恋愛 ドトール観察記

ドトールの可愛いと思ってた子に彼氏がいた

昨今では、女性のルックスレベルは全体的に引き上げられ、芸能界でなくても、全国どこでも田舎でも、可愛い子がいる。

これはいいことのようであり、悪いことでもある。

カップルが街を歩いているということは、『私たちはセックスしています』と触れ回っていることであり、歩く公共わいせつ物ともいえる。

我々はクリスマスの街中を歩くようなやるせなさを、毎日抱えなくてはならなくなる。これは立派な攻撃である。健全な皮を被っている分タチが悪い。

カップルを見るだけでも鬱になるけど、可愛い子が一人で歩いているだけでも鬱になる。

可愛いということは、彼氏がいるということと同義だ。いま目の前にいないだけで彼氏はちゃんと存在していて、その背後に見え隠れする想像上の男に嫉妬せざるを得なくなる。

目に入ることがなかったら、こんなことにはならなかった。彼氏と歩こうが一人で歩こうが同じことである。俺の目を盗んでセックスしている。どこにいても彼氏とのセックスを見せつけられてる気分だ。

だから、可愛い子が街を歩いているだけで鬱になる。

半分嬉しいけど、半分苦しいから、もう街を歩かないでほしい。

こんなふうに勝手に逆恨みをしている男は多い。可愛い子にやたらとイライラしたりイジワルする男がいるけど、それはこういう理由からきている。

若くて可愛い女の子は、痴漢されたような、寂しそうにうつむいて歩いていることが多いけど(一人で歩いている女の子のほとんどが寂しそうな顔をしている……!)、彼女たちも、下卑た男たちの、悲喜こもごもの視線に晒されて生きているから、複雑そうな顔をして歩かざるを得ないのだ。

断食と瞑想により精神が発達すると、彼女たちを祝福できるようになる。あれほどまでに執着していたのに、ぜんぜん興味がなくなってしまう。出会い系もやらずに済むようになってくる。慈愛にあふれた優しい気持ちで彼女たちに接することができて、父性に満ちた視線を送ることができるようになるのだが、彼女たちはそれはいらないという。

どんな感情もいらない。憎む気持ちも、愛する気持ちもいらない。とにかく構わないでほしい。彼女たちはそういっている。

つまり、小生(我々)の情報がいらないということだ。あなたの情報を与えないでください。あなたにおけるすべての情報がいりません。例え素晴らしい知見を持っていたとしても、ディズニーの年間パスポートをくれるとしても、結構です。構わないでください。そういっている。

つまり死ねということだ。存在の情報を与えるなということは、死ねといっている。

可愛い子が街を歩いていて、我々に死ねといっている。

基本的にどの男も、女に対して、無関心を装って興味のないフリをしているけれど、それは照れや恥ずかしさではなく、単に抵抗しているだけである。

存在の情報を与えるなだと? こっちだっててめえの情報いらねえよ。こっちだって無視してやる。絶対にこの勝負に勝ってやる。こっちの方がうまく無視できれば、生物としてこっちの方が優秀ということになる。という抵抗なのである。

この抵抗心は性欲をも超える。だから、発情してハァハァした目で女を見る男は少ないけど、妙にギスギスして複雑な態度をとる男は多い。

だから、男も女も苦しい。

男は女を手に入れられないから苦しい。女は男に嫌な感じで対応されるから苦しい。

我々ができる彼女たちへの最高の優しさとは、関らないことだ。それ以上の優しさはない。

ずっと前から、ドトールで可愛いと思っていた子がいた。いつも机に医療系の教科書を出して勉強している看護学生だ。

その子がある日、彼氏と一緒にドトールにきた。

小生は雷に打たれたようにショックをうけた。裏切られた気分になった。彼女に冷たくしてやろうと思った。

彼氏は大した男じゃなかった。二軍のベンチみたいな、才気のなさそうな、醤油顔で、鈍感そうで、複雑な精神機構がまったくなさそうな顔をしていた。

小生はまじまじと観察したが、どこにもいいところが見つからなかった。いったいこの男のどこがいいのだろうか?

可愛い子に限って、こういう男と付き合うから、すべてがどうでもよくなる。修業とか神とか、すべてバカらしくなる。

彼氏は気が利かなそうな顔をしていたが、本当に気が効いてなかった。

彼氏は平気で奥の席に座わり、背もたれにだらしなく寄りかかって、ずっと貧乏ゆすりをしていた。彼女にすべて任せっきりで、注文をするのも取りにいくのも彼女で、店員の男に愛想良く対応していた。店員の男も、最高の接客をすることで、彼女を奪おうとしていた。しかし店員に与えられた時間は2、3秒しかなかったから、奪えるはずもなかった。

彼女が品を取りにいったり、小皿に取り分けたり、会話を切り出したり、何でもしていたが、彼氏はずっとスマホを弄っていた。スマホを弄りながら肘をついて食べ、食べ方も汚かった。ろくに彼女の話も聞いてなさそうだった。

婚活パーティーではぜったいに見られない光景だ。婚活パーティーや出会い系だと、いい人の押し売り合戦になる。奪い合うように小皿を取り、男女関係なく、我先にと取り分けようとする。

彼氏は、目の前の彼女と付き合うまではがんばったのか知らないが、今はこの関係にあぐらをかいていることは確かだった。

しかし、女の子が取り皿によそってるときの顔がとても幸せそうだった。気負いというものがまったくなかった。これは、ぜったいに街コンでは見られない光景だ。

みんな、こんなふうな顔で野菜をよそってくれる彼女が欲しいから、街コンに行くのだが、自分が一生懸命によそってしまう。よそわざるを得ないのだ。

こんな気負いのない、ごく自然な心持ちで一緒にご飯を食べる相手が欲しいから、街コンや出会い系をやるのに、我々はいつも正反対のことをしなければならない。

愛だけは、愛だけは苦労がなく、無償で奉仕されるものであってほしい。そう願いながら、我々は取り皿にレタスをよそう。

このカップルは18歳くらいだったが、それができていた。18歳だからできていた。歳をとると、奉仕に打算が生まれる。見た目は金髪でギャルっぽい子だが、こんなに献身的になるのかと驚いた。

食事が終わると、スマホケースをスタンド代わりにして、二人でディズニーの白雪姫を見ていた。

あんな小さな画面でよく見るなぁと思った。小生だったら、スマホなんかで見たくない。一緒にスマホで白雪姫を見ようといわれたら、iPad12.9インチで見ようと、まずそこからケチをつけてしまう。

彼らは似ていたのか、それとも似てきたのか。まるで同じ子宮から生まれたような、同じことで笑い、同じもので泣き、目が4つついているひとつの生き物のようだった。

小生と彼女では絶対にこうはならない。小生では、後ろで新聞を読んでいる父親にみたいになってしまう。

小生がいくら恋愛の勉強をして悟りを得て、人身掌握術を完全なものにしても、このカップルのような一体感は出せない。

大人は若者の恋愛を夢見ている。月9がいい例だ。オレンジデイズなんてものは、若者向けに放送しているようでいて、大人が楽しんで見ている。大人はずっと学生時代のような恋愛を夢見ている。大人も若者も、恋愛に求めているものは変わらない。

彼女はきっと、この男のカラッとした空気がよかったのだろう。

どいつもこいつも、男はみんななめくじみたいで、ヌルヌルしていて、いくら話しても何者かが見えてこない。

ぜんぜん女に困ってないよ。毎日人生楽しいよ。でも暇というわけでもない。色んなイベントがいっぱい待ってるけど、心はいつもカラッとしているよ。と男はいつもそんな演出をする。

女と話すとき、からっとした感じを出そうと一生懸命だ。自分が女々しくて面倒臭い男とバレないようにするのである。

男女の戦いにおいて、この面倒くさい部分を晒してしまうことは負けを意味する。作り物のカラッとした感じではなくて、本当にカラッとした、いい感じに焼き上がったエビフライのようになろうと、男は努力する。

メンヘラが二人揃う以上に厄介なことはない。しかしメンヘラが二人揃うことを結婚という。

街コンや出会い系の男と女は、全員メンヘラだから、お互いが一生懸命に普通の皮を被ろうとして、がんばってカラっとしようとする。

ほとんどすべての男が、恋愛となると、変な薬を注入されたマウスのように、急に怒ったり急にシカトしたり、急に好きだといったり、急にカラッとしたり、だから女は普通の人がいいというのだが、女のいう普通の人とは、この彼氏のような男をいうんだろう。

本当に、何も無い、椅子やテーブルみたいな男だ。ドトールの風景と一体になっている。

しかしこれは狙って出せるものではない。なんでも笑い、なんでもおいしいといいそうだ。この手の男は分類が難しい。草食系ともまた違う。肉食でも草食でもない。自然。性欲もあまりなさそうだ。ただずっと実家の置物のような空気を放っている。

とはいいつつも、LINEはマメに送りそうだし、適切なタイミングで適切な行動をしそうである。遅れることもなく、早すぎることもなく、テンポがちょうどよさそうな男だなと思った。こういう男は肉食系の男よりもモテる。

女はこの手の男を彼氏にすることが多い。それは女の心が慌ただしく、たくさんの精神活動でいっぱいだから、こういうクッションみたいな男に抱きついて眠りたいからだ。

少女漫画も、主人公の女の子の精神活動は激しいけど、男キャラは平然としている。女の理想の恋愛がつまった少女漫画がそういう体をなしているのだから、そういうことなのだろう。

うるさいのは自分だけで十分なのだろう。男までうるさかったらどうしようもなくなってしまう。たとえ黙っていても、心がうるさい男はうるさいのである。ぬいぐるみのような、犬猫のような、観葉植物みたいな男に抱きついて眠りたいのだろう。

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