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街を歩く女性にイライラしてしまう男たち

友達が、女が街を歩いているとイライラするといった。

女が街を歩いているとはどういうことか。可愛かったら彼氏がいるということだ。たとえ今はいなかったとしても過去にはいただろう。過去にも現在にもいないとしても、未来にはいるだろう。つまり、いずれはどこかの男とセックスする。自分以外の男と。

つまり、歩いている女を目にしただけで、過去、現在、未来において、セックスしている事実を見せつけられてしまうのだ。

こっちは頼んでもないのに、勝手に現れて勝手に見せられる。いくら服を着たり、一人で歩いていたとしても同じことだ。存在が事実を訴えてくる。事実が発生しているのは別の空間と時だとしても関係ない。彼女が街を歩いているという事実が、それを証明する上でまったく事足りてしまい、ありありと感じ取れてしまうからだ。これは公共わいせつ罪といえないか? 服を着て一人で歩いていれば無罪になるのか。

友達はソフマップに電池を買いにきただけだった。電池を買って帰るだけのつもりだった。しかし、女の子が目に入ってしまった。女の子は冷蔵庫を買おうと物色していたらしい。

冷蔵庫ということは新生活か? 新しい部屋に彼氏を呼び込むのか? 俺は入れてくれないのか。くそ! 電池を買いに来ただけなのに、なんでこんな辛い思いにさせられなきゃならないんだ! お前を目にするだけでこっちはこれほど処理しにくい、苦しい混沌を抱えるはめになってしまった。お前は一ミリも傷ついてないのに、こっちは、ソフマップ10個分は傷ついている。今日は寝れないだろう。お前のせいで寝れない。ゆっくり休めない。明日の仕事に支障が出るだろう。でも、お前は昨日と変わらない惰眠を貪るだろう。こんなの、俺の負けもいいとこじゃねーか。今日も負けた。また負けた。

乾電池を買いにソフマップに来ただけなのに、どうしてこんな想いにされなきゃならないんだ。空腹の状態でビフテキをチラつかされているのと同じだ。立派な攻撃だ。でも、女の頭を殴ったりしたら、俺の方が悪くなるんだろう。

情報。情報という攻撃。可愛い女の子が目に入ってくるという情報、立派な攻撃だ。

せめてセックスするな。可愛いのだったら、その分だけセックスしないのだったらわかる。けど違う。普通にセックスする。ブスと同じようにセックスをする。

そんなのバランスがおかしいじゃないか!

そうやって友達は小生に電話してきた。可愛くてエッチな女が気になって寝れないという。

友達は思った。まぁいい。今だけだ。女は25を過ぎたらしわがれた皮膚になっていく。女は筋力がないから、どんどん乳も垂れ下がっていく。どんどん醜くなって、時間が勝手に不幸にしてくれる。今だけは多目に見てるしかない。俺は上がっていく。どんどん出世して金持ちになってやる。逆転してやる。逆転こそが最大の復讐なのだ。

しかし、友達は出世して、ある程度金持ちになったが女は寄ってこなかった。女は28や29になっても、22や23の頃と同じくらい近寄ってこなかった。あの頃の距離感と変わらないままだった。

昔より女は醜くなって、友達は出世した。なのに、なんでこのパワーバランスが変わらないのか?

歳をとってもまだ受け身? いったいいつになったら立ち上がるのか。友達は思った。もうそろそろ、女の方から近寄ってきてもいいころだ。結婚したら俺の金で生きるようになるんだ。だったら、頭を下げなければならないのは女の方だ。プロポーズだと? なんで俺からプロポーズしなきゃならんのだ? 普通に考えて、寄生する方がプロポーズしなきゃダメだろう。

そんなふうに友達は悶々としながら生きてきたのだが、今日、ソフマップで冷蔵庫を買う19歳くらいの女の子を見て、ついに崩壊してしまった。

この感情は友達にだけ起こるわけではない。すべての男に起こっている。

だから男は復讐をする。女がそこまで受け身なのだったら、こっちはもっと受け身になってやる。こっちも受け身になったら、もうどにもならんぞ。愛も恋も誰もできなくなるぞ。本当はそういうところで引き分けに持っていきたいけど、そうはならない。一部の男が一生懸命に女に積極的にアプローチしてしまうからだ。

そして結局苦湯を飲むしかなくなる。あーあ、つまんね、という不貞腐れた顔になる。そうやって、今、皆さんがしっている、もっとも街でありふれている表情の男となる。

女性の皆さんは、なぜ男がいつもあんなに感情のなさそうな、エロいのかエロくないのか、どちらなのかよくわからない顔をしているのか不思議だろう。

いったい何を考えているのか。ふだん心の中が騒がしいあなた方女性からすると、男は何も考えてない、おじいちゃんみたいな、『木』みたいな、そう、木みたいに見えるだろう。

街で出会って通り過ぎても、ほとんどの男は『木』みたいな顔をしている。

女から見ると、大抵の男はぬるぬるして、何を考えているのかわからないだろう。あんまり話しかけてこないし、話しかけてきても、頭を掻きながら、おはようございます、といってすぐにどこか行ってしまう。男ってエロいって聞いてたけどそんなにエロくないような気がするだろう。

しかし、そんな『木』みたいな顔の中に、男は、凄まじい魔物を飼っているのだ。それこそ自らの木を枯らし、引き抜いてしまうほどの、恐ろしい魔物を。

さいきん、銭湯にいったとき、あるノリの良さそうな女の子が、自分の乳を揉みしだきながら、「支払いはpaipaiで!」といった。なかなかの女の子だ。男の店員は、ぶっきらぼうに、「はい? PayPayでいいんですね?」と言った。

女の子は、あ、やっちゃった……という顔をして、すみません……と、悲しそうに謝っていた。男はそれを見ても態度を崩すことなく、レシートは必要ですか? と言っていた。

同じ男である小生にはわかるが、彼の中にも一緒になって、「paipaiで!」とやりたい一面はあったのだ。友達同士では、彼もそういう一面を見せているのだ。

でも、そのときは笑いたくなかった。冷たくしてやりたかった。男は、女はしょんぼりさせる機会を狙っているのだ。女は男をしょんぼりさせる機会を狙ってはいない。女の嫉妬は怖いといわれるが、男の嫉妬に比べれば可愛いものである。

男はいつも女をしょんぼりさせる機会を狙っている。いつもしょんぼりさせられているから、ここぞとばかりに、チャンスのときはしょんぼりさせようとする。公明正大の大義は彼にあったのだから、いとも簡単に彼女をしょんぼりさせることができた。彼女は槍玉にあげられただけなのだ。

これは復讐だ。

男は、下手くそな運転をしている車が女だとわかると、非常に高圧的になる。相手が男だったらできないけど、女だとわかると狂ったようにクラクションを鳴らし続ける。女の子がガタガタ震えて運転できなくなってしまったら、それこそ舌なめずりをし、もう耳を塞ぎ込んでアクセルの踏み方もわからなくなってしまっている女の子に、これでもかとクラクションを鳴らし続ける。

若い女が街を歩きながらゴミをポイ捨てしようものなら、『やった!』といわんばかりに彼女たちを攻撃する。攻撃といっても、は? マジでありえねぇというふうにガンをくれるだけだが。

男は、生物としての純粋な勝負では負けてしまうから、公明正大な大義を掲げて彼女たちを攻撃したくて堪らないのだ。これは、女にはない感情である。

そんなことをしても余計に嫌われるだけなのに、なぜそんなことをするのか? はじめから嫌われている。はじめから自分のものにならないなら、めちゃくちゃにしてしまえという論法なのだ。しかし、理由もなくいじめたら自分に非ができてしまう。だから、『運転が下手』という大義が必要になるのだ。

男は、女の運転が下手なせいで、大事な会議に間に合わなかった、みたいな目で女を見るのが何よりも好きなのである。

男がいつも女に対してぶっきらぼうな顔をするのは、先に振ってやるためである。

自分ばかり意識してしまってばかりいて、いつも負けたような気にされているから、先に振ってやることで、自分の自尊心を保とうとする。

振るといっても、興味のない振りをするだけである。女から話しかけられても、ブスっとした顔をずっとするだけである。

男はとにかく女を振りたくて振りたくて仕方ないのだ。

女は男がいくらかっこよくなって金持ちになって高級車を見せつけてやったって、何とも思わない。でも、男は女が欲しくて仕方ない。これは不公平だ。女も男が欲しくて欲しくて仕方ないようにするにはどうしたらいいのか。

どうしたらいいかわからないけど、一つだけはっきりしていることがある。

男は、目当ての女から告白されても、振ろうとしている……!

女に、欲しい欲しいと物狂いみたいに告白されても、ずっと、ずっと……、振ろうとしている……! 何度も何度も告白されても、振って振って振り抜くのだ……!

俺たちが苦しんだ気持ちを思い知るがいい! 欲しくて欲しくてもどうやっても手に入らない気持ちを思い知るがいい! 自分だって、本当は付き合いたくてたまらなくて、大好きな女の子だから、涙が出るほど嬉しいのに、振ってしまうのだ!

それでも逆境を乗り越えて、また告白してきてほしい。そして、もちろん、また告白してきても、振る……!

ぜんぶ、ぜんぶ、振ってやるんだ……!

え? だって好きだったんでしょ? その女が欲しくて欲しくてしょうがなくって、向こうも欲しいといってくれてるのに、両思いになっているに、どうして振るの? ……。わからない。彼は振るのだ。とにかく振ってしまう。

これはモテない期間に溜め込んだ、鬱屈した感情が独り歩きしてしまうのだ。今さらなんだよ……。今さら好きだっていわれてもムカつくんだよ。ふざけんなよ、クソ、クソ、クソ、殺してる。死ねばいいんだお前みたいな女は、クソ、クソ、クソ、腹立つんだよ、もう遅いんだよ、といって、何度も何度も振り続ける。

何があっても絶対に振り続けるためにはどうしたらいいか、すべてのエネルギーをそこに使う。菅総理が、どうか考えを改めてくれませんか? と、頭を下げてきたとしても、考えは変わらない。

しかし、これはまだいいケースである。ほとんどの場合、女から言い寄られることもなく、男は素通りされていく。

人間は、人に興味ないという顔をされると、いちばん腹が立ってたまらなくなる。男は、女に興味ないという態度を取られ続けてきたから、それ以上に興味のない態度をとってやり返したいのである。

だから、上手い具合に興味のない態度をとれればいいのだが、だいたいいつもやりすぎてしまう。話しかけられたら無視してやろうとするのだが、べつに女は話しかけてこないから、無視したくても無視するチャンスもなくなってしまって、無視できなくてイライラしてしまう。

そうやって無理やり無視したいがために、街で歩いている女に厳しい目でにらみつけたり、運転ももちろん、社会生活上の欠陥がないか、税関のように厳しくチェックするようになる。特にモテないオタクはこれが顕著である。オタクは女が少し仕事をミスすると、何も言わずにただ舌打ちをしたり、机をバンと叩いたり、今日すごい大事な約束があったのにキャンセルしなくちゃいけなくなったとか、またぜんぶやり直しだ、みたいな顔をする。女がオタクを怖がるのはこういうところからきている。

オタクは女のブラが透けていたりすると喜ぶと思うかもしれないが、そんなことはない。すごく冷たい声で、「あの、見たくないんでしまってもらえますか?」という。そう言われた女は、すごく悲しい顔をする。女が下品な下ネタで盛り上がっているとき、すごく不快になっているということをアピールした顔をするのが、オタクは大好きである。このように、女の性的な失態を突いて復讐できることを渇望している。自分が女に性的な方面で苦しみを味わされたからである。

女が台風で着ているものがぜんぶ飛ばされてしまったら、オタクは服をとってきたり、代わりのものを買ってきてあげるのが、遅いだろう。

裸を堪能したいというわけではない。ただ単に、そんな自然災害のどうしようもない状態を利用して、裸になってうずくまって、にっちもさっちもいかなくなっている女を、冷たい目で見下ろしてやりたいと思っているのだ。

自分も同時に全裸の危機に晒されたとしても、そんな状況になることを希望している。肉を切らせて骨を断てだ。自分も恥ずかしいけど、女はもっと恥ずかしいことを知っているからだ。

ほとんどの男がこういう気持ちを抱えているから、女はそれをどこかで見抜き、こういった復讐心のない男を選ぼうとする。

女は普通の人が好きというが、この復讐心が薄い人間を、普通といっている。女が男を普通と思えないのは、男の中にこの復讐心を見出すからである。

わたしはいったい何したんだろう。どうしてこんなにぶっきらぼうにされなきゃならないんだろう。

女は、運転していると必要以上に怒られる。復讐の機会に使われてしまう。男も男で、怒鳴っていないと、お願いだからセックスさせてと泣きついてしまいそうになるから、そうならないように、目の前で立っているのがやっとだから、どうしても叱責してしまう。

男はあの『木』のような顔の中に、これだけ恐ろしい感情を秘めているのだ。何を考えてるのかわからない、女はそう思うだろう。その通り、男はもうその場に立っていられないほどの巨大な混沌を抱えており、何かを話しようものなら、この混沌が一気に溢れてしまいそうで、怖くなって話せなくなってしまっているのだ。だから『木』のような顔をしている。それが精一杯なのだ。

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