霊的修行 恋愛 コミュニケーション

税務署の女の子に壁ドンしてキスしても問題なかった1〜現実と超現実〜

大学一年生、19歳のとき、税務署でアルバイトしたことがあった。確定申告の書類、会場(体育館)のタッチパネル操作の案内、税務署内での事務仕事、多義に渡った。時給は850円だった。国税専門官という難しい資格を突破した職員たちにきっと多額の給料が支払れていただろうが、アルバイトにはずいぶんケチである。

2月、3月の期間限定のバイトで、主に大学生が占めていて、男女比は5:5くらいで、全部で20人くらいだった。

当時の小生はモテた。ひどく一匹狼を気取って、おしゃれには余念がなく、丸井で全身7万円くらいのコーデをして、白のコートに白のズボンを履いて、インナーに紫のロンTを着たりしていた。しかし、誰とも話さなかった。

税務署から体育館(そこで確定申告が行われる)に向かう途中、一人で小石を蹴っ飛ばして歩いていたら、体育館から戻ってきていた同じバイトの女の子の足元に小石がぶつかった。女の子はクスっと笑って「こんにちは」と小生に言った。あれはヤレた。

体育館に着いて、仕事が始まる前、タッチパネルの横に座って、ぼーっと仕事が始まるのを待っていたら、今度は別の女の子がやってきて、「◯◯ってどうやるんですか〜?」と聞いてきた。下を向いていて、小生の顔を見なかったけど、頬が赤らんでいた。簡単な内容だったから聞かなくてもわかるものだった。小生は教えると、彼女は「ありがとうございました」と言って戻っていった。あれもヤレた。

思えば、ぜんぶ付き合えたし、全部ヤレたと思う。

こんなこと、誰にでもあるだろう? こんなこと、人生でいくらでもあっただろう? はっきり言うが、これらは全部ヤレる。実証はまだだが、理論的にヤレるということはわかっている。こんなことを言っていると、よっぽど小生がかっこよくてモテたのか、自慢に聞こえるかもしれないけど、誰にでもこんなことはあると思う。それなりに身なりを整えて、ちゃんとやっていたら、これくらいのことは誰にでも起こり得るものだ。

なぜなら、恋愛とは男が追うものだと思われているようだが、実際は女が追っているからである。

今回はその話をする。

このように、税務署のバイトは女が10人くらいいたけど、そのうちの3名くらいが、小生に少し興味を持っているようだった。

ある日の昼休み、小生は休憩室でぼーっとしていた。休憩室は体育館内の一室にあり、バイト達が集まって支給されたお弁当を食べていた。みんなワイワイ話して、小生だけが一人仲間はずれになって、沈黙していた。

小生は最初はよく色んな人に話しかけられたけど、なぜか関係を白紙に戻す癖があり、いったん親密度が上がってもすぐに元に戻ってしまい、けっきょく誰とも関係が深まらなかった。

昼休みが終わり、もうすぐ仕事開始の時間になると、みんな休憩室から出ていった。さて、小生も出るかと思って立ち上がったら、一人の女の子がまだ残っていたようで、女の子が小走りでドアに駆けて行き、ニコッと笑いながら「どうぞー♪」と言って扉を開けてくれた。なぜ? どうして? ドアだったら小生だって開けられる。なぜ? こんな意味不明な不可解な行動を?

小生はスタスタと扉まで歩いて行き、軽く会釈をしてそのまま外へ出ていってしまった。

「……」

女の子は、さっきまで群れの中心でワイワイみんなと話していた活発な女の子だった。活発だけれども清楚で品があり、女子力を第一において、二番目に活発さをあげていたから、色気が失われていない、バランスの取れた子だった。

駒澤だか獨協あたりの学歴で、英文学部らしかった(すべて聞き耳を立てて聞いていた)税務署でアルバイトをするということもあり、居酒屋やパチンコでは品格が落ちると考えたのだろう。わざわざ850円の時給を取ったのは、そこにある。彼女は確かに税務署でのアルバイトで光りそうな、オタサーな姫的な感じがあった。

小生は会釈だけして出ていった。「ああ、どうも」と言おうとしたが、休憩中ずっと黙っていたので、うまい具合に言葉が出なかったのだ。

しかし、ただ親切に扉を開けてくれたのとは違う。男と女の機微。いや、機微というには狭小すぎる。弾んだ気持ちを、何の理由もなく、何の衒いもなく、ただ弾んだ気持ちを無目的に開いたのだ。それはその弾んだ気持ちがただ彼女を追い越して現れた現象としか言えない。それは、小生はわかっていたのだ。

彼女の全存在が小生に好意を訴えていることがわかった。わかったが、小生は外に出ていってしまった。あの時のことを思い出すと、寝るにも寝られず、ちんこを食いしばって寝るしかなくなる。彼女が何かしら、小生とコンタクトを取りたいと思っていたことは確かに感じ取れた。

おそらく女からのアプローチというものは、これ以上のものは望めないだろう。ここまでやったのだから、後はあなたがなんとかして、というやつだ。

小生はそのまま出ていった。それから二度と会話をすることはなかった。

その後、彼女はよくわからない変なデブの男とよく一緒に行動するようになり、他愛のない、漢字検定がどうとかいう話をしているのが聞こえたりした(小生はいつも聞き耳を立てていた)、デブと付き合ってたのかよくわからないが、いつもそのデブと一緒にいた。

小生は興味がなさそうに外に出ていってしまった為に、彼女の中では「終わった」と思われてしまったのだ。

あそこだ。

ああいうとき、扉をバンっとしめて、鍵をかけて、そのまま壁ドンをやればよかった。たぶんここまであからさまにアピールされたのであれば、キスまでしてもよかったかもしれない。今だったらキスするかもしれない。

扉をバンっと閉めて、向き合ったら、ぎょっとするだろう。え? なに? どういうこと? 扉を開けたのに閉められた? 

まずは会話から……、それでもいいが(それすら世の中の男はなかなかできなかったりするものだが)、あれは、壁ドンしてしまってよかったと思う。変に会話から入るより、壁ドンからいってしまった方がずっといい。

そうしたら、それは少女漫画の世界だ。扉の閉まる音ともに、一気に空気が壊れる。彼女も、そんな空気を体感したかったはずだ。まずは、会話して仲良くなる、それもいいが、一度も話したことのない男が急に扉をしめてきて、いきなり壁ドンしてくる。恋愛にはこれくらいのサプライズやドキドキが必要だ。

壁ドンして何が困る? 俺は何を失うというんだ? 「あの人、壁ドンしてきた!!」と噂されたからといって、なんだというのだ? それでリンチされるわけでもない。もともと浮いているんだ。彼女に彼氏がいたら困るかもしれない? 彼氏がいるんだったらニコニコしながらドアを開けんじゃねーよって話だが、女は彼氏がいてもそういうことをするから、困ったものである。

しかしだ、案外、輪の中で関係を築いていると、こっそりと彼氏がいるかどうか確認して、彼氏がいることがわかったら、男はもうその時点で何もしなくなってしまう。女はそうやって去られるが嫌だから、聞かれるまで彼氏がいるということを言わないのだ。あくまで、彼氏がいない女の子として見なされたいのだ。

と、なると、輪の中にいない小生は、彼女が彼氏いるかどうか知る由もないので、ぜんぜんアクティブに行動していいことになる。彼女達は、男の、そういった第一次的な感情がどこにあるのか気になっていて、その第一次的な感情でアプローチしてきてほしいと思っているのだ。しかし、男が第一次的感情でアプローチすることは、まずない。

彼女は確かに会話の中心にいた。みんなとよくくだらないことを話して笑っていた。そんな彼女に、一度も話したことのないやつが壁ドンしたら、みんなに会話の種にされてしまうかもしれない。小生はそれが恥ずかしかったのだと思う。

壁ドンしたらどうなっていただろう? 彼女はしばらくはそれを一人で反芻するが、黙ってられそうにない女の子だったから、すぐに誰かに話してしまうと思う。「え? 壁ドン? え!? 本当に? ウソ!!!」と、周りの女の子たちもびっくりだろう。「え? え? だって、一度も話したことないんでしょ? え?」となる。

もしかしたら、男にも話すかもしれない。男もびっくりするだろう。「いやー勇気あるなぁ」とか達観ぶって、批評家じみた態度をとり、小生の行いに対して好意的な批評をしたりして、自分はそういったことには寛容だよ、彼はなかなか面白いね、という態度をもってして、彼女の立場になり、彼女と共感しながら話して、彼女と付き合おうとするけど(つまり小生の行いを餌にして彼女と付き合おうとする!)、彼らは自分では絶対に壁ドンをやらない。上から小生を批評することで、壁ドンをやらなかった自分をなぜか優位にしてしまうという荒技をやろうとするのだ!

しかし、女はこの辺りはわかるもので、実際に肌を通して、眼前に迫ってきた光景を、いつまでも覚えている。やはり、少し興味があるなという男性に、まだ一度も話していないのに、急に壁ドンされたということになると、それがすべてを一掃させるほどの衝撃なのだ。

しかし、ここまで上下白の格好で、一匹狼のミステリアスを気取るのだったら、その空気のまま最後まで貫けばよかったのだと思うのだ。そういう男でも、いざ口を開くと、普通の男と変わらなくなり、もっと何かしてくれるのかと思ったら、しなしなした会話をし始めるもので、それが女の興味を失わせる。

ここらへんはまだ定かではないが、このとおり、壁ドンまではいいとして、壁ドンはまったく問題ないのだが、キスまでしてもいいのか? というところが問題である。壁ドンだけでも十分だと思われるのだが、目と目が合わさり、意識が通じ合った数秒があったとしても、身体と身体が触れ合ったという証拠、つまりキスがなければ、その数秒は本当にあったことなのかどうなのか、うやむやになってしまうことがあるのだ。

あれ? 確かにあの時、目と目が通じ合って、ある一定の恵まれたタイミングにしか出会えない、男と女の機微というもの立ち会った気がするけど、あれは気のせいだったのか? 気のせいではないにしても、気のせいにできてしまえるのである。しかし、キスをすれば、もう言い訳ができない。

扉を閉めて、壁に手をつき、目と目が通じあい、時が止まり、お互いの中でピンク色の空気が溢れ、そんな数秒があったとしても、キスがないと、それは本当に信じても良かった空間のなのか分からなくなってしまうところがある。

また、そこまで目と目が通じ合って、えも言われぬ、深い男女の機微が姿を現すとき、それは、互いが今までやったことがない未知もいいところである。しかし、未知だからこそ、黎明期だからこそ、輝きが宿るのだ。

「私は古典的なものを健全なものと、ロマン的なものを病的なものと呼ぼう。新しいものの大部分はロマン的だね。新しいためでなく弱々しく病的なためだ。古いものが古典的であるのは、古いからではなく、強く、元気で、快活で、健全だからだ。こういう特徴から、古典的なものとロマン的なものを区別したら分かりやすいだろう」ゲーテ

目と目が通じ合い、彼女の全存在が、小生の全存在が、呼応したのなら、やはりそこはキスをしなければいけなかったと思う。

女が何を考えているのか、すっかりわかれば、男は何千倍も大胆になるだろう。ピカソ

シュールレアリズムというものが、現実を、それも超現実をあらわすように、社会、定義、人間間の約束事、そちら側が正しい世界だと思って、我々は流されているが、何を隠そう! 我々が頭の中で思い描く世界の方が正しいのだ! 太陽を緑色で描く子供の絵の方が正しいということだ。

扉を開けただけなのに、壁ドンをされてキスまでされたら、それは少女漫画の世界だ。漫画もまた超現実、つまりシュールレアリズムであることに疑いはないだろう。

俺はあの時、周囲とはまったく話さないし、もしここで壁ドンをやったり、いや、そこまでしなくても、ちょっと口説きようなものなら、あいつ口説いてきたよと陰で話されることを恐れていたのだ。やはり、勇気である。他人の目を気にしている。単純にその空気の中にぶつかっていける勇気が欠けていた。中心力の修行が足りなかった。ハァァァァァーーーーーーッ!!!!!! 確かに、あそこには、飛び込める間があった。

仮に、「何するんですか!」とビンタされてもそれほど問題ではない。女も形式上、ビンタをしなければメンツが保たれないだけだ。彼女の求めているドキドキの上限で留まることは死を意味する。いつだって、もうひとつ上をいかなければならない。

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