失敗パターン
女「後藤さんにExcelの使い方を教えてもらったんですよ〜」
男「それはよかったね。後藤さんは本当にExcelに詳しいもんね」
女「表計算とか、関数とか、私なかなか覚えられなくて」
男「そうだね、僕もそうなんだ。あれは難しいよね」
女「ですよねー、本当に難しいですよね」
男「だね」
女「はい」
男「……」
女「……」
女「後藤さんって、なんであんなにExcel詳しいんですかね?」
男「うーん。そうだね、きっと、たくさん勉強したんだろうね」
女「ですよね〜」
男「……」
女「……」
女「私達も、もっと勉強しないと、ダメですよね!」
男「そうだね!」
女「……」
男「……」
成功パターン
女「後藤さんにExcelの使い方を教えてもらったんですよ〜」
男「どうせあいつはお前とやりたいだけだよ」
女「は?」
男「後藤は、お前とセックスしたいだけだよ」
女「急に何を言い出すんですか?」
男「後藤は、お前にExcelを教えている時、ずっとお前とセックスしたいと思っていた」
女「後藤さんはそんな人じゃないと思いますけど」
男「そんな人だよ。あいつ、マウス左クリックしているとき、お前の乳首左クリックしているように脳内変換してたもん。Excelのグラフの山をお前のおっぱいに見立ててたもん」
女「後藤さんは、私がExcelの使い方がわからないから、相談にのってくれてたんです。変なこと言わないでください」
男「後藤はExcelを教えながら、お前とセックスする妄想を横においていた。その二つの思考を同時に浮かばせながら、器用にお前にExcelを教えていたんだ」
女「あの、そういう考え方しかできないんですか?」
男「……」
女「そういう問題を持ち出す人って、私、ほんとうに最低だと思います。そんなだったら、世の中がぜんぶ、性みたいじゃないですか」
男「ぜんぶ性なんだって。ブスだろうが、ブスにExcelを教えるときですら、男はそいつとセックスする想像をしながらExcelを教えている」
女「だからなんだっていうんですか? 仮にそうだったとしても、それでも、誰かがExcelを教えないと仕事にならないじゃないですか! 私は同性の先輩にしかExcelを教えてもらえなくなっちゃいますよ!」
男「……」
女「私、後藤さんに、Excel教えてもらえてすごく嬉しかったのに。なんか、すごい嫌な気分……。私のことをとやかく言うのは構いませんが、後藤さんのことを悪くいうのはやめてもらえませんか?」
男「……」
女「「やる」とか「やらない」とか、ぜんぶそれで考えていたら、何もできなくなっちゃうじゃないですか!」
男「……」
女「そういうのは、そういう思考があったとしても、口に出してはいけなんです!」
男「そういう思考があったとしても? その口振りは、俺の言っている推論が成り立つかもしれないと白状しているような口振りだな。後藤にExcelを教えてもらっているとき、お前もセックスを意識していたって意味にも取れる」
女「違いますよ! そんなこと、あるわけないじゃないですか!」
男「まず、認めろ、逃げるな。お前は後藤にExcelを教えてもらっている時に、セックスを意識したのか、『はい』か『いいえ』で答えろ」
女「『いいえ』です! 『いいえ』に決まってるじゃないですか!」
男「……」
女「本当に、後藤さん、あんなに、自分の時間を削って、あんなに丁寧に教えてくれたっていうのに、すごく、嫌な気分です……。あの神聖な時間をぜんぶ汚されたような気がして、本当に、嫌な気分です」
男「そのわりには、ずいぶん楽しそうじゃん。本当に嫌だったら、『はぁ? 何いってんの?』と一蹴して、もうとっくに退散してしまっていておかしくないんだ。でも、お前は、ずいぶん長く俺と会話を続けている」
女「じゃあいいですよ! 帰りますよ!」
(女、走り出す)
(男、女の腕をガバっと捕まえる)
女「離してください! ちょっと離してください! イヤ! 痛い! 痛い!!」
男「そんなに強く掴んでねーよ」
女「大声出しますよ!!!!」
男「もう出してんじゃねーか」
女「誰か!! 誰か!!!!!!」
男「お前は逃げている」
女「触らないでッ!!」
男「……」
女「そんなに、そうやって、ぜんぶめちゃくちゃにして! 私達がもっていなければならない、もっていなければ成り立たない、このデリケートな部分を、ぜんぶ明け透けにしようとして、何がしたいんですか!? どうしたいっていうんですか!?」
男「別に後藤とセックスしろって言ってるわけじゃない。ただ、後藤はお前とセックスしたがっていると言ってるんだ」
女「だからなんだっていうんですか!? それを言ったからなんなんですか!? もう……やめてくださいよ! 後藤さんのこと、これまでと同じような目で見れなくなっちゃう……! 私と後藤さんの関係を壊さないでください!」
男「お前は嬉しがっている。自分が性の対象として槍玉にあげられていることについて、こうして議論されることに、お前は嬉しがっている」
女「だから、そういう、『やる』とか『やらない』とか! そういうの、バカバカしいし、疲れるんですよ! 証拠もないのに! そうやって!」
男「証拠?」
女「ぜんぶがぜんぶ、そういうところを丸裸にしてばかりいたら、うまくいかなくなっちゃいますよ!」
男「今、お前はイキイキしている。それが証拠だ」
女「怒ってるんですよ!」
男「お前は怒っていないよ。怒っているのではなく、こういう話を持ち出されたら、TPOとしてその態度を持ち出さなくてはならないだけだ」
女「怒ってるんですよ!!!」
男「お前は今、三つのメリットでイキイキしている。
1、後藤をかばえる
2、俺になら悪口を言える
3、本当はこの話をしたかった
この三つのメリットで、お前は今、イキイキしているんだ」
女「……」
男「お前だって、ずっと気になってたんだ。後藤が自分とセックスしたがってるのかどうかについて。でも誰も言ってくれない。後藤はExcelは教えてくれるけど、セックスをしたいのか教えてくれない。お前はExcelよりそれを教えてもらいたかったんだ。俺はサービス残業でお前に教えてやっているんだ。残業代をお前に請求したいくらいだ」
女「あの、最初から聞きたかったんですけど、なんであなたにそんなことがわかるんですか?」
男「同じ男だからだよ」
女「……」
男「『やる』とか『やらない』の話をふっかけられたら、お前は俺に毒づいていい権利を得ることができる。今、俺に毒づけることが楽しいだろう」
女「楽しくなんてありません! ぜんっぜん楽しくなんてないです!」
女「後藤さんの方が、あんたよりずっといい人だから!」
男「お前とやりたいからだよ」
女「お前って言うな!」
男「後藤はお前とやりたがっている」
女「だからそれを言うな!!」
男「ずっとお前らの会話を聞いていた。くだらなかった。正月にババアが餅をついてるのと同じ音に聞こえた。実にくだらない会話だった」
女「大事な! 大事な会話なんです! Excelを! 後藤さんは私にExcelを教えてくれたんです!」
男「くだらん会話だ。Excelも、お前も、ババアも、ババアの餅も、ぜんぶくだらない」
女「じゃあ、なにがくだるっていうんですか!!!!」
男「後藤はお前とやりたがっている」
女「それを言うな!!!!!」