友達「お前、がんばろうって言われるの嫌?」
しまるこ「沢尻エリカはがんばろうって言われると怒るらしいね」
しまるこ「今、刑務所の中?」
しまるこ「『シャバに出るためにがんばろう!』って女囚人に言われて怒ってる最中かな?」
しまるこ「エリカ様の場合、これまでがんばってきて、言った人にはとても想像が及ばない苦境を乗り越えてあの地位にいるのに、かんばろうなんて言われたら、そりゃ怒るのは当然だよ」
しまるこ「元ボクシング世界チャンピオンの竹原さんは、街で若い奴にがんばってくださいって言われると、『がんばるのはお前やろボケ』って吐き捨てるらしい」
友達「がんばろうって言われると嫌な感じする?」
しまるこ「俺はしないよ」
しまるこ「でも、正常な感情だよ」
しまるこ「社会には一定層、そういう人がいることはわかってるから、俺は言わないようにしている」
しまるこ「もう10年以上、人にがんばれって言ったことないよ」
友達「へぇ〜〜」
友達「流れやリズムでつい口に出しちゃいそうにならない?」
しまるこ「なるよ。相手に言われると反射的にね」
しまるこ「でも言わない人、たまに見かけるよ。あ、この人ぜったいがんばれって言わないようにしてるって(笑)」
しまるこ「そういう人のそういう時の顔は、意識的な顔してるからすぐわかる」
友達「いるね、そういう人」
しまるこ「鈍感な人は、地球にそういう人がいることにすら気がついていないようだけど」
友達「みんな、飯食うようにがんばれって言うもんなぁ」
しまるこ「あ、つい言っちゃったって、咄嗟に反省の顔が見える人ならいいけど、言い終わった後も、ずっとうっとりしてる人いるからね」
しまるこ「そこらへんのセンサーの感度で人は分かれるよね」
しまるこ「どんなに可愛くても、平気で人にがんばれって言う、デリカシーのない女とは付き合えないかな」
友達「ふーん」
しまるこ「やっぱりさ、500万のJeepを買って、その返済に明け暮れくれてる子にがんばれとは言えないね」
友達「それは誰も言わないでしょ」
しまるこ「そうなんだけど、多分その子は言われても怒らないんだよ。そこらへんのセンサーが壊れてるから借金地獄なんだけど」
しまるこ「たぶん俺が『返済がんばってね』って言ったら、『はい! ありがとうございます!』って言って喜んで帰っていくと思う」
友達「俺だったら腹立つけどなぁ」
友達「でも、相手が喜ぶなら言ってもいいんじゃない?」
しまるこ「言ってもいいよ」
しまるこ「けど、俺はポリシーとして言わない」
しまるこ「言った瞬間に、自分の心にノイズが走るのがわかるから」
しまるこ「あのさー」
しまるこ「俺、『がんばれ』の代わりの言葉が見つからなくて、黙っちゃうときがあるんだけど」
しまるこ「そういうとき相手から、なんでがんばれって言ってくれないの? って顔されるんだよね」
友達「(笑)」
友達「相手に気を使って言わなかったのに、逆に言わなかったことで関係が悪くなってんじゃん(笑)」
しまるこ「そうなの(笑)」
友達「ふーん……。俺は使い分けてるけどな。がんばれって言葉にアレルギーを起こす人には言わないし、言っても大丈夫な人には言っちゃってる」
しまるこ「うん。それは確かに賢い判断だし、頭脳だけで考えたらそれが正解なのはわかる」
しまるこ「ただ、ノイズが聞こえるから」
友達「さっきからなに? そのノイズって」
しまるこ「……」
しまるこ「(笑)」
友達「お前の人間アレルギーじゃなくて?」
友達「言っても大丈夫な人には言ったってよくない? 代わりの言葉が見つからなくて困ってるなら尚更じゃん」
友達「気難しい人間に思われるだけじゃん」
しまるこ「この人にがんばれって言ったら怒られちゃうみたいなね」
しまるこ「『えーっ……、がんばれがダメだから、他の言葉も怒るのかな? えーっと……? じゃあ何ならいいの? もういいや、めんどくさい……』」
しまるこ「って、そっぽ向かれちゃう」
しまるこ「俺の方が優しいから言わないのに、俺の方が傷つくことになってしまうわけだ」
友達「(笑)」
しまるこ「22の頃、同級生カップルが結婚することになって、みんなで集まったんだよ。みんなで、明日の結婚式がんばってね! ってすごい応援してたの」
しまるこ「もちろん、俺だけ言わなかったんだけど」
しまるこ「すごいおめでたい空気で、みんなでそいつらを祝福しようっていう空気で満ちてたの。泣いてる子もいたりしてね。だから結構キツい目で見られたよ」
しまるこ「『なんでお前(しまるこ)はがんばれって言わないの? 祝えない事情があんの? 祝えない事情? そんなのあるわけない! この結婚に反対なの!? ひょっとしてマミのことが好きなの?』みたいな」
しまるこ「親戚のおじさんからお年玉貰ったのに、ありがとうって言わなかったときのような感じがあったね」
しまるこ「結婚式にがんばれってちげーだろって思ってたから、意地でも言わなかったんだけど」
しまるこ「あのときがんばれって言わなかったのは骨が折れたわ(笑)」
友達「そこまで追い込まれたなら言えよ(笑)」
しまるこ「でもねっ! 結婚する当人のマミだけはわかってくれたよ? 『ありがとう。しまるこくんは優しいね』って言ってくれたんだぁ」
しまるこ「がんばれって騒いでる烏合の衆どもに勝った気がしたねっ!」
しまるこ「新郎の方は、がんばれって言われて浮かれ顔なの(笑)俺の方が結婚相手のことをよっぽど理解してあげられたわけだ」
友達「なんでお前が結婚相手じゃなかったんだろうね」
しまるこ「マミは、『理論的には私はしまるこ君寄りだけど、でもがんばれって言ってくれる人たちの気持ちも大事にしたいから、この気持ちを引き連れたまま、私いくねっ』って、そんな顔でバージンロードを歩いて行ったんだ」
友達「バージンロード歩くときはそんなこと考えないだろ(笑)」
友達「がんばれを言う人と言わない人の違いを考えながらバージンロード歩く花嫁がどこにいんだよ(笑)」