午後4時ごろ。執筆を終えた小生はドトールから出て、横断歩道の前で止まっていると、急に一人の男に話しかけられた。
男「しまるこさんですか?」
しまるこ「?」
しまるこ「はい」
男「あの、いつもブログ読んでます」
しまるこ「え?」
男「こ、これを」
しまるこ「これは?」
男「ドトールのプリペイドカードです」
しまるこ「?」
小生はこのとき、自分のプリペイドカードをドトールに置き忘れてしまい、それを届けに来てくれたのかと思った。しかしすぐにそれは違うと思った。小生はスマホでアプリ決算をしているため、ドトールのカードなんて持ち歩いていないのだ。
男「ブログ頑張ってください、応援しております」
しまるこ「……」
しまるこ「え、ええーーーー!」
男「……」
しまるこ「いやはや、びっくりしました。こんなことは本当にあるんですね」
男「……」
しまるこ「それでしたら……ご飯でも一緒にどうですか?」
男「いいんですか!?」
男「で、では、支度して戻ってきます!」
と言って、彼はドトールに戻っていった。
しまるこ「……」
この男の姿には見覚えがあった。
先ほどまで、小生がドトールで執筆している間、目の前の席に座っていた男であった。ちょうどアクリル板を挟んだ目と鼻の先に座っていた男である。
見ない顔だなと思っていた。ドトールは基本的に、同じ時間に同じ人間しかやってこない。
男は首丈の長いバイカージャケットのような服を着ていて、それのジッパーを一番上まで閉めて口元がすっぽりジャケットに隠れるような着方をしていた。それに加え、うつむきながら座っていたので、余計に顔が埋まって見えた。マスクをしていたが、 顔が埋まっているのでマスクの意味がなさそうだった。
背もたれに深くもたれかかり、ケツが床から滑り落ちそうな姿勢で座っていて、態度のでかい指名手配犯にしか見えなかった。犯罪者の隠れ家にされるようじゃ、ドトールももう終わりだなと思っていた。
しまるこ「どちらからいらしたんですか?」
ファン「〇〇からです。ちょうど仕事で岐阜まで来たので、しまるこさんに会えると思って」
しまるこ「(笑)」
ファン「実は、3日前からこっちに滞在していて、昨日も一日中ドトールでしまるこさんを見ていたんですが、なかなか話しかけられなくて」
しまるこ「(笑)」
しまるこ「ということは、今日帰られるんですか?」
ファン「今日帰ります」
しまるこ「なるほど、それは大変ですね。かなり時間かかるでしょう。電車でこられたんですか?」
ファン「バイクで来ました。時間は、高速乗って3時間くらいですね」
しまるこ「(笑)」
ファン「いつもしまるこさんのブログを読んでいて、もう同じ記事を何万回と、毎日読んでます!」
しまるこ「それは(笑)」
ファン「しまるこさんがドトールで執筆していることはブログに書いてありましたし、向かいの建物の写真から、ここのドトールなんじゃないかなと思いまして」
しまるこ「まぁ、調べればすぐにわかることですからね」
ファン「はい、すごく簡単でした。アンチも、しまるこさんのところに来ようと思ったら簡単かもしれません」
しまるこ「簡単だと思いますよ」
ファン「すいません、ストーカーみたいで」
しまるこ「いいえ(笑)まぁ、もしアンチが刺しにきたとしても、その時はその時です。肥田先生も刺客に襲われたとき、気がついたら目の前に7人が倒れていて、弟子入りをせがまれたと言っているし、植芝盛平も、銃火器を持った警官隊が待ち伏せしている道を直感して、その道を避けて道場にたどり着いたといいますから。3日間もドトールでストーカーされていることに気づかない私が未熟なだけです」
小生はこのとき、ちらっと彼の顔を見たのだが、「そうですよね」という顔をしていたことが面白かった。
しまるこ「いつからいたんですか?」
ファン「朝の6時です」
しまるこ「……(笑)」
その日小生がドトールに訪れたのは朝9時だった。
しまるこ「なるほど、それは退屈でしたね」
ファン「やっぱり違いますね。凛としているというか、オーラがあると思いました」
しまるこ「(笑)」
ファン「タバコ吸われるんですか?」
しまるこ「(ぎく!)」
しまるこ「ははは、偉そうに上級ミリマリストとか言っておいて、タバコ吸ってたから変に思ったでしょう? 最近友達とキャッチボールしたんですが、その時友達のタバコを吸ってばかりいたら、やめられなくなってしまって。一箱買ってしまったら最後、それから数ヶ月買ってしまうようになって(笑)」
ファン「そうでしたか」
しまるこ「年はおいくつなんですか?」
ファン「23です」
しまるこ「23!?」
しまるこ「いやはや、こんな若い方に慕われていたとは」
ファン「若い女の子じゃなくてすいません」
しまるこ「私のブログで、面白かった記事とかあります?」
ファン「自分は食生活の記事と霊的修行の記事をよく読ませてもらってるんですが、やっぱり食生活の記事が好きですね」
しまるこ「うちのブログのアクセス数のほとんどが食生活の記事ですよ。ということは、ふだんから食生活に気をつけられているんですか?」
ファン「はい」
しまるこ「どんな食生活をされているんですか?」
ファン「ローフードですね」
しまるこ「ほう、完全に生食ですか?」
ファン「はい」
しまるこ「強者ですな」
しまるこ「いちばん好きな記事とか、あります?」
ファン「うーん……暴飲暴食の記事ですかね」
しまるこ「暴飲暴食の記事?(笑)」
しまるこ「あれはー(笑)ああいう記事は変に人を心配させたり、感傷的な気分にさせてしまうようですからね。読み手の食生活を発展させるものでもないし、自分としてはふざけて書いているつもりでも、やっぱり感傷を呼び起こすだけだから、ああいうのはもう書かないようにしようかなぁと思ってたんですよ。だから消そうかなと思ってたんですが」
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本当に食べ物がイライラする! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね! ぜったいに許さない! 死ね死ねぜったいに許さない殺してやる!ぜったいに復讐してやる!!
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ファン「え! それはいけませんよ! あの記事好きな人はたくさんいると思いますよ! 自分も生菜食生活をしているとき、ああいうふうになることがあって、すごく共感できるんです!」
しまるこ「ということは、まだ生菜食に完全移行はできていない感じですか?」
ファン「はい、基本的にはローフードなんですが、たまに加熱食を食べてしまいますね。自分も、しまるこさんみたいに、マックのポテト食べたくなっちゃうんですよ(笑)」
ファン「自分もしまるこさんと一緒で、ポテトのLを二つ注文するのも同じで、それをトレイの上にガーっと合体させるように降り注がせるのも一緒なんですよ(笑)」
しまるこ「下品な食い方ですなぁ(笑)食いしん坊のそれじゃないですか(笑)」
しまるこ「しかし、私はマックのポテトもいいんですが、あの、セブンの、『皮付きうま塩ポテト』わかりますか? あのセブンのポテトの歯ごたえと塩加減が絶妙で、暴飲暴食デーには欠かせないアイテムなんですよ」
ファン「わかります。セブンの、あのじゃがいもをそのまま揚げたような、すごくわかります。でも、あれ量が少ないんすよね」
しまるこ「そう、だから私は、あれを買うときは一度に4袋買うんです(笑)一つ160円なんですが、4つ買って一度に食べるので、一回で740円するんですよ(笑)」
ファン「自分も同じです(笑)自分は最近ピスタチオにはまっていて、ついピスタチオの踊り食いもしてしまうんです」
しまるこ「奇遇ですね。私も昨日ピスタチオを買ったばかりなんですよ」
しまるこ「完全生食にして、やり遂げたいことはあるんですか?」
ファン「自分は、やっぱり睡眠時間を減らしたいですね。一日中仕事ばかりしていて、週5日以上働いてまして、家に帰っても事務仕事がたくさん残っていて、そのために寝る時間を減らしたいって感じですね。生玄米生活をしていると、短眠で済むばかりじゃなくて、朝の目覚めも格段にいいですから」
しまるこ「ほう、熱心ですな」
しまるこ「ほう、山盛りポテトですか」
ファン「はい」
ガストにつくと、青年は山盛りポテトを注文した。小生はミックスサラダを注文した。
しまるこ「中には修行しにヒマラヤまで行くような人が、このブログにやってくるから驚かされます。私なんて部屋から一歩もでることなく、妄想を垂れ流しているに過ぎないのですが」
ファン「ヒマラヤ行きましたよ」
しまるこ「それはそれは。ヒマラヤまで行くような方を初めて見ました。23歳の若さで」
ファン「ヒマラヤ行ったのは、18か19の頃ですね」
しまるこ「何かわかりましたか?」
ファン「山の頂上まで登ったとき、神はいるんだと実感しました」
しまるこ「そうですか」
ファン「ふだん、こんな話はできないです(笑)誰も神や真理を求めようとはしないですもんね」
しまるこ「そうかもしれませんね」
ファン「こうして神について真剣に考える人間というのは、前世の行いで決まっているんですよね?」
しまるこ「神は誰の中にでもいると思いますし、そんなことはないとは思いますが」
ファン「えっ、だってしまるこさんがそう書いてありませんでしたっけ?」
しまるこ「あー、例の記事ですね。確かにパラマハンサ・ヨガナンダが言うには、神を見出そうとする人間は神の恩寵からきていると言っていますね。それはもう信じられないほどの多大なカルマが必要になると言っています。普通に生きていたら、確かに、どうしてこの気持ちが芽生えるのかわかりません。バカヴァッド・ギーターには、その人は前世のカルマによって、知れずとして、次の世で、まずはヨガの本を見る機会が訪れ、そこから神の探求が始まるとありますね。そうなると、やはり恩寵なのかもしれません」
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質問コーナー『自分で物事を考えない、自分の言葉で話さない人……しまるこさんはどうおもいますか? 』
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ファン「はい」
しまるこ「私もこうして神とか悟りとかいう言葉を、口元で響かせながら目の前の人に話すのは初めてです。いつも話してる友人にすら、こういった単語を発したことがありません。なんだか異音に響くというか、ケツが浮いたような気持ちになりますね」
ファン「ガストでは余計に異音に響くかもしれませんね」
ファン「しまるこさんは、どうやってその境地に登り詰めたんですか?」
しまるこ「(笑)」
しまるこ「境地も何もあったもんじゃないですが……(笑)、特別に何かやったというものはないです。そんなに熱心に瞑想を励んだわけでもないし、静かに過ごした時間は、人より多いのではないかと思うぐらいです」
ファン「普段はどうやって瞑想されてるんですか?」
しまるこ「瞑想は、やったりやらなかったりですよ。最長でも2時間以上できた試しがありません。瞑想はされてます?」
ファン「瞑想やろうとしているんですけど、やっていても、やり方がわからなくて、途中でやめてしまうんです」
しまるこ「ヒマラヤに行ったときは、師匠みたいな人にやり方を教わらなかったのですか?」
ファン「教わらなかったですね」
しまるこ「そうですか」
ファン「雑念妄念が浮かんできたときは、どうしてますか?」
しまるこ「そのまま眺めているようにしています。心はすべて消えるために浮かんでくるもので、それとひとつになってしまうと、消えるために生まれてきたものが、消えることができなくなってしまうようで、だから放っておくのがいいらしいですが、私も気づいたら、しょっちゅう心とひとつになってしまっていることがほとんどですよ」
ファン「そうですか」
しまるこ「〜らしいとか、〜と思う、とか、私もこんなふうに曖昧にしか話せませんが」
ファン「……」
しまるこ「……」
しまるこ「私は、あまり熱心に瞑想しているわけではないですが、主に肥田式の真似事をやっています。正中心のラインを整えて、ちょうど真ん中、自分の中にまっすぐな一本の線がまんなかに置かれるように、このラインを感じるようにします。そしてラインのいちばん下にある、重心がいちばん落ちるところ、いちばん低い部分ですね、自然にそこに気や重力や心が沈められそうな一点があるような気がします。そして、下腹部を突き出すようにすると、この一点に緊張が入るような気がします。そうやって、ひたすら一点を緊張させ続けている感じです。ドトールで座っているときや、スーパーで並んで立っているとき、あるいは朝起きて気合をいれるとき、ちょくちょくと、生活のちょっとしたときに、よく行っています」
ファン「はい」
しまるこ「まぁ、しかしゲン担ぎのようなものかもしれません。気持ちが晴れやかになったり、筋骨の結びつきがよくなったり、確かに雑念妄念が晴れる感じはあるのですが、肥田先生が言う即悟入・即パラダイスというような感覚は得られていません。これはやり方が正確じゃないからだと思います。しかし、今の私はこれしかないという、自分自身の核を光らせているような、今はこれがないと、やっていけないというほどです。今では、何をするにしても、すべてこの一点から発するようにしています」
ファン「はい」
しまるこ「まぁ、晴れやかになる〜とか、気がする〜とか、そんな曖昧なことしか言えません(笑)世間には肥田式を受け継いで、肥田式を公言して、継承者として謳っている派閥や道場のようなものがありますが、それらのブログや出版物を読んだところ、やはり、誰もその確実な一点を悟った人はいないようですね。私と同じように、なんとなく、下腹部の一点に気合を入れれば、気持ちがスカッとする、その域から出られないようです。私もそこで止まっているところです。例えば、肥田先生は宙に浮いたり、いろんな摩訶不思議な霊能力を駆使しましたが、彼らも私もできません。本当に一点が押さえられていたら、できると思いますから。しかし、それでもこの一点に魅せられるのは、魂のレベルで、それを求めずにいられない何かがあるのだと思います。私はどんな教えよりも、やはり肥田先生の書物に惹かれてしまいますね」
ファン「しまるこさんが読まれている肥田先生の本はこの本ですか?」
しまるこ「こ……、これは! どうしてこれを……?」
ファン「しまるこさんのブログを読んで買ったんですよ」
しまるこ「ほう、それは殊勝ですな」
しまるこ「この本は非常に硬質な文章ですし、テキスト量も凄まじく、かなり読みにくいですけど、肥田先生が晩年に完成させた本ですからね。この本に肥田式の全貌が載ってると思います。令和の23歳の若者に届いていることを知ったら、肥田先生もきっと喜ぶでしょう」
※
ファン「どうやったら文章がそんなにポンポン浮かぶんですか?」
しまるこ「普段からメモをとるようにしているからですよ。面白い発想は誰にでも浮かびます。でもそれをわざわざ文章に残そうだなんて普通は思わないから、宙に放散させてしまって残らないだけです。私と同じ程度の発想を、記録するかしないかの違いですよ」
しまるこ「宮崎駿が言っていましたが、机に向かったときは、すべてが終わったときらしいですね。アイデアやメモを貯めておいて、机に向かったときは、それを整理している時間。休憩所でタバコ吸っている時間に、自分は本当の仕事をしているんだ、というようなことを言っていました。ドトールではノートパソコンを開いて、メモを切り貼りしているだけです。私もこの方法を取るようになってから、ずいぶん捗るようになりました。調べたところ、多作と呼ばれる人は、多くがこの方法を採用しているようです。これは創作に限らず、どの仕事にも役立つ方法だと思いますよ」
ファン「はい」
ファン「水、取ってきますね」
しまるこ「どうも」