恋愛

33歳の俺が最近できた19歳の彼女を題材にして愛について本気出して考えてみた 3

「なんで前の彼女と別れたの?」と、さいきん先輩に聞かれたのだが、うまく答えられなかった。ちぐはぐしたことを言っているうちに、「33歳と19歳じゃ仕方ないかもね」と片付けられてしまった。

おそらくこれは、口頭で答えられるものではないような気がする。エピソードでなければ無理だ。

わかってもらえなかったこと、わからせることができなかったことが気持ち悪かったので、少し整理してみることにした。

過去記事を見返していたら、理由をよく表している記事を発見したので、書き直すことにした。ちょうど1年前の記事である。

「来てほしい? だったら来てくださいと言いなさい!」
「ほーら、はやく言いなよ、来てほしいんでしょ? 来てくださいってはやく言いなさい!」

と19歳の彼女からLINEが送られてきた。若気の至りだろう。つまらない。滑っている。19歳なのに古い。

「ほーら、お嬢の到着だぞーー!」

駅に着いたらしい。この時点で俺はなぜ、この娘とこれから遊ぶのかわからなくなっていた。

電話がかかってきた。

「着いたんだけど、どうすればいい?」
「マンションまで20分ぐらいかかるけど、歩けそう?」
「わかんない」
「迎えに行くよ」
「どれぐらいかかる?」
「15分ぐらい」
「無理、走ってきて」
「走ってもどうせ信号で待たされるから15分ぐらいはかかるよ」
「無理」
「じゃあ今日はやめにする?」
「うざ」

「走ってきて」「うざ」これらの言葉が深く俺の胸を貫いた。頭もカーっと熱くなった。こんな状態でデートなんて遂行できるんだろうか? もう既に会うための理由が崩壊しているような気がするが、何をしに会いにいくんだろう?

確かに今日は会う予定はなかった。突然、彼女から近くにいるというLINEが送られてきたので、じゃあ会おうかと俺が言った。急なので、お互い準備ができていなかった。

若者のコミュニケーションは悪口が飛び交う。汚い言葉の連続で成り立っている。お互いが嫌な気分を覚えても、ブタのしっぽのように悪口を上乗せしていくコミュケーションをとる。もう33歳になってこれに付き合いたくはない。

汚い言葉を罵り合いながらバランスをとるカップルはいるかもしれないけど、これは度が過ぎている。本当に人間関係の距離感がわからない子だ。学校で友達がいない理由がよくわかる。

よくわからないけど走った。走ったって信号で待たされるのに走った。胸がゾワゾワするから走っただけだ。優しさからではない。

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彼女は駅前の広場で座っていた。不定愁訴を訴える般若のような顔をしていた。

不機嫌な顔をしていると神に愛されない。運もツキもすべてから見放される。この子は重篤な持病を抱えているけれども、一重にこの子の心的態度が引き寄せたものだと俺は考えている。

走ってきた俺に対して彼女が言った一言は「お刺身食べたい」だった。スーパーに行って、お魚売り場で彼女が刺身を手に取ったので、俺はそれを手に取ってカゴにいれてやった。お礼を言わず、自分の家の廊下を歩くような足取りでレジに向かっていった。

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俺のマンションに着くと、彼女は靴を脱ぎ散らかして俺より早く上がっていった。とても自然だった。もし俺の両親に挨拶に行くことになったとしても同じ脱ぎ方をするだろう。そして奥のソファーに勝手に座り込んだ。ソファーに座ってお刺身を食べたあと、ペットボトルのはちみつレモンを飲み終えた。それらを何も言わず部屋のゴミ箱に捨てた。

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以前、この部屋で鍋をやったとき、彼女に調理のすべてを任せたのだが、調理後のキッチンを見たらこんなことになっていたことがある。

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居酒屋でアルバイトをしていると言っていたが、調理担当ではないことは確かだろう。

「トイレ」と言って彼女はトイレに行った。その後、ビチャビチャと小便の流れる音が聞こえてきた。

女というのは、レバーを引いた後に流水音に紛れて用をたすものじゃないだろうか? 19歳でも女なら全員知っていることじゃないのか? さすがにこれは注意できない。母親ぐらいしか注意できるものではないが、もしかしたら母親も同じことをしているのかもしれない。

細かいだろうか? いちいち彼女のマナーを観察してグチグチ言うのは最低だろうか? さっさと別れろよと思うだろうか? しかし一つ一つのクオリティーが高くて無視できるものではない。

実は、なんでこんなに細かい描写が可能かというと、リアルタイムで書いているからである。ははは。まったくクソ彼氏である。彼女とデートしながら、彼女の悪口をスマホでフリック入力しているのだ。こんな恐ろしい彼氏が世の中にいてたまるだろうか……! 女も女なら男も男だ。そしてこの男は、早く彼女に帰ってもらって、ゆっくり続きを書きたいと思っている。

なぜこんなことをしているのかというと、彼女が鈍感で気づかないからだ。彼女はずっとスマホでインスタを見てほけーっとしているので、俺も暇なので彼女の悪口を書くことにした。

俺はデート中は絶対にスマホを見ないと決めているが、こいつの前ならいいやと思った。彼女の悪い気が伝染しているのだろう。彼女といるとどんどん悪い人間になっていく。

しかしなんで一緒にいるんだろう? 人間が違いすぎる。彼女とはこれで4回目のデートだが、最初の3回はまだよかった。お互いが気を張っていたからだろう。俺もよくがんばっていた。話題を提供したり、褒めたり、気持ちのいいデートになるように心を砕いていた。しかし今日はお互いがいい空気にしようと働きかけようとしない。そのせいか元々の相性というものがよく表れる結果となった。

これは何を意味しているかというと、多少相性が悪くても、お互いが、あるいは片方が頑張れば、一時的にはどうにかなるということだ。たとえ相性が悪い二人でも、がんばればセックスまでたどりつけるということだ。

いつも無口だけど、今日の俺は自分でも引くほど無口だった。何も言葉が出てこない。デート開始からずっとイライラしていて、もう彼女の顔も見たくないし話もしたくなかった。俺が悪いのか。彼女が悪いのか。俺と彼女の行き着く先がここなのか、そんなことを彼女の目の前でずっと考えていた。

俺と彼女の落とし所が見つからなかった。彼女にムカついてイライラするから話さないのではなくて、慣れて自然体になったとき、お互いの中に共通点がないから何も話せない気がした。彼女の中に俺はいないし、俺の中にも彼女は見つからない。

一緒にいても何も言葉が出てこない。そしてなぜか慌てる気も起きない。本当にただじっとしていた。それが彼女にとって困ってしまうものだったらしい。「何か話して」と20回ぐらい言われた。不良少女と音の出ないガラクタがデートしていた。

「なんか話して」
「うん」
「うんじゃなくて」
「とくに話すこと思いつかない」
「ねえ」
「うん」
「なんか話してよ」
「うん」
「うんじゃなくて」

(だから話すこと思いつかないって言ったじゃねーかよ)

なんで一緒にいるんだろう。そんなに話したいなら自分で話題を振れよ。そう思ったけど言わなかった。うん以外の言葉がどうしても出てこなかった。

俺の無言も悪い。孤独が板についてしまった。たぶん女を取り替えても同じことが起こるだろう。

しかし無言もいい。心が何一つ揺れず、安寧がすべてを包みこんでいるようだった。だから話す気にはとてもなれなかった。無言が一言だけ俺に言ってくれていた。これでいいのだと。だからそうした。できれば、この安寧が、彼女をも包み込んでくれればよかったのだが。

彼女が愛情に飢えていることは知っている。子供だから落ち着きがないことも知っている。人の気持ちがわからなくて友達がいないことも知っている。ぜんぶ知っているくせに彼女を包み込めないでいる。それどころか目の前で悪口を書いている。

基本的に俺は、顔は良くて性格も良くて霊的修行を通じて神との一体化を目指している日本では珍しい敬虔な人間なのに、どうしてこんなことになっているんだろう?

顔も性格も大したことがなくて、金がなくて無職なのに女を連れている人間はいる。モテる人間はどこで何をしていてもモテる。有吉だってどんなに惨めな状況に追い込まれてもいつでもモテたと言っている。世にでる傑物はどこで何をしても女が付いて回っている。俺はその種の人間ではないらしい。いま俺が苦しんでいるのは、この彼女のことではなく、その種の人間ではないことについてだ。

どうして俺ばかりがこんな目に? 神様、普通の彼女をください! なんでこんな不良少女なんですか!? ピアスがいっぱい開いてるんです! どうして愛や恋について一生懸命考えてきた俺に普通の彼女をくださらないんですか? 口が悪いし般若みたいな顔してるし重い病気を持ってるし、いいところは19歳ってところだけじゃないですかっ……! これだったらまだ30歳の公務員の方がいいです! 俺がこれまで悩んだ分量に等しいだけの彼女を提供してください! 他の男も女もそんなに苦労してないじゃないですか! 俺の方がずっと苦労しているじゃないですか! それなのにみんな、普通に付き合えて、結婚して、恋の階段を登っていっているじゃないですか! 周りは子供のことや住宅ローンの問題にとっくに移ってます……! 僕だけですよ!? 33歳にもなってこんな大学生みたいな問題で頭を抱えているのは……! 次にいかせてください! 可愛い彼女ができないと次にいけないんです! どうして恋愛脳の僕だけが恋を十全に味わえないんですか!? いつもこんなつまらない恋ばかりじゃないですかっ! いや、こんなのは恋と呼べるようなもんじゃない! 一度も恋というものを経験させてもらってません! 僕はこのまま死ぬんですか? はやくしてください! こっちはもう33歳なんですから! 40歳になったらもう恋はできません! 33歳が恋できるギリギリの歳なんですから!

なんで彼女と付き合ってるんだろう?

俺はいつも誰かと付き合っているとき、何で付き合ってるんだろう? と思ってしまう。相手の顔が可愛いわけでも、性格がいいわけでも、セックスしたいわけでもなくて、特に話したいこともなければ、何を期待しているわけでもないのに、ついつい会おうとしてしまう。そんな感じで、今日も会った。一生懸命走った。

これは内緒なのだが、彼女の座るところを用意するために3万円のソファーを買ってしまった。俺の部屋は机と床しかないから、彼女のためにソファーが必要だと思った。部屋にこんなだらしないものを置きたくなかったけど、3万円出して買った。風俗嬢に貢ぐオヤジだ。

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彼女を部屋に呼ぶことを楽しみにしていた。ソファーを喜んでくれるかなぁとドキドキしていた。しかし、こうして会えば、はやく帰って欲しいと思っている。

こんな風に理想と現実がちぐはぐしてしまうのは、これまで彼女がいなかった分の時間を取り戻したくてはしゃいでしまうからだろう。車やマイホームと一緒で、所有してみると大したことはない。むしろ邪魔に思ってしまう。これは付き合う度にいつも思うことだ。はやくソファーから降りて帰ってほしい。

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ソファーを運んだせいで腕が思うように動かないと言っているのに、「マッサージやって」と言われてマッサージをやったら、礼を一言も言わなかった。一体どういう育ちをしてるんだ? 友達がいないのもわかる。高校でも専門学校でも一人も友達ができないというのは異常だ。俺には理由はわかるけど、彼女が自分で理解する日は訪れないだろう。みんなが醸し出す無言の意味に気づかないのだ。みんな教えてくれている。無言でいつも教えてくれているけど、彼女は気づかない。今も俺が無言で語っているのに気づかない。

本当に彼女は鈍感だ。色んなことに気づかない。身体の声も聴こえないからいつも身体が痛いんだろう。腎臓が悪くて血尿が出るんだろう。周りや自分の声も聴こえないから、いつも不貞腐れたブルドッグみたいな顔をしている。常にイライラしていて、うざいとかだるいとか汚い言葉を吐く。注意しても、「口癖になってるんだよねぇ~」と言う。

俺と彼女が出会ったのは神が与えた試練なのか? 俺はこの子を通して成長し、彼女も俺を通して成長するのか?

「神の試練」と思われながら交際されるなんてこれほど嫌なことないだろう。しかし、こんなことはいつだって職場でも家庭でもどこでも行われている。

「ピアスをさらに10個開けたい」「髪をピンク色にしたい」「タトゥー入れたい」「暇さえあれば推しのインスタ見てる」そんなことを言われる度に、違う人種だなと思ってしまう。親に見せたらびっくりするだろう。これだったら結婚してくれなくていいと言うだろう。運気が悪い。一緒にいると人生が悪くなっていく気がする。うんこする度に、「うんこなう」とLINEを送られてきたのは本当につらかった。

俺は、愛されるより愛することができる人間になろうと戦ってきた。これだけしたのだからお前もこうしろとか、相手に見返りを求めるような人間にならないように勉強してきたはずなのに、彼女の前ではぜんぶ壊れていく。彼女に変わってもらいたくて期待している。期待を裏切られて苦悩する。彼女のありのままを愛せない。

「何か話してよー!」に、とにかく腹を立ててしまう。自分からは話題を振ろうとしないくせに「何か話してよー!」とひたすら言ってくる。黙っている人に「何か話してよー!」と言えてしまう人の神経がわからない。普通は、(ああ、この人はいま話したくない気分なんだな)と悟って、静かに距離を置くはずだ。

しかしひとつ良いことがあるとすれば、そのまま俺が無言でいても身を引くことがなかった。ただ「何か話してよー!」と繰り返すだけだった。普通だったら、(こんなに黙って静かになってしまう人間は無理だから、今日はこのままやり過ごして次は会わないようにしよう)と心に決めるだろう。しかし彼女はいなくならなかった。

ずーっと思っていたけど、彼女は俺を求めていない。俺と他の男との区別もついていない。友達がいないから一緒にいてくれる人を求めているだけだ。俺も、33歳の俺を相手にしてくれる女がいないから付き合っているだけだ。19歳だから付き合っている。

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これらの話をまとめて友達に電話で話したところ、

「本当に斜め上から見てるなぁ。お前は」

と言われた。笑ってしまった。「斜め」という言葉が言い当て妙だと思った。確かに「斜め」上なのだ。なぜ傾斜がついてるのかわからないが、たしかに傾斜がついたような、斜めに穿った角度で相手をバカにしている。真下ではない。斜めの、変なところからバカにしている気がする。

「愛の探求者だと自称するならさ、ここはあきらめずに戦うべきところなのかな? でも戦うなんて、そんな考えは失礼なのかな? でも夫婦はみんなやってるよね? 俺はちょっと早くその段階がきてるのかな? そんなところをぐるぐる回っている」

「そんなことをぐるぐる考えられながら、神の試練とか思われながら付き合われるのは俺だったら嫌だなぁ~」

「そうだね」

「神とか天とかいってないで、付き合いたいなら付き合って、イヤなら別れればいいと思う」

「そうだね」

「お前がその子と付き合ったのは、どこかで納得したから付き合ったんだと思うよ。その証拠に、ブスだったらお前はぜったいに付き合ってない」

「うん」

「どのカップルを見てても思うことは、初めに付き合ったときの引き合ったエネルギーは、終わりまで包めるんじゃないかってこと。終わりまで包めないなら、初めから付き合えてない」

「ふーん」

それはどうだろう。難しいところだ。

「彼女も、ただの娯楽であってほしいと思ってると思う。俺もなんだけどね」

続けて俺は言った。

「『神は成功してほしいと思ってるわけじゃない。挑戦してほしいと思ってるのよ』と、マザーテレサが言ってた」

「でも挑戦はおかしいだろ」

「おかしい」

おかしいかな……?

第一級の思想家ならば、彼女から本質を見出して、幸せにすることができるのではないか。だから無視して通り過ぎることができない。

第一級の思想家なら、すべてのブスや格式の低い女から本当の彼女を見出すことができて、彼女から幸せを見つけ出して、自分も幸せになることができる人間をいうような気がする。誰と結婚してもうまくいく。人を選ばない。

「人を選ぶのか、選ばないのか、どっちだと思う?」

「俺は選ぶと思うけど」っと言って友達は笑った。

「っていうか、お前どんだけ話さねーんだよ」

「一緒にいるときは、ひたすら邪念を消してる。彼女への邪念を消し続けることに集中してると、『うん』しか出てこないの」

「それ楽しいの?」友達は笑った。

「俺にとって恋愛は瞑想なの」

「ふーん」

「今の時代を見ていると、瞑想の奥にある光をもってしか離婚は避けられない気がする」

「結婚する前から熱心だなぁ」

「結婚してからじゃ遅いじゃん」

「ひとり婚活みたいだね」

「ここで逃げたら、俺も離婚する側の人間になるんじゃないかって気がして、戦わずにはいられない」

「ならもっと話せよ」そう言って、友達はまた笑った。

「すべての邪念が消えて心の波が静まるとき、自分が光の球体になるような気がする。そういうときは誰でも幸せにできるような気がする。他人も、俺も。恋愛はそのためにあるような気がする。どうすればいいのか。俺は彼女といる時どんな心的態度が正解なのか、それを探している。そのために今日も会った。走った。ソファーを買った」

「俺は間違ってると思うけどね」

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