「あのーアルバイトの面接にきたんですけど」
「あ、はい伺っております。こちらの席でお待ちください」
「ありがとうございます」
「こちら、記入用紙になります」
「ありがとうございます」
女の子は店員に案内され、店内の一席に座った。座っている姿勢は美しかった。エッフェル塔のように屹立していた。スーツ姿で、シャツもパリッとしていた。この日のために新調しているように見えた。平日の朝10時にドトールにいるのは、競馬新聞を読んでいる高齢者しかいないため、その姿は非常に浮いてみえた。
小生はこの女はできると思った。座っている姿勢が美しい。ちゃんとスーツを着ている。アルバイトの面接なのに手を抜かない。小生はこの店の面接にくる子を何十人もチェックしているけど、スーツでやってくる子は一人もいなかった。
「ねえ、あの子よくない?」
「いいね、口答えしないで何でもハイっていいそう」
「まだ若いわね、20代前半?」
「清潔感あるし、店の雰囲気よくなりそうだね」
従業員たちの評判も良さそうだった。
店長がやってきた。面接が始まった。面接はそのまま店内の一席をつかって行われた。小生はそれをずっと見ていた。
面接が終わった。
彼女は店長に恭しく頭を下げると、そのまま店を出ていった。
「は? なんで私たちに挨拶していかないの?
「私たちが案内したのにね」
「見て。もうスマホいじってる」
「気が許しちゃってるんだね」
「おかしー。一歩外に出たらあれかよ」
「あれぜったい受かったって思ってるよ」
「『受かったー!』って親に送ってんじゃんね?」
「結果まだだっつーの」
「あんなに背筋伸ばして座ってたのにね」
「店長ー、わたしあの子きらーい」
「そう? すごく感じのいい子だったけど」
「ダメ、ぜったいダメ!」
「そうはいっても、シフト足りないしなぁ。そのぶん大山さんが出てくれるわけじゃないでしょ?」
「…………」
「大山さんが出てくれるなら、採らないでもいいけど」
なるほど。採用の裏側とはこんなふうになってるのか。彼女に聞かせてやりたいものだ。
おーい! 見てるか? きょう面接にきてた彼女! しまるこです。こんばんは。
ちゃんと面接終わった後はさ、レジの店員にも挨拶していかないとダメだよ。あと、店から出てすぐはスマホをいじらないように。
ちゃーんと俺はいつも君たちのことを見てて、一部始終をブログに載せて、君たちに教訓を促してるんだからなー?
ちゃんと見ろよー?