★個人的によく書けた記事★ 恋愛 理学療法「独立開業・副業・仕事体験記」

39歳の体重100キロ、重度2型糖尿病、乳がんの女性と交際する45歳の会社の先輩

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45歳で出会い系をやっている春日部さん。

最近引退したイチローも45歳で、GACKTも45歳だ。45歳というのは一つの時代を築き上げて終わっていくには十分な哀愁漂う年でもあるようだ。

45歳の春日部さんは、俺の勧めでペアーズをやり出して、3ヶ月もしないうちに彼女ができてしまった。

4年やってもろくに彼女が出来ない俺の負け犬加減には一笑を禁じ得ない。俺の方が若くてイケメンでギャグセンスもあるのにこのざまだ。恋愛はつくづくスペックで決まるものではないと思う。

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春日部さんの彼女は39歳の看護師で、とある介護施設に勤めている。彼女は、重度の2型糖尿病を患い、身長は定かではないが体重は100キロ以上あるそうで、乳がんも併発しており、もうすぐ乳房の切除手術予定らしい。

春日部さんが彼女にカルボナーラを作ってもらった時、そのカルボナーラをフォークで絡めて口に持っていこうとしたら、全ての麺が一つの惑星のように持ち上がってしまったらしい。麺が固まっていて、まるで餅やセンベイのように、元々そういう食べ物ですと言わんばかりに切り離すのが不可能だったらしい。料理なんてしたことない俺でも、分離したカルボナーラぐらい作れそうだけどなぁ、と春日部さんは笑いながら言った。

 

付き合って1年経つらしい。春日部さんは45歳らしく、風情のある旅館だったり、海岸線のドライブを提案するらしいが、彼女の方はラブホしか受け付けないという。

その体型を衆知に晒すのが嫌なのか、理由はよくわからないが、デートのほとんどはラブホテル内で行われるらしい。ラブホテルの中でやることと言えば一つしかないが、話を聞くとどうやら普通のそれとは違かった。

ただひたすら二人で全裸で抱きついたまま1日を過ごすらしい。行為に及ぶことはなく、8時間も9時間も朝から夕方まで生まれたままの姿で抱き合っているらしい。まるでホテル内の家具にでもなってしまったかのように、ずっと静止しているらしい。

 

ペアーズの女のプロフィールを見ていると、「一緒に添い寝したい」「寂しい夜は抱きついたまま眠りたい」「ハグされたい」といったハッシュタグのようなものが付いており、今を生きる女子達の多くが、老若問わず、男の皮膚を求めていることがわかる。日夜労働で消耗して、汗と涙とファンデーションが毛穴に染み込んで酸化した肌と心は、浅黒い男の腕の中に永遠の眠りを求める。

 

「こんな39歳の何重苦かもわからない、病気が服を着て歩いてるような女なんて捨てちゃっていいんだよ? 春日部君には春日部君の人生があるんだから、貴方の人生を歩いて……? 明日死ぬかもしれないような女と付き合っていても仕方ないでしょう? 春日部君……。素敵な思い出をありがとう……」と、毎回デートの終わりに言われるらしい。

春日部さんが彼女をお迎えに行って、デートが終わって家に帰ろうとすると、今度は彼女が春日部さんの家まで送ろうとしてしまうらしい。いくら止めようとしても聞かず、必ず春日部さんの家まで付いてきてしまうらしい。それを避けるために、デートは春日部さんが迎えに行くことはなく、彼女がいつも春日部さんの家に来るらしい(しかし春日部さんは実家暮らしなので家には入らない。すぐに2人でラブホへ直行する)。

 

春日部さんは非常に禿げていて、45歳にも関わらずほとんど波平と同じ髪型をしている。ハゲているだけではなく、半分以上が白髪で、肌は酸化が著しく、ほうれい線は岩壁の窪みよりはっきり刻まれている。

見た目は60歳ぐらいに見える。いつも小学生が着るようなアジアン風の英文字Tシャツを着ており、ゲームが大好きで、とくにドラクエ2が大好きで、通勤中はドラクエ2のサントラを必ず聴いている。しかし「黒い砂漠」などの最新モバイルゲームにも精通しており、最近では週に5日が休みという恵まれた環境を活かし、複雑でやり込みが強いられる「ガンダムオペレーション」というゲームをYouTubeで勉強しながらプレイしている。

バラエティー番組を録画するのが好きで、週末は撮り溜めておいた番組のCMをカットして一秒足りとも無駄のない完全無欠にして、それをブルーレイに焼いて棚に並べるのが好きらしい。日曜はその編集作業に丸一日かかるらしく、「あ縲怩寘s」まで均整がとれたDISC棚を眺めて過ごすのが楽しみらしい。

しかし、それを見返すことはほとんどないらしく、ただ完全無欠な様式美を誇ったブルーレイディスク棚を見ることだけに時間と意欲が注がれている。さきほど、「春日部君には春日部君の人生があるんだから、しっかり歩いて」と言った彼女さんのセリフを紹介したが、その、春日部さんの歩きというやつは、これを指すのかもしれない。

 

春日部さんは通所介護施設で機能訓練指導員をやっている。これは一体何の仕事かというと、ほとんどマッサージ師のようなものだ。

春日部さんは聡明で真面目で、他人よりも神の目を気にして生きている。いついかなる時も徳の道を外れず、俺が道端にタバコをポイ捨てすると、白い目で見てくる。

一日15人ぐらいマッサージをすることになるが、春日部さんは決して手を抜かない。「痛くないですか、大丈夫ですか?」と積極的に患者さんに声をかける。一つ触る度に一つ声をかける。額から汗が流れ出て、いつも服の上半分だけ色が違っている。別に紹介する必要はないのだが、筆者である拙者はというと、「ずっと壁を見ている」「同じ箇所をずっと揉んだままボーッとしている」「トイレに行ったまま戻ってこない」「トイレでペアーズをやっている」とクレームばかりで、春日部さんを見習おうとよく思った。

 

春日部さんは何故かわからないが、週に2日しか働かない人だった。

実家暮らしで趣味はゲームぐらいなので、金には困っている様子はなかった。たまに独りで2週間のイタリア旅行に行ってはお土産をくれたりもした。45歳でも実家暮らしで結婚する気がないのであれば、週に2日働くだけで生活できるんだと夢を見させてくれた。俺は現在週に1回しか働いていないので春日部さんに勝ってしまったが、発端は、春日部さんに影響されているところがあるように思う。

「どうして週に2日しか働かないんですか?」と聞いたら、「起業の準備中」と春日部さんは言った。25歳くらいからマッサージ師をやっていると言っていたから、もう20年近く準備していることになる。

春日部さんが話すことと言えば、ほとんどゲームのことばかりで、最新のゲームから古いものまで広範囲に取り扱っているので、起業のための準備や勉強の時間は毎日1分程度しか取れなかったと考えられる。

 

さて俺は、45歳の春日部さんと39歳の彼女さんの恋愛をどう思ったか。

 

重度2型糖尿病。乳がん。体重100キロ。袋麺型カルボナーラしか作れない。デートは全てラブホで上に乗っかられる。家まで送り届けると自分の家まで付いてくる。毎回デートの終わりに、今までありがとう、さようならと優しく涙目で言われる。退職して入院して集中治療予定。抗がん剤の服用やら相当な費用がかかると予想。結婚。子供。

 

春日部さん自身も不良債権だと言っていた。「本当にデカイからキングボンビーみたいだよ?」と笑いながら言うので俺も笑った。ゲームが好きな春日部さんらしい例えだ。

「彼女のことは好きだと思う。一緒にいてこれほど居心地がいい人はいない。あまりにもデカイから、少し痩せてくれないかと言ってしまったことがある。だいぶ泣かれたよ。もう二度と彼女の前で体型の問題を口にしないと決めた。好きとか愛してるかとかよくわからないけど、とにかく一緒にいて居心地がいい。居心地がいいから一緒にいるんだと思う。俺も45歳でこんなのだから、他に相手なんて出来そうにないし。妥協と言えば妥協だと思う。うん……。妥協だね。妥協……」

春日部さんは駅のホームで遠くを見つめながら、何度か消え入りそうな声で、その言葉を繰り返した。

「彼女はこれから闘病生活に入るから、この先も付き合っていくのか別れるか、ここらで決めなきゃいけない。今は彼女といるのが心地いいから一緒にいる。でもこれからも一緒にいるということは自動的に結婚するということになるんだと思う。もう、ただ一緒にいることはできない。もう、週2日だけ働くというわけにいかない。迷ってるんだよなぁ……。こういうことは迷って当然なのか、迷うくらいならするべきじゃないのか、それすらもわからなくなってくる」

 

正直に言おう。まさかこんな不良債権にここまで真剣に考える人がいるとは驚いてしまった。世界の創造主、「無」なる黒い大きな影が、指揮棒を振って男と女という音律を整えている姿が浮かんだ。どんな人でも拾い上げてくれる人がいるものだ。

俺だったら答えははっきりしている。そもそも一番始めの時点の、アプリで彼女さんのプロフィールが目に入るか入らぬかという間もなく高速で指でスクロールしてしまう。

「妥協……」と春日部さんは消え入るように言ったけど、45歳になってハゲ散らかして、どんなに女に相手にされなかったとしても、ここまで妥協する必要はないのだ。ペアーズには、あと3段階まともな人がいる。

 

俺はこの問題を考えたとき、ある一つの思案が離れなかった。

2人が「1年以上一緒にいる」ということだ。

正直、この彼女さんと1年以上一緒に過ごせることはすごいことだ。ここに答えがあるような気がする。彼等はなんと週に2回会うらしい。彼女さんが週に1回では寂しいと言い出して聞かず、春日部さんの貴重なガンダムオペレーションの時間を奪ってまでも引き下がらないらしい。1年間、週に2回会っていた。これは、よほど本心からお互いが好きではないと為し得ないことだと思うのだが、どうだろうか?

 

「週に5日休みという夢の生活がなくなるよ」「ガンダムオペレーションもうできないよ」「何重苦? 重症患者だけはやめた方がいい」「生きるか死ぬかもわからない人じゃん」「子供もできるかわからない。逆にできてしまったらもっと深刻になるんじゃない?」「体重100キロなんて尋常じゃない。どんなに頑張っても普通はそこまで太れない」

春日部さんの友人達はみんな揃ってこんなことを言ったらしい。

 

俺も春日部さんの友人方の意見に賛成だが、果たして友人方は、春日部さんが彼女と週に2回の逢瀬を1年以上続けたという事実を、砕いて考えてみたのだろうか?

誰にとっても拷問でしかあり得ないこの凶行を、春日部さんは自ら望んでやったのだ。妥協とか居心地がいいとか、相反する感情を戦わせながらも、結局は1年を過ごしたのだ。私達は、起動に20分かかり、ウイルスまみれで赤と緑の警告表示がいっぱいで画面がろくに見れず、クリックしても次の表示まで2分かかるパソコンを使っている人を見ると、壊してあげたくてしかたなくなるけど、それをなんとも思わず、更にまだ10年使う人がいるのだ。

 

春日部さんはなぜかモテる、なぜかと言ったら失礼だけどモテる。出会い系では全然らしいが、職場ではその勤勉な仕事ぶりや、人間全体から愛のオーラが溢れていて、誰もが彼に接すると幸せになり、長く話していたくなる。

20歳の介護職の女の子や、35歳のキャバ嬢くずれや、50歳のパートのおばさん達も、そして男職員も、みんな春日部さんが好きなのである。とくに20歳の介護職の女の子は、本気で春日部さんに恋をしていて、春日部さんが来ない日は(ほとんど来ない日なのだが)、今日は何の楽しみのない一日が決定したという表情をしてから仕事に向かう。

俺は、春日部さんが何故この子と付き合わないのか不思議だった。この女の子は仕事もできないし可愛くもないし金もなさそうだけど、一応若くて細くて何一つ病気のない身体をしている。

この子は、若くてカッコよくてスタイリッシュで、今売られている1番高価なスマホを持っている俺に対しては無関心であり、俺と二人きりになると、まるで火事でも起きたかのように部屋から飛び出していってしまう。ハゲ散らかした春日部さんにいつもべったりで、俺はいつも男としての差を感じさせられた。

 

さて、この切ないノンフィクションのラブストーリーに、劣等男性種の俺が最終的な答えを出そうと思う。

 

「運動させましょう。食事制限させましょう」

 

体重100キロというのは、やはりタダごとじゃない。明日死んでもおかしくない。今現在の健康状態の彼女との交際で悩むということは、もし彼女が病気ではなかったら悩みはないということだ。もし彼女さんの体重が65キロになったら、今の迷える愛は完全無欠の愛へと昇華するだろう。まるで春日部さんの部屋に飾られたブルーレイのように。

彼女さんにとっても春日部さんにとっても、それが最上だろう。

ある日、春日部さんが「ほんの少しでも運動してみない? 自分は健康指導なら仕事でやってるから、上手くやれると思うよ。一緒に走ろう。なんなら歩くことから始めよう。食事はニンジンを……」と言い出すと、「そんなに痩せてる子が好きなら、そっちと付き合えばいいじゃない!!」と、慟哭して飛び出してしまったらしい。

今まで何度か喧嘩はあったが、どうもこのときの様子だけは勝手が違かったらしく、春日部さんが震えてしまうほど、怖ろしい形相と金切り声で泣き荒んだらしい。春日部さんは、これ以降二度と彼女の体型について何か言うのはやめようと誓ったらしい。

 

だから、俺の最終的な答えというやつは、却下されてしまったことになる。やはり劣等男性種の俺だから、何をやってもダメなんだろう。昔、漫画家になろうと頑張ったけど、こんな絵しか描けない。f:id:simaruko:20190409134246j:image

 

そう。機会はいくらでもあった。39年間生きてきて、100キロなのだ。普通はここまで太れない。普通ではないのだ。もう、ホルモンとか、内分泌系とか、内科学的な問題で、俺や春日部さんがやっているニワカダイエットは糞の役にも立たないのかもしれない。

39年間為せなかったことを、この劣等男性種の俺が覆せるはずがない。

ほんの少しだけでも食事や運動だったり、何かできることはないだろうか? 我々は体重100キロの人を見ると、簡単に痩せられるようにしか見えないけど、やはり内分泌系の問題なのか……? ふーむ……。俺はなぜこんなにしつこく考えてしまうのか自分でもわからないほど考えた。

問題は彼女の心が折れてしまっていることだ。少し折れ曲がっている程度ではなく、折りたたみケータイのように重なって一つになっている。生きるか死ぬかの問題でもある。というか、もう死にそうである。セカチューと変わらない。

 

さて……。

これが、この長い記事の終わりだけど、残念な終わりになって申し訳ない。

 

心が折れた人間に対しては、どう考えてみても、どうもできそうになかった。しょうがないので、俺より優等遺伝種の友達(医者の息子)に電話してみたところ、「これから入院するんでしょ? 入院したら自堕落な生活も解消されるだろうし、制限食になるし、リハビリで無理やり運動させられると思うから、変わってくるんじゃない?」と言われた。さすが優性男性遺伝種だと思った。

退院後の生活は分からないけど、入院中はとりあえず安心かもしれない。少し痩せて健康に目覚めてくると彼女さんの中で新しい何かが生まれるかもしれない。それが退院後も継続して響いてくれるかもしれない。退院後も通所リハビリをすることになるかもしれない。

彼女さんのような人は、家族や友人、恋人が何を言ってもダメなのかもしれない。親しい人だと怒りをぶつけやすいせいか逆上してしまう。だから医者の言うことしか聞けないんじゃないだろうか。

 

とりあえず今日のところはそういうことにしようと安堵して、電話を切った。

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