女性研究 タリーズ観察記

タリーズのパートのおばさんと若者のファッションの関係

タリーズに一人、異様におしゃれな男店員がいる。見た目は27歳くらい。ヤンキー風であり、少し強面のきらいがある。

スナフキンが被っているような形状の紫のハットを被り、青と白のややくたびれたヨレ感のあるポロシャツの上に、テーラー東洋のスカジャンを羽織っている、背中に二匹の鳳凰が飛んでいる折り紙つきだ。パンツはミリタリー系のリップストップ生地の6分丈であり、そのためラルフローレンのソックスの色彩がきいたポニー刺繍を見せることに成功している。靴はミカエルフォッグのパラブーツ。バッグはミステリーランチのミニサイズのショルダーバッグを肩にかけている。

毎度、ミツバチがその命と引き換えるように、一射絶命のようなファッションを毎日のようにして出勤してくるが、今日のポイントは、バンドカラーのロングシャツをレイヤードして、ソックスにアメトラなラルフローレンをチョイスしているところだろうか。ヤンキー服に詳しくない店員や客から見ても、これは完成度の高い抜き差しならないファッションに違いないとわかるものだった。

「いいじゃない!」

とパートのおばちゃんが感嘆の声をあげた。こういうとき、どこからホルンを吹いている妖精みたいなおばちゃんが現れる。おばちゃんは、「アチチ! アチ!」と焼かれた鉄板の上を裸足でのっているかのように浮き足だった動きを見せていた。

ホホホイ♪  ホホホイ♪  ホホホイ♪  ホイ♪

中世の貴族の宮殿生活においては──

貴族の宮殿生活においては、各々が役職様式を忠実に守り、礼儀めいたしゃっちょこばった一日の流れを守っていないと、正気を保てるものではないとゲーテは述懐している。まるでオーケストラの演奏がなされているようだったと振り返っている。

タリーズにおいてもそうかもしれない。とくにタイプということでもなく、若い男がオシャレをしてくるだけで、色めき立つような、生活に風穴を開けてくれるような、天変地異のカケラを見出す思いなのだろう。無論、夫がこんなファッションをしようものなら、その金の出所をつきとめようと鬼のように髪を振り乱し、切れた黒縄の先っぽのような見た目となりながら、彼女もまた奇抜なファッションをしていると言えるだろう。異なる炭素生命体が、ちがった衣装を身につけるというだけの話なのに。

その反面、男性店員たちはというと……、一筋縄ではいかないような顔をしていた。仕事中はちゃんと制服を着ているし、真面目に仕事をこなしているから、誰も文句は言えないはずだ、そういうことになっていたはずだよな? と、何度か頭の中で反芻し、遠いものと交信して確認をとるような所作を示した。やはり少し怖いのと、生物としてのヒエラルキーを否応にも感じさせられてしまうので、できれば通勤中に事故でなくなってほしいというのが本音らしかった。

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