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戦士にかける言葉は、『こんにちは』くらいがちょうどいい

しまるこ「あの〜、女は基本的に感傷的でしょ?」

しまるこ「感情的じゃなくて感傷的」

しまるこ「こっちは何ともなくても、すごく気を使われるというか、大げさにとられるというか」

友達「うん」

しまるこ「高校時代の話なんだけどね」

しまるこ「俺さぁ、いっつも昼休みになると全裸でカラーコーン被ってグラウンド走ってたじゃん?」

友達「走ってたね」

しまるこ「教師に何度注意されてもやってたじゃん?」

友達「うん」

友達「人にぶつかって、落ちたカラーコーンを拾って、また被って走るとこが一番ウケた」

しまるこ「本当はもっと頭を使ったギャグで人を笑わせたかったけど、ちょっとできなかった」

しまるこ「それに、若者は刺激を求めるものだから」

しまるこ「そんな感じだからモテなかったんだけど、一人の女の子がいつも俺に熱い視線を送ってきたの」

しまるこ「なんで、しまるこ君はいつも全裸で走るんだろう……」

しまるこ「可哀想……助けてあげたい……ってそんな目で見てくるの」

友達「好きでやってるんだけどね」

しまるこ「うん、好きでやってたんだけど」

しまるこ「その子もね、ちょっと頭がおかしいっていうか、神経質なところがあったんだよ」

しまるこ「体育の時間に頭にバレーボールが当たって、一人で病院に検査受けに行っちゃったりして」

友達「スパイクくらったの?」

しまるこ「いや、トスのボールが落ちてきただけ」

友達「(笑)」

しまるこ「でね、いつも聖母みたいな顔して俺の方を見てくるの」

しまるこ「全裸でカラーコーン被ってグラウンド走るじゃん? それで、グラウンドから校舎の方を見ると、廊下の窓から俺の方を見て祈ってるのが見えるの(笑)」

友達「(笑)」

しまるこ「それ見て、みんなめちゃくちゃ笑ってたんだけど」

しまるこ「俺もめっちゃ笑ってたんだけど」

友達「祈ってるだけなの?」

友達「話しかけてはこなかったの?」

しまるこ「いや、話しかけられたよ」

しまるこ「イケメンがもったいないとか、無理してるとか、本当に嫌なら先生に言った方がいいとか、勝手に色々言われて、勝手に色々同情された」

しまるこ「サゲマンっていうか、そういうこと言われると士気が下がるから、そういうこと言われながら走る方がよっぽど嫌だったの」

友達「それは嫌だね(笑)」

しまるこ「だから俺も、好きでやってるって何度も言うんだけど、どう言ってもわかってくれないの」

しまるこ「俺は漫画からきてるのかな?って思ってたんだけど」

しまるこ「そいつを全裸にして走らせたかったね」

しまるこ「お前できんのかよ? 学校でこんなことできんのは俺だけなんだよって言ってやりたかった」

しまるこ「学校だと、それくらいしかできることはなかったから、俺の仕事だと思ってた」

しまるこ「俺は勉強もスポーツもできなくて、喧嘩も弱くて女にもモテない。スラムダンクでいうと『ここは神奈川県立湘北高校だぜ。とりたてて何のとりえもない……フツーの高校生が集まるところさ…』ってやつだね」

友達「それよりもずっと低い次元の話だろ。勝手にレベル引き上げてんなよ(笑)」

友達「赤木もお前に全国制覇なんて強要しないだろ(笑)」

しまるこ「まぁ正直、今日は走りたくないっていう日もあったんだけどね。そういうときに頼まれた時は、少し顔に出てたかな? それを見られて、やっぱりしまるこ君傷ついてる……って思われるのは癪に感じた」

しまるこ「たった一回のつらそうな顔を見たくらいで、鬼の首を取ったかのように、ほれ見た事かマトリョーシカって具合に、『つらいなら、つらいって言っていいんだよ。しまるこ君』って言ってくんの」

友達「全裸とか全裸じゃないとかという話じゃなかったら、いい話なんだけどね」

しまるこ「なんで俺なんだよってずっと思ってた。俺じゃなくて、教室の隅で体育座りしてる構ってちゃんにやってやれよって思ってた」

しまるこ「お互い満たされてワン・ツー・フィニッシュじゃねーか」

友達「ぷよぷよの連鎖みたいにね」

友達「なんか、すぐ付き合えそうだね」

しまるこ「すぐ付き合えたよ、確実に」

友達「付き合わなかったの?」

しまるこ「ブスだったから」

友達「そうか」

しまるこ「平気なのに心配されるとムカつくんだよね」

友達「ムカつくね」

しまるこ「ほっといてくれると一番嬉しいっていっても、わかってくんないの」

しまるこ「だんだん俺もイライラして口調が荒くなってくると、図星だから怒ってるみたいな構図になってきちゃうの」

友達「なりそうだね」

しまるこ「加藤っていうんだけど、だからなんか加藤の前では、蜘蛛の糸に絡めこまれたみたいに、踏んだり蹴ったりだった」

しまるこ「色々言ったの」

しまるこ「加藤にとってはつらいことかもしれないけど、俺にはつらくないよ、とか」

しまるこ「感傷的な態度は同性の友達にやってよ。健康な人間に薬を与えるのは毒になる、とか」

しまるこ「戦士に慰めは不要だ、とか」

友達「戦士なんだ(笑)」

しまるこ「色々言ったんだけど、腑に落ちないみたいで」

しまるこ「『じゃあなんて言えばいいの?』って言われたのね」

友達「うん」

しまるこ「『なんて言えばいいの?』って言葉も、引っかかったんだけど」

友達「何も言わなくていいからね」

しまるこ「そう、何も言ってくれなくてよかったんだけど」

しまるこ「『こんにちは』でいいんじゃないの? って言ったの」

友達「え?」

しまるこ「戦士にかける言葉は、『こんにちは』ぐらいが一番ちょうどいいって言ったら、なんか、納得してくれたんだよね」

友達「ふーん」

しまるこ「その言葉だけは納得してくれたの」

しまるこ「そしたらね、廊下とかですれ違うときに、『こんにちは!』って優しくニッコリされながら言われるようになったの」

友達「めっちゃ面白いね」

しまるこ「面白いっしょ?」

しまるこ「まだ朝で、一限の授業が始まる前なんだけど、ニッコリ笑いながら『こんにちは!』って言ってくるようになったの」

友達「面白い」

しまるこ「昼休みのベルが鳴って、弁当を食って、カラーコーン被ってグラウンドへ行こうとして、加藤の方を見ると、『こんにちは!』って言ってくんの」

友達「(笑)」

しまるこ「で、全裸でグラウンド走りながら、校舎の方見たら」

しまるこ「『こ、ん、に、ち、は』って口をパクパクして手を振ってんの」

友達「嘘でしょ?」

しまるこ「本当だよ」

友達「嘘でしょ?」

しまるこ「本当だって」

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