霊的修行

女の子がすべての局面で「ダメーーーーー!!」っていわれたら 記事ver

投稿日:2021-06-02 更新日:

女の子「えーと、お母さんに頼まれたものは大根と白菜ときゅうりと」

ふう、やっとわたしの番だ。

やっぱりこの時間のレジは混むなぁ。

このあと塾も行かなきゃいけないし、早く帰らないと!

あっ、その前にサーティーワンでアイス買って帰ろうっと。フフ!

女の子「すいません、お願いします」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「え?」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「え? なんですか?」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「えーと、あのー、お会計お願いしたいんですけど」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「は? え? あのー」

ピッピッピッ……(店員、別の客をレジに通してバーコード打つ)

女の子「ちょ、ちょ、ちょっ! なんですか!? わたしずっと並んでたんですけどっ!」

このお客さんも何なの!? わたし並んでたじゃん! 順番守ってよ! って、そういう問題じゃない! なんでいろいろおかしいことになってんの? ダメーーーってなに?

女の子「ちょっと! あんまりじゃないですか!」

ピッピッピッピッ(店員、バーコードを打つ)

女の子「いいかげんにしてください! 無視しないでください!」

他の人も何なの!? なんで見て見ぬふりしてるわけ!? 助けなさいよ! 女の子が困ってるじゃない! こういうとき助けてくれれば、男子だってポイント高いのに! 

客A「……」

客B「……」

客C「……」

なに、なんなのこれ、どうなってんの? 善良な一市民が理不尽な社会的暴力に虐げられてるじゃない、なんでこの人たちは見て見ぬふりするの? 日本人ってここまで「我関せず」が進んじゃったの?

そして、まず、この店員はなに……?

女の子「ちょっと! ちょっと!! これはいったいなんなんですか!? あの……! わたし並んでたんです!」

女の子「ねぇ! ちょっと!!」

店員「……」

客D「……」

客E「……」

客F「……」

女の子「……」

あんまりだよ。ひどい。警察呼ぼうかしら? でもそれはそれで面倒臭い。そんな時間ないし、もうここには一時でも居たくない。

女の子「……」

あー、本当なんなの? 本当にムカつく。もういいや、隣のレジ行こうっと。負けたみたいで悔しいけど、この人の方がずっと負けてるし。

はぁ、また並び直しだよ。

店員「次のお客様どうぞ」

はぁ、長かった。5分待たされた。大根重いし。

もうサーティワン寄ってる暇ないかも? まぁいいもんね、ここでハーゲンダッツのアイス2個買ってやったし。いろいろ不快なことあったけど、はやく帰ってアイス食べて、嫌なこと忘れよーっと。

女の子「すいません、お願いします」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「……」

なにこれ? このスーパーで流行ってんの?

女の子「あの……」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「……」

女の子「それは何なんですか? あの、すごく不快なんですけど」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「あの、すごく頭にきてるんですけど」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「あの、店長呼んでもらえます?」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「……」

客A「……」

客B「……」

客C「……」

だからさぁ、他の客はなんなの? せめてあんた達は助けなさいよ。

呆れた。もう言葉がでない。

ん?

っていうか、言われてるのわたしだけ?

ダメーーーー!!って言われてるの、わたしだけだ。

どうしてわたしだけなんだろう? わたしこのスーパーに何かした?

隣に大型ショッピングモール建てた覚えもないし、恨まれる筋合いも見当たらないんだけど。

どうしてわたしだけなんだろう。他のお客さんはレジ通されてる。

女の子「……」

はぁ、もういいや。一秒たりともここにいたくない。もう店長もいいや。こんなスーパーの店長と会話したくもない。

女の子「あの、一言だけいいですか? あなたの行為、すごく最低だと思います。わたしはもう二度とこのスーパーには来ませんが、一人の利用客の心をどれだけ不快にさせたか、なんの罪もない、一人の善良な利用客の心を、どれだけ苦しめたか、これからのあなたの人生の時間をたくさんつかって、よく考えてください」

店員「ダメーーーーー!!」

はぁ、だるい。けっきょく野菜買えなかったし、もう一つのスーパーかなり距離あるし、本当に面倒くさい。本当に何なのよ! 思い出せば出すほど腹が立ってくる!

はぁ、やっとついた〜〜。自転車だったから30分かかっちゃったよ。本当に田舎は大変。

えーっと、大根と白菜とキュウリだったっけ? 時間食っちゃったから、早く買って帰らないと。

女の子「すいません、お願いします」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「……」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「……」

なんだろう。涙がでてくる。

なんだろう。なんなのよ。

なんなのこれ―――

女の子「あの、それ、この地域で流行ってるんですか?」

店員「ダメーーーーー!!」

ああ、どうしよう、本当に泣いちゃいそう。

泣きたくない。こんな人目が多いところで泣きたくないし、この人の前で涙を見せるのは嫌だ。

これは、このやり場のない感情はどこにぶつけたらいいの? わたしだって、ダメーーーー!!って言いたいわよ。わたしの方こそ言いたいわよ!

もうどうしよう。わかんないよ。どうすればいいの? 野菜は? 

他のレジに行っても同じなんでしょ? 他のスーパーに行っても同じなんでしょ?

そしてさぁ、どうしてわたしだけなの? ここのスーパーでも、他のお客さんはちゃんとレジを通されてる。

なんで?

こんなのひどいよ。

女の子「あの、すいません! どなたか助けてもらっていいですか!? わたし、この野菜を買いたいんですけれども、この店員さんがダメーーーー!!って言ってレジを通してくれないんです! お願いします! どなたかお力を貸してください!」

客A「……」

客B「……」

客C「……」

女の子「あの、すいません! 見てないで助けてもらってもいいですか!? わたし、困ってるんです! 何も悪いことしてないのに、ひどいことをされて困ってるんです!」

女の子「あの、そこのグレーのTシャツの、男性の方、助けてもらってもいいですか?」

男性「ダメーーーーー!!」

女の子「あのー、すいません、助けてもらってもいいですか?」

主婦「ダメーーーーー!!」

女の子「あのー、すいません」

老人「ダメーーーーー!!」

女の子「そこの……」

そこ「ダメーーーーー!!」

なんなの!?

なんなのなんなのなんなの!?

悔しいどうにかしたい! 正義はこちら側にあるのに何もできない! 正義はいったいどこで油を売っているの!? サボってないで働きなさいよ! いい子保険は収めているはずよ! 正義もレジの前で門前払いを受けてるの!?

お願い誰か助けてーーー

善良な一市民が理不尽な暴政に晒されています!

たった、一人、たった一人でいいから、誰かわたしの味方をしてよ……!

う、う。

ひどいよーーー

ひどい。

あ、う、う……。

ひどいよ……。

思わず飛び出してしまった。わたしが悪いわけじゃないのに、逃げ出してきてしまった。

わたしが理不尽に屈してしまったら、理不尽はさらに勢いづくだけなのに。

いったいこれはなんなんだろう?

わたしの知っている世界と違う。これは何だろう。どうしてわたしだけがこんな酷い仕打ちを受けるんだろう。この世でどうしてわたしだけが否定されるんだろう。

どうしよう、涙が止まらない。道路の、公衆の面前で、涙が止まらない。

手で顔を覆いたいけど、自転車乗りながらだから、できないよ。

あ、自転車。

自転車を持ってくるのを忘れてしまった。

しかしもうあそこには戻れない。ごめんね、置いてけぼりにして。どうしても、わたしは今、この上しか歩けないの。これ以上速くも歩けないし、遅くも歩けない。ただこのままの速度で歩き続けるだけ。それはね、もう決められていることだから仕方ないの。

わたしは生きている。生きているってことは、神様が生きてていいって言ってるからだよね? だから大丈夫なんだよね?

涙で前が見えないよ。知り合いに会ったらどうしよう。どう取り繕って話したらいいかわからないよ。大っ嫌いで、頭脳を100%集中しないと負けてしまう知り合いにあったらどうしよう。だって歩き方も立ち方もよくわからなくなってるんだから。目の開け方さえわからない!

でも、夢だから大丈夫。

現実感がないことだけが救いだ。夢なんだから、帰るのはいくら遅くなったっていい。今まで歩いた事のない速度で、人生でいちばん遅い歩となったっていい。

いつも夢を見ているときは、夢だと気づけたとき、夢から覚める。

でも、どうしてこの夢は覚めないのだろう?

いくら頬をつねっても、頭を強く叩いても、あるがままにすべてがある。これは夢でないときに感じるやつだ。

頑固な夢だ。

弘法大師が、この世界の夢を夢だと自覚できたのなら、その瞬間に夢から覚めると言っていたけど。わたしはまだ自覚が足りないのかしら?

女の子「ただいま」

お母さん「ちょっと、遅かったじゃない」

女の子「うん」

お母さん「野菜は?」

女の子「ごめん、買ってこれなかった」

お母さん「自転車は?」

女の子「忘れちゃった」

お母さん「ちょっと、どうしたのよ」

女の子「ごめんね、お母さん。わたしちゃんと買い物できなかった」

お母さん「ちょっと……、どうしたのよ」

女の子「ごめんねお母さん、許してくれる?」

お母さん「ダメーーーーー!!」

女の子「……」

お母さん「ダメーーーーー!!」

女の子「……」

お母さん「ダメーーーーー!!」

う、う、う、

うわああああああああああああ!!!

もういや! もうたくさん! この世界にいたくない……!

涙がマーライオンのようにでてくる! もう涙は出し切ったと思ったのに! 涙は有限じゃなかったの!? 

有限じゃないと困る! このまま枯れ木のように土に還れないもの!

あああああ!!

ひどい! ひどい! ひどい!!

お母さんまで!? お母さんが買ってきてって言ったんじゃない! 

何なのよもう! わたしに死ねっていってる!? ねえそうなんでしょ!? そういってるんでしょ!? 地球からわたしがいなくなればいいんでしょ!? マボロシ? 夢? 神様のイタズラ? 誰かがコントローラーを握ってこの世界を操作してるの!? なんでわたしがそんな悪趣味なゲームの主人公にさせられなきゃいけないの!?

誰が作ったのよ! ゲームだったら感情を取り除いてよ! ゲームの主人公に心はないでしょ!? こんなに、不快で、気持ち悪くて、残念で、苦しい心はいらない! 

苦しい! これ以上感じたことのない苦しみ!

心が、苦しい! 夢なのに、心がなくなってくれない! 心がなくなってくれない……。

どうすれば夢から覚めるの? どうすれば元の世界に帰れるの? 「それ」しかないの? 「それ」しか思いつかない。

「それ」はイヤだ。もう少し、ここにいさせて。わたしはこの世界がすきなの。

わたしは僅かな期待を抱いて、あてもなく街を歩いた。ひとつの実験を試みた。

三人に話した。三人とも、予想通りの結果が返ってきた。

三人目に話しかけたときは、確信に変わっていた。それでも話しかけた。わたしたちには負けるとわかっていても挑まずにいられない、あの例の卑屈にも似た感情があるからだ。

あ、塾のバイトの時間だ。

どうしよう。とても仕事できる気分じゃないや。

(一応、電話入れておこうかな)

プルルルルル……。

女の子「もしもし、あのー新垣ですけど、今日、ちょっと体調不良で、お休みさせていただきたいのですが」

受付「ダメーーーーー!!」

女の子「でも、行ってもダメーーーーって言うんでしょ?」

受付「ダメーーーーー!!」

女の子「わかりました。辞めさせてもらいます」

プッ。

女の子「どうしよう、お金ないや」

あ、お金ならある。お母さんに野菜を買ってきてと頼まれた時、渡された5000円がある。5000円もあれば、取りあえずカプセルホテルだったら一泊できるかも。

そう。わたしの思考は麻痺していた。

女の子「あの、すいません。一泊できますか?」

店員「ご予約はされていますか?」

女の子「いえ」

店員「一名様ですか?」

女の子「はい」

店員「カプセル宿泊プランですと3380円になりますが」

よかった。足りる。とりあえず一泊して、一晩寝て、そして明日になれば大丈夫だから、今日はもう寝てしまおう。

女の子「ではそこに泊めさせてください」

店員「ダメーーーーー!!」

ああそうだった。

なぜわたしは忘れてしまっていたのだろう。思考が麻痺していた。

こうなるに決まってるじゃないか。これが、これこそがリアルなのに、わたしの間違った常識が通じるわけないじゃないか。

女の子「泊めさせてもらえないのですか?」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「そうですか。残念です」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「でも、わかってました」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「わたしが地球上で話すのは、あなたが最後の一人だと思いますから、少しだけわたしの話に付き合ってもらってもいいですか?」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「ありがとうございます。それでは話しますね。わたしはいつだって何とかなると思っていました。誰かに話しかければちゃんと答えが返ってくると思っていました。自分が優しくすれば優しくしてもらえると思っていました。今でもそう思っています。わたしはこんな目にあっても、この世界を嫌いになれません。いったいなぜでしょう? 現実感がないからでしょうか? わたしが何一つ悪いことをしていないからでしょうか? わかりません。きっと、それは、わたしはこの世界の一部だから。いや、違う。この世界がわたしの一部だからだと思います」

女の子「わたしが生きていられるのは、あなたが生きてくれているからなんですよ。ありがとうございます。ありがとうございますと言わせてください」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「ありがとうございます」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「ありがとうございます」

店員「ダメーーーーー!!」

愛してる

愛してる

愛してる

わたしにはもう何もないから、あなた達を愛することができる。

ありがとう、この星。この星に住む人達。

わたしは今、愛になれる。

お母さん、ありがとう。

お母さん。わたしは世界でいちばん愛されなくなってしまったけど、もう家には帰れなくなってしまったけど、おいしい野菜を買って、お腹いっぱい食べてね。

わたしは、もう帰れない。

わたしは、愛になるから。

もう、みんなとは会えない。

さようなら。

さようなら。

愛してください。

愛されてください。

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