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我々の中に潜む恐ろしい魔物について

しまるこ「小学一年生の頃、友達がいつも『聖剣伝説2』の攻略本を持ち歩いていた」

しまるこ「いつも持ち歩いているからボロボロになってて、ところどころページが欠けて汚れていて、読めるんだか読めないのかわからなくなってた。ほとんど読めなかったかな?」

しまるこ「でも、凄く大事そうに抱えてた」

友達「うん」

しまるこ「俺はそれが不憫でたまらなくて、見ててイライラしてきて、思わず攻略本を奪い取って、ウシガエルがうじゃうじゃいるドブ川に投げ捨ててしまった」

友達「なんでそんなことしたの?」

しまるこ「わからない」

しまるこ「今でも、起動に2分かかるノートパソコンを使ってる人を見ると、壊してあげたくてしょうがなくなってしまう」

しまるこ「そういうところからきてるのかなぁ? わからないけど」

しまるこ「そいつ、さとるっていうんだけど」

しまるこ「さとるのハートが砕け散る音が聴こえた。泣き虫で、いつも泣いてたけど、あのときの泣き方は違かった。子供なのに、壊れた人間の声だった。まるで魂にガソリンをかけられて燃やされたような、火車のように悶えながら、恐ろしい声を上げていた」

しまるこ「俺への憎しみや怒りを忘れて、ただ声にならない声を出し続けていた」

友達「なんで投げ捨てたの?」

しまるこ「わからない」

しまるこ「人の心をおもちゃにして遊んでみたかったのか」

しまるこ「ミニマリズム精神が子供の頃から根付いていたのか」

しまるこ「ぜんぶスッキリみたいな? この通り、頑固な汚れもマジックリンでクリックリーン♪みたいな」

友達「断捨離ってこと?」

しまるこ「ある友達が、前を歩いてる人間の背中を見ると思い切りぶん殴りたくなるって言ってたんだけど」

しまるこ「駅のホームで突っ立っている人を見ると後ろから線路に落としたくなる、とも言ってた」

しまるこ「企業の面接で自己紹介をしてくださいって言われると、金玉を横におっ広げて、『モモンガどす~~』って言って、モモンガみたいに面接室を飛びまわりたくなる、とも言っていた」

しまるこ「そういうことなのかもしれない」

友達「…………」

友達「どういうこと?」

しまるこ「すべての人間の中にこういうことが潜んでいる」

しまるこ「高校時代、番長みたいな奴がいて。溝口っていうんだけど」

友達「うん」

しまるこ「恐ろしくガタイがよくて、群れの頂点のオーラが漂っていた。どいつもこいつも溝口に群がっていた」

しまるこ「始業式の日、みぞぐっちゃん! 携帯の番号教えてよ! なんて言って、烏合の衆どもが溝口の机に群がってた。自衛のために形に残る証拠が欲しかったんだね」

しまるこ「あまりにも数が多すぎるから溝口はめんどくさくなって、机の上に携帯を放り投げて、『登録したい人いたら勝手にしていいよ』って、笑いながら言ったんだ」

友達「ほう」

しまるこ「そしたら下級クラスメイト達が、ハイエナのようにハァハァ言いながら、溝口の携帯番号を必死に登録していた」

友達「かっこ悪いなぁ」

しまるこ「俺も一生懸命登録していた」

友達「かっこ悪いなぁ(笑)」

しまるこ「でね、もし溝口に死ねって言ったらどうなるかなって、ずっと頭から離れなかったの」

友達「ん?」

しまるこ「この教室の権威に『死ね』なんて言ったら、俺はどうなっちゃうのかな? 俺の学校生活はどうなっちゃうんだろう?」

しまるこ「まず一瞬、空気が止まる。場は凍りつく。それから、それから……? それから俺はどうなるんだ……?」

しまるこ「そう思うと苦しくて苦しくて寝れなかった」

友達「重症だなぁ……」

友達「一人相撲もいいとこだね」

しまるこ「授業中も落ち着かなかったよ。この机を溝口に投げつけたらどうなるんだろう? それだけはやっちゃダメだって、机を握った手を必死に押さえつけていた」

しまるこ「ダメだダメだダメだダメだ……って言い聞かせながら、授業なんてまったく聞かずに、別の意味で机と格闘してた」

しまるこ「ドッカーーーーーン!」

しまるこ「ワハハハハハ! アッチョンブリケ♪」

しまるこ「ピロシマ♪」

しまるこ「天井を指さして、ピロシマ♪って言うの」

しまるこ「次の瞬間、そんな光景がいまにも起こってそうで、気が気じゃなかった」

友達「そりゃ浪人するわ」

しまるこ「でも子供ってそうやって生きてるよね」

しまるこ「奇声上げたと思ったら、次の瞬間には大人しくアニメ観てたり、衝動だけが断続的に続いていく」

しまるこ「動物もそう。猫を二匹飼ってたとき、一匹の猫がもう一匹の猫の顔を急に殴ったりしてた」

しまるこ「子供の頃の残滓が、人より多めに残ってただけのような気もするんだけど」

友達「発達障害みたいな?」

しまるこ「でも、誰にでもあるよ」

友達「そうかもね」

しまるこ「今だってあるよ。婚活パーティーで女の子が料理をよそってくれたら」

しまるこ「ドーーーーーン!ってやりたくなる」

しまるこ「ドーーーーーン!!」

しまるこ「ドーーーーーーーン!!」

友達「ドーーンか」

しまるこ「ドーーーーーーン!!!」

しまるこ「向こうもやればいいのに」

しまるこ「二人でドーーーーーン!!」

しまるこ「セックスよりもよっぽどセックスだよ」

しまるこ「みんなでドーーーーーーン!ってやった方がカップル成立するんじゃね?」

友達「どうだろうね(笑)」

しまるこ「婚活パーティーのときはいつもそればっか考えてる」

友達「そりゃ結婚できないわけだわ」

友達「ドーーーーーンじゃね」

友達「うちの病院にいた患者さんで、大人しくて品行方正な、60歳になるんだけど、すごい綺麗な女の人がいたんだけど」

友達「綺麗っていうより美しいって言葉が似合ってたかな? あんな歳の取り方したいよね〜ってみんなに言われてて、俺もあんなお母さんが欲しいと思った」

友達「その人が脳梗塞になっちゃって、認知障害が残っちゃったの。そしたらね、すごいエロいことしか言わなくなっちゃったの」

しまるこ「ん?」

友達「本当に、言い表せないほどの信じられない卑猥な言葉しか口にしなくなっちゃったの」

友達「『水野さーん体温測らせてくださーい』って看護師が入っていくと」

友達「いいからセックスはよセックス! セックスセックスはよセックス……!」

友達「はよセックスさせい!!って」

友達「わいのおめこビンビンやでほんまに!! みたいな」

友達「あの水野さんがって……、みんなポカーンとしてたよ」

友達「隣に息子さんが座ってたんだけど、息子さんも死んだように顔が青ざめてて、すいませんも言えなくなってた」

しまるこ「(笑)」

しまるこ「それが本当の声なんだろうね」

しまるこ「認知障害になったからエロくなったわけじゃない。自制が効かなくなったから、今までずっと胸につかえてたエロい言葉が飛び出てくるようになったんだね」

しまるこ「60でそれだけ綺麗な見た目をしてたことが証拠だね。性に対する狂気じみた心がけがあったんだ」

しまるこ「綺麗になりたい綺麗でありたいキレイキレイキレイ……男男男……異性異性異性…………脳内メーカーやったらそんな風に出ただろうね」

しまるこ「痴呆になってわけのわからんことを言っているように見える人でも、こういうケースが多い」

友達「それは一理あるかも」

友達「でもね、知性的だったころの水野さんより、卑猥なことしか口にしなくなった水野さんの方が、周りから好かれてた」

友達「俺も好きだったなぁ〜」

友達『おんどれちんぽがなんぼのもんじゃい!ヨーイヨーイヨッコイショッ♪』って言ってたのをよく覚えてる」

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