これまで色々な仕事をやってきた。飲食店、カラオケ店、クリーニング屋、交通警備、税務署、印刷工場、家電量販店、理学療法士をやってきたが、苦労度で並べるなら、
交通警備(通行止め)←印刷工場=クリーニング←交通警備(旗振り)←飲食店←税務署←家電量販店←カラオケ店←理学療法士
という順となる。
それぞれの仕事を細かく説明していくことはしないが、これを見てわかる通り、頭を使わない単純作業系の仕事ほど、きつい。
交通警備の仕事は、旗振りをして信号の代わりを務めるだけではなく、通行止めの仕事もある。通行止めの仕事になると、車が侵入してこないように、道路の入り口でずっと立っていなければいけない。本当にただ立っているだけで他に何もしてはならない。8時間の間(途中休憩が1時間あるが)、ただずっと立っている。スマホもいじってはいけない。座ってはいけない。1人だけなので話す相手もいない。退屈な仕事だった。日給は9000円くらいだったと記憶している。
ただ立っているだけなら楽かと思われるかもしれないが、これが何よりきつかった。20分くらいで飽きてしまって、座ってはいけないのだがずっと座り込んでしまった。現場から離れたところにある座りやすい場所に座っていたので、車がどんどん侵入してしまって、侵入先で工事している作業員に怒られたばかりではなく、俺の事業所に電話がいき、クビになってしまった。
車は1時間に1台通るかどうかといったペースだった。住人の車は通すことになっているので、看板では代替が効かず、人間が必要だった。
ずっと突っ立っているのは暇だ。今の時代だったら立ったままスマホをいじるのかもしれない。誰かが監修しているわけではないので、車の侵入さえ防げば怒られるということはない。もしくは考え事をひたすらするか。俺はぼーっと気が済むまで考え事をする人間だが、この時はそうもいかなった。仕事中だからか。ただ立っているだけだと頭が働かないのか。いい具合に考え事に集中できなかった。慣れることのないそわそわした気持ちだけが永遠に続いた。それに抗って、何か没頭できそうなテーマをがんばって探したが、見つからないばかりか、見つかってもそわそわしてやめてしまう。スマホがあれば少しはマシになるのかどうかは分からない。終わることなく、ずっとそわそわするという感情はこの時に一番感じた。8時間ずっとそわそわし続けたというのは恐ろしい話だ。
椅子が用意されて座ることさえできれば、そわそわはマシになったと思われる。どうして座ってはいけないんだろうか。通りすがりの誰かが見かけた時、ちゃんとやってないとみなされるからだろうか。座っていても十分に仕事を果たすことができるというのに? 暑いし足は痛いし、社会の底辺なのだと思わざるをえないし、貧困臭が自分を支配し始めるし、将来が不安になるし、肌は浅黒くなってくるし、そわそわして落ち着かないし、気が狂いそうだった。とにかく座らせてくれと天に願い続けた(結局座ってしまっていたけど)。
通行止めを人間にさせるとはいかがなものか。看板で十分だ。看板を置いておいても無理やりどかして入ってきてしまう馬鹿がいるのか? 確かにいた。通行止めと書いてあるでかい看板を道路の入り口に置いておいて、そこから少し離れた場所に俺は座っていたのだが、看板をどかして入ってきてしまう馬鹿がいた。看板をどかして進んでいくと、工事現場に直面することになるのだが、直面したら、「工事中なのでここは通れません」といって、また折り返してもらえばいいだけの話だと思う。住人はどう対処したらいいだろう。「住人は看板をどかして入ってしまって構いません。その代わり、通ったら看板を元に戻しておいてください」と書いておけばいいじゃないだろうか。それではダメなんだろうか。とにかく、通行止めと書いてあるのにも関わらず入ってきてしまうのなら、そいつに対して善の対応は必要ない。工事現場までノコノコやってきたら戻ってくださいの一点張りでいいのだ。1日に数回そんな面倒ごとを我慢すればいいだけだ。看板の代わりに人間を雇う必要はない。
ただずっと立っているだけという仕事は何よりも辛い。工場の単純作業よりつらい。工場で単純作業をずっとやっていると、何もしないで立っている方がマシだと思うだろうが、俺もよく思ったが、そんなことはない。何もしないで立っている方がつらい。一緒に通行止めのバイトした友人も同じことを言っていた(ちなみに友人はちゃんと1ヶ月やり遂げていた)
よく日給9000円払ってまで、人間を通行止めとして使うなぁと驚いてしまう。絶対に看板でいいと思うし、人間を馬鹿にしている。それでもいいと希望して面接に来るのだから、本人の自己責任であることは確かだが、へんな小屋に連れてかれて、ずっと意味のない積み木遊びでもさせられて、それで一万円あげますといっているのと変わらない。無意味な上に人を馬鹿にしている。
旗振りはよく見かけるが、通行止めを人間がやっているのは見かけない。でも、未だに、どこかで誰かがやらされているんだろう。通行止めの仕事で持ち帰ったものは「何もしないでただ8時間立っていることは何よりもつらい」ということだった。こんな地獄があるのかと勉強できた。ブラック企業で働いたことはあるが、通行止めの仕事の方が断然辛かった。