ゆりあ「こんにちはーーー!」
店長「おー、ゆりちゃん。いらっしゃい。あっちにいっぱい溜まってるから、好きなだけ持ってっちゃってよ」
ゆりあ「ありがとうございます!」
ゆりあ「わ〜! 今日はすごい多いですね〜!」
店長「日曜だからね」
店長「ゆりちゃんいつも助かるよ。こっちはゴミ出しの手間も省けるし、食品達もこのまま廃棄されるより、どこかの誰かの胃に収まる方が喜ぶと思う」
ゆりあ「こちらこそ。仕入れ値0円で調達できるなんて、フランダースの犬くらい感動です」
店長「そっちの返却口にあるサンドも持ってっちゃってよ」
ゆりあ「わぁ〜! 食べかけホヤホヤ! いいんですか?」
店長「ゆりちゃん達に回収される方がサンドだって喜ぶさ」
ゆりあ「ではお言葉に甘えて」
ゆりあ「さぁみんな! 働くよ! ポリバケツに目いっぱい残飯を入れて、お店に持ち帰ろう!」
※
コンビニ班「コンビニ班戻りましたー!」
スーパー班「スーパー班も回収OKです!」
ラーメン班「老舗の職人の秘伝の残りスープ回収してきました!」
家庭ゴミ班「家庭ゴミも過程で苦労して腰がカテーけど、バッチリっす!」
ゆりあ「みんなお疲れ様! 10時の開店まであと2時間しかないから急いでやるよ!」
従業員たち「はい!」
スーパー班「これはまたすごいですね」
ゆりあ「お色直しでどれだけ変身できるか、私たちの腕にかかっているわ」
ラーメン班「社長、このラーメンを見てほしいのですが」
ゆりあ「使えそうね。麺は伸びちゃってるから硬度を取り戻すのは厳しいけど、スープはいけるかも」
コンビニ班「人によっては、人が食べたラーメンの残り汁を啜りたがる人もいるし、需要はあるかもしれないですね」
ゆりあ「……」
ゆりあ「……うん! おいしい! 冷めちゃってるけど、豚骨ベースが効いてる!」
ラーメン班「いけますかね?」
ゆりあ「煮沸消毒は忘れないようにね。煮沸したあとも味が落ちなければいいんだけど」
学校班「社長。ラーメンですが、こちらのパンと抱き合わせで販売するのはどうでしょうか? シチューにつけて食べるみたいな感じで」
ゆりあ「え! このパンどうしたの? ほとんど新品じゃない!」
学校班「今日は始業式だけだから給食はいらないのに、給食のおばさんたちが間違って作ってしまったそうです」
ゆりあ「これならいけるかも。ラーメンの具材はパンの中に詰めちゃいましょう。スープは摘出して、つけパンにする方向で。その方が見栄えがいいはず」
ラーメン班「麺も詰めちゃいます?」
ゆりあ「麺は……、どうしようかしらね。外側さえしっかりしていればなんとかなるとは思うんだけど」
盛り付け班「パンの中に伸びた麺が入っていたとしても、あんまり噛みごたえは気にならないとは思います。ラーメンだと気になるけど」
ゆりあ「具材の盛り付けさえ失敗しなければ大丈夫。素材同士が喧嘩しないように。そこだけは気をつけて」
従業員たち「はい!」
パズドラ班「じゃあポッキーもいれちゃいますね」
ゆりあ「待った! ポッキーはバラにして! パズドラみたいに無理に合成させなくていいから」
パズドラ班「はい」
コンビニ班「完成品よりも、バラの抱き合わせの方を好んで買ってくお客さんも多いですからね」
抱き合わせ班「ポッキーこっちちょーだーい!」
ゆりあ「計量いけるー?」
計量班「えっと、エビフライパン73グラム。ポッキー45グラム。よし、これでちょうど500グラムっと。計量OKです!」
抱き合わせ班「このエビフライ状態いいね。ほとんど新品なんだけど。エビフライ弁当を頼んでエビフライが食べられてないって、どういうこと?」
コンビニ班「買った人は何のために買ったんでしょうね?」
ラーメン班「一口だけ食べてみたかったとか?」
計量班「会話に夢中になってて食べるの忘れちゃったとか?」
家庭ゴミ班「いるよね〜! そういう人!」
計量班「新品がひとつ紛れているだけで、他の残飯が輝いて見えますね!」
パズドラ班「案外、飲食店よりも家庭ゴミの方が上質だったりしますね〜」
盛りつけ班「社長! 完成しました!」
学校班「おおーーーーーーー!!」
ゆりあ「いいじゃなーい! ばえてるばえてる! インスタで公開しちゃって!」
インスタ班「はい!」
計量班「信じられん。さっきまでゴミでしかないと思ってたのに、死に化粧とはまさにこのことか。我々はいったい何を見せられているのか」
学校班「死んだ鶏が不死鳥フェニックスになって蘇ったかのような神々しい輝き……」
家庭ゴミ班「一瞬でゴミ山が宝石に! 社長、我々はこの奇跡の瞬間に立ち会たことを誇りに思います!」
スーパー班「パズドラよりよっぽど生産性がありますな」
パズドラ班「パズドラをバカにするなーーーーーーーーー!」
盛り付け班「計量班のおかげですよ。クラシックの名曲たちを10曲以内に抑えたアルバムのごとく、うまくセレクトしてくれたおかげです」
※
ゆりあ「いらっしゃいませーーーーー!」
ゆりあ「全品100円です! 全品100円ですよーーーーーーーーー!!」
ゆりあ「抱き合わせ販売の方も、500グラム100円になっています!」
ゆりあ「ビュッフェ形式もやってます! こちらも500グラム100円ですーーーー!」
八百屋「ゆりあちゃん! 今日も繁盛してるね!」
ゆりあ「八百屋さん、いつもお世話になってます」
森「ゆりあちゃん! きょうのオススメはなに?」
ゆりあ「今日は『学校パンの具材たっぷり揚げパン』です!」
ボディソープ山崎「ラーメンの残り汁も始めたの? これ、いつのやつ?」
ゆりあ「ちゃんと煮沸消毒してありますのでご安心してお召し上がりになれますよ」
佐藤「ワンコインでこんなにたくさん食べれちゃうの? もうずっとここ通い詰めるしかないなぁ!」
森「おや初めての方ですかな? 私なんて毎日ここしか来ませんよ」
ゆりあ「独身の方ですと、自炊やお弁当を作るのも面倒くさがる方多いですからね〜」
ボディソープ山崎「一回外食すると500円は取られますからな〜」
小学生「わぁ〜! 色んなメニューがぜんぶ100円で売ってる〜! まるで食べ物屋の100均だぁ〜!」
ゆりあ「こんにちは! そうだよ〜! キャベツ太郎と同じ値段で食べれちゃうよ! フフ!」
健人「じぶん、食えりゃなんでもいいと思ってるんで、いつも助かってます」
ゆりあ「健人くんこんにちは! 勉強かんばってる? モリモリ食べて、たくさん勉強しなきゃダメよ!」
ゆりあ「今日は彼女連れてきてくれたの? かわいい〜!」
彼女「わたし可愛くないです」
健人「おい! なんだよその態度……! すいません、こいつゆりあさんに嫉妬してるんすよ」
彼女「すいません。これってぜんぶ人の食べかけなんですか? わたし潔癖症なんで、ちょっと厳しいんですけど」
ゆりあ「揚げパンにしてあるから大丈夫ですよ。人間が噛んだ時に入り込んだ細菌は高温で死滅してるはずです」
彼女「それなら、わたし買います!」
八百屋「本来は廃棄処分されるものが我々の胃液によって処分され、うんこになるという斬新的かつエコなビジネスモデルですな」
八百屋「私も昔やってみたことはあるのですが、浮浪者が食べ物漁りに来たと思われて、門前払いにされましたよ(笑)やはり、ゆりあさんのような若くて美人でないと難しいビジネスモデルかもしれませんな」
ゆりあ「やはり、皆さん残り物ってなると衛生面を気にされますが、油で揚げてるってなると途端に安心されるんですよね。みんな揚げ物が大好きだし。だからうちでは、すべての食品をフライヤーに入れてるんです」
ゆりあ「極端な話、フライヤーの中にゴミや埃を放り込んでも、細菌は死滅しますからね。そういう意味では他の飲食店よりも衛生面は優れているんです。油も100%植物性を使っています」
八百屋「しかしそれだと手間もかかるし、人件費や油代や、フライヤーの稼働代もかさむでしょう」
ゆりあ「残飯再利用という、地域のクリーン活動に貢献しているとされて、政府から補助金がおりてるんですよ。もちろん、当店の安全性が認められているからでありますが」
八百屋「ふむ、政府のお墨付きとなると信用度がぜんぜん変わってきますな。だから、これほど客足が多いというわけですか」
学校班「社長! 訪問いってきます!」
ゆりあ「はーい! お願いします!」
ボディソープ山崎「しかし、いくら一食100円とはいえ、3食食べれば300円でしょ? 月にすると9000円になっちゃうねぇ。オレ生保だから厳しいっす」
ゆりあ「それでしたら、こちらの月額定額5000円のサービスはどうですか? 今ならキャンペーンで入会費無料ですよ」
ボディソープ山崎「月額5000円!? それはありがたい!」
コンビニ班「お客様ー! 残された食べ物はこちらで回収させていただきますー!」
学校班「社長! 学校は今日は始業式だけで午後はお休みでした!」
※
ゆりあ「みんなお疲れ様」
盛り付け班「ふう。今日も無事におわりましたねー」
スーパー班「あのー、ところで社長は、どうしてこのビジネスを始められたんですか?」
インスタ班「あーそれ、私も聞きたーい!」
学校班「私もずっと聞きたいって思ってました!」
ゆりあ「えー? そんなこと聞いてどうするの?」
インスタ班「聞きたい聞きたいー!」
家庭ゴミ班「インスタ班は本当にそういう浮いた話が好きだよなー」
ゆりあ「クスッ。あれは私がむかし、飲食店で働いてた頃の話なんだけどね……」
※
優作「やだやだーーーー!! ジャーマンドック食べたいーーーーー!!」
母親「いいかげんにしなさい優作!! 人様の残り物でしょ!」
優作「なぁなぁお姉ちゃん! オラにそのジャーマンドックくれよ!」
ゆりあ「え?」
優作「だってそのジャーマンドック捨てちゃうんだろ! もったいねえよ!」
お母さん「あんた自分の分食べたでしょ!」
優作「捨てんならオラに食わしてけろ!」
母親「身体壊しちゃうでしょ! ジャーマンドックじゃなくて人間ドックが必要になっちゃうわよ!」
優作「壊さねーずら! オラ、天馬や義彦が給食残すとき、食べかけのやつぜんぶ食ってっけど、腹壊したことねーだ!」
ゆりあ「こちらの商品はお客様が対価を支払って得た権利となりますから……」
優作「じゃあさ、お姉ちゃん! オラが今から権利持ってるお客さんのところにいって、了承得てくるよ! その人がいいっていったらいいんだろ?」
ゆりあ「それは……」
母親「もうお店出ていっちゃったんじゃないの?」
優作「探してくる! 走れば追いつくはず!」
母親「優作!」
優作「許可がねーと、お姉ちゃんが店長さんに怒られるだろ? 捨てられた時点で、権利は反故にされちゃってると思うけど(お姉ちゃん、オラ食いしん坊だけど、反故っていう難しい言葉しってんだぜ?)、念には念をいれて、了解をとってきてあげるよ! オラ、お姉ちゃんのために走るんだ!」
優作「じゃあいってくる!」
ゆりあ「……」
ゆりあ「待って!」
ゆりあ「私が作ってあげる!」
優作「?」
ゆりあ「私が……キミが、残り物を食べたくなったとき、我慢して指を咥えることなく、権利者のお客さんに了解を得に行くことなく、私のために走りだすことなく、いつでも、いつでも、おいしい残り物をキミが食べられるように……! 私が、そんな場所を作ってあげる……!」
優作「お姉ちゃん⋯⋯」
※
ゆりあ「なーんていう、昔話でしたとさ」