恋愛

図書館に行ったらなかなか可愛い子がいた 7

〜友達との電話編〜

友達「それで帰ってきちゃったの?」

しまるこ「いや、本当にわかんなかったんだよ」

しまるこ「でもね、こうして家に戻ってきても、ずっと彼女のこと考えちゃう。ああ、これ、渡さなきゃ終わんねーやつだわと思って」

友達「渡せば終わんの?」

しまるこ「終わんなかったらどうすんだよ」

友達「いや、しらないけど」

友達「また実物を前にして、そのときも、違うなって思ったときはどうすんの?」

しまるこ「それはちょっと困るね」

友達「困るねって、その可能性があるってことでしょ? 今のうちに決めておかないとやばいんじゃない?」

しまるこ「まあ」

友達「……」

しまるこ「もし、また、もう一度、彼女が俺の席のとなりに移動してきてくれたら、そのときは渡せる気がしてるんだけどね」

しまるこ「やっぱり、もう少し、確証が欲しいね。ぜんぜん、俺のこと気にしてない感じだったもん。俺のこと、まるで頭にない感じだった。あれは無理だわ。あれは渡せないわ」

友達「なんで◯◯高校のお嬢様がお前のこと意識してなきゃなんねーんだよ(笑)」

しまるこ「でしょ? だから俺はそれをずっと言ってるんだよ」

しまるこ「すごく、恥ずかしいからあんまり言いたくないんだけど、やっぱり、俺の方ですごい光を感じたわけだからね。もしかしたら、向こうでも光みたいなものを感じててくれていて、多少は、まぁ、ちょっとくらいは気にしててくれてたりみたいなね」

友達「希望を持っちゃってるわけだ」

友達「それはないよと俺も言うつもりはないけどね」

友達「じっさい光を感じてるかもしれない、お前に」

しまるこ「んなわけねーだろ」

友達「何でお前が自分で否定してんだよ(笑)」

しまるこ「でも、やっぱり、今回は違う気がするんだよ。やっぱり、すごい、胸にズシン……と、すごい衝撃がきたし、これまでの経験を鑑みても、こんなに光を感じたことはなかったから。これだけ感じてしまった以上は、やっぱりこの気持ちに責任を取らなきゃいけないっていうか、このまま終わりにしちゃダメだと思って」

友達「でも、それ、毎回言ってない? 俺、もう、20回くらい聞いてる気がするんだけど。あのとき光を感じたとか、あのときあの子が輝いて見えたとか、マッチングアプリで出会った女にも同じこと言ってた気がする。たぶん20回くらい聞いてると思う」

しまるこ「いや、ないよ。そう思うかもしれないけど、それは本当に違うの。じっさい、そのときの、光を感じたときの光量というのは、全部覚えていて、あのときはいくらだったかとか、あのときのあの子の光はこれくらいの量だったとか、それは全部覚えてる。大学時代のパスタ屋でアルバイトしたときのやつが最大としたら、あの、静岡でナンパしたときのこと、その二人だけ。今回で三人目なんだけど、他の場合については、良いとか、可愛いとかは言った覚えはあるけど、光を感じたとは言ってないよ」

友達「いや、言ってた気がするけど」

しまるこ「いや、言ってないよ。小〜中くらいの光だったら、結構いるんだけど、大になってくると、この三人だけ」

友達「光量の問題なんだ」

しまるこ「0か100っていう問題じゃないかもね」

しまるこ「80以上になってくると、ズン……という強烈な響きによってやってくる感じかね」

友達「じゃあ79だと、バッサリ切り捨てられちゃうの?」

しまるこ「その場合は四捨五入されるかな」

友達「じゃあ、74と75で分かれる感じか」

友達「じゃあ、74だと、ズン……は起きないの?」

しまるこ「そこは理数系じゃなくて文学的な勘であってほしいよ(笑) 恋は理系よりも文系であって然るべきだし」

友達「あれ、いつだっけ? 去年? 一昨年だっけ? バッティングセンターでナンパした時も、あの時も、大学生の女の子たちをナンパしてたけど、ぜったい成功することはないってわかりきってたじゃん。だから、俺もなんでこいつ、こいつ負けるとわかっている戦いに飛び込むんだろうってずっと思って後ろから見てたけど、ずっと、いかれてんなぁと思ってた。だから、あの時から俺の印象は変わらないよ? いいんじゃない? それでお前がスッキリするなら。なんか、そうしなきゃ夜寝れなくなるとか言ってたけど。ここで声をかけないと自分に負けた気がするとか、夜眠れなくなるとか言ってたけど」

友達「俺はそういう場合、声をかけて失敗すると、ちきしょうーーー! て、でかい声出して叫びたくなっちゃうんだよね。清々しい気持ちで終われるならいいと思う。俺はどっちかっていうと、むしろ、ストレスが溜まる」

友達「何歳差になるの?」

しまるこ「22」

友達「へぇ〜」

友達「だってもともとがゼロじゃん。今、何も手に入っていないんだから、失敗したって別に失うものはないからね。もしかしたら成功するかもしれないし、いいんじゃね? お前はそういうストーカーみたいなことはしないと思うし、その辺はあんまり心配してないんだけど、ちゃんと引き際をわきまえてるんだったら、俺は別にいいと思うけどね。まぁ、俺だったら行かないけど」

しまるこ「お前が、光を感じても行かない?」

友達「その、光っていうのが、俺にはよくわからないけど、うーん。でも、ちょっとうらやましいわ。いいなぁ〜。そんなふうにキュンときたり、ドキドキしたりすることぜんぜんないもん。いいなぁ、羨ましいわ」

しまるこ「いや、俺だって、ここ10年ずっとなかったよ。こんな気持ち抱いたのいつぶりだっけ? この前、ららぽーとを歩いてたとき、すごい可愛い女の子がいたんだけどね。色がすごい白くて、ちっちゃくて、細くて、胸が大きくて中学生だったと思うんだけど、中学生にしては胸がでかくて、バレーボールくらいあったんだよね、すごい小さくて細いのに、胸だけはすっごくデカくてびっくりしたけど、光は感じなかったんだよね」

友達「ふーん」

しまるこ「まぁ、かれこれ、こうして、俺は過去三人の光をもつ女性に出会っておきながら、ろくにアプローチもせず、そのことを今でも後悔しているのね? だから、もし今後どこかで光をもつ女性に出会ったら、そのときは、どんな犠牲をいとわずにかならず行こうと思ってたのね? だから、たぶん、これが最後だと思うんだよ。確率的にいって、もう二度とこんなことはない気がする。あんな可愛い女子高生が、俺の隣に引っ越してくるなんて、そんなことはもうないと思うんだよ。もう、かれこれ10年間、こんなことはなかったんだから」

友達「それはね」

しまるこ「俺はおそらくこれが最後の光になるだろうと思う。たとえ、また光を持った女性に出会えたとしても、それがまた10年後、20年後となって、そのときになって、相手がまた高校生だとして、俺がそのとき60歳になっていたら、そんなものはゲーテとウルリーケじゃあるまいし、もう、この時代にどうにかなるもんでもない。これまでだって、けっこうナンパもしてきたし、ほとんど無理やりといった形で、女をホテルに連れ込んだり、かなり無茶はやってきたけど、それなのに、どうしても、なかなか勇気が出ない、手紙一つ渡すことがこんなにも難しい。やっぱり期待か、光を感じた女性にだけは断られるのは避けたいから、勇気が出てこなくなる。どうでもいい女には、あんがい、向こう見ずの覚悟でいっちゃうんだけどね。本気となると、やっぱり苦しいものがあるね。でも、ここで逃げたらねぇ……、ぜったい後悔すると思う、それはわかる気がする。たぶん、一生、今日のことを、あらゆる瞬間に思い出して、ぜったい後悔する気がする。もっとよくないことに、あのとき、たぶんいけたと思うけど、いってたらぜったいに手に入れられたのになぁ……って考えちゃいそうで……。それだけは避けたくてね。これがね、なんかよくわかんないけど、不思議なことに、大学時代にパスタ屋のアルバイトのときに出会ったのが19歳のとき、静岡でナンパしたときの女性が29歳のとき、で、今回の図書館の子が39歳。ちょうど10年スパンでやってきてるんだよ。光をもつ女性との出会いが。だから、たぶん、次にくるとしたら、49歳のとき。でも、さすがに49歳じゃ無理だと思うんだよね? 29のときは39じゃ無理だろうとは思っていたけど、こうしていっちゃってるから、この限りではないかもしれないけど。だけど、あんなに、パッと輝いて、咲くように開いたからねぇ……。いろいろ考えたんだけど、やっぱりそこなんだよ。そこだけ。この光はなんだろうって、なぜ、彼女にだけこれほどとてつもない光を感じたのか、それを確かめなきゃいけない気がするし……、確かめたい。それが40歳を目前にした、俺の人生の前半期における集大成、最後の試練のような気がしているんだけど。だから、やっぱり逃げるわけにはいかない。目と目の奥が合ったというか、本当の意味で目が合ったというような、互いの中の、本体と本体、奥と奥、光と光、存在と存在、それがまごうことなきぶつかって、それは必ずしも物質的に見えたというわけじゃなくてね? これが片方だけに起きたとは、ちょっと考えづらいというか……、うーん……? わりと二人の共感覚としてあったような気がするんだけど……どうだろうって……」

友達「俺は悪いことじゃないと思うんだよ。むしろいいことだと思う、いいか悪いかでいったら、いい方だとは思うんだけど。いちばん思うことは、こうして生活していて、そんなふうに光を感じるとか、なかなかないからね。俺ももうずっとそんな経験してないから、聞いててうらやましいなとは思った。だから、そんなふうに感じた以上は、行っちゃっていいんじゃないかなとは思うけどね、むしろ行くべきだと思う。その上で、なんとなく俺が感じるのは、これはお前を非難しているわけじゃなくてね? どっちかっていうと、肯定してるつもりでいうんだけど、っていうか、ただ言いたくなったから言うんだけど、俺はお前の、あんがい、その希望や自信みたいなのが悪さしているように思うね。本当に、お前が、豚みたいな典型的なオタクみたいな容姿だったら、その女子高生に手紙を渡してなかったと思うんだよ。変に玄米菜食をやって、武道をやって、心身を清浄に保っているヤツの方が、女子高生に手紙を渡しちゃいそうな気がする。GACKTとか、YOSHIKIとか、高橋一生とか、なんか、あいつらも渡しちゃいそうじゃん。そういう、美意識が高い人間の方が、ある種の落とし穴にはまっちゃうというか。ふつうは39歳にもなれば、やる前から、ああ、自分には無理だって、怖気づいちゃうもんなんだけどね。若作りしている人間や、やたらと美容に命をかけている人間は、人よりもこの感覚が訪れるのが遅いんだろうなぁっていうのは感じるね。たとえば、天海祐希とか、広末涼子でも、なんでもいいんだけど、ああいう綺麗な女優というのが、俺はべつに対して綺麗だとも思わないけど、まぁ一応世間の杓子定規に合わせて綺麗ってことにしておいてやるけど、あいつらの中にも、なんか美の魔物みたいなのが棲みついていて、その魔物が悪さしているというか、あいつらも、若いイケメン俳優とかと自分が付き合えて当たり前というか、まったく疑ってない顔しているね。いつまでも現役であろうして、もう自分の立ち位置が見えなくなっちゃってるっていうか、べつに悪いことだとも思わないし、いいことだとは思うんだけど、なんか、ちょっと、その自己愛というか、高い化粧品使って、自分を大切にし過ぎている感じが、ちょっとムカつく、でもないけど、鼻につく、でもないけど、引いちゃうっていうか。まぁ、庶民感情から言わせてもらえばってところかもしれないんだけど。まぁ、美意識も大事だと思うけどね? でも、行きすぎると目に余ってくるというか、あいつらが綺麗なのは、自分のため、恋愛も結婚も美容といっしょで、なんか、その自己愛の中でキラキラしている部分に含まれているというか、俺はあんまりそれが清潔な光のようには見えないんだよ。俺には、お前の言っている光というのは、そういう光を指している気がしてならない。お前のために言うけどね、ぜんぜん、違っていると思うならそれでいいし」

しまるこ「まぁ、女子高生相手に対していけると思っちゃってるところはあるかもしれないね。これは本当に、女子高生に水をぶっかけられないとわかんないと思う。でも、俺も、だいたいの部分においては、たぶん無理だなって思っていて、その証拠というわけじゃないんだけど、その女子高生が、俺の隣に引っ越してきたとき、まぁこれも本当に引っ越してきてくれたのかはまだよくわかってないんだけどね、そのとき、いけるって思っちゃったのね? 合格証書みたいのがもらえて嬉しかったというか」

しまるこ「39歳が17歳に仲良くなりましょうって接近したり、手紙を渡すってことは、世の中がそれをできていない以上は、俺だけは立ち上がらなければならないって、公憤のようなものを抱えているのはあると思う。こういうと、自分のためというより全体のために立ち上がっているように聞こえるかもしれないけど、もちろん自分のためだよ? みんながやっちゃいけないって思っていることは、大体の場合、やらなくちゃいけないことで。俺は仕事をがんばるより、こっちをがんばることの方がずっと偉大なことだと思う。仕事なんて、みんな義務で、自分の生活を守るために流されて惰性でやってるだけでしょ? でも恋愛は違う、恋愛は、自分を守ってたらできっこないんだから。だから、だから一回くらいはね、一回くらいは、俺も40になる前に、一回くらいはまともな恋愛とやらをやってみたかったところがあったんだけど、彼女とならそれができる気がした。それは、俺が高校の頃から、ある部分がまったく成長していないところからきているんだと思うんだけど、たぶんストーカーだとか、女子高生に変なことする奴らもみんな同じだと思うんだけど、まだ何も話してないのに、隣に座っていただけなのに、それができる気がしたのね? それは勘違いかもしれないけど、でも、この勘違いにかけてみたいと思ったのね」

友達「それはわからないでもないけど」

しまるこ「なんで、俺は、みんなが普通にできている恋愛というものができないんだろう? なんで、俺よりもカッコ悪くて、つまらない男が普通に恋愛できているのに、俺だけができないんだろう? って、ずっと思ってて。だけど、これはもしかしたら、この日のためにあったんじゃないかなって。俺は、自分が特異な人間だということはわかっているし、だから、俺と引き合うためには、ちょうど俺みたいな、それだけの素質をもった女じゃないと務まらない。それがお前のいうように、高学歴の女の中にいるかはわからないけど、男と女は二人で一つのツガイみたいなものだから、俺が生きている以上は、かならずもう一人の俺がこの世界のどこかにいるはずだって思ってた。けっきょくその人間としか恋愛はできないんじゃないかってね。それが彼女かどうかはわからないけど、それを確かめる必要があるなって。そう思える人間が少しでも目の前にあらわれたことは刮目に値することで」

友達「22年遅れで」

しまるこ「そう、22年遅れで。もう一人の俺が生まれてきたと思った。その人と出会うまでは、バリアか何かが張られていて、それ以外の女を弾いてしまうんじゃないかと思っていたからね。じっさい、そんなような体験を何度もしてきたことがあった。女どもが近づいてくると、その精霊だか守護霊だかが、みんな追い払っちゃうんだよ。へんな虫がつかないようにって。どうしてこんな変な男の操を守らなきゃいけないんだって話なんだけど(笑)いろいろ不純なこともたくさんしてきたし、べつに守られてもないんだけどね。それで、結局、付き合っても、2、3ヶ月で別れてしまう。それは性格の不一致だとか、相性だとか、そんなものを越えて、運命が弾いてしまうんじゃないかと思っていたからね。だから、これはやっぱり光しかないんじゃないかと思って。ふつうの女じゃ弾かれちゃうから、光をもつ女性じゃないと付き合えない。まぁ、食べ物といっしょでね、人間が一生で食べられる量は決まっているといわれているように、恋愛も、恋愛できる量が決まっている気がしてね。人々は、そのミツを数年おきにちょっとづつ味わっているかもしれないけど、俺はそれが節約に節約された結果、天禄のようなものが溜まっていき、それが40になって、プーさんのハチミツの壺のように、たっぷりたまりにたまった状態で味わえるような気がして……」

友達「ワインだったら40年ものもあるけどハチミツかぁ」

しまるこ「だから、神様が俺に送ってきてくれたのかと思っちゃった」

しまるこ「40歳の誕生日プレゼントということで」

友達「やっぱり、その子にというより、自分の思想に恋している感じがするね」

しまるこ「俺とこの子のあいだを結ぶ線はいったいどこにあるんだろうって思うんだけど、たぶんだけど、この子と付き合ったとしても、今、こうしてお前と話してるようには話せないと思うのね? ぜんぜん自分の100%で話せないと思う。それは、やっぱり全体を見ていればわかることでね。この子じゃなくても、87%くらいの女性が、俺とうまく話せないと思う。本当はこんなことを言ってても、とても優しい人なんだなってところまで見抜ける眼力がなければダメなんだけど、ちょっと彼女にはそこまでの眼力は期待できないような気がする。◯◯高校だとしてもね。俺は、俺であることはやめられないから、まぁ、それだって、確かめてみないとわからないけど。でも、自分の本当の姿を隠しながら付き合うのはきっとストレスだろうね。でも、それでも俺は彼女がいい。まだ一度も話したことないのにね。まったくロリコンにつける薬はないね。どっかに頭のいい17歳がいればいいんだけど。だから、頭のいい17歳を用意してくれたんだと思っているところではあるんだけど」

友達「女子高生と100%で話してるのもどうかと思うけど」

しまるこ「やっぱり、その、目がね、なんか、その、悪さしているように見えるね。目が、命のようなものを持っている気がする。その目と目があったとき、それは年齢だとか性格とか、そういったものをこえて、何か通じ合うような、何かつながっているような、一体感のようなものを覚えるんだけど。それは他の誰に対してでもね。きっとこれは俺だけじゃなくて、ほとんどすべての人が感じることだとは思う。でも、人々がその気持ちに正直になってしまったら、何かが壊れてしまうような、ね。目と目があったときの感覚よりも、まぁ、それを横に置いて、ふつうの他愛ない世間話を始め出すわけなんだけれども。常識や建前、社会通念を持ち出して、ね。目と目がつながったときの、最もプラトニックな、純粋な、あの、目がパッとあったときの、でも、それを信じていくよりはみんな曲がった方を行ってっちゃうね。

これはアレだね。まぁ男にだってそれは感じる時だってあるし、まぁ女のが多いかな? でもそれがね、結構ほとんど全員、世界中のほとんどすべての女に対して目があったとき、なんともいえないような、一体感というか、なんかつながる感覚を覚えるんだよね? このつながるというのは、その目があった女の方でも、俺と同じように感じているとは思うんだよ。言わないし、本人も気づいてないとは思うけどね。目と目が合うってことは、正直、じっさい、それくらいのことが起きてると思う。もちろんそれを頼りに恋愛しろってのは無理な話だと思うけどね、これはまたちょっと恋愛感情とは違うと思うし、また人間は照れ屋でもあるからね、この気持ちのまま飛び込んだりっていうのは、ちょっとできないところがあるかもしれない。俺たちはそういう教育も受けてこなかったしね。どんなに仲の良い親友という間柄だって、ここを頼りにつながったりしないもんだ、いつも確かにあるんだけど、確かに存在している、でもやっぱり無視している。これは何なんだろうね? 俺もここを起点にして人と話したことなんて一度もなくて、だけど、霊的な理論でいくと、人間はもともと一個の存在、見た目では、肉体上では、人間はそれぞれが分かれて生きている、それぞれが別個に独立しているように見えるんだけれども、肉眼ではそう見えるだけでね、霊的な部分では、人間はみんなつながっているらしいのね? 魂の部分では。魂はたった一つしかなくて、その一個の魂が、家だったり、人間だったり、動物だったり、木々だったり、草花だったり、虫だったり、今、目に見えているすべてはたった一つのものが変容した姿でしかないらしい、表層的にいろんな形に化けているだけでね。だから、昔の人は、"人"じゃなくて"人間"って言ったんだと思うんだよ。だから、まぁ、俺は、女と目が合うと、そういう意味からして、自分自身を見るような気分になってくる。この目が合ったときの共感覚からね。だからいけそうだと思っちゃうのかなぁ? この、パッと目が合ったとき、パッといけそうな気がしてきちゃう。まぁ図書館の彼女においては、それの最大級を感じたわけで。まぁ、お前がいうとおり、美意識だとか、そういうのもあると思うし、ね。俺だって前日に塩をガンガン食べて顔がパンパンにむくんでいたら、たぶんその日は見送ると思うんだよ」

友達「それはあれでしょ? 例えば、暗い部屋とかで、静かな、シンとした部屋の中で、女が全裸で立っていたとして、何かわかんないけど、そういう状況になっていたとしたら……、それだったら、俺だって、その女の胸を触ると思うんだよ。性欲とか関係なく、ただ目についたから、ただなんとなく触るってだけで。無感情に、性欲とか関係なくね? そのままの空気感のまま動いて、その、何してもいいという状況が許されていたら、だよ? マネキンとか、なんか触っても許されるAV女優みたいな女だとしたら、そういう状況に置かれていたらだとしたらだよ? ただ、なんとなく胸を触ると思うんだけど、たぶん、そういうことを言ってるんじゃないかなぁ……? お前はその部屋の空気感をそのまま外に持ち出しちゃってるんじゃない? そういうのは俺にだってあるし、みんなもあると思うし、みんな、そういうのを抱えてるっちゃ抱えてるとは思うけど、でもそれと現実があべこべになっちゃってたら、やっぱり困ることのが多いと思うけど。その部屋を歩く感じで、この世界を歩き回れてもってところはあると思うんだけど……」

しまるこ「そうね、まぁ、大体そうだと思う。そういうことだとは思うんだけど、だけど、もう少し、これは考える必要があって」

しまるこ「たとえば、どの女も、男と話すとき、"お願いだから、私のことを好きにならないで"っていう顔をしているもんだけど。まぁ、そういう顔をしているのね? 女は、ちょっとでも隙がある笑顔を男に見せてしまうと、男に簡単に自分を好きになられてしまうことがわかっているから、いつも、腰にガーターベルトを巻くようにして、男に好きになられないように、好きになられないようにって、いつも注意深く石橋を叩くようにして男と話してる。笑いすぎないように、でも失礼にならないように、いつもそんな板挟みにあっていて。かといって、へんに冷たくあしらうわけにもいかず、相手も人間だから、ちゃんと優しく丁寧に対応しなければならない。もちろん男に下心がない場合だってある。自分のことを好きにならない可能性だってぜんぜんある。だけど、じゃあといって油断して、最大限の笑顔を見せてしまったら、その瞬間にすぐに好きになられちゃうことがわかってるから、すごく気をつけてる。で、だからといって、亀みたいに閉じこもってると、それはそれで失礼ということになる、向こうにもムッとされたりね。そこで、あ、私、失礼なことしちゃった……。◯◯さんは親切で私に仕事を教えてくれたのに、私、あんまりいい態度を取らなかった……って、いつも反省の毎日というか、そこの塩梅っていうか、そこで揺れているのが女心であり、女の処世術というか、世間を渡り歩く上での女の態度でもある。一応は、社会通念や常識上の建前からズレないように、そこを死守していれば、失礼になるということはないから、つまり、礼儀だけを気をつけていればいいって話になるんだけど。だから、そんなふうに女は生きてるから、礼儀に自己が吸い込まれていってしまっていて、たいていの女は礼儀に自己が乗っ取られちゃってるんだよ。それで、自分のことがよくわからなくなってる。で、だんだんそれが怒りにも変わってくる。私のことをわからなくさせやがって。もうこれじゃあ私が一体何者なのかわからないじゃない! 私ってどんなふうに生きてただろう? 私ってなんだろう? って、それをわからなくさせた原因が男にあると思ってる。だから、すべての女は潜在的に男に対して憎しみを覚えている。なんで私たちだけがこんなふうに生きなくちゃならないだろう? 男はいいよなぁ、ずるいよなぁ、勝手だよなぁ、なんで、私たちばっかり。自意識過剰でバカみたい、自意識過剰なことほど、いちばん恥ずかしかったり、いちばんバレたくないっていうか。

だから、これはエッチだ、エッチじゃないってところにはすごくアンテナを張ってて、(これはエッチなやつだ!)(明らかにエッチなやつだ!)ってわかったときは、ピギーーーーってなっちゃう。それがヒステリックの正体だと思うんだけど。いつもエッチかエッチじゃないって二極のあいだを揺れているから、エッチだってことがわかると、これまでの抑え込められていた部分がそのままひっくり返るのね? 取り越し苦労かもしれないと思っていたことがやっぱり私の思っていたことは正しかった! って、そのときだけは正義はこちら側にあるってはっきりするし、この板挟みのあいだで揺れていた部分が完全に解消され、男どもに散々やりこめられてきたのをこの機会にやり返せないこともない。そういう意味じゃ、たまには逆にエッチなことを言ってもらいたいっていうか、たまにはこちらも優勢な立場を味わってみたいから、逆にエッチなことを言ってもらいたいってこともありそうだけど。

(けっして、私のこと好きにならないでください)

それが相手の男に対してすごく失礼なことだとはわかっているし、こういう気持ちを持つこと自体が、いけないことだと思っていながら、むしろ自分に対し罪悪感を抱えながら、そんなふうに日々、男と接しているわけだけれども。それだけ、男という生き物が油断ならないことは知っているし、男という生き物が、すごくなびきやすい性質だということも知っているからね。まぁ、マッチングアプリなんてものも、女はちょっと登録すると、すごい数の「いいね」が送られてくるじゃん? あるいは、足跡機能なるものがあって、ちょっと相手のページにいってプロフィールを確認していたら、もう読み終える間もなく、その男から「いいね」が届いてきたりする。こんなふうにして、男がどれだけ女に飢えているかということが形としてわかってくるわけだけど。

だから、女は意中の男に対してだけは、本当にぜんぜん違う態度を見せるんだよ。助かったぁ〜! というような、大海原で漂流していたときに孤島を見つけたように、これでやっとこの板挟みで苦しまなくてすむ。胸襟を開くっていうか、もうブラジャーを開いているようにしか見えないんだけど、やっぱり女ははっきりしているね、はっきりしている。あぁそうかって、まわりから見てもね、〇〇さんは〇〇君に惚の字なんだなって、そりゃ外から見ても一目瞭然で、あんがい女の気持ちなんて顔にぜんぶ書かれてあるから、そんなに難しく構えたり、本を読んで勉強するものでもない、大体の人はここで分析が終わるんだけど」

しまるこ「でも、問題はここからでね、あれを見ていると、一つ奇妙なところがあって、あれはね、むしろ自分の方が相手を好きになってしまわないか、好きってことはないんだけど、軽いはずみやアバズレやヤリマンじみた考えとかとはまた違って、女も女でね、女も女で目があったとき、そのままポワンとして、そのまま男に抱擁されて、そのまま男の胸の中に沈み込んでいってしまいそうな、ぜんぜんタイプじゃない、好きでも何でもない男に対してだよ? 気づいたら、そういう男と朝を迎えていそうなところがあるらしいんだよね? 女を見てると、いつもそんな危険と隣り合わせに過ごしているように見える。たまにしつこくナンパみたいに、しつこく口説かれていると、いい加減めんどくさいなんて言いながら、そのままセックスしちゃいそうになる夜もあるかもしれないけれども、そういうのとはまた違って、たぶん、いつも自分を守って、逃げ回って、自分の大事なものを守ろうとして、礼儀正しい態度をとって、いつも右往左往しているから、その反動からか、ある日よくわからないボンクラみたいな男に盛大に自分をプレゼントしてやろうみたいな気を起こしちゃうところがあるらしいんだよね? まぁ、やらないんだけどね、やらないんだけど。気まぐれっちゃ気まぐれかもしれないけど、気まぐれっていうより、気の迷いってやつかな? たまに逃げるのに疲れたのか、ベンチに座るようにして、なんか今までそうやってナシナシって、ナシっていうふうに横にスワイプしていたのが、ある日、突然それが、借金として膨大に膨れ上がっていたものが、一瞬だけ崩壊するようなね。なんだか相手が誰かもわからずに、おじいちゃんだったとしてもお構いなく、ただ、このポワンとした雰囲気のまま、風俗嬢が流れ作業を仕事上で行うようにして、そんなふうに流れていってしまうこともなきにしもあらずでといったところで。風俗嬢やAV女優たちは、それを割り切れてセックスできちゃってるところはあるんだけど、その割り切るっていうのは、この部分を割り切るってことでね。女は、女で、必死に、理性を取り戻そうとして、理性の中に生きようとするんだけど。俺はね、女がいちばん恐れているのはそこだと思う。男にとびきりのスマイルを見せたらヤラレてしまう、というより、女は自分自身のそれを恐れているんだと思う。女はいつも男に対して気をつけていないと、ある日、自分の方から、お願いだから抱いてくださいって口走ってしまいそうで、俺はあんがい、女はそれを恐れているんじゃないかというふうに思うんだよね? べつにぜんぜん好きじゃない相手に対してだよ? 男のそういった粘っこい視線に晒されていると、わけがわかんなくなってきちゃうのかなぁ? ちゃんと股間を食いしばっていないと、気づいたらとんでもないことを言ってそうで。認知症のおばあちゃんなんかだと結構そういう人いるよね? 認知症っていうと、まったく何にもないことを言うわけじゃないと思うんだよ。ふだん自分が思っていることを人間としての制御機能がぶっ壊れてしまっていて、それで本来制御を通るべきだった言葉が通らないでそのままあらわれてるというきらいもあると思うんだよ。たいていの認知症のおばあちゃんって、エロいことばっか言ってんだよね? だから下ネタとか言うと、すごく怒り出すのがそういうことだと思うんだよ。女に『チンコって言って』とか言うと、『やめてください!』ってすごい怒るけど、『私他人が下ネタ言うのはいいんですけど、自分が下ネタ言うのはすごく嫌なんです!』っていって突然ヒステリックになったりするけど、あれは、今まで必死に抑え込んでいたものを、ちょっとこちら側で開けようとするから、ピギーーーってなっちゃって、まぁそれも無粋だとは思うんだけどね。だから、ああいうのは見て見ぬフリをするのがいちばんいいとは思うんだけど。女がヒステリックになるのって、女に対してはならないんだよね。かならず男にだけなる。男に対してだけは私の扉開かないでっていうような、この禁断の扉を開かないでっていうような部分がヒステリーにつながってるみたいで」

友達「それはその女子高生と何が関係あるの?」

しまるこ「何がってこともないけど」

© 2025 しまるこブログ Powered by AFFINGER5