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39歳の体重100キロ、重度2型糖尿病、乳がんの女性と交際する45歳の会社の先輩

投稿日:2019-04-09 更新日:

45歳で出会い系をやっている春日部さん。

最近引退したイチローも45歳で、GACKTも45歳。45歳というのは一つの時代を築き上げて終わっていくには十分な年齢のようだ。

45歳の春日部さんは、俺の勧めでペアーズをやり出して、3ヶ月もしないうちに彼女ができてしまった。

4年やってもろくに彼女が出来ない俺の負け犬さには一笑を禁じ得ない。俺の方が若くてイケメンでギャグセンスもあるのにこのざまだ。恋愛はつくづくスペックで決まるものではないと思う。

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春日部さんの彼女は39歳の看護師で、とある介護施設に勤めている。彼女は、重度の2型糖尿病を患い、身長は160cmで体重は100キロ以上あるそうで、乳がんも併発しており、もうすぐ乳房の切除手術予定らしい。

付き合って1年経つらしい。春日部さんは風情のある旅館だったり、海岸線のドライブデートを提案するらしいが、彼女の方はラブホしか受け付けないという。

その体型を衆知に晒すのが嫌なのか、理由はよくわからないが、デートのほとんどはラブホテルで行われるらしい。ラブホテルの中でやることと言えば一つしかないが、話を聞くとどうやら普通のそれとは違かった。

ただひたすら二人で全裸で抱きついたまま1日を過ごすらしい。行為に及ぶことはなく、8時間も9時間も朝から夕方まで生まれたままの姿で抱き合っているらしい。まるでホテル内の置物になってしまったかのように、ずっと静止しているらしい。

ペアーズの女のプロフィールを見ていると、その多くに「一緒に添い寝したい」「寂しい夜は抱きついたまま眠りたい」「ハグされたい」といったハッシュタグが付いており、今を生きる女子達は老若問わず、男の皮膚を求めていることがわかる。日夜労働で消耗して、汗と涙とファンデーションが毛穴に染み込んで酸化した肌と心は、浅黒い男の腕の中に永遠の眠りを求める。

「こんな39歳の何重苦かもわからない、病気が服を着て歩いてるような女なんて捨てちゃっていいんだよ? 春日部君には春日部君の人生があるんだから、貴方の人生を歩いて……? 明日死ぬかもしれないような女と付き合っていても仕方ないでしょう? 春日部君……。素敵な思い出をありがとう……」と、毎回デートの終わりに言われるらしい。

春日部さんが彼女をお迎えに行って、デートが終わって家に帰ろうとすると、今度は彼女が春日部さんの家まで送ろうとするらしい。いくら止めても聞かず、必ず春日部さんの家まで付いてくるらしい。それを避けるために、デートは春日部さんが迎えに行くことはなく、彼女がいつも春日部さんの家に来るらしい。

春日部さんは非常に禿げていて、ほとんど波平と同じ髪型をしている。ハゲているだけでなく、ほとんどが白髪で、肌は酸化が著しく、ほうれい線は岩壁の窪みよりはっきり刻まれている。

見た目は60歳ぐらいに見える。いつも小学生が着るようなアジアン風の英字Tシャツを着ており、ゲームが大好きで、通勤中はドラクエ2のサントラを聴いている。しかし「黒い砂漠」などの最新モバイルゲームにも精通しており、最近では週に5日が休みという恵まれた環境を活かし、複雑でやり込みが強いられる「ガンダムオペレーション」というゲームをプレイしている。

バラエティー番組を録画するのが好きで、週末は撮り溜めておいた番組のCMをカットして一秒足りとも無駄のない完全無欠にして、それをブルーレイに焼いて棚に並べるのが好きらしい。日曜はその編集作業に丸一日かかるらしく、「あ〜わ行」まで均整がとれたDISC棚を眺めて過ごすのが楽しみらしい。

しかし、それを見返すことはないらしく、ただ完全無欠な様式美を誇ったブルーレイディスク棚を見ることだけに意欲が注がれている。さきほど、「春日部君には春日部君の人生があるんだから、しっかり歩いて」と言った彼女さんの、その春日部さんの「歩き」というやつは、これを指すのだろうか?

春日部さんは通所介護施設で機能訓練指導員をやっている。これは一体何の仕事かというと、マッサージ師みたいなものだ。

春日部さんは聡明で真面目で、他人よりも神の目を気にして生きている。いついかなる時も徳の道を外れず、俺が道端にタバコをポイ捨てすると、白い目で見てくる。

一日15人ぐらいマッサージをすることになるが、春日部さんは決して手を抜かない。「痛くないですか、大丈夫ですか?」と積極的に患者さんに声をかける。一つ触る度に一つ声をかける。額から汗が流れ出て、いつも服の上半分だけ濃いグレーになっている。まあ、その、俺はと言えば、「ずっと壁を見ている」「いつまでも同じ箇所を揉んでいる」「トイレに行ったまま戻ってこない」「トイレで出会い系をやってる」とクレームばかりで、春日部さんを見習いなさいとよく言われた。

春日部さんはなぜかわからないが、週に2日しか働かない人だった。

実家暮らしで趣味はゲームぐらいなので、金には困っている様子はなかった。たまに独りで2週間のイタリア旅行に行ってはお土産をくれたりもした。たとえ45歳でも、週に2日働くだけで生活できるんだと夢を見させてくれた。しかし、俺は現在週に1回しか働いていないので春日部さんに勝ってしまった。

「どうして週に2日しか働かないんですか?」と聞いたら、「起業の準備中」と春日部さんは言った。25歳からマッサージ師をやっていると言ってたから、もう20年準備していることになる。まだ準備はかかるんだろうか? 週に5日休むのも、DVDを棚に入れるのも、ガンダムオペレーションも、準備に関係あるのだろうか?

春日部さんは最新のゲームから古いものまで広範囲に取り扱っているので、起業のための準備や勉強の時間は、毎日ほんの少ししか取れなかったのだろうか?

さて俺は、45歳の春日部さんと39歳の彼女さんの恋愛をどう思ったか。

重度2型糖尿病。乳がん。体重100キロ。袋麺カルボナーラも作れない。デートは全てラブホで上に乗っかられる。家まで送り届けたのに自分の家まで付いてくる。毎回デートの終わりに、「今までありがとう、さようなら」と泣きながら言われる。これから入院して集中治療予定。抗がん剤やらで相当な費用がかかる。貯金なし。

春日部さんも不良債権だと言っていた。「本当にデカイからキングボンビーみたいだよ?」と笑いながら言うので俺も笑ってしまった。ゲームが好きな春日部さんらしい表現でおもしろかった。

「彼女のことは好きだと思う。一緒にいてこれほど居心地がいい人はいない。あまりにもデカイから、少し痩せてくれない? と言っちゃったことがあるけど。だいぶ泣かれたよ。もう二度と体型の話はしないと決めた。好きとか愛してるかとかよくわからないけど、とにかく一緒にいて居心地がいいよ。居心地がいいから一緒にいるんだと思う。俺も45歳でこんなのだから、他に相手なんて出来そうにないし。妥協と言えば妥協だと思う。うん……。妥協かな。妥協……」

春日部さんは駅のホームで遠くを見つめながら、消え入りそうな声で、その言葉を繰り返した。

「彼女はこれから闘病生活に入るから、この先も付き合っていくか別れるか、もう決めなきゃいけない。今は彼女といるのが心地いいから一緒にいる。でもこれからも一緒にいるということは自動的に結婚を意味するんだと思う。もう、ただ一緒にいることはできない。週2日だけ働くというわけにいかない。迷ってるんだよなぁ……。こういうことは迷って当然なのか、迷うくらいならするべきじゃないのか、それすらもわからないよ」

正直に言おう。まさかこんな不良債権にここまで真剣に考える人がいることに驚いてしまった。世界の創造主。「無」なる黒い影が、指揮棒を振って、二人の音律を整えている映像が浮かんだ。どんな人にでも拾ってくれる人がいるもんだ。

俺だったら答えははっきりしている。そもそも一番始めの、アプリで見た時点で、高速で指でスクロールしている。

「妥協……」と春日部さんは消え入るように言ったけど、45歳になってハゲ散らかして、どんなに女に相手にされなかったとしても、ここまで妥協する必要はない。ペアーズには、あと数段階上がいる。

俺はこの問題を考えたとき、ある一つの思案が離れなかった。

2人が「1年以上一緒にいる」ということだ。

正直、この彼女さんと1年以上一緒にいられることはすごいことだ。ここに答えがあるような気がする。二人は週に2回会うらしい。彼女さんが週に1回では寂しいと言って聞かず、春日部さんの貴重なガンダムオペレーションの時間を奪ってまで引き下がらないらしい。1年間、週に2回会っていた。普通は2回も会えないと思う。

「週休5日の毎週GWがなくなっちゃうじゃん」「ガンダムオペレーションもうできないじゃん」「何重苦?」「生きるか死ぬかもわからない人じゃん」「子供できるの? 逆にできちゃったらもっと深刻になるんじゃない?」「体重100キロなんて、普通かんばってもそこまで太れないよ」

春日部さんの友人達はみんな揃ってこう言ったらしい。

俺も春日部さんの友人達の意見に賛成だが、果たして友人達は、春日部さんが彼女と週2回の逢瀬を1年以上続けたということを、真剣に考えただろうか?

拷問でしかないこの凶行を、春日部さんは望んでやったのだ。妥協とか居心地がいいとか、相反する感情を引き連れて、1年過ごしたのだ。

起動に20分かかり、ウイルスまみれで赤と緑の警告表示でいっぱいの、クリックしても次の表示まで2分かかるパソコンを使っている人を見ると、壊してあげたくなるのとよく似ている。

春日部さんはモテる。出会い系では全然らしいが、職場ではその勤勉な仕事ぶりや、全身から愛のオーラが溢れていて、誰もが春日部さんといると幸せになり、長く話していたくなる。

20歳の介護職の女の子や、35歳のキャバ嬢くずれや、50歳のパートのおばさん達も、そして男職員も、みんな春日部さんが好きだ。とくに20歳の介護職の女の子は、本気で春日部さんに恋していて、春日部さんが来ない日は(ほとんど来ない日なのだが)、今日は何の楽しみのない一日が決定したという表情をしてから仕事に向かう。

俺は、春日部さんがなぜこの20歳の子と付き合わないのか不思議だった。この子は仕事もできないし可愛くもないし金もなさそうだけど、一応若くて何一つ病気のない身体をしている。

この子は、若くてカッコよくてスタイリッシュで、今売られている1番高価なスマホを持っている俺に対しては無関心で、俺と二人きりになると、すぐに部屋から飛び出していってしまうのに、ハゲ散らかした春日部さんにいつもべったりだった。

俺は未だに春日部さんの気持ちがわからない。そのままゲームしてればいいのに。45歳になったら、俺も……? うーん。

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