友達「俺も、この前、マッチングアプリで39歳の人と会ってきたんだけど、その女に聞かせてやりてぇなぁ。なんて思うんだろ? 17歳っていったら」
友達「男は、ちょっと年下と会うのがちょうどいいって思ってるところがあるじゃん? だけど、その39歳の女は、それに対して、真っ向から、マッコウクジラのように反対してたっていうか。世の中のそういう風潮を認めないというふうに、その39歳の女は、39歳同士で会うことが当たり前って顔をしてたね」
しまるこ「うん」
しまるこ「引くだろうね」
友達「引くってずるいよね」
しまるこ「ずるい」
しまるこ「でも、やっぱり、すべての女は、なんで男の方だけ年をとってるのに、若い女とペアリングできるの?って、何らかの怒りの火種のようなものを抱えているだろうね。不公平だという気持ちが、すべての女の中にあることは間違いないと思う。それでいて、その当人が、年上の男と結婚するからさぁ、まるで白夜行みたいに、内部からの復讐を目論んで結婚しているみたいだよね」
しまるこ「若い女が、年がすごい離れたおっさんと結婚したりしているのを見ると、うっすら復讐心のようなものが垣間見える気がするのはなんだろうね? 自分と同世代の男たちに対する復讐心のために結婚しているように俺には思えるけど。外人と結婚する場合は、日本人の男に対して復讐心を燃やしている気がする」
友達「それはたんに、誰にしろ、結婚すれば、昔の彼氏彼女だったり、学校時代の同級生だったり、そういう奴らに対して、復讐を遂げたような気持ちになるのは、誰でもあることじゃない?」
しまるこ「でも、そういうときに思うのは、相手を信用しているんだなってことだよね」
友達「ん?」
しまるこ「いや、だって、相手が結婚式に乱入してきて、男を殺しちゃったり、ウェディングケーキを蹴飛ばしたり、ハンマーを縦に下ろしてケーキをぶっ壊したりとかさぁ、そういうことをしないって信じきっているから、復讐が成立するわけでしょ? 男が何もせずに、我慢してくれている、その痛みの中にずっといてくれる。そこから出てきて暴れ出さないってわかってるから、復讐が成立するわけでしょ? これがあんまりわけわかんないのになってくると、もう暴れ出しちゃって、新郎も新婦も殺しちゃって、牧師も殺しちゃうかもしんない。そうなったら、もう、その男に、結婚したことを伝えないほうがよかったと思うかもしれないじゃん」
友達「なんでそんな男と付き合ってたんだって話になるけどね」
しまるこ「そうなんだけど」
友達「関係ないけど、ペアリングって言葉がウケたわ。Bluetoothみたいで」
しまるこ「(笑)」
しまるこ「パソコンのやりすぎか(笑)」
しまるこ「で、その女とはどうだったの?」
友達「ん?」
しまるこ「39歳の人とは」
友達「ああ、それがねぇ。日曜日の昼に、ふつうにサイゼリヤで食事したんだけど」
しまるこ「サイゼリヤだったんだ。タコパスタとかなんとか言ってたから、どっかのスペイン料理のコース料理でも食べにいったのかと思った」
友達「向こうが普通にサイゼがいいって言ったんだよ、歩いて行けるからって」
友達「出会って開口いちばんにひょっこりはんに似てますねって言われて。その時点で帰ろうと思ったんだけど。なかなか帰れないね〜、ああいうときは」
友達「なんで39歳にもなって、ひょっこりはんに似てるとか、家で漫画読んでそうとか言えるんだろうね? 俺、男で今までそういうこと言うヤツに会ったことないんだけど? 女だけじゃね? こういうこと言うのって。悪口になってるっていう自覚がないんだろうね? 変に口が軽いっていうか、こういうこと言っちゃうのは女の方が多い気がする。女って思いついたことそのまま言っちゃうよね? 39歳でわかんないんじゃたぶん一生わかんないだろうね。ナルトとか好きそうとか言われたけどさぁ、 ふつう初対面の男にさぁ、ナルトとか好きそうとか言う?」
しまるこ「ナルトとか好きそうって言われたの!?」
友達「言われた」
しまるこ「本当に!?」
友達「本当」
友達「お前、言える? 初対面の男に、ナルトとか好きそうって」
しまるこ「俺は……、言えないなぁ。今、ジムとか道場の、まだ話したことのない初対面の男の顔を思い浮かべてみたけど、ナルトとか好きそうは言えないわぁ」
友達「でしょ?」
友達「言う必要もないしね」
しまるこ「でも、マッチングアプリの出会いだとどうなんだろう? これからちょっと深く仲良くなろうとして、お互いが探り合っていく中で、ジャブ程度のつもりで、ナルトとか好きそうですねっていうのは」
友達「ナイナイナイナイ」
友達「ぐるぐるナインティナインぐらいないわ」
しまるこ「ちょっと気わどい攻撃というか、堆く積もっている邪魔なものを、一つひとつかき分けていく過程の中で」
友達「ナイナイナイナイ、そのナルトが超邪魔だもん」
友達「絶対ダメだよ、絶対、ナルトはダメ。39歳でナルトを読んでそうって言うのと、コロコロコミック読んでそうっていうのと何が違うの?」
しまるこ「そうだねぇ」
友達「なんで俺、仕事でもないのに、こうして疲れてる中、プライベートで超時間作ってやってきてんのに、もういい社会人が、初対面で、お互いに気分を盛り上げて、うまくやっていこうってときに、なんでそんなこと言えんのかなぁって」
しまるこ「うん」
しまるこ「なんだろうね? もっと、お互い精神的に溶け合っていきましょう、もっと、お互い裸になって、パジャマ姿で床にゴロンとするような、そういう人、マッチングアプリにいたけどね? いきなり荒野行動やりましょうって言ってきて、変なアプリインストールさせられて、変な温泉みたいなところに連れていかされて、転がっていられるような場所あるじゃん? そこで二人で床に転がりながら荒野行動やってたことあるよ。画面外でもホフク前進してるみたいだった。あのテンションだったら、普通にナルトとか好きそうって言われても間違いはなかったけど」
友達「漫画喫茶が併設されてあるようなところでしょ?」
しまるこ「そう」
友達「それはもう、目の前にナルトが置いてあるじゃん」
友達「それでいうなら、仲良くなって、俺の部屋に上がってきて、それで俺の部屋の本棚のナルトを見て、『ナルト好きなんですねぇ〜』って言われて、やっと同じになるわけじゃん」
しまるこ「そうだね」
友達「『ナルトとか好きそう』って言いながらニコって笑われたときにさぁ、歯の矯正してるのが見えて、すげえ引き裂いてやりたくなったんだけど、お前といい、39歳で歯の矯正するのが流行ってんの?」
しまるこ「さあ」
友達「それで俺、すごい考えてみたんだけどね、39歳でそれを言えてしまうのは、女だからじゃないかと思ったのね? 男だったら絶対言わないもん」
友達「あぁ、ここかぁって。なんか今まで、女に対して、壁というか、おかしいというか、距離感というか、どうも安心して身を委ねられないような、警戒心みたいのがあって、これはなんだろうって思ってたんだけど、これかぁって」
しまるこ「うん」
友達「やっぱり、プライドとかメンツとかをあんまり守ってないんじゃないかと思ってね。ほら、男ってやっぱりけっこう競争心が激しいところで戦って生きているわけでしょ? それに比べて女は、顔や身体ばかり気にして生きているわけでしょ? 化粧とか、見かけの可愛さとか、若さとか。あんまり、この漫画を読んでいると恥ずかしいとか、そういうプライドがないと思うんだよ。ちびまる子ちゃんとか、ベルサイユのばらとか、NANAとか、よくわかんないけど。ブスがなんか言ってらぁって感じで。だから、それが悪いこと、相手を傷つけてるってことに気づかないんじゃないかなぁって。やっぱり、ほとんどが、容姿とか、身体とか、若さだったり、もしくは結婚相手くらいで。仕事とか、そんなに何をやってるとか、勉強とかスポーツとか、何の才能が秀でてるとかの優劣はあんまり関わってこないと思うんだよ。男に比べると。そのせいで、女と話してるとしょっちゅう傷つくことがある気がする。わりと、頭の良い女でも、こういうミスを犯しがちだからね。この辺の無神経さはどこからくるんだろう? って考えていたら、ここに行き着いたのね。これ、すごく頭の良い女でもこのミスを犯すから。すごく優秀で、言葉をすごく選んで話す女でも、やっぱりこのミスを犯すから。それは女というだけで」
しまるこ「なるほどね」
友達「だから、女は男のプライドに対して神経質にならなきゃいけないんだけど、さすがにやっぱり、ナルトはわかんないのかなぁって思ったね。難しいんだろうね。男にとっちゃすごい簡単なんだけど、自分がナルト読んでそうですねって言われても傷つかないから、わかんないんだよ」
しまるこ「そうかもしれないね」
友達「39歳だぜ? 17歳の女の子が言うのとわけが違うじゃん?」
友達「俺も、17歳の女の子に言われたんだったら、ここまでブチ切れなかったと思うんだけど」
しまるこ「それでどうしたの?」
友達「普通に飯食って帰ったよ」