※これは昔の職場で実際にあった話です。
男「井出さん、今日も働きすぎじゃない? 家の人心配しない?」
女「あー、大丈夫です、わたし一人暮らしですから(笑)」
男「あーそっかそっか、一人暮らしか」
女「といっても、犬が一匹いますけどね」
男「犬いんの?」
女「はい」
男「じゃあご主人様がいなくて、一人ぼっちで可哀想だね、今もご主人様の帰りを待ってるのかぁ」
女「可哀想?」
男「……ん?」
女「可哀想って、なんですか? なんで、可哀想、なんていうんですか?」
男「あ、いや、なんていうか、寂しいかもしれないなぁ、なんて」
女「じゃあ飼わない方がいいってことですか?」
男「そんなこといってないでしょう」
女「可哀想ってそういうことじゃないですか」
男「いや、考えすぎだよ井出さん」
女「しょうがないじゃないですか、解決したくてもできないことを、可哀想って、どうしてそんなふうにいえるんですか?」
男「とてもデリケートな問題だったね……」
女「他のお家に飼われた方がよかったっていいたいんですよね!? 二世帯の、いつもおばあちゃんが居間でテレビ見ているような家庭に飼われればよかったっていいたいんですよね!?」
男「いってないじゃないそんなこと」
女「クーちゃんは不幸なんですか!? 私のせいで不幸なんですか!?」
男「そんなこといってないって」
女「動物虐待っていいたいんですか?」
男「だからいってないじゃんそんなこと。ただ、一日中待ってるわんちゃんは何してんのかなぁって」
女「何してんのかなぁって……。だいたい想像つくじゃないですか!」
男「……」
女「じゃあ首輪を外して外に出しとけばいいんですか?」
男「いや……」
女「野良になっちゃいますよ!」
男「……」
女「そうですよ、クーちゃんは私のせいで、狭いワンルームで一生を終えるんです。一度も広い庭で走り回ることなく、冷たいフローリングの上で一生を終えるんです。すべては私のエゴのせいです」
男「たまにドッグランに連れていってあげればいいじゃない」
女「ペットショップで一目惚れした私が悪かったんです。薄給のくせに、ボーナスで無理して買っちゃいました。エサだっていちばん安いやつしか買ってあげられない。クーちゃん、いつもマズそうに食べてます。他の家で飼われていれば、おいしいエサを食べることができた」
男「……」
女「男子社員から噂されてるのも知ってます。一人暮らしのOLのくせに犬を飼うのは、股間にバターを塗って舐めさせるためだと」
男「誰もいってないよそんなこと」
女「クーちゃんからすれば私はハズレだったんですか!? もう仕方ないじゃないですか! 買っちゃったんだから! 物だったらヤフオクに出せるけど、ペットですよ? 家族ですよ!?」
男「ご飯と水を用意してあるんだったら、問題ないと思うけど」
女「でもトイレは厳しいかもしれません。クーちゃんは、朝ウンコしたら、夜に私が掃除するまで、ずっと同じトイレでウンコするんです。臭いですよね! ぜったい臭いですよね!? 犬は鼻がきくから余計に臭いはず……!」
男「……」
女「しょうがないじゃないですか! 家に帰ったら、クーちゃんに癒してもらわないと、次の日会社にいけないんだから!」
男「そうだね、ごめんね井出さん」
女「ぜんぶ! この会社のせいじゃないですか!」
男「……」
女「うっうっうっ、うーーーーーーーーッ!」