女性研究 恋愛 友達との電話シリーズ

女は一緒に生活していても、きれいな格好して高級レストランに行けば取り戻せると思っている

友達「あのさぁ、すっごい不思議なことがあるんだけどさ」

しまるこ「うん」

友達「なんで女って一緒に生活してんのに、一緒に高級レストランでご飯を食べて夜景見れば、取り返せると思ってんのかなってことなんだけど」

しまるこ「ん?」

友達「職場でさ、37歳の女の人がいるんだけど、その人がね、今度旦那さんと高級レストランに行ってご飯食べて夜景見に行く予定を控えているらしいんだけど、それが楽しみで楽しみでしょうがないんだって」

しまるこ「うん」

友達「子供は実家に預けて、夫婦水入らずの時間を過ごすんだって。結婚して5年以上経つらしいんだけど、夫婦間でけっこう罵り合いや、きつい喧嘩も多くて(その人かなり性格が荒い人でね)、風呂上がりはいつもすっぴんで、それなのに、一緒にきれいな格好して高級レストランに行きたくなるっていうのが不思議なんだよね」

しまるこ「『豚平』でいい気がするけどね」

友達「俺も『豚平』でいいとは思うんだけど」

友達「いつもお互いに汚い格好して生活しててさぁ、それが見慣れているわけじゃん? それがデフォルトになってるわけじゃん? なのに、一晩だけオシャレして、高い服着て、仮面舞踏会みたいにさ、着飾ったところでさ、なんか意味あんの?」

しまるこ「なるほどねぇ〜」

友達「それがさぁ、男女の馴れ初めの、初めての出会いだったらいいんだけど、もう嫌というほど、お互いの汚い姿見てきてるわけじゃない? 生活を」

しまるこ「イメージは固まっちゃってるよね、あ、そっか! 俺の作ってたイメージ間違ってたわ! とはもうならないよね」

友達「こたつでみかん食べて、寝巻き姿でじゃがりこ食って、あ、そういえばじゃがりこよりセブンのポテトめっちゃ勧めてたな」

友達「『セブンのポテチ! みんなこれすっごいおいしいよ! もうウチはこのセブンのポテチじゃなきゃぜったいムリ! ほんとうみんな超おいしいから食べてみて! セブンのポテチ食べたら他のポテチ食べれなくなっちゃうから! ヒカキンが勧めてたやつなの! じゃがいもの素材感がよく出てて、じゃがいもをそのまま揚げたみたいな感じなの! カリッとしてて歯ごたえバツグン! チップス系よりも、この素材感をそのまま楽しめる感じが大好きなんだけど、旦那もすっごい好きになっちゃってね! 二人でいつも取り合いになってるの!』って職場でも騒いでたのね」

しまるこ「信じられねー生活感だなぁ」

友達「ハラスメントだよね?」

しまるこ「ハラスメント」

しまるこ「そりゃあ高級レストランでどうこうなる話じゃないわ」

友達「でしょ?」

しまるこ「俺さぁ、『ポテトチップス』のこと『ポテチ』っていう人がちょっとムリなんだけど

友達「寒いよね」

しまるこ「鈍感だと思う。ポテチって響きにアレルギー感じちゃう」

友達「つーか、あれポテチじゃないしね。普通にじゃがいもの原型残している方だからね」

しまるこ「完全にね。でもさぁ、確かにセブンのポテト、あれめちゃくちゃ旨いよね! 俺、あれ三袋買って食べてたもん!」

友達「生活感バリバリじゃねーか(笑) あれ、うまいよね」

しまるこ「マジでうまい! 量が少ないのが腹立つけどね。明らかにセブンのあのポテトがいちばんうまいと思う」

友達「『ポテチ』が嫌だから『ポテト』っていうんだ」

しまるこ「(笑)」

友達「そこがお前の抵抗のゴールなんだ」

しまるこ「いいからはやく続きを話せよ(笑)」

友達「だからさぁ、夫婦でコンビニのお菓子を追求しちゃってるんだよ。それをモリモリ食べてさぁ、最後の一個はジャンケンしたり、黙って最後の一個を食べられたらずっと不機嫌になったりして、子供も隣でちんこ出して走り回っててさ、それで高級レストラン行ってどうにかなるもんなの?」

しまるこ「うーん」

友達「欲情できる? あーこの人かっこいいなぁ、かわいいなぁってなる? もう一度恋人同士のような目で見れる? 定期預金に回した方がいいとおもうんだけど。でも、その女の人は、今からそれが楽しみで楽しみで、その楽しみのために仕事がんばれてるんだって」

しまるこ「いいじゃん」

友達「いいよ」

しまるこ「とてもいいことだね」

友達「いいことだよ。ダメなんていってないじゃん」

しまるこ「ダメって言ってんのとかわんねーだろ(笑)」

友達「(笑)」

しまるこ「まぁ、それで活力になってがんばれるんだったら、それ以上のことはないね」

友達「奥さんの方はそれでいいと思うんだけどさ、旦那さんはさ、ぜったい欲情しないじゃん?」

しまるこ「しないね」

友達「でしょ?」

しまるこ「もともとブスだった女が綺麗になったとしても、やっぱり一抹の失望感は拭い去れない。デブや整形と一緒でね。過去のイメージは覆せない。むかしひどいブサイクだったとしたら、アイドルだって活動不可能なところまで落ちてしまうという世間の無慈悲が立派な証拠だ。男はこれをわかっているけど、女は不思議とみんなこれをわかってないね。一回綺麗な格好すれば取り返せると思ってる。むしろそっちを本当の姿だと思ってる。いつもの生活している姿は仮の姿。あれはあれ。なかったことにしている」

しまるこ「夢も希望もないような話に見えるかも知れないけど、事実は事実だから、自覚はあった方がいいと思うけどね」

友達「自覚はね」

しまるこ「俺達はこの美意識のせいで結婚できないっていう自覚は持ってるんだから」

友達「俺も入ってるんだ」

しまるこ「男はさぁ、それを見て、ああやっぱり綺麗だなぁなんて思わないからね。高級レストラン行くのも完全にサービスだからね。むしろメシ目当てじゃないかな?」

友達「一人で勝手に高級レストラン行ってうまいもん食ったら、怒られるからね」

しまるこ「夫婦や、家族みんなの合意のもとで贅沢するというのは、なんとも自己肯定につながるものだからね。一人じゃ贅沢できない弱さを補ってくれる。一人で贅沢できないから他人を巻き込んでいるとも言える。まぁ今回の件は、ちょっと違うか」

友達「ちょっと違うかもね」

友達「その人は、なんていうかなぁ、もう結婚しているから綺麗になる必要がないって、顔に書いてある感じの人」

しまるこ「なるほど、納得だわ。そういう女に限って、一晩だけシンデレラになりたがる傾向が強い。ふだん薄汚れている生活をしている女ほど、美しさへの憧憬が強い。そしてそれを一晩で取り返そうとする。周りは対応に困るんだけどね」

友達「いつも口調が荒くて、まわりと喧嘩ばかりしてる。発狂して罵詈雑言を浴びせておいて、コロッと忘れちゃうというか。怒ったかと思ったら、次の瞬間には優しくなってるから、本当に難しいよ。いや、逆に扱いやすいんだけどね」

しまるこ「高級レストラン行ってもさ、明日またユニクロ着るじゃんねー」

友達「明日じゃないよ、その日の晩に着るよ」

しまるこ「そうなの? 泊まりじゃないの?」

友達「日帰りなんだって。日帰りっていうか、ディナーだけ」

しまるこ「ディナーだけなの?」

友達「うん」

しまるこ「じゃあ、せっかく高級レストラン行っても、家に帰って、風呂入ってアメトーク見て、セブンのお菓子食って、ダラダラすることになるわけか」

友達「たぶんね」

しまるこ「必要だったのかねぇー」

友達「必要だったのかな? ってなるよね」

しまるこ「うーん」

友達「難しいね」

しまるこ「難しい」

友達「金持ちならいいと思うけど」

しまるこ「確かに」

友達「その人、吉永さんっていうんだけど、吉永さん、今からカバン買ったりワンピース買ったりすっごい準備してる」

しまるこ「へぇ〜〜〜」

友達「仕事もすごいがんばってる。最近すごい機嫌もいいし、話しかけるとめっちゃニコニコした笑顔で返してくれてる。患者さんにも超優しいし」

しまるこ「いいじゃん」

友達「いいよ」

しまるこ「……」

友達「……」

しまるこ「(笑)

友達「(笑)」

友達「単純に疑問なんだけどさぁ、その日だけオシャレして、高級レストラン行ってさ、自分の目が自分で気にならないもんかなぁって思うんだけど」

友達「いつもテーブルに肘ついて食べてんのに、その日だけフォークとナイフで繊細に口に運んだりして、自分たちで何やってんだろうとは思わないのかな?」

しまるこ「っていうか、そのディナーは2時間ぐらいなんでしょ? ディナーってすごい言いたくないんだけど。2時間から3時間ぐらい? その2時間か3時間のためだけに、そんなにワクワクできるっていうのがすごいと思うんだけど。そのための何ヶ月も仕事がんばれちゃうんでしょ?」

友達「うん」

しまるこ「当日は二人で一緒に家を出るの? それともデート感覚を作るために出発時間をあえてずらすの? どっち?」

友達「それはわかんないけど」

しまるこ「あえてずらすにしてもさぁ、デート感を出す為にあえてずらそうとしたら、それはそれで作為感が出過ぎちゃう気がするけど」

友達「まあねぇ」

しまるこ「一緒に家を出るとしたら、まあ、朝8時に起きるとして。10時頃に掃除、洗濯、昼食の準備とか、バタバタやって、そっからデートになるわけなんだよね? お昼ご飯はどうするの?」

友達「家で食べるんじゃない?」

しまるこ「家で食べるんだ(笑)」

友達「子供もいるしね」

しまるこ「じゃあ、それで17時頃に出発ということになるわけだ」

友達「たぶん」

しまるこ「だとしたら、8時〜16時頃までは、いつもと一緒の服で過ごすわけか。二人で録画して貯めておいたテレビ見ながら、時間を潰して、昼は何を食べるんだろう? 餅でも食べるのかな? 冷蔵庫から醤油取ってくんのかな?」

友達「さぁ」

しまるこ「それで、夜だけ、夜だけ! そんなことになってもねぇ〜〜〜〜! なれるもんなの!? そんなに別人になれるものなの!?」

友達「うーん」

しまるこ「で、21時半ごろに家に帰ってきてさ、風呂入って、すっぴんになって、アメトーク見て、アメトーク見てたら小腹が空いてきて、セブンのポテチ食うわけじゃん?」

友達「たぶんね」

しまるこ「なんの意味があったの?」

友達「ね」

しまるこ「最後の『〆』がセブンのポテチだったら、最後に口に残る記憶は、セブンのポテチになるわけだよね?」

友達「まぁ、そうだね」

しまるこ「服も味も、最後の『〆』がそれじゃ、何の意味があったの?」

友達「『〆』はさすがにもう少し考えるんじゃない? ポテチは食わないでしょ」

しまるこ「いや、アメトーク見てたらセブンのポテチ食いたくなるでしょ」

友達「ホテルのメシってあんまり腹いっぱいにならなそうだしね」

しまるこ「お腹いっぱいとか関係なく、アメトーク見てたらセブンのポテチ食いたくなるだろ」

友達「しらんけど。うん」

しまるこ「それは日曜日?」

友達「日曜日って言ってた」

しまるこ「じゃあアメトークやる日だ」

しまるこ「寝る前に、『ああそうそう、田中さんち二人目産まれたみたいだから、朝すれ違ったら、ちゃんと挨拶しといて』とかいうんでしょ?」

友達「それはその日の晩に言うかねぇ?」

しまるこ「思い出したときに言っておかないと、言いそびれちゃうから言うだろ」

友達「まあ」

しまるこ「うーん」

友達「難しいね」

しまるこ「難しいよ」

しまるこ「俺だったらウーバーイーツの方がいいかな」

友達「俺もウーバーイーツでいいかな」

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