ドトール観察記

最後のドトール

さて、最近は引っ越しの準備でバタバタしていた。やっと今いろんな手続きが一通り終わって、夜の20時にドトールにやってきて、記事を書いているところである。

俺は800記事ぐらいブログを書いてきたわけだが、その9.8割はこのドトールで書いたものである。

さて、フリーランスの話になるが、フリーランスというものは(別に俺はフリーランスでも何でもないがw)朝起きて、顔を洗って、シャワー浴びて、コーヒーを淹れて、そこから自分のデスクに座って作業を始めるという強者がいるようだが、なかなかそうは問屋は下さない。インフルエンサーのマナブ氏は、そんな風に作業を開始しては、そこから作業が終わるまでは、絶対に部屋から出ないと決めているらしいが。

俺はどうもそれが苦手で、朝のドトールの、あの茶色の、店内の、見慣れた店員と、見慣れた客の顔を見ないことには朝が始まらない。まぁドトールは、俺にとっちゃ会社みたいなものだ。

楽しかった。

おそらく人生においていちばん楽しかったのは大学の頃だろうか。授業に出席せず、朝から晩まで寝たり、遊んだり、1ヵ月間部屋から出なかったりしたこともある。あの時期がいちばん楽しかった。許す限り自分のために時間を使える時期だった。

普通は、あの大学の時期が過ぎたら、あの人生の夏休みみたいな時期はもう二度と訪れないと相場が決まっているものだが(次に来るのは年金生活の頃だろうか)、俺は仕事を辞めてから焼津にやってきて、4年間ずっと大学生のような生活をしていた(4年制という意味でも共通しているw)。学校に行く手間が省ける分、それはさらに洗練していた。もちろん、まだまだ続ける気だし、死ぬまでこの生活を続ける気でいる。

大学の頃より今の生活の方が楽しいと思うのは、大学にすら行く必要もないこともあるが、やはりドトールのおかげが大きい。親しく話す店員や客がいるわけでもないが、俺のもう一つの家だった。いつも決まった時間に来て、決まった席に座り、3時間も4時間もボーッとする。ボーッとしているかと思ったら、急に一心不乱にA4用紙に10枚も20枚も書き出したり、4年間毎日休まずにそうやって過ごした。

日に2回も3回も行くこともあった。他のカフェを利用してみたが、どうも落ち着かない。ドトールじゃないとダメなのか? と思って、他のドトールの店舗を利用してみたが、どうもこの店舗じゃないと落ち着かず、気がソワソワして席を立ってしまう。

カフェなら何でもいいわけじゃないらしい。ドトールなら何でもいいわけじゃないらしい。何が違うんだろう? なぜここのドトールがそんなに好きなんだろう? まぁ、習慣になっているだけかもしれないが。この、窓から差し込んでくる、大きな日差し。背の高い街路樹が立ち並んでいる姿、いつもお決まりの席からこれらを眺めているのが好きだった。どこだろうと、日が差さない場所はゴメンだ。ゲーテの最期の言葉は、「もっと光を……!(Mehr Licht !)」だった。なんて素敵な言葉を残して死んでいったことか。ゲーテもおそらくは日光を浴びながら仕事をしたはずだ。そう思ってゲーテの部屋の絵を調べてみたら、机を壁に向かい合わせて配置してあった。これはどういうことだろう? ヴァージニアウルフは、ほとんど日差ししかない部屋で仕事をしていた。ヴァージニアウルフのような部屋が理想だ。もう公園でやれよと思うかもしれないが。

(ヴァージニアウルフの部屋)

自然を眺めながら作業するのは楽しいが、俺はどちらかというと、人が働いているところを見て作業するのが好きだ。いつまでも見ていられる。

熊谷守一さんは、「私にはいっぺんの石ころさえあればいい。それさえあれば1ヶ月間ずっと遊んでいられる」と言ってたが、対象を引き出す目があれば、石コロでさえも、ゼルダのブレスオブザワイルド以上のおもちゃとなり得る。

しかし俺は、石ころのような無機物じゃダメで(無機物では無いだろうが)、動いているものじゃないと厳しい。虫やハムスターも役不足で、猫か、できれば人間がいい。人間を見ていると落ち着く。特に、働いている人間を見るのがいい。

ということもあり、この前、コワーキングペースというところに初めて行ってみた。働いている人間がいるからである。

コワーキングスペースは昨今需要があるようで、静岡県内でも、どんどん作られている。隣の藤枝市では、9月に1件、10月に2件もオープンする。どうやら、フリーランスやインフルエンサーやらリモートワーカーやらの駆け込み寺となっているようで、自宅で作業に集中できない意志の弱い人間が集まってくるらしい。じっさい行ってみると、若い産業だけあって、若い連中しかいなかった。25歳くらいが中心だった。とても広い施設だったが(2階まである)、3人しかいなかった。平日と休日どっちが混むのかよくわからない場所だが、今回は土曜日に行った。平日の方がもしかしたら混んでいるのかもしれない。

施設内は、確かに仕事がしやすい環境が作り上げられていた。俺がふだん座っているアーロンチェアと比べるとゴミみたいな椅子だったが、まぁ及第点だ。しかし椅子や机の作りで言えば、カフェの方が優れている。スタバやタリーズやデニーズは座り心地がいい。ドトールはまあまあ、ガストやコメダはクソだ。

カフェで作業していると、すぐにケツが痛くなってくる。そういう時、頻回に立ち上がりたくなるし、ほっつき歩きたくなるものだが、コワーキングスペースだと、好きなだけほっつき歩ける。スタンディングデスクがあるし、軽く運動できるスペースにバランスボールなども置かれてある。作業用の机や椅子と、休憩用の机や椅子が分かれて置かれてある。談話室まである。ドリンクサーバーもあるし、動画撮影できるスタジオまでついてる。そういう意味じゃ、確かにドトールより作業が捗りそうだ。

しかし、静か過ぎる。これじゃあ図書館と変わらない。いや図書館よりもずっと静かだ。これはちょっと俺にとって困るところで、静か過ぎると葬式みたいでソワソワしてしまうし、音声入力がやりにくい。俺が行ったコワーキングペースはとても広い場所だったが、いちばん端っこで小さな声で音声入力しても、反対側の端まで聞こえてしまいそうなくらい静かだった。

それと、もう一つ、どうも利用している客層というのが気に入らない。まず俺より若いことが気に入らない。先ほど言った通り、20代半ばの男女が集まっているわけだが、俺は、あまりコワーキングスペースを利用しようとする女が好きではない。

確かに、25、6歳の若い、旬な女の子がチラホラいたが、カフェに来る女の子たちと違って、アナウンサーみたいな格好をしているのがつまらなかった。別に会社じゃないんだから、もっとカフェっぽい格好で来てもいいだろうに。PTOに合わせてか、Googleの社員が着てそうな、つまり私服出勤が許されている会社に着ていくようなファッションをしている女たちばかりで、つまらなかった。

顔つきからして、学生やOLやドトールの店員と明かに違う。いかにも意識が高そうである。パッと通り過ぎるときに画面をチラ見したところ、案の定、WordPress(ブログ)のレイアウトやら、Final Cut Pro(動画編集ソフト)が見えた。まぁ、画面を見なくても、遠くから見てもわかる。ブログやYouTubeで食っていこうとしている連中は、遠くから作業をしているところを見てもわかってしまうものである。

みんなアップルのAirPods Proを耳につけて、MacBook Airを開いて作業して、と、定番通りだった。ちなみに俺はBOSEのQuietComfort 45のヘッドホンをつけて、MacBook Proを使用している。俺の方が使っている道具も、発信内容も高度のものを取り扱っている。

彼女たちは明らかに普通の女の子たちとは違っていた。やってやる。出世してやる。副業で10万、いや5万でいい、とにかく稼ぐんだ! パソコン一つで私は不労所得を生み出すんだ……! と目が血眼になっており、ルックスは決して悪くはなかったが、およそ性的という面では、魅力が損なわれていた。

働かないで生きていくためにどうすればいいのか、と考えに考え抜いて、叩き出した自分の結論を、マーフィーの成功哲学にあるように、何度も頭に思い浮かばせて実行することによって、叶うと信じて疑わない顔をしていた。

ドトールにこんな女はいない。やっていることで言えば俺に近い。話でいうなら彼女たちの方が話は合いそうではある。やっていることは似たようなものなのだから。

ここに男女差を持ち込むつもりはないが、性的な観点でいうと、この手の女の子にはあまり性的な魅力を感じない。それは賢い生き方だと思うし、挑戦意欲も素晴らしいし、会社に隷属して他人の仕事を手伝っていたってしょうがない。自分の思うところにしたがって人は何でもやってみるべきである。俺が女だとしても同じことをすると思う。

しかし、彼女として考えると…、うーん……となってしまう。向こうだって、12個も年上の男なんて嫌だろうけどね。なぜだろう? 別にライバルというわけでもないし、俺より若くて、俺よりチャンネル登録者数が多そうなのが気にいらないのか? 俺が血と汗と才能を駆使して発信しているのに対し、せいぜい化粧道具を綺麗に映して編集しているだけの動画の分際で、俺より儲けていると殺したくなってしまうのか? まぁこいつらのチャンネル登録者数は知らんが。俺より多そうではある。

コワーキングスペースは受付とやりとりする必要はなく、スマホ一つかざして入退室できるから、塾の自習室にように、ふらっとやって来て、ふらっと去っていく。利用者は、お金払ってるんだから当たり前だし、という顔をしながら、ドリンクサーバーなりプリンターなり、置かれているものを全て自分の持ち物のように利用している。なんとも可愛げがない。女が部屋で一人で過ごしている時、こういう顔をしているんだろうと思わせる顔だ。

おいおい、これ以上の出会いの場なんてないぜ? これからはコワーキングスペースがお見合いパーティや出会い系アプリに代わる代物になってくるだろうに。学校や会社の代わりになるんだから、そういうことだ。

カフェと違って、月額制というものは人をこういう気分にさせる。使わなきゃ損というように、出し惜しみなく、ドリンクサーバーからコーヒーを吸い上げる女を見ながら飲むコーヒーはまずかった。まぁ、それは、毎日ドトールでコーヒーを飲んでいる身として、ここのサーバーのコーヒーが信じられない不味さであることも大きかったが。

これは同族嫌悪か? なぜ彼女たちを見ているとムカムカしてくるんだろう? ドトールと違いすぎる。ドトールの女の子たちは俺にコーヒーを淹れてくれるけど、コワーキングの女は俺にコーヒーを淹れない。それどころか、もったいないと言って牛飲している。俺は、女は黙って男にコーヒーを淹れるものだと思っているのか? 

ちなみにこのコワーキングスペースの月額は12000円だった。12000円も払っていれば、そりゃ牛みたいに牛飲したくなるのかもしれないが。なかなかに高い。家で作業すればタダなのに、本当に、家でやれよなぁ?(笑) 

水野敬也氏は家で一人で作業していると、どうしてもオナニーをしてしまうために、アシスタントを一人雇っているらしい。「君にやってもらう事は一つもない。君は僕がオナニーをしないように、そこで漫画を読んでくれていればいい」と言って、それだけのために高額のアシスタント代を支払っているそうだ。イカれた話だと思うかもしれないが、誰だってテスト勉強したことはあるだろうから、この気持ちがわからないということもないだろう。フリーランスというものは、ずっとこのテスト前の状況が続くことをいうのだ。

俺にとっちゃ、何をどう書くかよりも、場所と時間の方が大きな意味を持つ。

俺はスタバもあまり好きではない。やはりあまり意識が高そうな人間が集まるところは好きではないらしい。サンマルクカフェも行ってみたし、タリーズも行ってみた。富士川楽座という富士山の景色を眺望できる場所で作業してみたり、確かにそれは申し分ないほど素晴らしい眺めだったが、俺にはあまり関係なかった。人間を眺めている方が好きなのである。

急にふと、なぜだかわからないけど、賃貸物件をチラチラ見ていて、引っ越したいと思うようになった。思ったら吉日というか、なんの迷い間も無く、パッと見てパッと決めて、パッと引っ越してしまった。一週間足らずで、全てが完了してしまった。

俺は焼津を気に入っていたし、別にこのままずっと焼津に住んでいて構わないと思っていた。何も不満はなかった。不満があるとすれば1Kということだろうか。一部屋だと、ちょっと厳しい。生活空間と仕事空間が一緒になってしまってメリハリが出ない。防音ルームの小部屋も作りたい。そういう希望もあって、もう少し大きな部屋がないかとは思っていた。防音ルームが作れれば、車を持つ必要もなくなる。

最近は家でも作業するのが好きになってきたこともあり、別にドトールじゃなくても作業できるようになった。作家の保坂和志先生は、若い頃はカフェで作業していたが、40過ぎてからは、自室でなければ作業できなくなったと言っているし、なんなら無音じゃなければダメになったとも言っている。俺も、なんだか最近は家の方が落ち着いてきているところはある。しかし、家といっても、生活スペースと仕事スペースを分けた方が切り替えができるし、完全な仕事部屋を構築したいという思いがあった。俺の部屋は作業に専念するように作られているように見えるが、8畳一間に生活空間と仕事空間と一緒だと、どうも気持ちの切り替えができない。ぜんぶ俺の意志の弱さによるところだけどね。その前にお前ぜんぜん更新してねーじゃんって話だが。

というわけで、今度の家は、家賃は13,000円ほど上がってしまうが、25平米の1Kから、60平米の2LDKとなる(笑) 約3倍の広さ(笑) この広さを使って何か面白いことをするつもりだ。

これじゃあ上級ミニマリストは名乗れないと思うかもしれないが、新しいマンションは実家に近いので、お姉ちゃんの車を借りられるので、車を持たずに生活することができる。仕事の時だけ車を借りる予定でいる。その結果、年間のランニングコストは低くなる。なんと、甘えてばっかの人生だろう! 

少なくとも、ここでは、4年間の孤独を紛らわしてくれた。このドトールで過ごす時間が、これまでの人生でいちばん幸せな時間だった。

毎日、来ていた。俺が来なくなったらすぐに気づくだろう。卒業式のような寂しさを感じる。店員は外を歩いている俺の姿が視界に入ると、そこでアイスコーヒーを作り始めるのだ。今、目の前にいる4人の女の子たちはみんな新人の頃から見てきたし、なんなら店長と面接していたところから見ている。4年間で、店長も3回変わった。スタッフ同士の仲が良いのがいい。麦わら海賊団のように仲が良い。大学には行かなかったようだが、大学みたいなもんじゃないか。彼らが大学生のようにドトールでキャンパスライフを過ごしたというのなら、俺もまた同じだったというわけさ。

女の子たちもかわいい。やはり高校卒業した後、自分の道がまだよくわからず、大学に行こうか専門学校に行こうか、よくわからない。お金もない。就職もしたくない、とりあえずフリーターやろうか、そうやって消極的な理由からドトールを何となく選択し、静かに毎日が過ぎていき、静かに歳をとっていくわけだが、なぜか俺はこういう女の子たちのことを眺めながら仕事をするのが好きなのである。およそ、コワーキングスペースで働く女の子たちとは正反対である。

俺は4年間、彼女たちの事ばかりを書いてきた。それは皆さんがよく知っているだろう。寂しくなる。寂しい。一回も話したことはないのだが。急に、導かれるように、新天地に向かいたくなったから仕方ない。別れとは、こういうものだ(新天地と言っても実家から30分のところだけどね、むしろ帰省である)。

自分で下した結論ではあるが、果たしてこれが良いかどうかはわからない。じゃあこのままずっとこの焼津のドトールにいるかといったら、ねぇ?(笑) 別にいてもいいいんだが、何かふと、新しくやってみたい、新しく飛び込んでみようと思ったのである。

まぁ焼津のドトールじゃないとダメっていうんならまた戻ってくればいい。そしたら、俺はジジイになって死ぬまで、焼津のドトールじゃないと作業できないってことだ。焼津のドトールが潰れたら俺も一緒に潰れるだけだ。

しかし、新天地へと向かう俺を天がお膳立てするかのように、いろいろなメリットが重なった。怖いくらいにたくさんのメリットが重なったので、紹介する。

1、誕生日であること。

俺は10月1日が誕生日なのだが、別に誕生日を契機にというわけでもないのに、9月27日にふと引っ越ししようと思って、5日足らずで引っ越しを済ませてしまった。

2、自営業のお客さんの近所であること

大豪邸のお婆さんの家に、3人の利用者さんを集めてマッサージをしているのだが、新住居は、そのお婆さんの家から歩いて5分くらいのところにある。まぁ俺はこれまで1時間30分かけて、このお婆さんの家に来ていたから、その方が異常だったわけだが。

3、出前館のブースターシステムが新しくなり高単価になること

出前館はエリアによって単価が異なり、ブーストというものが発生するエリアでは、一回の配達で1500円〜2000円くらいもらえる。一時間で3、4件回れるので、そうなると時給が6000円以上になることもある。まぁ、なんとも信じられない話だが、ピークタイム時にはこういうことが起こる。

4、楽天ひかりの1年間の無料期間が9月30日で終わったこと

5、ドトールのポイント残高がちょうど0円になったこと

6、欲しかったカリモクのソファーが10月4日から値上げすること

7、部屋の出入りに指紋認証を使えるようになることを知ったこと

最近知ったのだが、こういうアイテムがあるらしい。焼津のマンションは暗号キー入力だっため、鍵を持たなくて済んだので、それがとても良かった。もう鍵を持つ生活には戻れない。しかし、このスマートキーを取り付ければ、ドア式のものであれば賃貸でも指紋認証できるようになるらしい。あるいは車のロックのように、スマホを忍ばせておけば、自動でロックが解除できるものもある。

8、友達がニートになってしまい、心を病ませていること。頻回に外に連れ出してキャッチボールをさせてあげなければならないこと

9、ジムや道場、バッティングセンター、堤防

また、ボクシングジムや剣道道場なども近くにあることから、焼津ではどうしてもこういう場所を利用できなかったから、それがいちばん楽しみではある。あまり部屋にこもっていると気も滅入ってくるからね。打ち放題のバッティングセンターや草野球サークルみたいのもある。友達との距離も近くなるし、堤防のようなところでボールの投げ込みもできる。

10、一年ほど前に辞めたパートのおばさんが戻ってきた

よくブログで、ドトールのパートのおばさんの記事を書いていたが、そのパートのおばさんは、一年前くらいに退職した(だから記事には登場しなくなっていた。普通この手のおばさんはいつまでも辞めないものだが)。しかし、なんと最後の日に、おばさんが戻ってきたのである! このパートのおばさんは、仕事ができすぎるあまり、店長をいじめてばかりいるから、スタッフに畏怖され、店長にも畏怖され、俺も畏怖していたのだが、最後にもう一度会えてよかった。

これらの、どれも一つも意識したわけではなかったのだが、これらの条件がすべて重なったことにはびっくりした。

つまり、ドトールと別れる以外はメリットばかりなのである。まぁ、このままずっとドトールに居たって、付き合えるわけでもないし、ねぇ? ほんとに俺は引っ越すつもりなんて全く1ミリにもなかったのに、どうしてだろう。ふと思いついて、なんの迷いもなく、5日足らずで、全ての手続きや引っ越しを終わらせてしまった。

さて、最後のドトールになるのだが。

さっきから、外人の女がずっと俺のことを見ている。ヨーロッパ系か、アジア系か、よくわからない。わかるのは外人ということだけだ。歳は27歳くらい。すごい熱量の視線だ。いったん目が合うと、俺の方がそらすまで離さない。4年間でこんな事は初めてだ。彼女に「出よう」と耳打ちすれば、ついて来るだろう。それは間違いない。最後にまさかこんなイベントが用意されているなんて。

俺は外人にモテるところがあるのだが、これに関しては言えばみんなそうだろう。日本人は海外ではモテると言われるが、その分に漏れず、俺も高校の修学旅行でハワイに行った時、よくモテた。外人はオープンだから、分かりやすい形ですぐに好意を示してくてる。このブログに来ていた小川さんも、スウェーデン人女性とだったら付き合えると言っていたが、あれはあながち嘘ではない。

タイに行くと、タイ女性とすぐ付き合えるというし、台湾に行ってもそうだと聞く。俺も体感として嘘ではないと思う。外人はアクティブだし、そもそもなぜか日本人というだけで、リスペクトされたり好かれたりするところがある気がする。

そういえば、このドトールに4年間いて、一人だけ仲良くなった客がいる。その人も外人だった。「お兄さん今日も頑張ってるね」と、俺を見かけた時は必ず声をかけてくれた。40歳くらいの女性だが、やはり外人と言うものは声をかけることに抵抗がないらしく、俺を見かけると同時に声をかけてくれた。「ねぇ! 彼にコーヒーを買ってあげたいの! 店員さん! 彼に最高のコーヒーを作ってあげて!」と大声で叫んで、俺にコーヒーを奢ってくれたことは忘れない。他の客に声をかけることはなく、俺にだけかけてくれたのは嬉しかった。最後にあの人にだけは挨拶したかったが、今日は見えない。

やはり外人が肝か。外人というか、外人の持つ精神性ね。ほんとに日本人というのはシャイなもんだ。条件が揃ってやっと始められる。だがその条件の方がずっと難しいのだ。自分で作っている条件だがね。つまり、ナンパができるかどうか。ナンパって言ったって、この外人女性のように、ちょっと声をかけてスタートを切るだけだ。

外人と付き合ったところで、俺は外人を本当に好きになれる自信はあまりない。結局どこまでも違う国の人間だなぁと思いながら年月を重ねる羽目になりそうだ。外人と付き合ったら日本人の女の子ともっと気の合う話をしたいなぁと思い、日本人の女の子と付き合ったら、外人のあの積極さを見習えよなんて思いながら、そうやって、その人が持っていない部分の方ばかり見て過ごしそうになってしまいそうである。

もう二度とここには来ないから、最後に、気になっていた看護学生の女の子(今は無事看護試験に受かって働いているが、いまだに勉強しにドトールに来る)にアタックしてみようかと思ったが、やっぱりできない。この、最後の状況になっても、なかなか跡を濁して飛び去るということができない。といっても、今日は来てないけど。

もう一人、気になる女の子がいる。(女のことばっかりだな……)

「こんにちは」と、いつも笑顔で声をかけてくれる女性店員。20歳くらい。「こんにちは」と言ってくれるのは彼女だけだし、笑顔で接客するのも彼女だけだ。

店ではいちばん若いスタッフだ。いちばん若くて、まだ高校卒業したかそれくらいなのに、笑顔で接客できるというのは凄い。こればかりは、ベテランのスタッフでさえ、店長でさえ、彼女にかなわない。

彼女の前で必死こいて勉強している看護学生もいるが、看護師の資格を取ったからといって、笑顔を出さずに仕事をしていたら、ねぇ? 

愛するものは愛される、か。自分で自分の運気が良くなっていくのである。彼女が分け隔てなく、すべての客やスタッフに挨拶して笑顔を振り撒くから、どのスタッフも客もみんな彼女のことが好きだし、彼女自身も本当に仕事ができるし、それがやりやすい形になっていってるのだと思う。

彼女の未来は明るいだろう。みんなが彼女のことが好きだから、俺だけは逆張りしようと思ったってそうはいかない。やっぱり俺もみんなと一緒で彼女がいちばん好きだ。いちばん競争率が高いとわかっていても、この気持ちに嘘はつけない。彼女と離れるのが嫌だから、渋ってしまう自分がいる。やっぱり笑顔で明るくこんにちはと言ってくれる店員を好きになってしまう。しかし、それが仕事だなと彼女を見ていてわかった。仕事でいちばん重要なのは、笑顔だ。あの笑顔を見ながら仕事をするのが大好きだった。富士山もとても敵わない。

起業家体質の、バイタリティーあふれる女の子というものは、見ていてあまり気持ちの良いものではない。 これからは女の時代になるだろうけどね。俺は恋愛においては古い体質の人間だから、コーヒーを淹れたり布巾でテーブルを拭いたりしている女の子の方が好きになってしまう。 情報社会だというのに、パソコンのパの字もわからずに、時代の迷子になってしまう女の子。フリック入力に関しては俺より上かもしれないが。

「ありがとうございました。引っ越します」と、最後に一言くらい言いたいものだが、結局言わないことにした。

さて、最後といっても別にクライマックス的なものはない。ずっと座っていたらケツが痛くなってきたから、いい加減立ち上がる。そうやっていつも帰る。今日も同じだ。

 

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