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「あなたと付き合ってても何もメリットがない」と彼女に言われた話

いつもずっと理想の心の状態というものを探していた。心の置き場所というか、なんというか。

20歳ぐらいから、そういうことを考え出した。普通は歳をとるにつれて、そういう気持ちは薄れていくのかもしれないけど、俺は25歳を越えたあたりから、さらに強く求め出していった。

(心の中がはっきり定まらないと、とてもじゃないけど仕事もできない……!)

人と話していときや頭の中で飛び交ってる言葉でさえ、いつも自分が間違ってることしか言ってない気がした。ちゃんとした「一点」から全てを出発させたい、という病気になってしまった。

昔は全然本なんて読まなかったけど、25を過ぎたあたりから、その道の先輩の本を読み始めた。 本棚にあるのは精神世界と食事の本だけだ。

本を読んでいると、それを考え抜いた人がたくさんいたことが分かり、今までなんで読まなかったのかと激しく後悔した。

結局、俺が探してやまなかったその「一点」というのは、大宇宙を作り出した神の意識であり、宇宙霊と言うべきものだった。この世界は全て幻で、宇宙霊なるものの想念が物質化しているに過ぎない。物質の中に想念があるのではない。想念の中にこの世界があるのだ。つまり、私達は想念の影を生きている。

なんとなくいつも、そこにあるような、守られているような、心を静かにすれば静かにするほど感じられるような、そんなものがこの世界にはあると思っていた。それが宇宙霊だということがわかった。

人間もその宇宙霊の気から作られているもので、誰の内側にもそれは存在していて、知覚することができる。それをはっきり知覚して、この世界は幻だということを体験することが悟りらしい。夢を見ながら、夢の中にいながら目を覚ますということだ。

俺が求めていたのはそれだったと気づくことができた。やっとこの長い旅も終わる気がした。

しかし、本のおかげで、よくわかった気がしたけど、精神が知識に追いついていない状態が、今だ。

平常心がいいのはもちろん知っている。平常心で落ち着いている状態にいることはもちろんだけど、肝心はその先なのだ。

平常心の中もまだ漠然としている。まださらにはっきりとした一点があるはず。呼吸がゆっくりしていて、落ち着いていて、何も慌てることもなくて落ち着いているんだけど、まださらに意識を沈殿させたところに、何かが眠っているような、これ以上ないところまで深く潜っていったところに、一点があるような気がした。その一点に会わなければ人生が始まらない気がした。

なんだか、もうすぐにでも見つかりそうな気がするんだけど、どうあがいても一生見つからないような、希望と絶望が混同して疲れた。

たまに調子が良くて、すごい心が透き通っている気がして、あぁ、これかぁ、これかなぁ、と思っても、やっぱり何か違うような気がして、あともうひとつ、もうひとつだけ足りないような気がして、でも本当にひとつなのか? まだまだ壁があるんじゃないか? と、そんなことを繰り返した。

こんなことを続けたって一文の得にもならないし、社会から余計はみ出るだけだから、むしろデメリットの方が多い気がする。だけど、フォームが定まらないのに投球を続けるのは無意味だ。

結局こんなことを誰かに相談したところでイライラさせるだけだから、本を読んで実行するしかなかった。

だから友達から「週に6日も休みがあって、一体何してるの?」って言われる度に、答えに窮してしまう。 真面目に働いて結婚している人に、「霊的修行だよ」とはとても言えない。

誰にだってなんとなく、心が静かになって、天井からすべてを見渡しているような、晴れ晴れとした気持ちになったり、夏の夜に鈴虫の声を聞きながら月なんかを眺めている時は、世界で一番自分の心が透き通っているような気分になるけど、果たして本当にそこがゴールなのか?  もうこれ以上進めないという完全な行き止まりがあるんじゃないか?

付き合っていた彼女に、
「あなたと付き合っていても何もメリットがない」
と言われた時は本気で殺したくなった。

「 テレビも車も家も職場も幻で、すべての人間も幻で、本当は何もないのに、そんなガラクタにいつまでも心を燃やして、真面目に働いてちゃんとお金を払ってご飯を食べてれば順調だと思ってる。たまに俺と遊んで、仕事も恋も順調で、私は今キラキラしてると思ってる。そのキラキラがお前の精一杯で、それ以上のキラキラが、輝きが……! どこにあるかもわかんねーような奴に言われたかねーんだよ! 俺の抱えてるもんが少しでもお前に入ったら死ぬぞ? お前の目の前にいる男はお前がいくら生まれ変わってもたどり着けないとこで戦ってるんだよ! 彼女だろ? お前は……! 彼女なのにどうして俺の良さが分かんねーんだよ!」と思った。

まぁ実際は、「あなたと付き合ってても何もメリットがない。何で私あなたといるんだろう? それが好きってことなのかなぁ」という言葉だったんだけど 。まあ、それでも殺したくなる言葉に変わりない。

たとえこれを口に出したところで(死んでも言えないけど)、「 そんなこと言ったって、あなたいつもマットレスの上でタブレットいじってるだけじゃん」と言われるに決まってる。女はいつだって外に現れるものでしか判断できない。

おそらく俺は馬鹿にしてたんだと思う。彼女は凡俗で、彼女の周りにも凡俗しかいなくて、なんの因果かたまたま俺のようなすごい人間と出会えて、俺と一緒にいるだけでもすごいメリットなのに、それに気づかないことが我慢ならなかったのだと思う。付き合ってる人には尊敬してもらいたかったんだと思う。

正直、学校でも街中でも、どうして女達が俺に告白してこないのか分からなかった。今こうしてこのブログで女の悪口を言ってるのは、それが原因になっているのかもしれない。

仕事も辞めて、一人でずっとアパートの一室で、自分の心と見つめ合ってるなんて、大抵の人は気が狂ってしまうかもしれない。 周りから見たらとっくに気が狂ってるのかもしれないけど、 自分では普通だと思っている。ヒトラーの言葉を借りるなら「私は多くの間違いをする。しかし人々はもっと多くの間違いをする」というやつか。

ただこんな風に、一生懸命掘り下げた心から、言葉や行動を発するようにしていると、「話し方が優しい」とか「天使みたいな話し方」「お前は総理大臣になった方がいい」とか言われることもある。別に人を助けたわけでも、特別大きなことをしたわけでもないのに、今の俺が辿りつける一点から話してるだけで、そんな風に言われることもある。人によっては、俺は何でも知っている人に見えるらしい。

だけど、本当に信じられないくらい仕事が出来なかった。プライベートではたまに人から尊敬されるけど、仕事だとミスばかりで、いつもいじめられていた。

朝礼で、「皆さんも知っての通り、しまるこ君はいい歳になるけど常識がありません。軽自動車の後部席に利用者を3人乗せてきたり、ビチョビチョに濡れた靴のままフロアを歩き回って利用者を転ばせたり、先日も、目の見えない○○さんを、後ろから肩を支えて歩かせて、○○さんから『怖い思いをした』というクレームが届きました。これらは医療職じゃない普通の人でもやらないことです。しまるこ君は放っておくと、我々が考えもしない行動をとります。皆さんには恐縮ですが、なんとか支えてやってください。皆さんも自分の仕事があると思いますが、余力があるときはしまるこ君の行動をチェックするようにしてください」と言われた。みんな「はぁ……? 面倒くせえ……」という顔をしていた。あのときは涙が出そうになった。家に帰るまで、泣かずにいられるかなぁと思った。

だからもう社会に戻るのは怖いから、一生このアパートに引きこもるつもりでいる。

俺はいつだって難しいことを考えていて、俺の方が頭がいいのに、いつもいじめられてしまう。みんな馬鹿だから、同じレベルの生命体同士だから連携が取れるだけで、超越した人間は締め出されてしまう。

そして、みんなで力を合わせて役に立たないことに汗を流している。奥さんに「じゃあ行ってくるよ!」と言って弁当を持って家を出て、奥さんも笑顔で送り出すけど、世の中に何も意味のないことをしている。売っている商品も、眺めている帳簿も、必要ない。世に流通している商品の9割が人の健康と時間を奪うものだ。

そんなことを考えながら、ある日、利用者さんとぼーっとしながら散歩していて、 利用者さんの歩行器がでかい石にあたって、利用者さんは道路の中央に頭を飛び出すほど転んでしまった。そこにちょうど車が通りかかり、利用者さんの頭の5cmぐらい先を走った。

本当に5cmかそれくらいで、利用者さんの頭の先を車が通った。全身が冷たくなった。

(車が頭の上を通っていたら……?)

恐ろしくて恐ろしくて、倒れている利用者さんの介助も忘れてガクガク震えていた。

あとほんの少し、倒れた場所が向こう側よりだったら、俺は今頃こんな風に記事なんて書いてない。仕事ができない人間は、人を殺してしまう。

そうだよ。メリットなんてあるわけがない。 散歩すらできない間抜けな人殺しと付き合ったって、メリットなんてない。

なんだかこの時、すべてに納得してしまった。このまま誰かと付き合ったり、誰かと結婚したり、誰かのために社会にいても、誰にもメリットなんてないんだと思った。

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