食べ物に関する研究・美容・健康

だから俺は外食が嫌いだ。

トコトコトコ。

ん?

ふーん。うにパスタか。至高。うにパスタいいじゃんおいしそう。これから完全な生玄米生活に移行するから、その前の締めくくりとして、人間界の美味な食べ物を食べ尽くして精算する行為も必要かもしれない。つまり修行だ。うにパスタか。ふむ。

「いらっしゃいませー」

クソみたいな店員が出てくる。背筋は曲がっていて覇気のない声。もう6時間以上立ちっぱなしで気力も限界そうだ。なんだお前うにパスタ食いにやってきたのか? お前、人がこんなに苦労して働いている前でよくそんな贅沢品食おうと思えるな。逆の立場になって考えろ。俺がバイト終わるまで待て。

女子高生と女子大生以外は歓迎しないと顔に書いてあった。外食するといつもこの顔に出会う。だから俺は外食が嫌いだ。コンビニで買い物するのも嫌いだ。この顔が本当に嫌いだからである。別にわかっていたことだけど、あらためて外食が嫌いになった。何が楽しくてこの顔を見ながら飯を食わなきゃならんのか。

「何名様ですか?」

「一名です」

(一名で来てんじゃねーよバーカ)あきらかにそんな心の声が聞こえた気がした。うにのようにツンツンした態度だ。

ふーん。こんなポスター出しておいて、えらい違いじゃないの。うにはツンデレだよ。外はツンツンして中はトロトロしている。少しはうにを見習ったらどうかね。

キッチンの方を覗いてみる。ホールと似たりよったりだ。酒とパチンコが好きそうなクソ野郎が仕方なさそうに鍋の中に麺を突っ込んでるのが見えた。

ヨガでは食事は調理した者の魂が宿るものだから、料理人は誠心誠意を込めて料理を作らなければならないというしきたりがある。料理人の態度によって本当に味が変わってしまうのである。ジョ〇ーパスタはそのあたりをまるでわかってない。もし彼らがコーカサス地方で獲れたウニやエビを使って料理したとしても、道端で踏み潰されたトマト以下の味になることも無きにしも非ずということを知らない。

店内では家族や友人と話したりスマホを弄ったり、あまり料理に関係のない話をしている奴らばかりだった。心の中では腹を空かしてうにパスタのことでいっぱいなのに、ぜんぜん関係のない話をしているのがウケた。ここにこうしてやってきている時点で頭の中はうにパスタのことしかないのに、単に腹を満たすために寄っただけで自分の真の目的は別にあるという顔をしているのがウケた。周りから見たら俺もそう見えるのだろう。

こいつらと一緒にはされたくないから、俺は一人だけ背筋をピンと伸ばし、やたら行儀のいい姿勢でナイフとフォークを手にして待った。

それでも何をしてもどんな顔をしても店員に見透かされている気がした。うにパスタ食べたいんだろ。こんな雑な態度を受けても、食べたいから帰らないんだろ。食べたいなら食べたいって顔しろよ。痩せ我慢してんのがウケる。うにパスタって看板見かけたから入ってきたんだろ? 一人だけかっこつけて浮世離れしようとしたってそうはいかない。

からだに悪いのを承知で作ってる。承知で運んでいる。承知で食べている。店内はみんなで仲良くダメになりましょうという空気で満ちていた。

俺は店員を呼び止めて小一時間説教をしたかった。俺は上級ミニマリストでお前らとはぜんぜん比べ物にならないほど食の意識が高く、コックではなく刻苦なのである。刻苦に刻苦の修行をしてきて、こんな低俗なものを食べるのは年に数回しかないのに、今日は本当にたまたまやってきただけなのに、鬼の首を取ったような顔をしやがって。俺の前に来た客と俺の後に来る客、サンドウィッチのようにその間に挟まれた俺を、同じ人間としてカウントしているのが許せなかった。

「ご注文はお決まりですか?」

「『たっぷりうにの濃厚カルボナーラ』と『キングサイズシーザーサラダ』で」

「かしこまりました」

なんか今笑われた気がした。キングサイズのシーザーサラダを一人で食べるのがおかしいのか? なんとなく無心でサラダをぼーっと食べていたいときってあるだろ? 別にいいじゃねーか。キングサイズで食べたからって。上手いとか食べたいとかじゃなくて、なんとなく無心でフォークぶっ刺していたいんだよ。暇なんだよ暇。パスタがくるまで暇だから頼んだんだよ。深い意味ねーんだよバカが。お前らがカルボナーラみたいにトロトロしてどんくさそうでパスタがくるまで2時間ぐらいかかりそうだったから仕方なく頼んだんだよ。俺だってたまにはキングサイズのシーザーサラダぐらい食べたくなるわ。ダメか? 俺がキングサイズのシーザーサラダ食べちゃダメなんか? クソッたれが! 食って食って食いまくってこの店にウンコしまくってうにだらけにしてやろうか? クソッたれが!

「キングサイズシーザーサラダをお持ち致しました」

ほーら、やるよ。食え。といわれた気がした。

俺は食った。イライラしながら食った。食ってて涙が出そうになった。なぜこんな仕打ちを受けてまで食べなきゃならんのか? なんど厨房に投げ返してやろうと思ったことか。でも食べたかった。キングサイズシーザーサラダを食べたかった。おいしかった。しかしおいしいのは最初のいくらかだけで、水を沸かして、タイマーをセットして音が鳴ったら麺を入れられた、そんな機械的な味がする。その他大勢のために作られた、大量生産、大量消費、うずたかく積まれたゴミの山、赤く染まった生理用ナプキン、精子、電化製品、パソコンの味がする。中国から送られてきて、倉庫ではダンボールの上から足蹴りされ、トラックの運ちゃんに背負い投げのように放り込まれ、すでにそのとき麺は三分に割れていて、そして不幸な旅の終わりにこの店に流れついた。そして厨房にいるニート達の下品な笑い声が空気振動して麺に伝わり、俺の口に入った。粉チーズも奴らのチンカスとしか思えなかった。

よく食べ物は感謝して食べましょうとか、丁寧にいただきますといって作った人に愛をこめましょうとかいうけど、そうやって食べれば、カップラーメンのような悪いものを食べたとしても悪影響を受けないというけど、やはりそれは食いしん坊が自身の食い意地を正当化するために持ち出した理論だろう。実際に俺は全身全霊で祈ってみたけど、彼らが6時間働いて溜まりに溜まった負のオーラに押し負けてしまった。

食べ終わった今となっては、ただ気持ち悪さだけが残る。もう嫌だ。水だけ飲んでいたい。もう二度と何も食べたくない。食べ物を見るだけで吐き気がする。あまりにもイライラして気がおかしくなり、2日後にもう一度なぜか食べにいってしまった。もう一度キングサイズシーザーサラダを頼んだ。しかしたっけーな。いつも食べてるざるそば大盛り460円5個分だよ。

この記事を書いたのは7月2日で、7月下旬の現在は「えびフェア」をやっているそうです(笑) きっと今頃えびのように丸まった姿勢で、鍋の中に頭を突っ込んでブクブクやっていることでしょう。皆さんも外食をするときは気をつけよう!

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