霊的修行

女の子がすべての局面で「ダメーーーーー!!」っていわれたら 記事ver

女の子「えーと、お母さんに頼まれたものは大根と白菜ときゅうりと」

ふう、やっとわたしの番だ。

やっぱりこの時間のレジは混むなぁ。

このあと塾も行かなきゃいけないし、早く帰らないと!

あっ、その前にサーティーワンでアイス買って帰ろうっと。フフ!

女の子「すいません、お願いします」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「え?」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「え? なんですか?」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「えーと、あのー、お会計お願いしたいんですけど」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「は? え? あのー」

ピッピッピッ……(店員、別の客をレジに通してバーコード打つ)

女の子「ちょ、ちょ、ちょっ! なんですか!? わたしずっと並んでたんですけどっ!」

このお客さんも何なの!? わたし並んでたじゃん! 順番守ってよ! って、そういう問題じゃない! なんでいろいろおかしいことになってんの? ダメーーーってなに?

女の子「ちょっと! あんまりじゃないですか!」

ピッピッピッピッ(店員、バーコードを打つ)

女の子「いいかげんにしてください! 無視しないでください!」

他の人も何なの!? なんで見て見ぬふりしてるわけ!? 助けなさいよ! 女の子が困ってるじゃない! こういうとき助けてくれれば、男子だってポイント高いのに! 

客A「……」

客B「……」

客C「……」

なに、なんなのこれ、どうなってんの? 善良な一市民が理不尽な社会的暴力に虐げられてるじゃない、なんでこの人たちは見て見ぬふりするの? 日本人ってここまで「我関せず」が進んじゃったの?

そして、まず、この店員はなに……?

女の子「ちょっと! ちょっと!! これはいったいなんなんですか!? あの……! わたし並んでたんです!」

女の子「ねぇ! ちょっと!!」

店員「……」

客D「……」

客E「……」

客F「……」

女の子「……」

あんまりだよ。ひどい。警察呼ぼうかしら? でもそれはそれで面倒臭い。そんな時間ないし、もうここには一時でも居たくない。

女の子「……」

あー、本当なんなの? 本当にムカつく。もういいや、隣のレジ行こうっと。負けたみたいで悔しいけど、この人の方がずっと負けてるし。

はぁ、また並び直しだよ。

店員「次のお客様どうぞ」

はぁ、長かった。5分待たされた。大根重いし。

もうサーティワン寄ってる暇ないかも? まぁいいもんね、ここでハーゲンダッツのアイス2個買ってやったし。いろいろ不快なことあったけど、はやく帰ってアイス食べて、嫌なこと忘れよーっと。

女の子「すいません、お願いします」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「……」

なにこれ? このスーパーで流行ってんの?

女の子「あの……」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「……」

女の子「それは何なんですか? あの、すごく不快なんですけど」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「あの、すごく頭にきてるんですけど」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「あの、店長呼んでもらえます?」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「……」

客A「……」

客B「……」

客C「……」

だからさぁ、他の客はなんなの? せめてあんた達は助けなさいよ。

呆れた。もう言葉がでない。

ん?

っていうか、言われてるのわたしだけ?

ダメーーーー!!って言われてるの、わたしだけだ。

どうしてわたしだけなんだろう? わたしこのスーパーに何かした?

隣に大型ショッピングモール建てた覚えもないし、恨まれる筋合いも見当たらないんだけど。

どうしてわたしだけなんだろう。他のお客さんはレジ通されてる。

女の子「……」

はぁ、もういいや。一秒たりともここにいたくない。もう店長もいいや。こんなスーパーの店長と会話したくもない。

女の子「あの、一言だけいいですか? あなたの行為、すごく最低だと思います。わたしはもう二度とこのスーパーには来ませんが、一人の利用客の心をどれだけ不快にさせたか、なんの罪もない、一人の善良な利用客の心を、どれだけ苦しめたか、これからのあなたの人生の時間をたくさんつかって、よく考えてください」

店員「ダメーーーーー!!」

はぁ、だるい。けっきょく野菜買えなかったし、もう一つのスーパーかなり距離あるし、本当に面倒くさい。本当に何なのよ! 思い出せば出すほど腹が立ってくる!

はぁ、やっとついた〜〜。自転車だったから30分かかっちゃったよ。本当に田舎は大変。

えーっと、大根と白菜とキュウリだったっけ? 時間食っちゃったから、早く買って帰らないと。

女の子「すいません、お願いします」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「……」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「……」

なんだろう。涙がでてくる。

なんだろう。なんなのよ。

なんなのこれ―――

女の子「あの、それ、この地域で流行ってるんですか?」

店員「ダメーーーーー!!」

ああ、どうしよう、本当に泣いちゃいそう。

泣きたくない。こんな人目が多いところで泣きたくないし、この人の前で涙を見せるのは嫌だ。

これは、このやり場のない感情はどこにぶつけたらいいの? わたしだって、ダメーーーー!!って言いたいわよ。わたしの方こそ言いたいわよ!

もうどうしよう。わかんないよ。どうすればいいの? 野菜は? 

他のレジに行っても同じなんでしょ? 他のスーパーに行っても同じなんでしょ?

そしてさぁ、どうしてわたしだけなの? ここのスーパーでも、他のお客さんはちゃんとレジを通されてる。

なんで?

こんなのひどいよ。

女の子「あの、すいません! どなたか助けてもらっていいですか!? わたし、この野菜を買いたいんですけれども、この店員さんがダメーーーー!!って言ってレジを通してくれないんです! お願いします! どなたかお力を貸してください!」

客A「……」

客B「……」

客C「……」

女の子「あの、すいません! 見てないで助けてもらってもいいですか!? わたし、困ってるんです! 何も悪いことしてないのに、ひどいことをされて困ってるんです!」

女の子「あの、そこのグレーのTシャツの、男性の方、助けてもらってもいいですか?」

男性「ダメーーーーー!!」

女の子「あのー、すいません、助けてもらってもいいですか?」

主婦「ダメーーーーー!!」

女の子「あのー、すいません」

老人「ダメーーーーー!!」

女の子「そこの……」

そこ「ダメーーーーー!!」

なんなの!?

なんなのなんなのなんなの!?

悔しいどうにかしたい! 正義はこちら側にあるのに何もできない! 正義はいったいどこで油を売っているの!? サボってないで働きなさいよ! いい子保険は収めているはずよ! 正義もレジの前で門前払いを受けてるの!?

お願い誰か助けてーーー

善良な一市民が理不尽な暴政に晒されています!

たった、一人、たった一人でいいから、誰かわたしの味方をしてよ……!

う、う。

ひどいよーーー

ひどい。

あ、う、う……。

ひどいよ……。

思わず飛び出してしまった。わたしが悪いわけじゃないのに、逃げ出してきてしまった。

わたしが理不尽に屈してしまったら、理不尽はさらに勢いづくだけなのに。

いったいこれはなんなんだろう?

わたしの知っている世界と違う。これは何だろう。どうしてわたしだけがこんな酷い仕打ちを受けるんだろう。この世でどうしてわたしだけが否定されるんだろう。

どうしよう、涙が止まらない。道路の、公衆の面前で、涙が止まらない。

手で顔を覆いたいけど、自転車乗りながらだから、できないよ。

あ、自転車。

自転車を持ってくるのを忘れてしまった。

しかしもうあそこには戻れない。ごめんね、置いてけぼりにして。どうしても、わたしは今、この上しか歩けないの。これ以上速くも歩けないし、遅くも歩けない。ただこのままの速度で歩き続けるだけ。それはね、もう決められていることだから仕方ないの。

わたしは生きている。生きているってことは、神様が生きてていいって言ってるからだよね? だから大丈夫なんだよね?

涙で前が見えないよ。知り合いに会ったらどうしよう。どう取り繕って話したらいいかわからないよ。大っ嫌いで、頭脳を100%集中しないと負けてしまう知り合いにあったらどうしよう。だって歩き方も立ち方もよくわからなくなってるんだから。目の開け方さえわからない!

でも、夢だから大丈夫。

現実感がないことだけが救いだ。夢なんだから、帰るのはいくら遅くなったっていい。今まで歩いた事のない速度で、人生でいちばん遅い歩となったっていい。

いつも夢を見ているときは、夢だと気づけたとき、夢から覚める。

でも、どうしてこの夢は覚めないのだろう?

いくら頬をつねっても、頭を強く叩いても、あるがままにすべてがある。これは夢でないときに感じるやつだ。

頑固な夢だ。

弘法大師が、この世界の夢を夢だと自覚できたのなら、その瞬間に夢から覚めると言っていたけど。わたしはまだ自覚が足りないのかしら?

女の子「ただいま」

お母さん「ちょっと、遅かったじゃない」

女の子「うん」

お母さん「野菜は?」

女の子「ごめん、買ってこれなかった」

お母さん「自転車は?」

女の子「忘れちゃった」

お母さん「ちょっと、どうしたのよ」

女の子「ごめんね、お母さん。わたしちゃんと買い物できなかった」

お母さん「ちょっと……、どうしたのよ」

女の子「ごめんねお母さん、許してくれる?」

お母さん「ダメーーーーー!!」

女の子「……」

お母さん「ダメーーーーー!!」

女の子「……」

お母さん「ダメーーーーー!!」

う、う、う、

うわああああああああああああ!!!

もういや! もうたくさん! この世界にいたくない……!

涙がマーライオンのようにでてくる! もう涙は出し切ったと思ったのに! 涙は有限じゃなかったの!? 

有限じゃないと困る! このまま枯れ木のように土に還れないもの!

あああああ!!

ひどい! ひどい! ひどい!!

お母さんまで!? お母さんが買ってきてって言ったんじゃない! 

何なのよもう! わたしに死ねっていってる!? ねえそうなんでしょ!? そういってるんでしょ!? 地球からわたしがいなくなればいいんでしょ!? マボロシ? 夢? 神様のイタズラ? 誰かがコントローラーを握ってこの世界を操作してるの!? なんでわたしがそんな悪趣味なゲームの主人公にさせられなきゃいけないの!?

誰が作ったのよ! ゲームだったら感情を取り除いてよ! ゲームの主人公に心はないでしょ!? こんなに、不快で、気持ち悪くて、残念で、苦しい心はいらない! 

苦しい! これ以上感じたことのない苦しみ!

心が、苦しい! 夢なのに、心がなくなってくれない! 心がなくなってくれない……。

どうすれば夢から覚めるの? どうすれば元の世界に帰れるの? 「それ」しかないの? 「それ」しか思いつかない。

「それ」はイヤだ。もう少し、ここにいさせて。わたしはこの世界がすきなの。

わたしは僅かな期待を抱いて、あてもなく街を歩いた。ひとつの実験を試みた。

三人に話した。三人とも、予想通りの結果が返ってきた。

三人目に話しかけたときは、確信に変わっていた。それでも話しかけた。わたしたちには負けるとわかっていても挑まずにいられない、あの例の卑屈にも似た感情があるからだ。

あ、塾のバイトの時間だ。

どうしよう。とても仕事できる気分じゃないや。

(一応、電話入れておこうかな)

プルルルルル……。

女の子「もしもし、あのー新垣ですけど、今日、ちょっと体調不良で、お休みさせていただきたいのですが」

受付「ダメーーーーー!!」

女の子「でも、行ってもダメーーーーって言うんでしょ?」

受付「ダメーーーーー!!」

女の子「わかりました。辞めさせてもらいます」

プッ。

女の子「どうしよう、お金ないや」

あ、お金ならある。お母さんに野菜を買ってきてと頼まれた時、渡された5000円がある。5000円もあれば、取りあえずカプセルホテルだったら一泊できるかも。

そう。わたしの思考は麻痺していた。

女の子「あの、すいません。一泊できますか?」

店員「ご予約はされていますか?」

女の子「いえ」

店員「一名様ですか?」

女の子「はい」

店員「カプセル宿泊プランですと3380円になりますが」

よかった。足りる。とりあえず一泊して、一晩寝て、そして明日になれば大丈夫だから、今日はもう寝てしまおう。

女の子「ではそこに泊めさせてください」

店員「ダメーーーーー!!」

ああそうだった。

なぜわたしは忘れてしまっていたのだろう。思考が麻痺していた。

こうなるに決まってるじゃないか。これが、これこそがリアルなのに、わたしの間違った常識が通じるわけないじゃないか。

女の子「泊めさせてもらえないのですか?」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「そうですか。残念です」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「でも、わかってました」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「わたしが地球上で話すのは、あなたが最後の一人だと思いますから、少しだけわたしの話に付き合ってもらってもいいですか?」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「ありがとうございます。それでは話しますね。わたしはいつだって何とかなると思っていました。誰かに話しかければちゃんと答えが返ってくると思っていました。自分が優しくすれば優しくしてもらえると思っていました。今でもそう思っています。わたしはこんな目にあっても、この世界を嫌いになれません。いったいなぜでしょう? 現実感がないからでしょうか? わたしが何一つ悪いことをしていないからでしょうか? わかりません。きっと、それは、わたしはこの世界の一部だから。いや、違う。この世界がわたしの一部だからだと思います」

女の子「わたしが生きていられるのは、あなたが生きてくれているからなんですよ。ありがとうございます。ありがとうございますと言わせてください」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「ありがとうございます」

店員「ダメーーーーー!!」

女の子「ありがとうございます」

店員「ダメーーーーー!!」

愛してる

愛してる

愛してる

わたしにはもう何もないから、あなた達を愛することができる。

ありがとう、この星。この星に住む人達。

わたしは今、愛になれる。

お母さん、ありがとう。

お母さん。わたしは世界でいちばん愛されなくなってしまったけど、もう家には帰れなくなってしまったけど、おいしい野菜を買って、お腹いっぱい食べてね。

わたしは、もう帰れない。

わたしは、愛になるから。

もう、みんなとは会えない。

さようなら。

さようなら。

愛してください。

愛されてください。

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