霊的修行

マンションの下の階の住人に怒鳴り込まれそうになったけど、姿勢で乗り切ったよ!

投稿日:2020-12-01 更新日:

最近、隣の部屋で住民同士が物凄い喧嘩をしていた。

「てめー毎晩毎晩ガタガタもの動かしやがって、六角ペンチか何かもしょっちゅう床に落としてんだろ、部屋動かしすぎなんだよ、わざとやってんだろ」

「いえ、そんなつもりは……」

「なにがしてーんだよ! そんなに物動かして! 毎日動かしてんじゃねーか!」

「もうしませんから……」

「警察呼べ! 管理会社にいっても何もしてくんねーから警察呼べよ! 今日水曜日だから管理会社やってねーんだよ! いいから警察呼べ!」

「すいません……」

怒鳴り込んでいる男は30代半ばくらいで、見た目はカイジそっくりだった。起床後すぐにキャップを被った風体、無精髭、防寒さえできればいいという分厚いダウンジャケット。いつもパチンコで負けたといってそうな、風俗の情報誌を片手に歩いている姿が似合いそうな男だった。

怒鳴られている隣の住人はおじいちゃんで、定年退職して転がり込んできたものだと思われる。

小生は揉めている一部始終を、壁に耳を当てて聞いていた。

時刻は水曜日の昼。14時。おじいちゃんはともかく、怒鳴り込んでいる男と小生はここにいたらおかしい時間だ。男の立ち振る舞いから、どう見ても、今日たまたま仕事がないというふうには見えなかった。

怒鳴っている男はいつも見かける男で、外に出れば見ない日はなかった。彼はマンションの住人を見つけるとすぐに声をかけ、毎日、毎日、一日中、マンションの近況をマンションの住人と話し続けるという珍しい男だった。

1階に足の悪いおじさんが住んでいて、そのおじさんと気が合うようで、いつも二人でスーパーの飲食エリアで2時間も3時間も話をしていた。『新型コロナ対策のため長時間の滞在をお断りします』と壁紙が目の前に貼られているにも関わらず、まったく心を揺らさずに議論を交わす二人の姿は、脅威に値するものだった。

このマンションは家賃3万の物件だから変な人間が多い。なぜかみんなマスクをしない。スーパーでマスクをしていない人種を見かけると、うちのマンションの住人であることが極めて多い。

そしてこともあろうか、なんと、この男は翌日、小生の部屋を訪ねてきた。

なんだ? 次は小生の番か? 怒鳴って回るのがこいつの中で流行ってるのか? やばい、小生も怒られるだろうか? 思い当たる節はたくさんある。YouTubeの撮影で物音を立てることがある。この前も壁を蹴って鍋に体当たりする動画を撮ったばかりだ。童謡の『グリーングリーン』も大きな声で歌ってしまった。出入りも激しい。小生は散歩が好きなので、2時間に一回は外に出て2kmほど歩き回るクセがある。

まぁ、仕方ない。そりゃ怒られるわな。今回は怒られて、次から直そう。(ええいままよ!)とドアを開けた。

「お兄さん、ちょっといい?」

「はい」

「お兄さんさ、出入り激しいよね」

「はあ」

「変なことしてないよね?」

「変なこと?」

「危ないこととかしてないよね?」

「はあ、特に」

「なんでいつも出歩いてるの?」

「あー、ちょっと気分転換というか、部屋でパソコンする仕事してるので、夜風に当たりたくなるんですよ」

「あーそうなんだ。それはいいんだけどさ、ドア、キイキイ鳴ってうるさいんだ」

「はあ」

「22時から2時くらいにかけて、頻繁に出入りしてるよね?」

「はい」

「その都度、お兄さんの部屋からキイキイ音が鳴って気になるんだよね」

「すいません」

「嫌がらせ?」

「え?」

「俺に嫌がらせのつもりでやってる?」

「え、そちらにですか? え? そんなつもりはないですよ」

「そっか、ならいいんだけど。いや、嫌がらせのためにやってんなら、こっちも黙ってらんねーからなぁ」

男はそう呟いた。明らかにこの瞬間、怒気をはらませていた。

彼はどうやら被害妄想が激しいようだ。強迫性障害とかなんとかそういうのだろうか。しかし、面識のない下の階の人間に嫌がらせをしようとする人間がこの世にいると思うのが不思議だ。

小生は姿勢を意識してみた。

これは最近研究しているのだが、自分のとっている姿勢に応じて、相手の気は変化するのである。もちろん、自分の気も変化するのではあるが。

これは面白いもので、頭が垂れていたり、背筋が曲がっていると、自分の中から敗者のオーラが出てしまう。そして相手が調子づいてしまう。昨日のおじいさんはまさにそれだった。曲がった枯れ木のようだった。

ちょうど自分が優位に立てる位置がある。この姿勢になりこの位置に立てば、相手は何もいえない。

ぐん……ぐん……ぐんぐん、すっ……すっ、すっ……すっ……ぐん……と、お互いの中で見えない気が交差し合うのだが、ちょうど下腹部を真っ直ぐにただし、そこに緊張をいれると、ぱっと下腹部から輝光が送られてきて、気が相手を上乗せするようになる。更新されるというか、一掃されるというか、ちょうど相手の気の出所をとめてしまうことができる。

以前からよくこの方法は使っており、仕事でミスをしたときは、よくこの手をつかった。しかし、あまりにもミスをし過ぎて、とうとう小生の方から気で覆うことをしたくなくなってしまったので、素直に怒られることを選択した。

昔は気一辺倒で、心的操作で相手の怒気の発生どころを無効化することしか考えていなかったが、最近、そこに姿勢を重ね合わせれば、効果甚大であることがわかった。

むしろ、姿勢の方が大事である。

尊敬する肥田春充先生は、軍人生活中に上官の暴力がはびこる中、一度も殴られなかったという。肥田先生がひとたび姿勢を決めてしまえば、上官は力なく拳を下ろすしかなかったという。

結局、人間というのは気の生き物で、上手く相手が怒れないようなところに気の操作をしてあげることで、頭では怒りたくても、どうしても怒れなくなってしまう。

姿勢と気を決められた相手は、いくら怒りたくても、よほど精神世界に精通していない限り、自分の怒りポイントを賦活させようとしても怒りポイントを見つけられないし、賦活の仕方もわからない。こうなってくると、怒るというのは案外難しい。

気が弱いと相手の思い通りにされてしまう。気を昂らせると角が立ってぶつかってしまう。いちばんいいのは気を無効化させてしまうことである。ちょうど姿勢がここだというところで、ピタッと止まると、気が無効化される位置がある。

これは社会生活を送る上で大変有用なスキルで、病院務めで、スタッフや患者や患者の家族や医者や看護師との間に揉めに揉めて、心労に心労を重ねている友人に、この方法を何度も話すのだが、ぜんぜんわかってもらえない(笑)

男は、小生に怒鳴りこむつもりでやってきたのに、どう怒っていいかわからなくなってしまった。

確かに、おじいさんに比べて小生の方が怒りにくいというのはあるだろう。若いし、水曜日の14時に部屋にいる男だ。何をしでかすかわからない。

しかし体格的な面では、どちらも似たようなものだった。見ての通り、小生はひ弱で決して強そうに見えるわけではない。男は165cmぐらいだったが、まあまあ肉付きはよかった。

姿勢といっても、あまりに高圧的に見えるように胸を張ると、それはそれで挑発しているようになって喧嘩になってしまう。

勝とうともしない。負けようともしない。ちょうどピタッとするところに姿勢を合わせる。下腹部を真っ直ぐにして、腹を決めるといった感じか。

隣のおじいさんは気の操作が下手なので怒鳴られてしまった。小生より30年以上生きているくせに情けないものである。知識や学問ではない。気である。姿勢である。官僚や総理大臣たちが舐められる原因もここにある。

「お兄さん、脂持ってないの?」

「はい」

「油なら俺持ってるから、持ってこようか?」

「いいんですか?」

なんと、気の操作をしていたら、油まで差してくれることになった。

男は油を差してくれた。

「恥ずかしながら私、自転車の脂とかも差したことがなくて」

「そこにいると脂かかるよ」

「ひゃ!」

姿勢に意識を集中し過ぎていて、自分の立ち位置には盲点だった。

「お兄さん、この前、車の中でルフィの張り紙くっつけてたけど、あれなに?」

げっ、見てたのかよ。

「あれはー、会社の出し物の練習というか……」

「忘年会の?」

「……はい」

「お兄さんの会社、コロナなのに忘年会やるの?」

「……はい」

「ふーんそうなんだ。よし、こんな感じでいいかな」

扉はまったく音がならなくなっていた。

「すごいもんですね。管理会社にいって直してもらおうかと思いましたが、脂差せば直るんですね」

「ホームセンターいけば売ってるよ」

「いやー、ありがとうございます。キイキイ音が鳴っていたことを教えてもらえただけでなく、油まで差してもらって」

「いいよいいよ」

「ありがとうございました! これからもよろしくお願いします!」

「いいよいいよ、お昼休憩邪魔して悪かったね、それじゃ」

「はい!」

こうして事なきを得た。姿勢を整えて気持ちのいい笑顔をするだけで、怒られなかっただけでなく、静かにスムーズに開閉する扉が手に入った。

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