恋愛 ドトール観察記

毎朝、会えるのを楽しみにしていたドトールの可愛い店員(推定18歳)がいなくなっちゃった

無職、ニート、フリーターは、高校を卒業して専門にも大学にも行かずにドトールでアルバイトをするような女の子を好きになってしまう。

これぐらいならイケそうだという過小評価が働く。二つのゴミが一つにまとまる気がするし、ちょっと声をかければ付いてきてくれそうな家出少女のような雰囲気がある。

家庭環境も良くなくて、「あんたいつまでフリーターやってんの!」なんてお母さんにいつもガミガミ言われて、「お金たまったら絶対こんな家出ていくんだ……!」と不倶戴天の意思を固めるが、すぐに夏フェスで散財してしまい、仮に金が貯まって一人暮らしを始めても、もちろん出費がかさんで、ねずみ講、水商売、生活保護の一途を辿っていく。

それだったら俺と付き合えばいいのに。こんなアパートで良かったら住ませてあげるのに。

でもこういう子は、ピアスを耳にたくさんつけるぐらいだし、 ONE OK ROCK系の、地下で音楽性よりも騒音性を追求しているような、メンバーの中にピンクの坊主がいるようなバンドに傾倒してしまい、なよなよした線の細いジャニーズ系は好きではないし、33歳のおっさんに至っては、「?」という感じだろう。

今俺がこの子にできる最大の優しさは、「決して話しかけない」という鉄の掟を守ることだろう。

俺達のようなニートは、「これからは医療の時代だから看護の専門学校に行こう!」と高校生のうちからそんな頭の良い判断ができてしまう子の方が怖くなってしまう。

この子はあまり仕事ができない。気配りも下手で、おばさんの先輩によく怒られている。ドトールなんてもんは、仕事のできるおばさんよりも仕事ができない可愛い子が求められてるんだから、このおばさんこそ怒られなければいけない。なんで朝からおばさんを見せられなくちゃならないんだ?

「いいじゃんしまるこ、 そんなに気になってんなら声かけてみろよ。ブログのネタにもなるじゃん」

「霊的修行に励んでるんだろ? だったら声くらいかけれるだろ。出会い系じゃ調子のるくせに、リアルじゃなんにもできないんだな(笑)」

彼女を見るたびに、俺の意思を試そうとする外野の声が聞こえてくるけど、俺はいつも聞こえない振りをした。

外見の説明をすると、異常に小さい。140cmくらいかもしれない。あまりに小さいので、この子を初めて見る客達は必ず二度見する。いつもレジの机と同じぐらいの高さに頭がある。結婚したら凄い小さな子供が生まれそうだ。男の子だったら大変だ。

髪はかなり明るい茶髪。少し目や肌が浮腫んでいて、朝慌てて起きてパンを口に挟みながらやってきたような顔をしている。両耳にたくさんピアスの穴が開いている。俺がよく行くクリエイトの店員(推定18歳)も、一見清楚に見えるけど、たくさん耳に穴が開いている。高校卒業後にフリーターになる子は、みんなたくさんピアスを開ける。まるで順調に進級していった同級生達に対する反抗の印のようだ。だが、顔はとても可愛い。可愛いければ別にどれだけ穴が開いてようが構わない。

特筆すべきは接客だろう。笑顔が本当にいい。満面の笑顔をする。誰も普通はこんなにいい笑顔はできるもんじゃない。どんなに接客が上手な人間でも、全力の笑顔ができる人はいない。

だから、すごいいい事のように思えるかもしれないけど、実はこれは手放しで褒められたもんじゃない。

後先を考えない笑顔なのだ。まるで子供のように調整が効かず、社会も何も理解していないから、1日のエネルギーのトータルバランスを計算せず、思い切り笑顔を出してしまうのだ。そして案の定、後半になると彼女はダレて動かなくなってしまう。つまり、調子がいいだけだ。

いつも「ハイ! ハイ!」と言って慌ててるかと思うと、気が抜けてボーっとしている。早く家に帰ってONE OK ROCKを聞きながらベッドに寝転んで、ピアスの雑誌を読みたそうな顔をしている。

なんでも慌てて「ハイ!」と言ってしまう人間は愛想はいいけど、仕事はできない。無愛想で、部屋で1人でいる時のような顔をして仕事をする人の方が落ち着いていてミスがない。そんな顔でコーヒー出されても飲みたくないけどね。

そしてすぐ謝る。先輩に怒られると、反省したり考えたりすることもなく、なんでもすぐに謝っている。名前を呼ばれただけで、「すいません!」と言い出しかねない。最近まで学生だった子が社会に出ると、みんなそんな感じだ。俺も18歳の時はそういうところがあった。今じゃ少し何か言われると、馬乗りになってボコボコにしたくなってしまうが。

あまり他のスタッフと会話をしない。ボーッとして仕事をしない時があるので、周りからイライラされてるんだろう。でも、人寂しくなったり、孤立している時間が少し長くなってくると、「私って別に孤立してないですよね?」と確認するように、先輩達に話しかけている。好きじゃない先輩相手に、一生懸命媚を売るように話しかけていて、健気だ。残念ながら会話には少し温度差があるようだが。

あまり女の先輩達からは好かれていないようだ。しかし男の店員からは好かれている。50歳くらいの、ハゲ散らかして、いい歳してドトールで働いてるくせに反省の色もなく、先っぽが尖った靴を履いてる変な男がいるけど、そいつは自分の彼女みたいにこの子に話しかけている。俺はいつもそれを見る度に、そんな奴と話すぐらいだったら俺と話せよ! と守ってあげたくなる。

この子の心情を察するに、本当は同性の先輩と仲良くなりたいのだけど、それがなかなか叶わないから、この親父で我慢するしかないという顔をしている。1人で孤立するよりはマシかなという顔だ。

週に5回程度、朝8時から昼2時ぐらいまで働いている。なんでそんなことを知っているかというと、それ以上に俺が毎日来て、それ以上の時間を滞在しているからである。

(この人一体何なの? いつも毎朝決まった時間に、決まった格好で来るけど、全身ジャージだし、これから仕事に行く感じでもないし……。何歳だろう? さすがに学生には見えないけど、平日の朝に何で毎日来るんだろう? また来た。なんかいつもノートに変な字ばっかり書いてるけど、それは仕事? そんな仕事あるの?)

と思っているに違いない。でも、それを口に出してはいけないぐらいの分別はちゃんと持っている。

いつも制服の上に黒いジャンパーを羽織って、ババアでも乗らないダサいママチャリを漕いでやってくる。休日に友達と遊ぶ時は、今風の可愛い格好をしているに違いないが、仕事の通勤なんだから、これでいいじゃん? という感じでやってくる。帰るときは猛スピードで飛ばして帰っていく。よほど仕事を終えたのが嬉しかったんだろう。このぐらいの花も恥じらう年頃の子なら、そういう姿を人に見られるのを何よりも恐れるはずなのに、頓着がない。これは自分の時間軸の中だけで生きている人間がやる特徴だ。俺も同じタイプなので、こういう人間同士が夫婦になると、世も末なほど恐ろしいことになる。

「結局お前はその子のこと好きなの?」という下品な質問に答えるならば、好きと言わざるを得ない。

結局一度も話すことが叶わないまま、去っていってしまった。もう二度と会うことはないだろう。俺がババア達をボコボコにすれば戻ってくるだろうか?

もし出会い系に現れたら、迷わずいいねをする。

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