仕事 ドトール観察記

ドトールの18歳と看護学生の18歳が対立するとき、コロナは息する間もなく息絶える

しまるこ「ドトールの子たちは、ピアスを開けたり髪を染めたりやりたい放題だよ」

しまるこ「黒髪で縛って素朴な服を着ている看護学生たちに見せつけんばかりに派手なメイクをする。そうしないと自分を保てないんだ」

しまるこ「『私の方が人生楽しんでます!』ってね」

しまるこ「ドトールの子たちは、看護学生たちを羨ましそうに眺めている」

しまるこ「私はこの先どうなるんだろう。高卒、資格もない。ずっとフリーター。結婚したら……やめられるのかな? でも、誰が私と結婚してくれるんだろう?」

しまるこ「床に落ちたコーヒー豆のように沈んだ顔をしてる」

しまるこ「それに反して、看護学生の子たちは、『結婚しても産休して復帰してパートで高額時給GETだぜぃ♪ あー、学生時代にちゃんと勉強しといてよかった♪ でも~、ドトールの子って、なんでずっとドトールで働いてるんだろ?』」

しまるこ「みたいな空気がぶつかりあってる」

しまるこ「でね、恐ろしいことに、看護学生たちの方が顔も可愛いんだ。せめて顔だけは、顔だけはドトールの子たちを勝たせてあげたかったんだけど」

友達「それは可哀想だね」

しまるこ「高校在学時に、看護師になろうと将来設計できるほどだからね。その辺りの人生のセンスが美にもあらわれている」

友達「看護師なら、コロナの痛手はまったく受けないだろうね」

しまるこ「いまドトールは、俺と看護学生以外、客なんて誰もいないよ」

友達「お前はどっちの方が好きなの?」

しまるこ「看護学生に決まってるだろ」

しまるこ「オレンジ色のキャンパスノートに、『臨床心理学』って丸っこくて可愛い字で書かれてあるんだぜ? あのノート持って帰りたいよ」

しまるこ「『いま、私の人生は最高にうまくいってる……!』っていうあの顔、たまんないね!」

しまるこ「アゲマンの波動で、コーヒーミキサーがなくともコーヒー豆が粉になりそうだよ」

しまるこ「将来に向けてやることをきちんとやっているから、遊ぶときも最高に楽しそうに遊ぶんだ。コーヒーも美味そうな顔して飲むんだぁ」

しまるこ「ドトールも、40歳ぐらいの主婦の店員になってくると、『あら、あなたたち、今日も熱心に勉強して偉いわねぇ」って声かけるんだけど」

しまるこ「だから、看護の子たちも、40のおばさんとは仲良くするんだけど、同じ年頃の女店員とはまったく仲良くしない(笑)」

友達「同じ年頃の方が仲良くなりそうなもんだけどね」

しまるこ「同じ年頃でも、男の店員とは仲良くするときあるよ。でも同性の同い年はダメ(笑)」

しまるこ「っていうより、ドトールの方が勝手に逆恨みしてるだけなんだけど」

しまるこ「『いいですね~。私はそんな恵まれた環境ではありませんでした。ぜひお父さんとお母さんに感謝してくださいね。私にはそんな選択権はありませんでした。小さい頃両親が離婚して、どんなに勉強したくても満足に机も教科書も買ってもらえませんでした』って、アフリカの難民みたいな顔して」

しまるこ「看護学生の方はというと、『え? でも奨学金とかありますけど? 自分が勉強したくないだけなんじゃないですか? お金ないっていうけど、たくさんピアス開けてメイクばっちりしてるじゃないですか。机や教科書はないけど漫画はたくさん置いてあるんでしょ? 私たちはバイトする時間を勉強にあてているんです。だから欲しいものは何も買えません。かけ算と割り算でとまってる人にいってもわからないでしょうけど』」

友達「(笑)」

友達「まあな、先に嫌なことを前倒しにしてがんばってるのは、看護学生の方だもんな」

しまるこ「いや、実際はドトールの子たちの方ががんばってるんだ。一日8時間働いている。ずっと同じ単純作業だ」

しまるこ「それに比べて看護学生たちは、一日に2時間しか勉強しない。座ってコーヒーを飲みながらね。解剖学に飽きたら地域福祉学を開けばいい。イヤホンつけて、米津玄師聴きながらね」

しまるこ「ドトールの子たちは家に帰ると、『あんたいつまでドトールで働いてんの!』ってお母さんにガミガミいわれて」

しまるこ「看護学生の方は、『ねぇゆうこちゃんお腹空かない? お母さんクッキー焼いたの♪ お勉強の一休みにどう?』」

しまるこ「そして、看護学生ちゃんたちは、そんな素晴らしい人生の休憩期間を経て、3年後にはドトールたちの倍の給料を稼ぐ。10年後には4倍だよ」

友達「4倍……?」

しまるこ「ドトールの年収は150万くらいだろ? 看護師は30越えると600万稼ぐようになるよ。うちの姉ちゃんみたいに」

しまるこ「俺には、ドトールの子たちが4人で手を繋ぎながらコーヒー豆をぶつけているようにしか見えない。看護学生はたった一人で注射器一本で応戦しているのに対してね」

友達「知るか(笑)」

しまるこ「ドトールの子たちは、いつもお母さんと喧嘩して出てきたよう顔で出勤してくるよ」

しまるこ「コーヒーを作って提供する立場にあるから、それもまた悪いね。まるで学生たちをサポートしてしまってる形になってる」

友達「勉強の差し入れみたいなね」

友達「それが仕事だっちゅーに(笑)」

しまるこ「ドトールでは、コロナ対策で席が離れて配置してあるんだけど」

しまるこ「学生の子たちはおしゃべりに夢中になると、勝手に席を近づけちゃうの」

しまるこ「そうするとドトールが出てきて、『お客様、店内ではコロナウイルス対策のため、席を近づけないようにお願いします』って注意するんだけど」

しまるこ「学生たちは、『はーい』っていって、20秒後にはまた席近づけておしゃべりしてんの」

友達「とても医療従事者の態度とは思えないね(笑)」

しまるこ「そのときのドトールの顔はすごいことになってるよ」

しまるこ「『殺してやる。全員コロナで死ねばいい。試験当日にコロナにかかって落第しろ。毎年、毎年、コロナにかかって落第しろ』って、そんな顔してる」

友達「コロナよりよっぽど怖いね(笑)」

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