友達「最近アプリでメッセージ交わしている女の子がいてさぁ、『好きなタイプとかある?』ってメッセージ送ったら、リヴァイ兵長が好きって返ってきたんだよね」
しまるこ「相手何歳?」
友達「29」
友達「29でアプリの男に好きなタイプは?って聞かれて、進撃の巨人のキャラクター出す?」
しまるこ「29歳でリヴァイ兵長が好きって言ってるってことは、リヴァイ兵長が流行ったのは、もう7、8年前とかだから、少なくとも、21とか22の頃にリヴァイ兵長が好きになって、それが今でも続いてるってことでしょ? かなりの筋金入りだね。その間にたくさん漫画のキャラを見てきたのに、やっぱりリヴァイ兵長がいちばん良いと思っているんだと思う」
友達「なんで俺の写真見てOKしたんだろうね」
友達「29歳でさぁ、アプリの男に好きなタイプを聞かれて、リヴァイ兵長って言う? 恥ずいし、男の方もハードル上がるしさぁ、まぁ好きなタイプを聞いた俺も俺なんだけどね、そんなことあんま聞かないほうがいいような気もすんだけど」
しまるこ「じゃあ、リヴァイ兵長みたいにならなくっちゃ」
友達「ハゲてるから毛量が足りねーわ(笑)上部分が足りてなくてサイドだけは豊富にあるから、リヴァイ兵長と真逆の髪型になってる(笑)」
しまるこ「精神的に」
友達「精神的にって、無理があるでしょ」
しまるこ「強いってのがいいんだろうね、弱かったら、ぜんぜん話が違ってきちゃうもんね」
友達「ちょっと無敵感が出過ぎてたね」
しまるこ「背が小さいのがプラスに出てたね。大きかったらあんなに人気出なかったと思う。あの頃は、背が高い男よりも背が小さい男の方がモテるような追い風すらあったような気がする。背の小さい男たちにも一種の希望を持ち出してくれたね」
しまるこ「リアルだとどんな風に置き換えられるんだろ? バスケで言ったら、コートの一番後ろでダムダムとボールをつきながら、『お前ら、まずは落ち着いて一本取りに行くぞ』って言って、小さくパス回ししていくPGみたいな?」
友達「宮城リョータじゃん」
友達「いちばん存在感が出てるっていうね」
しまるこ「当時はあの髪型流行ってたし、リヴァイ兵長がその火付け役になった感はあるよね」
友達「いや、リヴァイ兵長は後だったと思う。世間であの髪型が人気で始めた頃に、リヴァイ兵長が出てきた」
しまるこ「じゃあ、リヴァイ兵長の方が後出しか。ちょっと格好悪いね」
友達「あのキャラで流行を真似していたと思うとね」
しまるこ「やっぱり、ああやって、ツッコンでくる男の方が良いんだろうね。『おい』とか『お前』とか、『何やってんだ』『アホ』『ど阿呆』」
友達「最後流川が混じってた気がするけど」
友達「なんでさっきからスラムダンクの例えが多いの? 進撃の巨人ですら古いのに、もっと古いところ持ち出されると、時代感覚狂っておかしくなってくるんだけど」
しまるこ「あとちょっと漫画のキャラといえどもタバコは吸わないキャラのほうがいいみたいになってるよね。五条悟もタバコ吸わないし」
友達「ひょっとして、呪術廻戦の五条悟も好きなんじゃないかなぁと思って、『五条悟とか好き?』って送ってみたのね、そしたら『好きです!』って返ってきた」
しまるこ「今だと、五条悟がリヴァイ兵長の代わりを担っている感じだね。どこに行っても、五条悟、五条悟。男も女も、五条先生!って、自分の先生みたいに自慢して回ってる。出前館でコンビニ行ったりガスト行ったり、ココス行ったりしてるけど、どこでも五条悟の等身大パネルがあるよ」
しまるこ「リヴァイ兵長は小さいからまだいいけど、五条悟の等身大パネルがあんなにあちこち用意されちゃあ、そのたびに世間の男は卑屈にならなきゃいけなくなるよ。コンビニに入るたびに卑屈な思いになって入らなきゃいけなくなる」
友達「心眼の宇水と変わらないじゃんね(笑)」
しまるこ「変わらない変わらない(笑)」
しまるこ「もう目隠ししてデートに行けよ(笑)」
友達「もう五条悟も終わりかけてる気がするけどね」
しまるこ「次は心眼の宇水がきてくれると嬉しいんだけど」
友達「ちょっと、リヴァイ兵長が好きって言う女とは会いに行きたくないわぁ」
しまるこ「どんな女性でも、恋愛強者の女性でも、リヴァイ兵長はまあまあ好きなんじゃないかな? ああいうの好きになる子は少なくないだろうね」
友達「そうかもしれないけど、付き合うとなると、リヴァイ兵長って疲れそうじゃない? 自由闊達に、なんでも言い合えるほうがよくって、よく屁をこき合うカップルなんて聞くけど、そういう風の方が長続きする感じがするけど?」
友達「憧れで付き合った関係って長続きしないじゃん。ちゃぶ台で臭い飯を食い合える関係の方が長続きする感がない? 臭くなくてもいいんだけど」
しまるこ「どんな世話焼きの女性だとしても、ツッコまれたいと思ってるもんだよ」
しまるこ「女は基本的にツッコむよりもボケたがっているらしい。出会い系のテクニックサイトなんかには、『女にツッコむようにしろ』と書かれてある。女にボケらせて、男はツッコミ側に回れってこと。確かに少女漫画においても、女がボケたり、落ち込んだり、変に明るかったり、ドジだったり、そういうときに男がツッコむシーンが多い。ツッコミというより、カバーと言った方が適当かな。女の心の揺れ動きを男が完全なタイミングでカバーしてる。っていうか女は揺れ動いているだけだ。少女漫画は女の願望がすべてパッケージされていて、このことから、やっぱり女はツッコまれることを望んでいると考えられると思う」
友達「まぁ、女は身体の構造上、ツッコまれる方だしね」
しまるこ「男は、彼女が世話好きだったとして、僕のことを何でもカバーしてくれて、ツッコンできてくれて、それを楽しんでやってくれている。僕と彼女はとても相性が良くて、うまくいっているなぁ! と思い込んでしまいがちだけど、それでも、すべての女はツッコまれることを望んでいると思う」
しまるこ「家にさぁ、母親と姉ちゃんが、トイレの本棚に少女漫画を溜め込んでるけど、お前もうちのトイレ見たことあるでしょ?」
友達「うん」
しまるこ「母親も、姉ちゃんも、うんこしながら、そのロマンチックなシーン読んでると思うと、笑えてくるんだよね」
友達「(笑)」
友達「そのツッコミはいらないツッコミだね」
しまるこ「そう。リヴァイ兵長だったら、『お前よくクソしながら少女漫画読めるな』って言わないと思うんだよね。その辺のデリカシーをわきまえてる。だからツッコミって難しいんだよ。バカだと言わなくていいツッコミを言っちゃう。相手のほしいツッコミだけを言えなきゃダメなんだね。リヴァイ兵長も、五条悟も、欲しいツッコミをくれそうなキャラじゃん」
友達「そう? リヴァイ兵長だったら、『お前よくクソしながら少女漫画読めるな』って言いそうだけどなぁ。今、サシャにそれを言ってる絵が浮かんだもん。女もそれくらいだったら、顔を赤くして、もう! デリカシーないんだから! フンって感じの、」
しまるこ「ならないならない(笑)」
友達「いや、これに関しては俺の方が正しいと思うけどなぁ」
友達「『よくクソしながら少女漫画読めるな』っていうのは、ちょうどいいぐらいのツッコミじゃない? ちょうどリヴァイ兵長がやるレベルのツッコミだと思った」
友達「お前が想定しているリヴァイ兵長のツッコミレベルは低いと思う。リヴァイ兵長はもっとドSだぜ?」
しまるこ「そんなにリヴァイ兵長に対して理解力があるんだったら、もうその女余裕だろ(笑)」
友達「(笑)」
しまるこ「俺だったら言わないけど、言ってしまっていい範囲かねぇ?」
友達「なんだブレブレじゃん」
しまるこ「(笑)」
しまるこ「リヴァイ兵長はその辺、迷いだけはなさそうだね」
友達「迷いがないってことは、デリカシーがないってことじゃん? 鈍感で気づかないってことじゃん」
しまるこ「まぁ」
友達「そうすると、ぜんぜん女心に気づかないダメ男ってことになるじゃん」
しまるこ「まぁ」
友達「ガバガバじゃん」
しまるこ「まぁ」
友達「でも、実際さぁ、ゾロやリヴァイ兵長みたいな男がリアルでいたとしたらさぁ、会話にならないんじゃない? 女と喋んなそうじゃんあいつら。だとしたら、女の方からツッコみにかかるの? 自分から行かないでしょあいつらも。でもゾロもさ、リヴァイ兵長もさぁ、自分からツッコミに行かないと思うんだよね。ぜんぜんお互い喋んないと思う」
しまるこ「そこは都合の良いように少し置き換えられていると思う。何か困ったりしたときに、『おい』とか、カバン忘れて出勤してきたときに、『何やってんだよ』とか、向こうからツッコンで話しかけてくるように置き換えられてると思う。 言葉数は多くないけど、最初のきっかけは、ゾロやリヴァイ兵長がくれるように置き換えられてる」
友達「ふーん、前提が、そもそもが高い位置にあるんだ」
しまるこ「そこは都合のいいようにカットされてると思う。好きなキャラクターとのことを思い浮かべる時、最初のギクシャクした、馴れ初めの部分から思い浮かべる人なんている? たいてい、馴れ初めの部分がカットされてて、ある程度仲良くなったところから始まってるでしょ」
友達「だからそれを言ってるんじゃん! いちばん初めの部分でツッコミをしてくれないから、始まるもんも始まらないって話をしてるんじゃん!」
しまるこ「怒んなよ(笑)誰が何に対して怒ってんだよ(笑)」
しまるこ「俺は頑固というか、世捨て人というか、思想が自己完結しているというか、そのせいで、俺に正面切ってツッコんできてくれる女性はいなかったけど、ツッコまれた時はちょっと嬉しかったしね。だから、手のかかる青菜に塩みたいな男よりは、リヴァイ兵長の方が頼もしい感じはするね。俺も自分が女になったつもりになって考えてみたところ、リヴァイ兵長の方がいいと思った。俺が女になったつもりになって考えたとき、女の夢遊病に対する気つけ薬のような役割を果たしてくれる男の方がバランスが取れそうなところがある気がした。自分より夢遊病チックな男にボケ倒されて、世話を焼いていたら、どこかでフラストレーションが溜まっていってしまうような気がした」
しまるこ「リヴァイ兵長みたいな男に、任せちゃいたいみたいなところはあるね。意外と字が綺麗そうだし、保険の手続きだとか、子供の給食費とか、家の地図とか書いて学校に渡すとき」
友達「今は家の地図書かないでしょ? Googleマップでなんとかなるでしょ?」
しまるこ「ばかだよね、あれ。毎年渡されてきてさ。去年も一昨年も書いたじゃねーか。一年ごとに住所変わるかよっていう話で。毎年、新学年になると、夜遅くに、母親が一生懸命定規使って地図作成してたの覚えてるんだけど、リヴァイ兵長だったら、『何やってんだよ』『貸してみろ』って言って、サッと書いちゃいそうなんだよね」
友達「 ウォール・マリアの壁の位置については、詳しかった気がするわ」
しまるこ「ただ、どこか洗脳されている気はするね。みなさん。今はこういう男がトレンドです、失敗はなく、約束されてますから、ぜひみんなで安心して五条悟を好きになってくださいって、誘導されて当てはめられている気がする。感情を指定されている気がする。果たして、みんなが騒いだりメディアに指定されなかったら、もちろんまったく心に響く要素がなかったら騒いだとしても結実はしないんだけど、一人で漫画読んでて、リヴァイ兵長や五条悟に行き着いたんだろうかね? いつも象徴としての男キャラが用意されてなければならなくて、それはリアルより2次元の方が適当だったりする、毛穴がないからね。単純に象徴があるのとないのとでは全体の士気に関わってくるから、やっぱり欲しいんだよ、象徴は」
しまるこ「その象徴となる恋愛対象になるキャラは、ロロノアゾロ、トラファルガーロー、リヴァイ兵長、五条悟、みんなツッコミキャラでしょ」
友達「ルフィーはやっぱりダメなんだね」
しまるこ「ルフィは、確かにルフィは頼れる船長として、『私の船長、いい船長だよ』ってみんなに自慢して回るにはいいかもしれないけど、でも付き合うのはゾロが当然みたいになってる」
しまるこ「ルフィという、四皇で、うなぎのぼりの、まるでライブドア時代のホリエモンみたいに新時代を切り開くキーマンみたいなカリスマ性のある上司がいて、恋愛の担当はゾロということになっている。それに加え、可愛いペットのチョッパーがいてくれて、恋愛相談役のお姉さんとしてロビンがいたりして、ブルックとフランキーがいつも笑わせて楽しませてくれる。良い船長がいて、良い恋人がいて、良い仲間がいて、私を楽しませてくれる。少女漫画見ているといつもそうだよ。他者に役割を指定している。みんなに対してそれ以外の役割はしちゃダメということになっている。第一希望のゾロがいて、その二番手の存在のトラファルガーローが追いかけてくることも、自分自身が心を揺らぐことになる相手すらも指定している。ルフィはそこに入ってきちゃダメということになっている。ルフィはあくまで良い船長でなければならないということになっている。都合のいいように心を揺らがせたいからだ。アーロン編で、あれだけのことをしてもらったナミですら、自身をナミに自己投影して、なぜかこの時、ナミの存在は消されていて、自分がナミの位置に置き換わっているんだけど、」
しまるこ「自身が、麦わらの一味に乗船したつもりになったとしても、やはりゾロなんだ。やっぱりルフィはツッコミタイプじゃないから恋愛対象にならない。アーロン編であれだけのことをして助けてもらったのに、他者とのあいだに完成された人間関係の構図を当てはめるけど、それは完成されているようだけど、そうやってすべてに満足して、ああ、私たちの一味は本当にいい一味だぁ、と揺蕩う海外線を鼻歌まじりに恍惚して見つめるけど、恋愛対象になれなかったルフィの気持ちまでは、考えが及んでないんだ」
友達「ルフィだって、普通にいたら、めっちゃすごいと思うけどね」