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友人が、エロゲー会社に入りたいという理由で仕事を辞めることになった。

投稿日:2021-02-16 更新日:

友人が、エロゲー会社に入りたいという理由で仕事を辞めることになった。

名前は木村という。年は29歳。理学療法の専門学校時代の友人である。同じ学年だが、小生より6つ下である。

現在は理学療法士として病院に務めているが、奥さんに相談することなく辞表を提出してしまった。これから一ヶ月、引き継ぎの仕事を終えたら病院を去ることは確定している。木村には奥さんと子供二人がいる。

木村は学校時代から、物狂いのようにエロゲーをプレイしていた。

エロゲーといっても、ほとんどノベルゲームといった方がよく、エロさよりもテキストが醸し出すストーリーの世界を楽しむとされることが多い。

『CLANNAD』『マブラブオルタネイティヴ』『SHUFFLE』やらが木村は好きだったが、どれもテキストベースで作られている感動系の物語で、ゲーム性はほとんどなく、テキストを読んで楽しむものだ。ラノベに絵と音楽がついたようなものである。

小生は木村から何度もエロゲーを借りて、そのたびに木村がいない間に、教室の木村の机の上に置いて返すということをしていた。何度もキレられた。クラスの連中は机の上のエロゲーを発見すると、みんなで取り合ってキャッチボールして遊んでいた。女の子たちもパッケージの裏を食い入るように見て、キャッキャ騒いでいた。

木村とは卒業してからはしばらく疎遠だったが、さいきん電話がかかってきた。

木村「とにかくもう、今の仕事に耐えられないんですよ。本当に自分のやりたいことをやりたくて。もう理学療法士やりたくないんですよね。ずっと毎日おじいちゃんとおばあちゃんのリハビリやるの苦しいです」

しまるこ「その気持ちはわかるよ。死ぬほどつまらないからね。仕事を楽しそうにやる理学療法士は見たことがない。かといって、他の仕事をやるのも覚悟がいるね。資格はあると有利だというけど、資格は取ったら取ったで、もったいないから辞められないという悩みもついてくるね。3年かけて400万以上の学費をかけちゃったからね」

木村「自分に向いてないと思ってもなかなか辞められないっすね。向いてないのに、もったいないからっていう理由でしがみついている人間は何人も見てきました。俺もその一人ですが」

しまるこ「うん」

木村「結婚して、家族がいて、子供二人いたら、やっぱり夢は諦めなきゃいけないんですかね?」

しまるこ「実際問題、人は夢で食っていけないよ。夢の前に果たす義務があるからね。ホラティウスが『先に金を稼げ。徳はそのあと』という言葉を残しているけど、鴨頭さんも同じこといっていたね。『まずは金を稼ぎなさい』と。俺も今こうしてだらだら悠々自適な生活送れているのは、経済が安定しているからなんだよ。結婚していたら今の生活は無理。最低限の消費に、最低限の金を稼いで、なんとか人に迷惑をかけずに暮らせている」

木村「ですよね」

しまるこ「お前、エロゲー会社っていうけど、エロゲー会社はさぁ、先細りもいいところで、生き残ってる会社も極わずかじゃん。なんの実績もない、何も書いたこともない、なんの経験もない、趣味で創作ひとつしたことがない。すげぇなぁ、よくそれで思い切ったもんだなぁ」

木村「……」

しまるこ「エロゲーというか、パソコンゲームはそうなんだけど、割れ厨がいるからね。エロゲーは違法サイトで無料でダウンロードできちゃうからね。だいたいエロゲーをやる層は、金のない大学生やニートや若いサラリーマン、15~35歳くらいまでの市場だよね(18禁だけど)。みんな金がなくて無料で違法ダウンロードするから、エロゲー会社には一銭も入らない」

木村「そうですね」

しまるこ「エロゲー会社の募集要項見てると、経験者しか募集してないね。新人を育てる体力がないんだよ。次に売る商品が失敗したら会社潰れちゃうから、とてもじゃないけど新人にシナリオ書かせるような運任せはできない」

木村「即戦力を必要してる感じですね」

しまるこ「俺もageの作品は好きで、『君が望む永遠』や『マブラヴオルタネイティヴ』はずいぶんやり込んだけど、あんなにエロゲー史上最高の作品を送り出したメーカーでさえ、もう3年も新作が出てない。新作を作る体力がないんだろうね。ageですらほとんど潰れかけているから、他のエロゲー会社じゃどうなってるか。メーカーはそんななけなしの体力で一生懸命作っても、割れ厨がいるからね。どれだけ良いゲームを送り出したところで、ぜんぶ違法サイトでダウンロードされてしまう。エロゲーは買うものじゃなくて無料でダウンロードするものだと思ってる。金のない学生も割るけど、金がある奴も割る。そんな一回の失敗も許されない中で、一作一作が、会社の存続を左右する大事な局面で、一度もシナリオを書いたことがない人間にシナリオを任せられるはずがない」

木村「……」

しまるこ「自分で今まで一度も作ったことないのに、それどころかシナリオすら書いたこともないのに、雇ってくださいっていったって、雇ってくれるほど企業はお人好しでもないし、そもそも体力がないんだよ。俺も学生時代にシナリオ書いてメーカーに送ったことあるけど、ぜんぶダメだったね」

木村「確かにそうかもしれないですね」

しまるこ「そういうの調べた上でいってるのかと思った。何も調べてないんだ?」

木村「まぁ、ちょっとは調べましたけど、しまるこさんほど深くは調べてませんでしたね」

しまるこ「いや、俺だって、調べたわけじゃないよ(笑)予想や勘でいってるだけだよ」

木村「これって甘えなんですかねー、もう本当に限界ですよ。今めっちゃ死んだ顔で働いてるんすよ。このまま今の仕事続けるくらいだったら死んだ方がマシかなって、あと40年これが続くんだったら死んだ方がいいです。死ぬぐらいなら好きなことやった方がよくないと思いませんか?」

しまるこ「思うよ」

木村「……」

しまるこ「ゴーギャンは自分の夢を犠牲にすると、妻や子供まで犠牲にするといっていた。生活も味気を失い、家族のために仕方なく仕事しても、それを感謝されるどころかブツブツいわれ、俺はお前らのためにこうして自分を犠牲にしてやってるのに、と負の感情を抱えるようになる。そしてそれは家庭に蔓延する。仕事にやりがいを感じてキラキラしていないと、職場でも、家庭でも、嫌われるようになってしまう。だからゴーギャンは飛び出したみたいだけど」

木村「それすごいわかります」

しまるこ「自分で文章やシナリオやラノベでもいいし、エロゲーを作ってみることだよ。まあシナリオを企業に送ったら採用されることもあるかもしれないし、まずは書いて送ることだね。そんなにエロゲー作りたいなら、自分でエロゲー作ってネットで公開すればいいじゃん。YouTubeでアップしてれば、人気でてくるかもしれない」

木村「でも絵が描けないんですよね。シナリオしか書けなくて。シナリオだけのエロゲーじゃ誰も見てくれなくないですか?」

しまるこ「シナリオも書いたことないじゃん。絵は、フリー素材を用意するか、下手なりに自分で書くか、外注するか、いろいろ工夫するしかないね」

木村「フリー素材だとオリジナリティがでないし、俺は絵が下手すぎるし、金がなくて外注もできません」

しまるこ「そうか」

木村「YouTubeで発表し続けたとしても、金が入ってくるまで時間かかるじゃないですか、やっぱり家族がいるから金稼がなきゃいけないし、エロゲー会社は給料すくないだろうけど、一応15万くらいは入ってくると思うし、好きなことをやって、それくらい金が入ってくれば助かる感じなんですけど」

しまるこ「でも好きっていっても、シナリオ書いたことあるわけじゃないからなぁ。好きも何もないよ。エロゲー会社に入ればなんとかなるってもんでもない気がするけど」

木村「はあ」

しまるこ「週5は働きすぎだから、今の職場で週3で働かせてもらえるか相談してみたら? 週5じゃ先々の予定も立てられないかもね」

木村「週3日かぁ」

しまるこ「きつい?」

木村「うーん……」

しまるこ「じゃあ2日でいいんじゃない?」

木村「2日でやってけますかねぇ。家族用のデカいプリウス買っちゃったんですよ」

しまるこ「いくらしたの?」

木村「600万です」

しまるこ「600万か」

木村「はい」

しまるこ「奥さんは働いてくれそうなの?」

木村「今子供産んだばかりだからきついかもしれないです」

しまるこ「二人目の子供生まれたばかりなのに、何の相談もなく辞めたのか、やっぱすごいよお前」

木村「そうですか?」

しまるこ「うん、本当にすごいと思う」

木村「褒めてるんですか?」

しまるこ「お前と結婚した奥さんの方がすごいかもね。ただこれから作品作りに没頭したくてもさ、奥さんが子供の育児に集中することになるからずっと家にいるわけでしょ? 子供の泣き声や、上の子供もまだ2歳かそこらでしょ? そんなドタバタした環境の中で、エロゲー制作に集中できるの?」

木村「ですね」

しまるこ「週5できちんと働いている奴が、休日を利用して制作するんだとしたら何もいわれないかもしれないけど、週2日しか働かないやつが、金にもならないことに一生懸命になってたら、奥さんからしたら到底見過ごせるもんじゃないんじゃない?」

木村「ですね。仕事しないで家にはちょっといられないっすね。たぶん嫁の機嫌がめっちゃ悪くなるから、家にいられないです」

しまるこ「600万のプリウスかぁ。理学療法士の薄給で、子供二人作ろうと思うところがすごいなって思うけど。まあ、それはいいか。いろいろすべて、全体において、衝動的過ぎるよ。ずっと思ってたけど、奥さんに相談しないで辞めるとか、ホントはありえないから。奥さんより先に俺にいうことかよ」

木村「俺も29だから、チャレンジできるギリギリの年齢だと思うんですよね」

しまるこ「別に40でも50でも、チャレンジし続ければいいと思うけど、妻子がいるから自分の夢を追ってはいけないなんて道理もないと思うけど。お父さんが毎日つらそうな顔して、義務のために生きているお父さんの顔なんて、家族だって見たくないんだよ。誰かのために、自分を殺して生きなくてもいいと思うけど、………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………降参だわ。俺の負けだわ。なんていったらいいかわからない。俺には答えがでない」

木村「今だって、仕事から帰ってエロゲーやってると、めっちゃ嫌な顔されますからね。嫁もエロゲー好きなんですけどね。それ繋がりで仲良くなったし」

しまるこ「離婚は考えたの?」

木村「離婚したとしても、家族の生活費払い続けなきゃいけないじゃないですか。一緒にいても、別れても、同じくらい稼がなきゃならないんだったら離婚する必要もないかなっていうか」

しまるこ「なるほど」

木村「しまるこさんが俺だったらどうします?」

しまるこ「死ぬかな」

木村「えっ」

しまるこ「うそうそ」

木村「びっくりさせないでくださいよ」

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