会長「今日はみなさん、ようこそお集まりくださいました」
会長「みなさん、いかにも独身といった風体で、独身が板についていらっしゃるご様子ですね」
会長「今日はみなさんの独身パワーをこれまで以上に発揮して、ぜひ独身の素晴らしさを分かち合ってください」
独身たち「ウオオオオーーーーーーーーーー!!」
独身たち「がんばるぞーーーーーーーーーーーーー!!」
※
森「もし。見ない顔ですね。ここにくるのは初めてですか?」
まゆみ「はい。友人に誘われて」
まゆみ「ここは一体なんなんですか?」
森「ここは独身の憩いの場ですよ。独身の独身による独身のためのユートピアです」
森「昨今では独身も市民権を得てきたとはいえ、まだまだ世間の風当たりは強いですからね。そんな世間の独身の悪口から逃避して、独身の素晴らしさを味わい尽くそうという場です」
まゆみ「そうなんですか、不思議な場所もあるのですね」
森「申し遅れました。森と申します」
まゆみ「まゆみです」
森「まゆみさん、あちらの席をご覧下さい」
年収300万の男「本当は俺と結婚したいんだろッ!」
冬村夏子「あんたなんかと結婚したくないわよ!」
協会員「冬村さん。あなたはこの年収300万の男と結婚したいのですか?」
冬村夏子「したくありません! わたし、この年収300万の男と結婚なんてしたくありません!」
協会員「しかし、この男が独身生活を満喫し、あなたに見向きもしないでいることに、あなたは腹を立てているではありませんか!」
冬村夏子「それは……」
協会員「この男が独身生活を満喫したって、あなたには関係ないじゃないですか。どうして腹を立てるのですか?」
冬村夏子「わかりません! 見向きもされないと、逆に結婚したくなってしまうっていうか……」
年収300万の男「ニヤ」
冬村夏子「あ、ほら笑った! 協会員さん、この顔です! この顔が気に入らないのです!」
森「このような心を抱えた独身男女が、同じ空の下で生きていると思うと末恐ろしいですね」
まゆみ「⋯⋯」
森「まゆみさんも独身でありながら、独身の異性を見るとムカつくでしょう?」
まゆみ「えっ」
森「既婚者を見るともっとムカつくでしょう?」
まゆみ「そんな」
森「一説では、独身は独身の異性を見ると、自分の結婚相手になって当然と思ってしまうとか。そこにすべての原因があるように思いますな」
まゆみ「そ……そんなことは……」
会長「結婚することが女性にとって唯一の解放ですからな」
森「会長」
会長「同じ独身でも、女性の方がデメリットが多い。出産の件もあるし、いつも小綺麗にして女子力を撒き散らしていなければならない。同じ独身でも女性の方が可哀想な目で見られ、同じ年齢でも女性の方が生き遅れと見なされる」
会長「女性は結婚によってはじめて解放されるんですな。それまでは無酸素状態で正常な思考もままならない。独身男を見ると、同じ海で溺死させたくなるんですな。先の女性が年収300万の男と結婚したくなってしまうのは、結婚の労苦をきゃつに味わせたくなるからです」
まゆみ「……」
会長「こんな切羽詰まった思いでいるのに男はのんきでいる。そうなると、女性はどうすると思いますか?」
まゆみ「えっと、自分磨きをがんばる⋯⋯ですか?」
会長「違います。別の男と結婚するのです」
まゆみ「別の男……?」
会長「あちらにいる女性をご覧なさい」
秋村春子「……」
会長「あの女性も以前に、さきの年収300万の男と激しい言い争いをしたのですが、彼を見返すために別の男と結婚して、今日ここにやってきたのです。すでに妊娠しているとか」
まゆみ「すごい! 大逆転勝利ですね!」
森「……」
会長「ところでまゆみ殿は、ずいぶん肌ツヤがいいですな。何か特別な独身術をされているのですかな?」
まゆみ「あ、私はヴィーガンっていうか、マンションのベランダでプランター栽培などをしたり、大根の葉を水につけておいて、そこから育った葉を食べているんですよ」
会長「ほう! それは良質な乳液が出そうですな!」
副会長「胎児を身篭っている間に、肉や魚、ジャンクばかり食べていると、乳液も悪質なものになってしまうんです。それを摂取した赤ちゃんも、悪い子供に育ってしまうんですよ」
まゆみ「えっ、そうなんですか?」
副会長「ええ、そもそも臭くてマズイから、飲みたがらない赤ちゃんも多いんです」
会長「まゆみ殿は、スーパーの野菜でなく、自分で育てているあたり、女性ならではの細やかさを感じさせますな」
森「きっと、まゆみさんの乳液はおいしいんだろうなぁ!」
まゆみ「そ、そんな、恥ずかしいです……」
秋村春子「やめてーーーーー!!」
秋村春子「それ以上いわないでーーーーーー!!」
まゆみ「さっきの女の人……」
年収300万の男「何度でもいってやる。お前のマズイ乳液で育った子供は、地球に災いをもたらすようになる。悪魔の子だ。俺への復讐心のために、金持ちだがジャンクフードばかり食べている男の子供を身ごもるからそういうことになるんだ。俺はこれから金持ちになる可能性はあるが、お前の子が悪魔の子から開放される術はない」
秋村春子「私だって今からヴィーガンになるもん!」
年収300万の男「無理だな。いくら畑をよくしても種が悪いんじゃな。ジャンクフードで汚染された種では、第三次世界大戦の果実が育つことになるだろう。だから俺と結婚しとけばよかったのに。俺がお前の子を命名してやるよ。秋村ヒトラーだ」
秋村春子「うあああああーーーーー!!」
秋村春子「死ねーーーーーーーーーー!!」
森「許せん! あの男! こらしめてやる!」
まゆみ「森さん……」
森「僕はね! ああいう男がいちばん許せないんですよ!」
『ピピピ!』
副会長「か、会長。計測器が、見たこともない数字を示しています!」
会長「むう、これは……!」
副会長「会長! 567! 567デシリットルを計測致しました!」
水龍マリゴス「なにぃぃぃぃィィィィィイーーーーーーーーーーーーーー!?」
右腕ドリル系女子「どうしたの!?」
カレー味のうんこ「567デシリットルらしいぞ!!!」
シングルマザー「567!?」
チンコオロギフィッシュ「ピピ! そんな数字見たことないでやんす!」
まゆみ「みなさん、いったい何を騒いでいるのですか?」
会長「こちらはですね、お互いの独身の相性を測る計器になるのですが、900年の協会設立以来、過去最大の数値を計測しました」
まゆみ「えっ……」
副会長「あなた方の独身としての相性がとてもいいということですよ」
会長「皆の衆! この二人こそ独身の鑑です! 彼らに盛大な拍手を!」
独身の家系を継ぐ独身「ウオオオぉぉぉぉーーーーーーー!!!!」
素手で会場の飯を食う男「パチパチパチパチパチパチ!」
毎日くる男「ビ・バ〜レ!」
うんこ味のカレー「パチパチパチパチパチパチ!」
トイレの後手を洗わない寿司職人「ヒューヒューーーーーーー!!」
『カーンカーンカーンカーン!』
婚姻届でケツを拭く男「いよっ! お熱いねー!」
結婚破壊マシーン21号「ヒューーーヒューーー!」
既婚者「おめでとうーーーーーー!!」
『カーンカーンカーンカーン!』
会長「おめでとうございます」
副会長「お二人とも、これからも素敵な独身を貫いていってくださいね」
年収300万の男「おめでとう!」
秋村春子「おめでとうーーーーーーー!!」
八百屋「おめでとうございます」
まゆみ「あ、ありがとうございます!」
森「ありがとうございます!」
※
まゆみ「あー楽しかった! ミチコに紹介してもらって不安だったけど、行ってよかった〜! 『独身協会』!」
ミチコ「でっしょ〜?」
まゆみ「世の中には色んな男性がいるんだね。でね! 森さんに、また『独身』について語り合いたいから、来週ご飯に行きませんかって誘われちゃった!」
ミチコ「えー、すごいじゃ〜ん!」
ミチコ「森さん、本当に素敵よねー」
まゆみ「ミチコは古い会員でしょ? 森さんの服装の好みとかしらない? 今日と同じ服で行くわけにもいかないしなぁ。カルバンクラインの新作のワンピ買っちゃおっかなぁ!」
ミチコ「いいじゃん。買っちゃいなよ」
まゆみ「あれ? ミチコもしかして、おしっこしてる?」
ミチコ「そうだけど、なんで?」
まゆみ「だって音が聞こえるから。ドアの開け閉めの音が聞こえてこないのに、おしっこの音だけ聞こえるから変だなーって思って」
ミチコ「ん? ドアの開け閉めなんてやってないよ。普通に開けたままおしっこしてる。その方が楽じゃん。独身なんだから当たり前でしょ?」
まゆみ「まぁ、そうだけど」
ミチコ「まゆみ」
まゆみ「ん?」
ミチコ「がんばれ!」
まゆみ「うん!」
※
まゆみ「森さん、ここのお店にしませんか?」
森「うーん、ここですか。まゆみさんの乳液のことを考えたら、このようなジャンクの店はやめておいた方がいいでしょう」
まゆみ「すいません、私の身体のことを心配してもらって」
森「ここはやめにして、コメダにしましょう」
まゆみ「コメダ……ですか? 私は27歳だからいいけど、森さんは35歳だから、コメダに入るのはちょっと格式が合わなくないですか? それに、コメダもジャンクだから、乳液に支障がでるような気がしますが」
森「コメダのサラダバゲットなら問題ありませんよ。コメダは一品辺りの量が多いから、二人で半分こして食べれば節約になります。まゆみさんは独身で養ってくれる人がいないんだから、お金を大事にしなければなりません。500円のサラダバゲットを二人で食べましょう!」
まゆみ「わかりました!」
※
まゆみ「わぁ〜〜! お台場! 素敵! 綺麗!」
森「まゆみさんの方が綺麗ですよ」
まゆみ「も〜〜! 森さんったら、それ誰にでもいってるんじゃないですか〜?」
森「そんなことないですよ」
森「今日のカルバンクラインのワンピースもすごく綺麗っていうか」
まゆみ「私じゃなくて、カルバンクラインのワンピースがいいんですよ」
森「でも寒くありませんか?」
まゆみ「そうですね、上着を羽織ることにします」
まゆみ「森さん、急にお台場に行こうだなんて、いったいどうしてですか?」
森「まゆみさんに話したいことがあって」
まゆみ「話?」
森「まゆみさん!」
まゆみ「はっ、はい」
森「まゆみさん」
まゆみ「はっはい!」
森「僕と……!」
まゆみ「……」
森「ぼ、僕と……!」
まゆみ「……」
森「独身してください!!!」
まゆみ「はい!!!」