理学療法「独立開業・副業・仕事体験記」

理学療法士とはどんな仕事か。仕事ができない人がやるべきか。

俺はデイサービスで理学療法士として働いている。大学卒業後に専門学校に入り直し、3年かけて免許を取得した。

仕事を時間単位でお話しする。

7時に起きて、7時10分には家を出ている。7時15分の電車に乗り、7時40分には会社に着いている。朝食は食べてないので支度が早い。

それから掃除をして、8時頃には送迎に出かける、戻ってくるのは9時頃だ。そこから、集まった利用者に対してリハビリをしていく。ほぼ高齢者しかいないので、リハビリといっても、みんなマッサージしてもらいたい人ばかりなので、あまり激しい運動はせず、ほとんどマッサージしている。肉体労働だ。午前中に5,6人やって(1人20分くらい)11時から12時まで休憩する。その間も昼飯は食べずに、ずっと休憩室で寝る。

12時になると、今いた午前の利用者を送り届けて、昼の利用者を迎えにいく。行って戻ってくるのに一時間半かかる。バンやセレナでの大型車での運転となる。

その後、13時30分には戻ってきて、またマッサージを行う。それは16時30分まで続く。午後は7,8人くらい行う。そして、また利用者を家に送り届ける。施設に帰ってくるのは18時前といった具合だ。運転ばっかりで、俺は1日に4時間ぐらい運転している。

そして18時からは、一般利用の、サラリーマンやOLなど、比較的若い人達を中心にマッサージを行う。介護保険適用外の人達のために提供する時間だ。また、事務仕事や雑務もこの時間にやる。デイサービスなので、飾り付けや、プレゼントやイベント等の企画の準備なども行う。何もしないで帰る場合もある。早ければ18時。遅ければ19時30分くらいに仕事が終わる。一般企業に比べれば早い方だと思う。

これが今現在の仕事の1日の流れだ。

別に可もなければ不可もない。淡々と流れるように生活している。

そんな風にして2年と半年が過ぎた。

 

 

 

 

辞めたい、とは毎日思っていた。特別イヤなことがあったわけでもないが、慢性的に辞めたいと思っていた。

まず、退屈すぎる。毎日毎日送迎してマッサージする日々というのは退屈だ。刺激が少なすぎる。日々マッサージの勉強をして、この手技を試してみようなどと向上心があれば楽しくなるかもしれない。周りにそういう人はいる。だが、俺はそこまで入り込めなかった。この2年半の間、ろくに勉強しなかったどころか、家で解剖学の本を開いた記憶が一度もない。筋肉を3Dで確認できるアプリを買ったが、2回しかやってない。

マッサージが嫌いなわけではない。むしろ、そこそこ気に入っている。前職は家電量販店でフレッツ光の案内やビラ配りをしていた。その前は印刷工場で延々と機械のオペレータや印刷物の仕分けをしていた。それらに比べればマッサージの方が楽だし、たまに閃きや発見を試すこともできて、面白いと思ったこともある。

少なくとも、マッサージしている時間は、俺がどんな風にマッサージしようが自由なのだ。痛いところを本気で取り除くのもいい。筋肉にアプローチするか、それとも関節か、ひたすら気持ちのいいマッサージにしてみようか、手を抜いて、頭の中で好きなことを考えながらマッサージするか、出会い系のことでも考えながらやるか、今日Amazonから届く、新しいタブレットに何のアプリをインストールさせるか、など、考えたいテーマを気が済むまで考えながらマッサージすることが許された。

つまり、よく手を抜いていた。

手を抜いても気がつかなそうなお婆ちゃんには、限りなく手を抜いた。ボケーっと壁を見つめながら、同じ箇所をずっと揉んでいた。気づけば陰部の近くをずっと揉んでいたらしい。マッサージが終わったあと、上司に呼び出された。「半目で遠くを見ながら、ずっと陰部を触られた」というクレームがあったことを告げられた。半目でぼーっとしながら、というのは、まるで、ババアの陰部を触って、興奮していると思われてもおかしくない内容だ。ババアに性的感情を持っていて、ババアにセクハラするためにこの仕事を選んだのでは? と疑われても仕方がない。このときばかりは驚いた。このお婆ちゃんはボケてるから大丈夫だろう、とナメていたら、痛目にあった。

そんなこんなで、自由に頭の中の活字を溢れさせるのが好きだった。しょっちゅう考え事ばかりしていた。昔、工場で働いていたときも、ずっと考え事をしながら手作業をしていた。それでよくミスしていた。最初、仲が良かった人にも、俺がミスしたりボケーっとしてばかりいるので、どんどん嫌われた。仕事での繋がりではなく、普通にどこかで出会って過ごしたら、良好な関係を築けたと思われる人達だった。

俺はこれでも人からは好かれる方だ。根っこが真面目で優しいし、俺をよく知る人間は俺を天使だと思っている。それでも仕事では嫌われてしまうことが多かった。

学校では人気者だった。中学、高校、大学、専門、全て人気者だった。特別に人気をとるために一生懸命になった覚えはない。むしろ、自分から媚びて話しかけるのは負けだと思っていたので、無口で無愛想で、一匹狼を貫いていたが、時間が経つと、勝手にどんどん好かれていった。

大学のときは半年、専門のときは1年半くらい友達がいない時期が続いたが、別に平気だった。これまでの経験から、勝手に友達は増えるだろうと思っていたし、このまま孤独でも、それでいいと思っていた。孤独でも、状況を僻むこともなく、クラスメイトに対する邪念はまったくなかった。いつも清々しい気分でいた。友達が全くいないのに、朝日を仰ぐような、とても気持ちのいい表情でのびのび校門を潜っていた。つまり、キチガイだ。

 

ある日、人気が爆発するきっかけがあった。

専門学校で英語の授業があった。リハビリの学校なのに、英語の授業が存在した。

ジェレミーという、外国人の中年男が、英語を教えるために雇われていた。

ジェレミーは日本語を全く話さず、英語だけで授業を進行させていくので、授業中はわけがわからなかった。通訳もだれもいないので、どうしようもなかった。

英語を使って、みんなでお話をしましょうという授業だった。

これから数十分の間、英語しか使ってはいけないらしい。

クラスメイトも、授業だから、俺に話しかけなければならない。

ある30代の男が俺に話しかけてきた。リハビリの学校は30代の生徒が結構いる。

 

「How are you? (調子はどうですか?)」と話しかけてきた。

俺は「エイズだ」と答えた。

30代の男は「Waaaaaoh!!(ワーーーーオ!)」といった。

「Did you eizu?(いつからエイズなのですか?)」

俺は「この学校入ってから」と答えた。

30代の男はまた「Waaaaaoh!!(ワーーーーオ!)」といった。

「Did you sex from school?(この学校に入ってから、誰かと肉体関係を持ちましたか?)と聞いてきた。

俺は「ジェレミー」といった。

そうしたら30代の男は大声で笑い出し、周りで聞いていたクラスメイトも爆笑した。

学校では人気が一度でたら、下がることはなかった。俺は深く込み入って話さないし、何か話しかけられたらギャグを一言二言いうくらいで去ってしまうので、そのギャグが滑ったとしても、嫌われる要因にはなり得なかった(滑らなかったけど(笑))

しかし、会社はそうではない。任せられた仕事をしっかりやらなければ、ウケをとっても嫌われる。一度、何らかのミスで相手の気分を損ねると、その相手にギャグをいうなどできやしない。仕事ができない分、立ち回りやおべっかでカバーする人を何度も見てきたが、俺はそれはしなかったし、やりたくなかった。仕事のミスは仕事で取り返したかった。だが、その肝心の仕事は上手くできなかった。いつも注意力が散漫で、気が抜けていた。頑張ろうとしても、数分後にはいつも死体になっていた。

 

マッサージ中は、周りと時間を共有することなく、自分のペースでやれるから、気が楽だし、あまり余計なことをしなければミスというのも起こしにくい。俺は月に1回程度のペースでクレームを発生させていたが、なんとかやれていた(周りのスタッフはほぼクレームゼロ(笑))。

この業界は高齢者が多く、おおらかで優しいし、ボケている人も多いので手を抜いてもバレにくい。だからアスペルガーや発達障害者や、仕事ができない人でも、なんとか務まりやすい職業だ。他の病院を見学したときも、発達障害っぽいような、仕事ができなさそうな人が多かった。また、専門学校内を見渡してみても、仕事ができなくてドロップアウトしてきたような人が多かった。理学療法士は仕事ができない人にはそこそこおススメだ。だが、新聞配達のようにたった1人でバイクで走る仕事の方がもっといいだろう。

© 2024 しまるこブログ Powered by AFFINGER5