また引越しに失敗した。
疫病神がついているのかもしれない。
もう何回引越ししてもダメなのかもしれない。
またしても騒音に悩まされている。
「新幹線の音に悩まされています。とにかく静かなところに引っ越したいです」と仲介業者にはその旨を伝え、「精一杯探しましょう! 最後までお手伝いしますよ!」と快い返事をもらったのだが。
2LDKの家賃40000円。63平米。防音に優れたRC加工、住宅街で利便性には劣るがそのぶん静かということで、そこにした。「鉄筋コンクリートですから遮音性はバッチリですよ。住人の歩く足音すら聞こえませんよ」とのことだったので、楽しみにしていた。前回が2LDKの45000円の55平米だったので、広さと値段の面でバージョンアップだ。
※長い記事が続いていますが、今回も長くなります。
デメリット① 幽霊が出る
まず一つ目。この物件には幽霊が出る。 幽霊が出るマンションは都市伝説だと思っていたが、俺も初めて目にしたし、そこに自分が住むとは思ってもいなかった。
このマンションは昔の市営団地のような、いかにも低所得者が住むような外観なのだが、部屋に入ってしまえばそこそこ普通だったから、まぁ、内装がしっかりしていれば別にいいか、と思って、それで良しにしてしまった。安かったし。(※また後日、ルームツアー動画を撮ろうと思う。騒音状況も兼ねて)
襖がやたらと多く、部屋に入っても幽霊が出そうな見た目ではあるのだが、外はひどい。部屋に入るまで、暗く、どんよりした長い階段が続く。堅牢で重厚そうではあるが、エントランスすらどこにあるのか初めはわからなかった。
(↑はイメージ写真)
さて、問題は階段を降りる時で、俺の部屋は3階に位置しているのだが、いつも階段を降りていく際に、キィ……と音が鳴って、隣の部屋の扉が開き、幽霊がこちらを眺めてくる。俺が階段を下がっていき、曲がり角に差し掛かって、俺の姿が見えなくなる瞬間を狙って、キィっと扉を少し開いて、俺の後ろ姿を見ようとしてくるのだ。
このマンションは全6室で、一階ごとに2部屋がある。幽霊も同じく3階の部屋に住んでいる。つまり、3階は俺とこの幽霊しか住んでいない。
髪の長い、黒髪の、変なおばさんが立っている。疫病神の正体はこいつだったか。俺はこいつのせいで何度も引越しさせられているのか、と思った。こいつがすべての不運の正体か。とうとう俺の目の前にまで姿を現したか。不思議と恐怖はなかった。俺はただイラついていた。俺は何度も引っ越しに失敗し、これは祟りに違いないと思っていたから、ふーん、こいつのせいか。こいつのせいで俺はいつも引越ししなければならなくなるのか、と思った。
俺が階段を下がってコーナーを曲がり切るや否や、俺の姿が見えるか見えなくなるかといったところになって、キィ……と扉が少し開く。振り返ると幽霊と目が合ってしまうため、俺は振り返らずにそのまま下っている(いちばん初めと二度目は目が合ったが、三度目からはあえて俺は無視して階段を下っている)、これを何度も何度もやられている。階段を降りるたびにやられている。
デメリット② 幽霊がうるさい
さて、騒音だが、これにいちばん困っている。そう、俺は確かに「騒音」のために引っ越したはずなのだが、なぜか、また同じことで苦しめられている。
俺は302号室、幽霊は301号室なのだが、幽霊の部屋からずっと、水道を流しっぱなしにしているような、ザーーーという音が絶え間なく聞こえてくる。いったい何にそんなに水を使ってるのか? 人でも殺しているのか? ずーっとザーーーーーっという音が流れている。俺は引っ越しの日、荷物の搬送のために、4往復くらい前のマンションとこのマンションを行き来したが、その間ずっと、ザーーーっと水が流れる音が続いていた。幽霊の部屋のベランダには子供の服などが干されてあったから、家族も一緒に住んでいるようだ。2LDKのファミリー用物件だが、いくらファミリーだとしても水を使い過ぎる。貧乏だからみんなで水飲んで腹を満たしてるのか?
午後18時ごろ。荷物の搬送をすべて終えて、やっと新マンションのリビングで、ふう……と一息ついていたら、幽霊の部屋から、『ガコン、ガコン』というような襖を蹴るような音が聞こえた。『ガコン、ガコン』と何度も音がする。20秒に一回くらい断続的に聞こえてくる。なんだ? 襖を蹴ってるのか? 俺に出てけって言ってる? これがウワサに聞く引越しババアか? 完全に引越しババアじゃねーか。引越しー! 引越しー! って言って蹴ってるのか?
なんで襖を蹴ってるんだろう? この音は、 荷物の搬送でバタバタしていた日中は気づかなかったが、リラックスして静かにしていると聞こえてきた。21時、22時になってもずっと続いた。おかしい。3、4時間経ってもずっと続いているため、これは幽霊の仕業ではないと思った。人間の仕業でもない。もっと機械的な定期間隔で発生している。
『ガコン、ガコン』『ドン、ドン』と、物を蹴り飛ばしてるような音である。なかなかにうるさい。昼間だとこの音は気づきにくい。夜の静かな、シン……としているときに『ガコン!』と顎が外れたような音が響くのだ。また同じ失敗してんじゃねーか。なんで内見の時に気づかなかったんだろう? しかしこの音は静かな夜の状態じゃないと気づかなかったのだ。
新幹線のような派手なうるささではないが、24時間、『ガコン、ガコン』『ドン、ドン』という音が聞こえる。例えば水滴がずっと止まずにポタリポタリと落ち続けるような、止まってほしい時に止まってくれず、シンとした間に絶え間なく鳴り響いている音があると、俺の心はどうしてもそこに執着してしまう。
初めは幽霊がふざけて蹴ってるのかと思ったが、調査を開始し、音が発生している方向に注意深く耳をすましていると、となりの幽霊の部屋からではなく、俺の部屋の真下から聞こえてくるということがわかった。幽霊ではない。幽霊には足がないしね。
俺は翌朝、音の発生源がするところへ下りて行って、探し当てたところ、どうやらこいつが原因らしかった。
デメリット③ 変な機械がうるさい
こいつがずっと『ガコン、ガコン』とでかい音を鳴らし続けている。熱心に休まず、20秒に一回くらいのペースで断続的に稼働している。浄水器か貯水タンクかしらんが、水を吸い上げてるのか、なんか圧らしきものが働いているようだ。浄水器? 浄水器にしては、このマンションは水道水が不味いから、浄水器ではない気がする。引っ越す前のマンションの方がずっと水は美味しかった。同じ市内だとしても、水道水の味がぜんぜん違うことに驚いた。
この意味不明な機械から、豪雨のようにザーーーという音が鳴り響いていて、動作の開始時か終了時に『ガコン! ガコン!』と凄まじくでかい音が鳴る。近くにいると、すごい音だ。
これが24時間絶え間なく稼働している。新幹線は23時を過ぎると走らなくなるので、引っ越す前のマンションでは、いつも23時になると、「ああ、救われた!』『やっと一日が始まる……!」と、いつも23時を心待ちにしていて、それが唯一の逃げ道で、救済策だったが、このマンションには逃げ場がない。
翌朝にわかったことだが、朝の7時30分くらい、水が頻回に使われる時間になると、『ガコンガコンガコンガコンドンドンドンドンドンドン!!!!!』と、太鼓の達人みたいにドンドンと、間断なく凄まじい音が鳴り続ける。住人が水道を使うたびに鳴るらしい。シャワーやらトイレだか水を飲むだか、全6室の、総勢何人住んでるかしらんが、小さい小僧が水鉄砲に水を補充するために、ちょっと蛇口を捻っただけでも、『ガコン!』と音がなるのだ。しかし、誰も水道を使ってないと思われる深夜の2時や4時頃だとしても、20秒に一回くらいの定期的な間隔で、『ドン!』と音が鳴るので、住人の水道使用に関係なく起こっているようでもある。
俺は今までいろんなマンションに住んできたが、こんなよくわからない、水道タンクの音なんかに悩まされたことなんてなかった。これは、なんなんだろう? 俺は一体どこまで音に悩まされなければならないのだろう? おかしい、やっぱり変だ。普通の人が普通にマンションに引っ越して、こんな目に遭う確率なんてほとんどゼロだろう。どうして俺が? 防音目的のためだけに引っ越してきた、この俺が、どうしてこんな目に遭うんだろう?
俺はシン……、とした中で、一人ボーッとする時間が何よりも好きで、その時間があるからなんとか生きていけているのに、それがなかったらとっくに死んでいるのに、これは死活問題なのに、どうしてこうなってしまうのか。死ねって言ってる?
なぜ誰も何も言わない? みんな、生活に忙しかったり、音楽とか鳴らしているから、あまり気にならないのか? ノイズキャンセリングヘッドホンか耳栓をすればまったく聞こえなくなるから、その点は新幹線よりマシだが、それでも24時間エンドレスに鳴り響くとなると、こっちの方が嫌かもしれない。あ? なんで家の中にいてヘッドホンしなきゃなんねーんだよ(笑) 俺はずっと家にいる間ヘッドホンすんのか(笑) ヘッドホン前提の生活っておかしいだろ!(笑) 家としての前提がなってねーだろうが(笑)
多くの人は、玄関をキィ……っと開けて見てくるババアの方が恐怖かもしれないが、俺はあまりそれは気にならなかった。「音」の方がずっと気になるのだ!
これじゃあ、世にも奇妙な物語にあった、音が気になって、最後は無音を求めてマンションのベランダから飛び降りる狂人のストーリーと一緒だな。やっぱり呪われてんのかなぁ、と思う。いつもいつも引越しが成功しない。神は俺のこの現状を知っているはず。いつも見ているはず。なのにどうして俺にこんなことを。神は俺になんの体験を与えようとしているのか? 俺がこんなに困って、こんなに最高の物件を欲していることを知っているはずなのに、どうしてこのような仕打ちをするのか、俺を試している? 俺の信仰心を。
環境? 物や環境や、あるいは人間を選び好みせず、今、自分の目の前にある環境を受け入れなさい。今あるもので満足しなさい、今あるものから喜びを見出しなさい、そう言ってる? 愛にしろ、恋にしろ、人間にしろ、能力にしろ、マンションにしろ、今あるもので満足しろ、今あるものから楽しみや喜びを見出せって言ってる? ぜんぜん理想通りにならねぇ。ぜんぶ、環境の後手、後手。環境に振り回されてばかり。これがダメだからこっちをこうしてって、後処理で間に合わせてばかり。間に合ってねーけどな。間に合わねーだろこんなの、こんなうるさい機械、俺にどうやって間に合わせろっていうんだよ。今すぐハンマーでぶっ壊したいけど、そうすっと住人が全員水飲めなくて死ぬんだろ? 別に死んだっていいんだけど。新幹線だって俺にどうしろっていうんだよ。間に合わせられるわけーねーだろーが。新幹線は間に合う乗り物なんだから。どうにもならない環境ばっかよこしやがって。こうやっているうちに金も時間も失われていく。なんの意味があるんだ? バカじゃねーか。
人や物や環境や食べ物や、外部のものに対して完璧を求めるのはやめなさいと言ってるのか? 完璧って、そんな難しいこと注文してねーじゃねーか! ふつうの、ふつーーーーーーーーーの家に住ませろって言ってんだよ! 誰だって住んでる普通の奴が暮らしてる普通の家だよ。環境? なんで俺が環境に甘んじなきゃなんねーんだよ。なんの抵抗も摩擦もない、大通りを一人するする流しそうめんにみたいに歩く人生にしたいって言ってんだよバカが。面倒くせーもんは全部排除してーって言ってんだよ、こっちは忙しいんだよ、広い大通りを一人するする歩くのに忙しいんだよバカが。
普通に静かに住むだけじゃねーか。そのために引っ越してきたんだぞ? なんでそれができねーんだよ。それだけでいいって言ってんだろーが。なんで前情報が何もねーんだよ。苦情の一件も入ってなかったってこと? こんなにうるさくて一回も苦情がなかったってこと? 俺だけ神経過敏になってギャーギャー騒いでるって? んなわけねーだろーが、馬鹿どもが、てめーらはいーんだよ。てめーらはくだらねーTV見て、スルメだかイカだかしらねー変なもの口に入れてゲラゲラTV見てるだけだからいいだろうけど、俺は違うんだよ! 俺は大通りを一人するする歩くために毎日忙しいんだよ! 普通は新幹線の音で引っ越さねーだろ、でも俺は引っ越すんだよバカが! なのに、なんで、おかしいだろ。絶対におかしい、絶対に呪われてる。また引っ越しても同じなんだろ? 何度引っ越してもダメなんだろ? 何だ? 死ねって言ってんのか? 死んでやろうか? 今すぐこのうるせーマンションから飛び降りてやる。変な機械のドンって音と、俺の落ちるドンって音が重なって、誰も気づかねーだろうがな! 出前館でもまもなく事故するだろう。呪われているからな。
お前は不幸だ。お前の人生は呪われている。嫌われちんこの一生だ。一生そうやって頭を抱える人生にしてやる。お前が自殺するまで一生こういう目に合わせてやる。寿命がきても殺さないよ。200歳になっても殺さない。最後の最後までお前が耐えきれなくなって自殺するまで酷い目に合わせてやる。クックックックック……『ガコン、ガコン!』
引っ越し代に18万かかったな……。何度も何度も引越しさせてやる。お前が死ぬか貯金が尽きるかどっちが早いか、クックックックック……。何度も何度も引っ越しさせてやる。
ああ!アーーーーーー!!!!!!
イライラすると寿司買って食っちまうんだよ、バカが。
俺に面倒臭いことをさせるな。一つも許さない。
犬や猫や子供はこういう時文句言わねーもんなぁ、文句言うのはいつも大人だ。大人は心配事に忙しい、か。
デメリット④ 高速道路がうるさい
高速道路がうるさい。高速道路から200mくらいのところにこのマンションはある。新幹線の次は高速道路? バカじゃないの? なんで新幹線であんなに困ってたのに高速道路の近くに住むの? バカじゃん。もう、それは同情できないよ、と思うかもしれないが、俺もそう思う。
新幹線の次は高速道路? なんで同じ失敗してんの? そんなにお前バカだったの? さすがにそこまで頭が悪いんなら、もうそんなバカが書いたやつの文章読まないよ。高い金払って引っ越しているわけだからギャグってわけでもないだろうし。こっちだって自分よりずっと頭がバカな奴の文章読む時間なんてないんだから、もう読まないよって思うかもしれないが。俺もそう思う。
実際にこの物件を内見したときは、高速を走る車の音が全くしなかった。200m先に視覚できるだけで、一切音が鳴っていなかった。これは本当だ。これだけ離れていれば聞こえないものかと思った。しかし夜になるとみんなスピードを出すし、周りも寝静まるので、かなりうるさくなる。まぁ、これは窓を閉めればほとんど音はしなくなるのだが、夜、窓を開けていると ブオオオオオオーーーーーーン!!!!!と音が鳴る。
住んでみなきゃわかんねーもんかな? やっぱり住んでみなきゃわかんねーもんか。いや、住む前にわかるか。俺は、夜、冬だろうと、寒くても窓を開ける奇癖があるのだが、もうその楽しみも味わえなくってしまった。
デメリット⑤ このマンション自体がうるさい
このマンションは、鉄筋コンクリートと聞いていたが、俺が今まで住んできたマンションと比べても、建物自体の構造からしてこのマンションがいちばんうるさい。
俺はこれまで、軽量鉄骨、木造と住んできたが、今回がいちばん響く。「人の足音もしませんよ」って不動産屋は言ってたけどガンガン響く。下の階の歩く音、話し声、掃除機の音、バッチリ聞こえる。下の階の話し声が、会話の内容まで聞き取れるくらい明瞭に聞こえるし、TVの音も普通に聞こえてくる。俺は、これまでいろんなマンションに住んできたけれども、掃除機の音が聞こえたことなんてなかった。まるで目の前で吸い上げられているかのように聞こえる。一見堅牢な作りに見えるけれども、壁を叩くと石膏ボードのような感触だし、床を歩いている時も、下の階に響いてるということが感触でわかる。
やっぱり安いってそういうことか。63平米で40000円だからな。いやしかし、ファミリー用物件だろ? ガキが騒いでも平気なように作られてんじゃねーのかよ。
デメリット⑥ 机
さて、少し話は変わるが、実は、いちばん精神的にきつかったのが、180cmの机、だ。
まだ買ったばかりで、3万円したのだが、これくらい一人で担ぎ出せるだろうと思って、自分で運び出したら、あちこちぶつけて傷をつけてしまった。あまりにも重たくて、死ぬほど重たくて、それでも無理に車のところまで運び出したため、途中で何度も重さに耐えきれず、ドスンとおろしてしまい、その衝撃で縁がボロボロになってしまった。
せめてダンボールで梱包すれば良かったのだが、サイズ的に入るダンボールなどなく、発泡スチロールだけの簡易梱包で済ませてしまった。大人しく業者に任せておけばよかった。
車の中に入れようとしても、どうやっても入らなかった。トランクを開けた瞬間、あ、これ無理なやつかも、と思った。それでも俺は熱心にグイグイ入れた。でもやっぱり入らなかった。俺は「チキしょおおおおおおおおおお!!!!!!!! うわあああああああああああああああーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」と、つい叫んでしまった。
車の中ではよくこうやって一人で奇声を上げているが、車の外でやるのは初めてだった。椅子の動画の時とよく似ていた状況だ。
さいきん叫ぶのが癖になってきている。年を取ると感情が漏れやすくなるのか、「うわああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」と叫んでしまうことが増えてきている。神は俺をこういう気持ちにさせて、乗り越えようとさせているのか。
先にメジャーで計れよwって思うかもしれない。見りゃりゃわかるだろwと思うかもしれない。仕事でもよくこういうミスをした。俺の人生はこんなことばっかだ。こういうのをADHDというのかもしれないが、こういうミスばかりすると、ADHDとか発達障害とか、自分をそうとしか思えず、自分に失望せずにはいられなくなることはあるかもしれない。
とても大切に使っていた机だ。使用する分には問題ないと言え、やっぱり買ったばかりだし、へこんでしまった。物に執着するようじゃまだまだか。おニューの机が傷ついてしまうほどショックなことはない。俺は机や椅子にはとてもこだわるタイプの人間だから、とても苦しかった。
デメリット⑦ 駐車場を横に停めているバカ
このマンションを契約する際に、駐車場についての注意点を聞かされていた。
「駐車場のスペースがですね、二つあるのですけれども、本来縦に停めて使うスペースなのですが、横に停めて一つ分として使っている方がいまして、その方にですね、『縦に停めて一つ分として使うように』と、管理会社がその旨を伝えようと電話をかけているのですけれども、一向につながらなくて。留守にしているのかわかりませんが、繋がらないのですよ。おそらく出張か何かで留守にしているのだと思いますが、連絡がつきさえすれば、普通に駐車して頂けると思います。その方と連絡がつくまでは、ちんこ様にはマンションから離れた空き地に止めてもらう形になります」
と伝えられて、俺は最初は言っている意味がよくわからなかった。連絡がつけば普通に近くに止められるようになるし、連絡なんてすぐにつくだろうし、俺は車を使うことなんて週に一回あるかどうかだから、別にいいやと思っていた。
実際に住んでみて、ベランダから駐車場を見たら、言っている意味がよくわかった。駐車スペース二つ分を一つ分として使っている車があった。白線の区切りを無視して、ほんらい縦に停めて使うものを、横にして使っている。おそらく切り返しが面倒臭いから、駐車場に入った瞬間にゴール♪ってな感じで、そのまま停めてしまうんだろう。
入り口近くに位置しているから、そのまま走っている流れの感覚のままゴールしたいんだと思う。
いや、ゴールしたいからって……。
善人で世間知らずの俺は言っている意味がわからなかった。まさか二つ分の駐車スペースを一つに占領して使うバカがいるとは、そんなバカがこの世にいるとは想像できなかったのだ。
この車は、朝8時前になるといなくなり、夜21時ごろになると戻ってくる。
普通に出勤して普通に戻ってきてるやんけ。
何が出張だよ。普通に住んでるじゃねーか。連絡がつかねーって、てめーらから電話来てるのわかってるけど居留守使われてんだよ。ずっと横に停めるつもりだから無視してんだよ。こういうときこそNHKみたいに強引に踏み込むべきだろーが。
なんでこんなに人に迷惑かけて平気なんだ? 何だ? こいつが駐車場2つ分使っている限り、俺はこいつのせいで一生近くの駐車場に車を止められないのか? 200m離れた空き地に停めねばならんのか? ふだん車を使わないとはいえ、こういうことをされると腹が立ってくる。
デメリット⑧ クリーニングがひどい
これぐらいの汚れなら普通に磨けば取れるんじゃないの? と思って、磨いてみたら、
取れた。
デメリット⑨ 散歩ができない
実はと言うと、散歩ができないのがいちばん辛いかもしれない。ずっと座っていたって煮詰まるばかりだし、俺は一日に3時間か4時間ぐらい散歩をする奇癖があるのだけれども、この辺の土地は坂が多いし、高速道路の近くだし、歩いていたって何も楽しくない。焼津は平らな道がずっと続いていて、自然もそこそこあって、実に歩いていて楽しい街だった。背の高い木々に囲まれた公園でバットを振り回すこともできた。しかしこの辺りにそんな公園もない。
俺がもし瞬間移動できるとしたら、今すぐこういう場所に行って、永遠と何も考えずに歩き続けたいのだが。
焼津のマンションが一番良かった。引っ越しするたびに悪くなっていく。
デメリット⑩ 町内会
さて、それから二日後か。ゴミを出そうと思ってマンション近くのゴミ集積場まで行ったら、帰りにゴミ袋を持ったおばさんとすれ違った。
俺は直感的に、あーこいつが幽霊のババアだ、と思った。階段で覗き見されたときにちゃんと顔が見れたわけじゃないけど、多分そうだろうなと思った。
性格が悪そうなのが顔に出ていて、悪魔みたいな顔になっている。俺はどこの職場に行ってもこういうおばさんと出会ってしまうのだ。仕事だろうがバイトだろうが理学療法の実習先だろうとマンションの隣だろうが、必ず出会ってしまう。カルマだろう。俺がこの手のおばさんを乗り越えるまで、ずっとついて回るんだろう。
ババアは一切こちらに目を合わせず、そのまま通り過ぎようとした。俺は会釈して「おはようございます」と言った。すると、ババアはそのままいったん通り過ぎたが、くるりと振り返って、「おはようございます」とロボットのようなカタコトの声で言った。そのまま通り過ぎる気でいたから、準備不足のなか間に合わせるような、ぎこちない、機械のカタコトのような声だった。
「お隣に引っ越してきた方よね?」とババアは言った。今度は自然な声だった。
「はい」と俺は答えた。
「ここ、ゴミを出すにはね、町内会に入らないとダメらしいのよ」
「町内会」
また金がかかるのか?
「そう。掃除当番や、地域の行事の参加とか、お祭りの準備とかもあるみたいで、ウチも最近引っ越したばかりだから詳しいことはわからないんだけどね」
「皆さん入られてるんですか?」
「2階の若い人たちは入ってないみたい」
「じゃあゴミどうしてるんでしょう」
「みんな会社に持っていって、そこで捨ててるみたいなの」
「そこまでして……」
会社がない俺はどうしたらいいのか。出前館の仕事で、配って回るか。
ババアは明るいところで会うと普通のおばさんだった。ちょっと小太りで、髪が長くて縮れていて、一度話すと止まらない、相手が俺で申し訳なかったくらいの井戸端会議が大好きそうな女性だった。
「町内会の組長さんに聞いてみるといいかもしれないよ。あとで電話番号書いて渡してあげる。このあと、家に居る?」
「ああ、ええと、ちょっと出かける予定があって」
「じゃあメモをポストに入れておげばいい?」
「あ、いや、すいません! 何から何まで!」
それから、一応ということで、ババアは組長の家まで案内してくれた。 若者とババアがこうして道端で話しているのは珍しいのか、近所のババアたちが俺たちの邂逅を興味深そうに見ていた。
「あの、一つお伺いしたいのですが、ずっと水道水が流れているような、ザーザーって音聞こえますよね? それから、ガコンガコンというような、襖を蹴るような音が聞こえるんですけど」
「ね〜〜! うるさいわよねぇ〜〜! 寝れないよねぇ〜!」
「ですよね! うるさいですよね! あれ、絶対おかしいですよね! 誰も言わないんでしょうか?」
「うーん、多分あれは水道タンクなんだろうけど、うちの主人が言うには、普通は水道タンクっていうのは、マンションのいちばん上に置いてあるものらしいんだけど、ここは一番下に設置してあるでしょ。だから、下から上に組み上げる為の加圧的なポンプが稼働しているからじゃないかって言ってるんだけど」
主人? 主人がいるのか。
「なるほど。じゃあ、これは言ったところでどうにもならなさそうですね」
「ねぇ、新しい人が言ってくれれば違うと思うの」
俺はてっきりあなたが人を殺して、それをずっと洗っているのかと思ったが。
「11月4日に工事が入るらしいんだけど、その時に何とかならないかしらねぇ」
「それは静音目的の?」
「うーん、ただの点検みたいなんだけど」
「じゃあその点検工事の前に苦情を申し立てておけば、カバーをつけるなり、部品を交換するなり、静かにしてくれる工事をしてくれる可能性もあるかもしれませんね」
「うん、お願いできる? たぶんそれぞれ契約している管理会社が違うと思うから、私が言って、あなたが言って、みんなが言えば動いてくれるかもしれないのよ。新しく入って来た人が言ってくれれば違うと思うの」
「わかりました、言ってみます!」
「ごめんね。あの、ウチもチビ達がいるから、うるさかったら言ってね」
「い……! いえ!」
『掃除機かけるな』とは言えんしなぁ。
「いえいえ、私もバイクの稼働音とかでご迷惑をかけてしまうかもしれません」
「いいのよ! そんなの! そんなの気にしないで!」
ババアは窓の下にいるロミオに対して叫ぶジュリエットのように言った。熱がこもっていて顔を乗り出してきた。暴走族でもない原付バイクの稼働音ごときで心配する俺に心を打たれたようだった。
「これから、よろしくお願いします」
と俺は笑顔で会釈して、ババアと別れた。
やっぱり挨拶って大事だな。若者は挨拶しないから、初めは俺のことを無視して通り過ぎようとしたけど、挨拶することによって仲良くすることができた。情報も得られた。
メリット① 5G
スマホが5Gになっているのを初めてみた。高速道路に近いから5Gエリアなのか、430MBという数字は初めて見た。