仕事

コンビニでアルバイトして、『からあげ棒』を客の自宅まで届けに行ってしまった友達

投稿日:2019-11-20 更新日:

Yは26歳の頃、コンビニでバイトしていた。この歳でバイトしていたのは、仕事ができなすぎて会社をクビになったからだ。Yほど仕事ができない人間はいなかった。会社の門をくぐる瞬間、いつも自分が10分の1になるように感じると言っていた。

今回の記事は、仕事ができない人の思考パターンや行動の一情景をお届けしたいと思う。あまりにも異常過ぎて、常人には参考にはならないかもしれないが。

Yはいつも殴られたブルドッグみたいにブスッとつまらなそうな顔をして、レジにあるからあげ棒や、本棚に並んでる本や、フロアをほっつき歩いてる客や、店内の全てが、異世界のように感じていた。

1週間経っても1ヶ月経ってもそれは直らなかった。常に心臓が上置修正されて、あぷあぷいっていて、急にスピーチを頼まれたような、外国にやってきて迷子になってしまったような、オドオドした態度がどうしても抜けなかった。それでいて、自分の脱いだ靴下を投げ捨てるように商品を扱い、生来の雑さも手伝っていた。「ここに代金を置いておいてください」とレジに書き置きだけ残して、いない方がマシだったかもしれない。

事件は、Yがコンビニでバイトして2ヶ月が経った頃だった。Yがいつものようにいない方がマシな仕事をしていると、電話が鳴った。Yは受話器を取った。

客「あの、先程そちらでからあげ棒を購入した者なんですけど、袋を開けたら、違うものが入ってたんですけど」

Y「え!?」

客「ホットドッグがはいってました」

Y「すいません! お客様、大変すみません!」

客「あの、こういう場合、どう対応してもらえるんですか?」

Y「あ、交換したいと思います!」

客「もう家に着いちゃったんで、届けに来てもらえますか?」

Y「ああ、えーと……」

Y「えー……と」

Y「ハイ」

Y「お客様、住所はどこになります?」

客「◯◯市◯◯町15ー9です」

Y「今からですと、えー……と、30分くらいかかりますけど、大丈夫ですか?」

客「はい」

Yはそのとき1人シフトだった。他の従業員は誰もいなかった。しかし客は3人いたので、3人の会計を済まし、店内に客が誰もいなくなったのを確認すると、保温ケースからからあげ棒を一本取り出し、なんと、店を抜け出し、自分の車に乗り込んで、教えられた住所を頼りに、お客さんの自宅へ向かってしまった……!

片道30分なので、往復1時間かかった。1時間後に店に戻ってくると、レジの前に行列ができていた。Yは驚いたが、がんばって行列客を処理して、家に帰った。

店長「どういうこと? Y君。全部カメラに映ってたけど、1時間も店を空にするなんて、何考えてんの?」

Y「すみません」

店長「どうしてデリバリーしようと思ったの? コンビニでデリバリーしてるところみたことある? そんな仕事教えた?」

Y「いや……」

店長「『からあげ棒1本ください!』って、電話注文されたら、届けにいく仕事だっけ? コンビニってそんなピザ屋みたいなところだっけ?」

Y「いや、注文の電話がかかってきたら、僕も行きませんけど、僕が間違ってホットドッグ渡しちゃったもんだから、それは、僕が責任もってなんとかしないとと思って……」

店長「でも、店はY君一人しかいなかったよね? Y君がいなくなっちゃったら、お店はどうなるの? 誰がレジをやるの? Y君がいなくなった後、新しいお客さんがやってくると思わなかったの? そのお客さんはどうするの?」

Y「それは…………」

店長「お客さんに届けに行くんだったら、誰か代わりにレジに立って貰わなきゃいけないよね?」

Y「…………」

店長「なんで私に電話しなかったの? 緊急事態でしょ?」

Y「…………、今いるお客さんをほっぽりだして行くのはまずいと思ったから、ちゃんと全員の会計を済ませてからにしました。そのあと、新しいお客さんが入ってきたとしても、今は誰もいないんだと思って帰ってくれると思ったというか……」

店長「『誰もいないんだ』ってどういうこと?」

Y「誰もいないんだと思って、他のコンビニに行ってくれるかなって……」

店長「誰もいないコンビニなんてあるの?」

Y「店員がちょうどトイレにでも行ってるのかなぁ……? みたいな感じで、今はいないのかな、みたいな」

店長「そしたら待つよね? 他のコンビニに行かないよね? 店員がトイレから出てくるの待つよね?」

Y「しばらく待って、出てこなかったら、他のコンビニに行くかな、と思いまして」

店長「いや! 店員が誰もいないとは思わないでしょ!」

店長「そんなコンビニ見たことある!?」

Y「いや…………」

店長「カメラで見たけど、Y君が戻ってきたとき、レジ行列になってたよね?」

Y「まぁ……」

店長「待ってたじゃん!!」

Y「はい……」

店長「私に電話するタイミングはいくらでもあったよね? なんでしなかったの?」

Y「わかりません……」

店長「何がわからないの?」

Y「わかりません……」

店長「いや、こっちがわからないから聞いてるんだけど」

Y「…………」

店長「私に怒られるのが嫌だったの?」

Y「わかりません……」

店長「何がわからないの?」

Y「わかりません……」

店長「わからないことがわからないの?」

Y「………」

店長「Y君」

Y「…………」

店長「Y君」

Y「わかりません……」

このように仕事できない人間は、最後は「わかりません……」を繰り返すだけのロボットと化す。

見ての通り、質問された時の対応を一応は用意してあったが、どれも水泡に帰してしまった。

Yにだってわかっているのである。店を空にしてはいけないことも、デリバリーのシステムもないこともわかっていた。

だが、Yは平常でいられなかった。Yがいつものように部屋でYouTubeを見たり、タバコを吸ったり、親友と電話するときの心持ちだったら、いくらでも明晰な推理ができたし、今回しでかした自分の話を他人の口から聞かされたら一笑に付していただろう。

誰もいない1人シフトなのだから、一国一城の主として雄大に構えていればいいのに、いや、おそらくは雄大に構えていただろうが、たった一本の電話で、彼は主どころか、奴隷にもシロアリにもなり下がってしまった。

半分程度習い覚えた水法なので、すぐに顔を出してしまう。すぐに「ハイ!」と軽返事してしまうのは、息が続かないためである。

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