまった知人が俺にはいるし、理学療法士時代、30代で脳梗塞で半身不随になってしまった患者も見てきた。脊髄損傷で一生車椅子生活になってしまった人も見た。俺の高校は偏差値40くらいの学校だったから、ノーヘルで彼氏の後ろにニケツして事故って、顔がミンチになって自殺した女の子もいた。その子は事故以来、学校に来なくなってしまって、一年後、自殺した。授業中、いつも鏡を見ていた子だった。岡本太郎だってスキーで骨折してるし、この世でいちばん重い病気と言っていいパーキンソン病になっても、ひたすら絵を描き続けた。

ミニマリスト、ニート、月給8万円、ブログ、YouTube、マッサージ、出前館、足がダメになってしまえばぜんぶ終わりだ。ぜんぶ健康に支えられてる。システム社会と一緒だ。一つ部品が壊れると何もかもうまくいかなくなる。久々に車椅子に乗ってよくわかった。車椅子の人の人生ってずっとこんな感じなんだな。いや、わかるわけないか、俺はすぐに治るんだし。

一ヶ月も経てば、まっさらだ。すべてまっさら、元通りだ。だとしたら、この感情だけが無意味だ。余計だ。無意味? 無意味じゃあ、今すぐ手放せるだろ。俺は何をためらっているんだ? 人生は毎瞬、毎瞬、今、この瞬間、最高に素晴らしい気持ちでいていいんだ。誰も止めやしない。俺は今それができる。そうすれば、今から死ぬまでずっと幸せだ。そしたら、俺は今から死ぬまでずっと最高の気分じゃねーか。ずっと最高の気分が続く。それを邪魔しているのは俺だけなんだ、今すぐやれ! できないことあるか! 俺が握りしめてるんだから、今すぐできるに決まってるじゃねーか、今すぐだ、今すぐやれ!

ヤッタァぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!! やったやったやった!!!!!!!! やったぞぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!

うおおおおおおお!!!!!!!! やったぁぁぁーーーーーーーーーーーー!! 

うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!! いやっほぅーーーーーー!!!!!! やったぁーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! やったぞーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!! あー!!!! 気持ちいい! 出前館最高!!! 骨折最高!! どんどん出前館やってどんどん骨折しよう! いやぁーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!! 気持ちいいーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!! 気持ちいいなぁーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!! やったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

すごい。本当に嬉しくなってきた。心の中で試しに唱えてみたら、それだけで気持ちよくなってしまった。ただ心の中で唱えるだけで、こんなに変わるのか。

いやーこんな気分が味わえるなんて、素晴らしい。目覚めた気分だ。こんな素晴らしい気分になれるなんて、やっぱり俺はついてるなぁ! やっぱり神様は、この気分にさせるために俺に事故を起こさせたのか? 人間、調子がいい時に気分が良いなんて当たり前だからな。マイナスの時にどうするかだ。ってことは、まてよ? マイナスの時にも気分がよかったら、ずっと気分がいいのが続くじゃねーか。俺は今から死ぬまでこの最高の気分が続くのか? だとしたら。

事故って骨折してバイクをジャンクにされて、病院をたらい回しにされて、何一ついいことは起きてないのに最高の気分だ。人間は行為とは関係なく、こんな最高な気分でいることができるのか。数分前の邪悪に満ちた俺に戻ろうったって戻れない。やった! やった! やったぞぉーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!! 俺はもう喜びが抑えきれず、今すぐ車椅子から立ち上がって、病院内を走り回りたくなっていた。

しかし困ったのが、キーボード買ったばかりだったんだよな。16000円のパタグラフ式の高級キーボード、ニートで出前館なのに買っちゃった(笑)MacBookのパタグラフ式に慣れてしまった俺には、キーストロークが深すぎて合わなかったのだ。クソみたいなキーボードだったから返品するつもりでいたが、全額返金期間は30日以内だ。30日以上入院することになったら購入する羽目になってしまう。それだけが気がかりだ。それ以外にまったく心配はない。まぁいい。人生はいいことしか起こらないんだ。俺はこの時、 古代ユダヤ賢人の言葉を思い出した。

『あなたは、誰とも同じではない唯一無二の最高傑作として、価値あることをするためにデザインされ、生まれてきた。あなたは、意味と目的とをもってつくられた神の作品なのだ。あなたは存在しているだけで価値がある。あなたのために、最高に素晴らしい人生のプランが用意されていて、それは、実現される日を待っている。そして、それを実現するために必要な才能や能力の一切は、すでにあなたの中に備わっている。だからあなたは、ないものねだりをする必要もなければ、他人を羨む必要もない。さあ、始めよう。あなたは必ず成功するこの上もないハッピーな人生を満喫するために生きている。なぜなら、あなたはそのためにデザインされた作品なのだから……。

石井希尚. 古代ユダヤ賢人の言葉 超訳聖書 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.643-650). Kindle 版. 』

行為か。持ち主の心とは裏腹に、脳を持たない足はただ細胞の回復に向かっている。

中村天風先生は、講演家なのに関わらず、咽頭ガンで声が出なくなってしまい、手術しなければならないことがあった。しかし患部は麻酔を打てない箇所にあり……、医者からは、「とうてい人間では我慢できる痛みでないから手術は不可能」と言われたが、天風先生はいいからおやりなさいといって、術中、苦痛の顔をいっさい見せずに切り抜けた。

今、麻酔なしで足を手術しろって言われたらちと厳しいが、ただ、心を楽しい気持ちにして、最高に気持ちいい状態にできないはずがないんじゃないか? ゲームして楽しもうが、何もしなくて楽しもうが一緒じゃねーか。なにもないのに最高の状態って、最高だなぁ! しかし、自分の中に答えが現れる空間があるからな、最高最高言ってるより、そっちの空間に合わせる方がいいのか。

よし、たった今、この感情を書き留めておこう。俺はスマホを取り出して音声入力することにした。電源は7%になっていた。今日はずっと出前館で稼働して病院を探したり道に迷ったりウロウロしていて、昼間の道路でスマホを見るには、液晶をいちばん明るくしておかないと見れないから、バッテリーがこんなことになってしまった。

俺はこのとき音声入力で一万字以上入力してしまった。いつも机の前で3時間も5時間もうんうん唸っても何にも出てこなかったくせに、この時はよく書けてしまった。タリーズに行ったり、高いキーボードを買ったり、スタンディングデスクにしたり、環境だの状態を整えようとしても何も捗らないが、充電は7%、足は激痛、車椅子、これ以上ないほど劣悪の環境なのに、恐ろしいほどに書けてしまう。さっきまで、嫌味ったらしく目の前で救急車呼ぼうとして、それくらい焦っていたくせに、今は自分の番号が呼ばれることだけが煩わしい。頼むから呼ばないでくれって感じだ。環境云々より、絶体絶命の状態の時の方が捗るのかもしれない。漫画家の締切前のような。

俺は顔が変わった。不思議なもので、心配したりソワソワして、いかにも深刻そうな顔をして、自分は今絶対絶命だから助けてほしいという態度の時は、それをグチグチ言うほど嫌がられ、バイクで瀕死の状況なのにかかわらず全く心配されなかったが、こうして顔が変わり、どうぞ、いくらでも待ちます。私も飛び込みですから、ちょっとレントゲン撮ってもらって、どうなってるか確認してもらえればいいので急がなくて大丈夫です、という顔になってから、周りの対応が優しくなった。というのも、レントゲン室に入る際、一人のスタッフが車椅子を押してくれて、また別のスタッフがウーバーバッグを持ってくれて、至れり尽くせりだった。車椅子を押してくれたスタッフは21歳くらいの巨乳の女性で、後頭部にグイグイとおしくらまんじゅうのように胸を押し付けられたのを感じた。俺が頭を後ろに倒していたのかもしれないが。やっぱり事故してよかった。

レントゲンを撮った後、また待合席で待って、そして、医者に呼ばれた。

「こんにちはぁッ!!」

この声は俺じゃない。医者だ。入室してきた俺を見て、医者は開口いちばん、不自然なほどでかい声を出した。

「おーい!? なんだって〜!? バイクで事故ったって? おいおい大丈夫か〜!?」と耳が割れそうなくらいの大きな声で医者は言った。こいつも俺と同じ種族か?

「だはははは! はい〜!! 砂利で滑って転んでしまって、その拍子にバイクが落ちてきて右足が挟まっちゃったんですよ!」と俺もヘラヘラ笑って答えた。

「あちゃ〜!」と言って、医者はイナバウアーのように大きく身体をのけぞっておどけて見せた。

病院に不釣り合いな、異様なまでに明るい、それが二人合わさると余計に奇妙に映る。診察室には、医者の他に若い看護師と年配の看護師がいたが、あなたたちがやる分にはいいけど、私達を巻き込まないでといった顔をしていた。

楽しい野郎だ。たまにこういうタイプの医者はいるな。医者にこんな体育会系になられちゃあ、頭が悪くて暗い奴はどうしたらいいかわからなくなってしまう。なんだ、てっきり3時間も待たせるし、受付の男の態度から察するに、もっと畏れ多い人物像を描いていたが、とんだ見当違いだった。他の医者はみんなめんどくさがってパスして、この人だけが受け入れてくれたのかもしれないしな。声や態度でわかるが、この医者は思想で生きている。不自然なほどの大きな声、元気の良さ、意志が働いている。患者はとっつき易くなるかもしれないが、医者がそれをやると余計にインテリに見えるぜ。

「うーん」 

医者は俺のレントゲン画像を見ながら、ずっと「うーん」と言っていた。

「綺麗ですね」と、俺は思わず言った。写真を見ると、骨折どころかヒビらしきものもなかった。

「痛いのはどの辺?」

「どこというより、全体が痛いんですが、とくに… …この辺りです、あ、いたっ!」と、俺は小指下部の辺りを触っただけで、痛くて声を出してしまうという茶番のような真似をした。

「ここにちょっと怪しい線があるね」医者はモニターを指しながら言った。「でも足の裏側なんだなぁ。でも、ちょうどちんこさんが指している部分の裏にあたるから、ここが怪しいね。右足の写真を見てごらん、こっちは何も線が入ってないでしょ」

「はい」

なんだ、つまり大したことねーってことか。

「もう一度、一週間後、再検査しよう」

え? 再検査? 

「あの、ヒビが入ってるかわからないような状態ってことは、基本的には良いってことですね? もしかしたらヒビも入ってないかもしれなくて、それを確認するために再検査するってことですよね? じゃあ、1週間もしたら歩けるようになってるかもしれないってことですか?」

「1週間は動かないでてよー!」と言って医者はおどけて笑った。そばにいた24歳くらいの看護師も一緒になってクスクスと笑った。

「その再検査っていうのは、ヒビが入ってるかどうかすらよくわからないから、もっと正確な機械を用いらなきゃできないってことですか? それはなんで今できないんでしょうか? なんで1週間後なんですか? 明日じゃだめなんでしょうか?」

と俺は言いそうになったが言わなかった。明日って言われてもこっちが困る。明日、この足で階段の上り下りをして病院まで来たくない。というより来れない。これからどうやって帰るのかもよくわかっていないのだから。

「松葉杖貸すから、一週間はそれで生活してよ。絶対に歩かないでね」

「えーっと、私バイクで来たんですけど、どうしましょう。この後どうやって松葉杖を持って帰ったらいいのか。タクシーで帰るとしたら、バイクをここに置かせておいてもらえることはできますか?」

「それはいつ取りに来れますか?」と、そばにいた50代くらいの看護師が言った。続けて、「明日は取りに来れますか?」と言った。

「明日!? 明日はちょっと……! 再検査が一週間後ですからね、そのときに取りに来れればってところなんですが」

「でも、1週間も置いといたら、そちらの方が気がかりじゃないですか? イタズラとかされたら、あれだろうし……。そちらも、気持ち的に落ち着かないでしょう?」

いや、落ちつくも落ちつかないも、こっちが頼んでるんだってば。

勝手な判断を自分で下せないから、面倒事は引き受けたくないってことか。事故ってボロボロになってるクソバイクだぞ? 誰が盗むんだよ(笑)まぁ、ゴミと間違えてゴミ収集車が持っていっちまうかもしれねーがな。駐車場の目立たないところに、一週間ぐらい、こっそり置いといてくれたっていいだろうに。組織悪だな。これがすべての元凶だ。みんな部品で、自分じゃ何も決められないから、想定外のことが起こるとにっちもさっちもいかなくなる。バイクを置くとか置かないとか、そんなことも決められない。一人の患者に対して気の行き届いた対応ができずにいる。

ちょっと待てよ、俺はなんだ? あれ? この松葉杖をどうやって持って帰るんだ? 

……。

原付? タクシー? ……救急車? いや、原付しかないか。これは……。背中に紐でくくりつけて原付に乗って帰るのか? クラウドのバスターソードじゃあるまいし。

「すいません、背中に縛って帰ろうと思うんで、紐みたいなものあったら貸してもらえます?」と言おうと思ったところで、ハッと気づいた。いや、無理だ。俺は背中に、このよくわからないウーバーバッグみたいな底辺みたいなリュックを背負わなければならない。これが信じられないほどデカすぎて、バイクのシート下に入らないんだ。どうする? 膝に挟むしかない?

「じゃあ松葉杖は膝に挟んで持って帰ります」と俺は言ってみた。

「……」

すると誰も何も言わなかった。医者も看護師も無言だった。

「一応スクーターだから股の間に挟めると思うんですよ(笑)背中はこのリュックを背負わないといけないので(笑)」と俺は笑いながら言ってみたが、やはり反応はなかった。

おいおい、今、目の前で診察した患者が死ぬって言ってんだぞ? 診察した意味がねーじゃん。バイクで松葉杖を股に挟んで持って帰るって言ってんだぞ? 死ぬって言ってんのと一緒じゃねーか。つーか、そもそも、バイクで帰ること自体反対しないのは何なんだ? いや、反対されても帰るんだけど。へぇ。今、目の前の自分の分の仕事だけすればいいんだ。このあと俺は死ぬかもしれないのに、それはいいんだ。へぇ。俺が帰りに事故ってまた運ばれてきたら、またその時はその分の仕事だけするわけか。なんだ、調子だけいい野郎じゃねーか。元気とか、声とか、外っつらはいいけど、調子だけじゃねーか。へぇ。

受付で金額を提示された。3割の保険適用がされて6892円だった。6892円!? 一週間後に再検査しましょうって言われただけなのに6892円か。へぇ。出前館で稼いだ分チャラじゃん。足と引き換えにして稼いだ金はぜんぶ持ってかれてしまった。

6892円って、これが若い奴の給料から天引きされてると思うと、若者が豊かにならないわけだ。こんな、医療費のぼったくりがまかり通っているんじゃあ。

レントゲン代を請求されていたことも面白かった。レントゲンに映ってるかどうかわからないから再検査しましょうって話なのに、レントゲン代を請求されるってどういうことだ?

外に出たら真っ暗になっていた。夜の19時。11月の中旬、空気が冷たい。

バイクに跨り、松葉杖を膝の間に挟んで肩にかけて、絶対に道路に落とさないようにする。しかし、膝でギュッと挟んだとしても、停車時に左足を地面に出して踏まなければならないから、けっきょく肩と右足に立てかけるしかない。右足はギプスで固定されているが体重はかけられない。停車時にバイクを右に傾けたらアウトだ。右足で地面を支えそうになった瞬間すべてが終わる。転んだら、こんな110ccの原付ですら起こさせることもできない。こんなのが公道を走っていいわけがないが、医者のお墨付きだ。

松葉杖を落とさないようにする、バイクを右に傾けない、全然しらない土地、スマホのバッテリーが切れていてナビが使えない。バイクはガタガタ変な音を立てている。ミラーが折れていて後方は目視しなければならない。注意するところがいっぱいだ。一歩何かが違えば死だ。しかしそれでも俺は発進した。こんなスリルは久々だ。生と死の間を走っている気分だった。いや、電動イライラ棒かな。「うわ、やべぇ!」バイクが少し右側に傾いて、さっと右足を出しそうになった。危ない危ない、右足で地面を支えた瞬間、死ぬ。みんな、こんなふうになりたくないから、ちゃんと仕事して、正社員になって働いているのか。今までの偽りの自由とやらの代償がぜんぶのしかかってきている気分だぜ。

(最善! 最高! 最善! 最高! 最善! 最高! 最善! 最高!)

(最高ですかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)

この後、飯はどうするんだ? 掃除は? 階段は上れるのか? そもそもちゃんと生きて家まで辿り着けるのか? そして、帰ったところで、あのガコン! ガコン! って襖を蹴るような音が聞こえ続ける、俺は、どうしてあんな気がおかしくなりそうな部屋へ向かおうとしているんだ?

結局、向かってんじゃねーか。結局、向かってる。行為だけが続いている。俺はバイクにまたがり、松葉杖を膝に挟み、アクセルを回すのをやめられない。抗えない力が働いている。行為だけが続いていく。

(最高ですーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!)

そう、どうせ行為とこの気持ちは関係ないのだから、最高ですーーーーーって言ってりゃいいんだ。

すべてはこれを俺に教えるために、仕向けたんだろう? よくわかったよ。今回も、ちゃんと「届いた」ぜ! 不思議と今は苦痛も絶望感もない、帰れたとしても階段上れるかわからないのに、どうしてこんなに気持ちが穏やかなんだろう。しかし、自分の中に答えが現れる空間があるからな。最高最高と言ってるより、そっちに合わせている方がいいか。最高ですーーーーーーーーーーーーー! とどっちがいいのか、そんなことを考えながら運転していた。

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