仕事

才能ある人、才能ない人、中間層の人

投稿日:2021-02-10 更新日:

この前出会い系で会った女の子が、常に働いていなければ落ち着かないといっていた。正社員の仕事に加え、カフェで掛け持ちのバイトをしているという。平日は正社員の仕事を終えたら18時から22時までバイトをして、休日は丸一日バイトをしているという。21連勤中だといっていた。

金のためでなく、何もしない時間がもったいないらしい。このように、常に働いていないと気が済まない人がいる。

この女性は形而上学的世界にはまるで興味がなさそうで、世界の真理だとか、目に見えない幽玄微妙な精神の働きとか、センスとか、一切合切がなんなのか、そんなのはどうでもよさそうだった。これまでも考えてこなかったし、これからも考えることはなさそうだった。

会う、遊ぶ、買う、飲む、食べる、物質的なものがすべてで、目に見えている現象をそのまま処理するだけで一切が過ぎていく。

こういった生活を送ったとしても、本当の自分からは逃れられないもので、自分を捨てたとしても、自分の方が追いかけてくる。だからこういった女性は急に意味不明な寂しさに襲われたりもするもので、奥底にある本当の顔がひとりのときによく現れる。彼女が小生を迎えるために一人で運転してきたとき、般若のように恐ろしい顔をしていた。虚ろな目だった。

人間は一人で静かにしているときに本当の顔が現れる。多くの女性は、一人で街を歩いているとき、一人で誰かを待っているとき、運転しているとき、信号で左折するとき、今にも孤独に押し潰されそうな顔をする。孤独が板についていないからこういう顔になる。

この顔を見た男は、果たして今の顔とうまく付き合っていけるのかと不安になるだろう。実際に会って話してみると柔らかな顔を見せるので騙されてしまうが、紛れもなくこちらの顔が本体である。長く付き合ったり、結婚すれば、その顔が常時現れるようになってくる。

どうあがいても自分からは逃げられず、無視したところで邪魔をしてくるので、さっさと自分の方から自分に向かっていってケリを付けてしまった方がいい。そうすれば嘘と真実の間をいったりきたりしなくてもすむようになる。

働けば働くほど人はつまらなくなる。よく働く人で面白かった試しはない。自分から離れて外側と結びつけば結びつくほどつまらなくなっていく。

自己の内部に長く留まっている人間ほど面白い。ショーペンハウアーは、一日中本を読んでいる人間は他人の思考の足跡をなぞっているだけで自己の思考力は落ちていくといったが、それと同じで、外側のものと結びついていればいる分だけ自分を失っていく。

学生時代にはもうどちらの人間かというふるい分けは済まされており、授業をちゃんと受けられるかどうかでわかる。

大して成績が良いわけでなく、大学に進学するわけでもないのに、単に授業だからという理由だけで、ちゃんと先生の話を聞いて、ちゃんとノートを取る人間がいる。この手のタイプは骨の髄まで外側の事象と結びついてしまっている人間である。自ずと内側から溢れ出す才気の分量が少ないために世間の風習や環境に難なく順応できてしまう。だから社会に出てもよく仕事ができる人間である。しかし小論文の授業になると、あれだけよく動いていたペンが止まってしまう。思索側の人間のペンは反対に動き出すようになる。

友人に、大学に進学にする予定なのに授業中は一切ペンを取らず、塾に行ってもずっと窓の外を眺めてボーッとしていた男がいたが、彼はとても面白い人間だった。この手のタイプの人間は、外側から見ると何も動いていないように見えるが精神活動は活発である。だが、この手のタイプは思索に向きすぎているため、誰でもできるような一般的な仕事では役に立たないことが多い。

バルザックも法律事務所で働いていたときは、今日は仕事が多く忙しい日だから出勤しないでもらいたいと通達されていたという。

古代ギリシャ最高の詩人といわれたソポクレスは、兵役として招集された際は、船の上でボーッとしているだけで役に立たなかったという。

小説『罪と罰』の冒頭で、主人公のラスコーリニコフが宿舎の部屋でずっと寝転んで思索する描写が続くが、宿の女将が「あんたも仕事しなさいや」というと、ラスコリーニコフは「仕事ならしている」と答えた。「ははは! そうやって寝ているだけで一銭でも入れば仕事かもしれないがね!」と女将は笑ったが、ラスコリーニコフの知性は、そうやって寝転んで思索した累積によるものである。

そんなことを友達と話していたら、「自分は中間層の人間だと思う」と友達はいった。

「俺はソポクレス? みたいに凄いわけじゃないし、かといって職場で新人いじめしてるおばちゃんたちとも決定的に違うと思う。面白い人の言葉や笑いも理解できるけど、それを発信できるわけじゃない。でもやっぱりくだらないことでゲラゲラ笑ってるおばちゃんたちともやっぱり違う。ちょうどその中間層だと思うんだよね。中間層の人間はどうしたらいいんだろうね? ショーペンハウアーやお前の説でいくと、才気がある人ほど一般的な仕事がつらいんでしょ? まあ、そうかもね。おばちゃんより俺の方がぜったいつらいと思うわ。もう少し下位層よりだったら仕事も楽に感じるのかもね。どちらかに振り切ればよかったんだけど。上にしろ、下にしろ、ワンクラス足りなかったわ。今の仕事をし続けていく限り、人一倍ストレス受けるだけじゃん。上にも下にも逃げられない。中間層っていちばん不幸じゃね?」

小生は「ふーむ」と答えた。

友達はそういったけど、下位層より中間層の方がいいと思っていることは確かだった。そして自分のことを中間層ではなく上位層だと思っていることも確かだった。下位層の人は自分のことを中間層だと思っている。中間層の人は自分のことを上位層だと思っている。人はみんな自分の層をひとつ繰り上げて考えるのである。

小生は言った。

「この前ワンピースが1000話を達成したんだけど、これがびっくりするほど面白いんだよ。ワンピースはもう何度もピークを迎えたはずなのに、それでも何度も何度もピークを迎える。新しい島に行けば新しい冒険が待っているってすごいね。『海でいちばん自由な男が海賊王だ!』ってルフィがいってたけど、作者自身がいちばん自由に描いてる気がするわ。もしワンピースぐらいの作品が書けたら、他人のことなんて気にならないだろうし、不満も恨みも嫉妬もないだろうね。作品が自分を信じさせてくれる。作品が自分を信じさせてくれないから、中間層はいつもブツブツうるさいんだろう。ワンピースみたいな作品が作れたら、作品にまっすぐエネルギーが向かう。ワンピースこそエンターテインメントの鏡だね。俺からお前から女子高生から子供まで、日本中みんな続きを楽しみにしている。テキパキする人、思索する人、中間層の人、みんな楽しみに続きを待ってる。ああー! はやくワンピースの続きが読みてぇ〜! マジでジャンプに載ってる他の漫画がトランプの絵柄みたいにぜんぶ同じに見えるわ。あー、一週間も待てねーわ。もうワンピース見て寝るだけでいいわ。ワンピース見たら次週が出るまで寝る。また出たら読んでまた出るまで寝る。もうその繰り返しでいい」

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