創作物

全裸学校計画 一章「風紀委員会」

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 このブログが更新される度にきっかり閲覧して下さる酔狂な読者さんにおかれましては、「電動しまるこの奴、最近やたらと長文を書くけどどういうつもりだ?」「ブログの域を越えた文章量だ」「これからもこんな狂った量が続くのか……?」と思っているかもしれない。そう、今回はいつもの長いヤツの更に10倍長くなる。

 最近はアフィリエイト的な客寄せパンダ的な記事や毎日更新のための小ネタを書くのはうんざりしてきた。そして却ってそんな記事はあまり読まれないこともわかってきた。やはり大きな爆発を起こすためにペンを取らなければならないことがわかった。

 実は少し前にエロゲーのシナリオを載せたのだが、こんなの誰も見ないだろうと思っていたのに案外読まれてびっくりした。読まれたと言っても、このブログは1日に600PVをうろちょろしている程度の弱小ブログだから大きな事は言えないが。

 そこで今回は実験をしてみようと思う。この『全裸学校計画』は、24歳の時に書いた小説で今でも気に入っている作品だ(果たして小説と言っていいかは謎だが)。当時は周りの友達を楽しませるために書いたのだが、最近はこのブログでもお友達ができてきて、こういったものを投下するのもありかもしれないと思った。何より俺自身が以前書いたモノに手直しを加えるだけだから楽なのである。

 前回書いた記事が12000文字だったけど、今回はそのおよそ10倍の量になる。この量になると1度に投下するわけにもいかないので10回ぐらいに分けて公開していく予定だ。また思ったより手直しに時間がかかっているので(ほとんど全て書き直し)、全てを終えるまで1ヶ月はかかりそうだ。

 検索流入は当てにできない記事になるが、5月はこんな事に費やそうと思っている。どうせ人生を棒に振ってるのだから、この1ヶ月を棒に振っても問題はない。しかしプロフィール作りは途中だし、人気の過去記事ぐらいは修正しなきゃと思っているけど、ついYouTubeを見て寝てしまう。なかなかブログというのも大変だ。出会い系の記事を楽しみに読みにきてくださる読者さんは、また6月にお会いしましょう。

 この『全裸学校計画』は、タイトルで大体お分かりになると思うが、その通り、ある風紀委員らの働きによって学校の全生徒が全裸で生活する物語である。
これを書いた当時の俺は印刷会社に勤めていた。仕事ができなかった俺は1年で女しかいない部署へ左遷されてしまい、左遷先の部署でずっと郵便物の仕分け作業をさせられていた。俺はその仕分けすらまともにできず、気の強いわけのわからない木戸とかいう女に毎日こっぴどく怒られていた。女は男に対してどれだけボロクソに言っても、決して女を殴ることはないと安心しきっている。俺はその安心しきった顔に無性に腹が立っていた。男は男を怒るとき、逆上されて喧嘩になって負けたらどうしよう? と考えるが、女にはそれがない。だから遠慮なく怒ってくるのである。そういう意味で言えば最終的なところでは俺は信用されていたというべきか?

(わからんぜ? 俺は殴るかもしれんぜ? 俺がお前の安心を破る第1人者になるかもしれんぜ?)

 そんなことを考えながら作業していたので余計にミスをした。

 幸い上司に恵まれ、いじめに見かねた上司は木戸を呼び出して「あんまりしまるこ君をいじめないでやってくれ」と諭してくれたのだが(それもずいぶん惨めだった)、せいぜいもって2日で、木戸はまた俺をいじめてくるのである。
そして俺はこの問題について一生懸命考えた。考えながら作業をするのでまた余計ミスした。

「どうやったら怒られないで済むかな……?」

 ではない。

「どうやったら永続的に怒られないで済むかな……?」

 だ。

 もちろん常人であれば仕事をきっちり覚えて同じミスはしないという結論に至るだろうが、俺は違った。俺はどうやっても仕事ができなかった。そしてそういう人は多いことも知っている。

 俺が至った結論は、木戸に服を着させないというものだった。木戸が全裸だったら決して俺を怒れる精神状態になれない。しかし木戸だけ全裸にさせて俺が服を着ていたら、今度は俺が木戸をいじめてしまうことになってしまう。それは俺のポリシーに反するものだった。だから俺も全裸になる。俺も木戸も全裸になる。そうなってくると職場全員が全裸になることになってくる。別に木戸の身体なんて頼まれても見たくなかったが、これしかなかった。仕事中はずっとこんなことを考えていた。

 これを友達に話したところ、それは確かにその通りかもしれないと言われた。
「おそろしいほど宗教的だけど、本当に全裸になったら全ての職場に争いがなくなるかもしれない。もう誰かが怒ったり怒られたりすることは無くなる。だけど現実で起こり得ることじゃない。絶対に、起こんないからなぁ〜……」と友達が電話越しに寂しく呟いたとき、なら俺が架空の世界の中で実現させてやると静かに胸の中で誓ったのである。

 今はどう思っているのか?

 今でも俺は、この世界は全裸になるべきだと思っているのか?

 それはここでは秘密にしておこう。それはこの物語の主人公『森永 明治(もりなが めいじ)』が代わりに明らかにしてくれるはずだ。

【全裸学校計画】一章「風紀委員会」

 委員長の心の中にはいくつもの窓が用意されていて、委員長のその時の気分で好きな窓を選んで開閉する。それはどれをとっても俺達全員を巻き込むほどの大きな窓だった。

 委員長は紅いフレームの眼鏡をしていたが、それはこの人の魂の紅い閃光が具現化されたものに見えた。

「何かが違うのよね。何か……そう……何かが……」

 トレードマークの紅いフレーム眼鏡を光らせながら委員長が言う。

「この暖かい陽だまりの中、私の可愛い生徒がお外を歩いている。普通に制服を着て、普通に友達と話して、普通に授業を受けて、お昼にお弁当を食べて帰って寝る」

「いいことじゃないですか」

「そう。いいことなんだけどね。だけど……、この胸に去来する一抹の違和感は何かしら? 当たり前の日常があって、誰もがこの陽だまりの中に安住しているけど、本当に目覚めてはいない……。いつからか……、小学校高学年? 中学校? 恐らくその辺りから、私たちは仮面を付けることに慣れてしまった。本当に取るに足らない会話ばかりをして、その会話が上手くできるか否かが人間力の基準になっている。小さい頃……、ひたすら画用紙にわけのわからない絵を描いていた頃のように戻れないかしら? あれが人間の本来の姿だったのに」

「それじゃあ、生活が成り立ちませんよ」

 クスクス笑いながら水樹ちゃんがいう。

「そうかしら、本当に成り立たないかしら? 私達が本当に心を落ち着かせられる相手は植物と動物と赤ちゃんだけ。犬や猫は素晴らしいわ。コミュニケーションの達人よ? どっかの無職みたいなのがコミュニケーション教室を開いて、『さぁみなさん……! みんなで笑いましょう! 理由なんてなくたっていいのです! 隣の人の顔を見て大きな声で笑って下さい! 笑っているうちに幸せになれますから……!』なんてやってるけど、彼はまだ浅いところにいる。真実海の浅瀬に過ぎない。この男と一緒にいても心から安心しないもの。確かに彼の殊勝な心掛けは立派なんだけど、人工的な愛しか感じない。人工的な愛はどこまでいってもむず痒いわ。多くの人が後天的に学習することでコミュニケーション力が育つと思っている。私も今までそう思ってきた。だけど私達は犬や猫に勝てない。この件をよく考えて、私達はもう一度真実を学び直す必要がある」

「そんなことを考えながら窓の外を見てたんですか?」

「私は犬や猫より委員長の方が好きですよ」

 水樹ちゃんがいいタイミングでいいことを言う。女性的な発言だ。こういうことは思いついても男だったら照れて言えやしない。

 水樹ちゃん(東国原水樹 ひがしこくばら みずき)は学校のアイドルだ。ピンクの綺麗な髪の毛をして、細身なのに巨乳で、文化系の温っぽさがあって、皮を剥ぎ取りたくなるような小動物さ、隙がある。はっきりとした綺麗な目をして、鼻と顎のラインがすっきりしていて作られたばかりの水道管を連想させられる。中を流れる組織や血液も美味しそうに見えた。

 そこらの可愛い子と水樹ちゃんを大きく隔てるのはその神聖さだろう。明らかに神の寵愛を多分に賜っている。神聖さは静止するところから創られる。水樹ちゃんはいつも止まっているようなところがあった。俺は水樹ちゃんを観察することで、人は美しくなればなるほど静止するという法則を発見した。水樹ちゃんと目を合わせた人間すらも時間を置き去りにしてしまう。

 アイドルというのは可愛いだけじゃなれない。一番必要なのは頭の良さだ。勉強のことじゃない。何を話して何を話さないか、何をして何をしないか、それが分かっていないと学園のアイドルにはなれない。面白いことがあっても大口を開いて笑えないし、先生に指名されても難しいことを言ってはいけない。合理的な走り方が思いついてもゆっくり走らなければならない。非常に制限の多い学校生活を歩まなければならないが、その見返りは甚大だ。

 どうして学園のアイドルがこんなイカれた委員会に所属しているかというと、おそらく委員長のことが好きだからだと思う。彼女自身がいつも制限の多い生活をしているから、委員長の豪快さを側で見るのが気持ちいいんだろう。

 そして、高校生の女の子にも母性本能がある。俺には全くない感情だけど、グラウンドと抱き合ってほとんど白を留めていないユニホームを洗濯するのが好きとかいう女は確かに存在する。また、お菓子作りや裁縫が好きな女の子は同じ趣味を持つ男を好きにならない。人は自分に無いものを求める。水樹ちゃんはいつも委員長を見ていた。そして俺は水樹ちゃんを見ていた。

 美少女として正しい振る舞いを続けることは人間の知力を恐ろしいほど発達させるのではないだろうか? 俺は水樹ちゃんと本気で議論したら負けるんじゃないかと思っている。彼女はおそらく俺より真実に近いところにいる。彼女は「へー」「そうなんですか?」「すごいですね!」しか言わない。余計なことを全く言わずにすぐに身を引いてニコニコ笑っているだけの女の子だけど、全てに気づいている様子があった。

 凛とした瞳と神聖さがそれを証明している。全てに気づいていることによって、誰も感知できない空気中に浮遊する美の構成粒子までも知覚することができて、これを摂食して端正な顔と豊満な胸が育った。それが彼女の美しさの正体だと俺は睨んでいた。そこに俺が割って入って偉そうなことをいっても、どんどん自分が醜いバカになっていくような気がした。美しさと知性は相関があるに違いない。そして忍耐も。ババアより若い女の子の方が全ての点で優れていることがそれを物語っている。難しい本を読んだり、瞑想に耽るよりも、ただ美少女の法則から外れないで毎日を生きることは、ずっと頭を良くするように思われた。

「何かが違うのよね……。犬や猫と人間の醸し出す空気の一番の違いはどこにあるのかしら……」

「まだ言ってるよ」

「先入観じゃないか?」

 ペヤングが言った。

「さすがねペヤング。まぁ私もそこには気づいてたんだけど」

「あいつらは生まれたての生命がそのまま尻尾を振って歩いてるようなもんだ。俺らは17年しか生きていないが、それでも人間が腐るには充分な時間だと思っている。真白の絨毯のように人間に1度ついたシミは取り戻せない。それぐらい分かるだろ委員長?」

「わかるわよッ!」

 プリッと腹を立てて机をバンと叩く委員長。  一体こいつらは何の会話をして何に腹を立ててるんだ?

「1度ついた垢は本当に洗い落とせないものなのかしら?」

 委員長は寂しそうに言った。

 水樹ちゃんはニコニコしながら話を聞いている。こういう時、自分はニコニコしているのが仕事と言わんばかりだった。話の内容がわからないでもないけど、話の中心地で舌鋒を交わすのは遠慮しますという顔だ。

「一時的には可能だろうさ。大好きだったおばあちゃんが亡くなった時、戦争映画を視た時、バイト先でめちゃくちゃ理不尽なことで怒られた時は、『こんな大人にはならない!』と強く誓う日もあるだろう。だが、その日だけだ。根が腐っちまっているから、結局何をどうしてもまた再びつまらない固定観念に支配されてしまう。どこかで精神を恒常的に矯正させる強い装置がなければ全ては無意味なんだ。自己啓発の本を読み漁ってもすぐに元通りだ」

「人間精神の洗浄を強制的に永続させる方法……」

 委員長は椅子から立ち上がると、部室内をぐるぐる歩き回った。

「ぜ……んら……?」

 どこを見ているのかわからない狂人のような視線で委員長は言った。

「ぜ……ん……らなの……?」

 ワナワナして震えてしまって、今にもどうにかなってしまいそうだった。委員長が何を思いついたのか、なんとなく俺は察しがついた。

「委員長、それはまずいですって」

 俺は思わず声が出た。今まで無茶でも何でもまかり通ってきた。全生徒強制参加の断食も瞑想も早朝乾布摩擦も無理やりナンパも告白も一発芸大会も遂げられてきた。つい最近も深く瞑想しながら深層心理だけで会話をするとかいうトーナメントもやらされたばかりだ。この学校の恐ろしいところは、委員長が企画するものは何でもまかり通ってしまうところにある。今も断食や瞑想などの習慣は続いており、企画が水泡に帰したことは一度もなかった。それは彼女が理事長の娘というのが一番の理由なのだが、彼女が風紀委員長かつ生徒会長でもあることも大きな要因だ。またプレゼン能力に優れ、聞いている人間は魔法にかかったように何でも改心させられてしまう。つい最近も2週間の断食を決行したが、1人もリタイアが出ることはなかった。

 それは科学面や精神面など様々な角度からメリットを述べた上で、委員長自身が一番槍となって行動するからだった。ジャンヌダルクのように先頭を馬で駆ける姿は勇ましく、俺達はその勇姿に魅せられた。一種の光芒に包まれて進軍しているような気分だった。

 そして委員長の行動には愛があった。みんなを幸せにしたい、そこに金の匂いや功利や邪心が何一つなかった。なにが委員長にここまで異常な行動へ蜂起させるかは分からなかったが、純粋な動機だったことは確かだ。

「あんた、私が何をしようとしてるかわかってんの?」

「この学校の生徒全員を全裸にするんでしょう?」

「そうよ」

「そうよじゃねーよ!」

「あの、素直な疑問なんですけど……、そんなにみんな……? 私達も含めてですか? 自分を変える必要があるんでしょうか?」

 水樹ちゃんが珍しく意見を言った。俺も続けて援護する。

「人にはその人の成長ペースがある。それにまだ俺達は十代後半です。色々難しい年頃でもある。みんな委員長が思っているほど能天気でもバカでも心が腐っているわけでもないんです。みんなだって俺だってその人なりに生きてるんです。全裸だかなんだか知らないけど、他人が強制することじゃないんですよ。誰だって踏み入れちゃいけない領域がある。誰にも迷惑かけずに生きてれば十分じゃないですか? あなたは普段からそんなことばっかり考えているから、急にいきなり全裸になりましょうと言われても、やったぜほいほい! と言って参加するかもしれませんが、みんなは納得しませんよ?」

「あのぅ……無理矢理敢行したとしても、みんな不満な顔をしてやることになるんじゃないでしょうか……? そんな嫌々やらせても、委員長の言う、えーと……自己覚醒? は期待できないんじゃないでしょうか……?」

「そもそも感染症やら体の弱い人、空調完備、裸足が痛いとかかゆいとか、座ったときおしり冷たいとか、何日やるかわかんないですけど、日程のスケジュール、家族のクレーム、責任者の承認。これら一体どう考えてるんですか?」

「そんなことはどうにでもなる」

「まず、大事なことはみんなが全裸になることで本当に自分自身を取り戻すことができるのか。そこでしょう? それさえはっきりすれば、寒い臭い病気その他もろもろは二の次じゃない。例えばそう、生きていると本当にどうしようもない人に出会う。どうしてこんなひどいこと平気で言えるんだろう? 普通に伝達すればいいことをわざわざ嫌な言い方で話してくる。『Tポイントカード? ないよ』とタメ口でお金を投げつけてくる人に出会うだけでその日1日は最悪になる。おそらくこうして窓の外に見えるあの子たちもそんな悩みを抱えているわ。
全ての悩みは人間関係に始まって終わる。この問題は今までずっと見過ごされてきた。それで死んでしまった人もいる。私たちはこの問題に際して絶対にどうすることもできないと受け入れ続けてきた。家に引きこもるか自営業でもやるしかない。出来上がってしまった環境を変えるのは無理だから自分で自分の面倒を看るしかない。偉い人達は助けてくれないし、偉い人達もどうしていいかわからなくてできることしかやってくれない。そもそもだけど、私たちが一番最初に見逃してしまうクソみたいな人間の態度は、本当に見逃されてもよかったのかしら? 法は適用されない。罰を下すまでもないかもしれない。でも悪いことに代わりない。うーんといった感じね……。日常の中で愛が欠ける人がいます! 裁判長、罰してください……! というわけにはいかないものね。確かに法律では罰せられないかもしれないけど、彼らには罰が下っているのよ、既に。

 矛盾しているようだけど、彼らは既に罰せられている。周りから品格の低い人間だと思われているし、悪口を言うとそれは必ず自分に返ってくる。悪口を好きなだけ言い終えると人が優しくなるのは、スッキリしたのと罪悪感に駆られるからよ。本当は彼らもいじめたくていじめているわけじゃない。器があまりにも小さすぎてすぐに怒気が溢れてしまうだけなのよ。もし人間の度量を図る基準を設けるなら忍耐に他ならない。忍耐がないから愛せない。そういう人間は放っておいても勝手に不幸になる。誰にも愛されないし、悪徳を積むとどんどん悪い顔になって見た目も健康も害していく。血管も汚れて細くなり脳梗塞を引き起こして絶命する。カルマは勝手に起こる。私達が何かをしなくても神がそれ相応の対処をする。じゃあ私達は当初の通り何もしないでいいのか? いや、そんなことはない。

 全裸は、いじめる側といじめられる側の両方を救うことになるの。いじめる側の人は、いつも怒って不機嫌で嫌なことばかり言って自分の首を絞めている。いじめられる側も苦しければいじめる側も苦しい。自分の脳を働かせて良心の呵責に苛まれている訳ではなく、心の奥にある善――、即ち神が働くから苛まれるの。人間の本質は善だから、それは間違いはない。人間の本質は善……、『真・善・美』でできている。

 どうしてこんなことが起こってしまうのか? どうして争いが絶えないのか? それはみんなの間に常識があるから。世界の建前や約束事、色んなお決まり事があって、それをみんなで守ることを第一にして生きている。それを何よりも優先させ、ときには自分の命よりも優先させる。怒る人は公理に基づいて怒るから、怒られる人も何も言えない。だけど、この公理が破壊されたらどうなると思う? そもそも公理ってそんなに重要? そんなに店に入ったら250円でコーヒーを買えることが重要? 道路の上を車が走ることが重要? そんなことを守るために、私たちはハムスターみたいにぐるぐる地球を回り続けないといけないのかしら? そして皆もう気づいている。『あー無意味だ。毎日無意味だ。こんなことしてもしょうがないけど、みんなやっているから仕方ない。社会なんて回らなくてもいいけど回っているから仕方ない。これが俗に言う生きるということだから』」

「委員長の言いたいことはわかりました」

 俺は静かに言った。わかってないけどわかったって言うしかない。まったくわけわかんねーこと言う人だ。優しいのか優しくないのかもよくわかんねー。

「あんた達はどうなの? 一人一人学校を全裸にすることについて意見を述べなさい」

「ペヤング」

「ああ」

 ペヤングは一番初めに指名された。

「そうだな、素晴らしいご高説だったよ委員長。では結論から言おう。俺は委員長に賛成だ。別に全裸のメリットがすごいとかどうとか俺はそこにはあまり関心ない。俺が関心あるのはこの学校の全校生徒が全裸になって生活を送るという世にも奇妙な大スペクタクルな件についてだ。まさしく全裸ハザードだな。全校生徒が全裸になって生活を送ったら一体何がどうなってしまうんだろう? こんなことは経験したくてもできる事じゃない。温泉やAV撮影とはわけが違う。しかし君なら実現させてしまうだろう。やってみなきゃわからんさ。一見減りそうに見えるけど、減るもんじゃないと思うがな? ワハハハ!」

「あの〜……、それだと動物のようにモラルの無いおかしな世の中になってしまうんじゃないですか……?」

 水樹ちゃんが言った。

「私はその方がいいと思う。既にこの世は壊れている。壊れていることに気づいた上でみんなで芝居を続けている。そんなのばかばかしいと思わない? なら思い切ってさらに壊して、世界中の人々が素っ裸になって仕事もせず踊り狂って太陽に向かって走ったり叫んだりしていた方がいいんじゃないかしら? 私はその方が健康的だし病気の人も減ると思うわ」

「水樹」

 次は水樹ちゃんが指名された。

「え〜〜……、私……ですか……?」

「私はやっぱり恥ずかしい……かな……? 他に方法あると思うし、別にみんな無理に変わらなくてもいいような気がします」

「あなたはどうなの? 変わりたいとは思わないの?」

「私ですか……? えっと、どうだろう……? 私は今のままで幸せですよ? こうして部室でみんなとおしゃべりしたり、学校も家もわりと楽しんで毎日生きています」

 そりゃあな。水樹ちゃんが楽しんで生きてなかったら、それこそ人間の幸せがどこにあるのかわからなくなってしまう。この地球を今すぐ叩き壊してブラックホールに放り込んだ方がいい。

「だから、その言いにくいんですけど、迷惑かな……みたいな? 私は人前で裸になりたくないし、あんまり巻き込まれたくない……かな?」

 まぁ、だろうよ。これが答えさ委員長。これが民衆の総意なんだ。100歩譲って全裸になることで救われる人がいたとしても、今を楽しく生きている人に迷惑をかけることでもあるんだ。

「みんなが裸になってしまえばそこに征服者はいない。本当の平等が生まれ人間界に争いは無くなる。……自分は楽しい学校生活を送っているから関係ありません……なんて、ずいぶん冷たい学園アイドルね。あなたを想って毎晩大量のザーメンが流れているというのに、彼らの小さな生命達も非業な死を遂げていったものね。ねぇ森永?」

「なななな……! な、何を言ってるんですか委員長!! ぼぼぼぼ……! 僕は……!」

 きゅ……、急にそこで俺の名前を言わないでもらいたいなぁ……、もぅ……!

「まだまだ修行が足りないわね。ザーメンよりアーメンを流されるようになりなさい水樹。この世は分かち合いでしょう? お互いが助け合って生きるべきでしょう? 成功者だけが財を蓄えてベランダでタバコ吸ってるから、こういう世の中になってるんじゃなくて? 与えられた世界の中で、そこで競争をして勝ったり負けたりしてずっとこんなことを繰り返してきて、これじゃあ永遠に人が幸せになれないことはわかっているでしょう?

 水樹。あんたのその考えは成功した実業家と一緒。自分が生まれつき可愛くて、どうしたら更に可愛くなれるか発見する才能にも優れていて、一人の女子高生として学校をただ楽しく送るにはオーバースペックなステータスになっている。だけどあんたの欲求はとどまることを知らない。更なる女子力を高めることに昼夜求めて止まない。それがあなたの最高の遊びだものね水樹。果たして30過ぎたとき正気を保てるかしらね? もちろんあなたの努力も認めてあげる。あなたの美貌に救われた人も大勢いるでしょう。だけどそれを何年やってきたの? 小学生の頃から11年ぐらいやってきているわよね? まだ足りないの? ずっと鏡を見つめ続けてきた。鏡の中の自分だけを見続けてきた。言っておくけど、あんたがやっているのはオナニーと一緒よ? アイドルづらして渡り廊下を歩いて男子の視線を欲しいがままに子宮に集めて、女性ホルモンを輝光させている。こんなのオナニーと何が違うの? 私達の大切な学び屋をあんたの精液で汚さないでちょうだい」

「…………」

(ひでぇ言いようだな……)

 水樹ちゃんは尊敬する委員長に言いたい放題言われてショックを受けているようだった。唇をキュッと噛み締めて、少しだけ戦闘的な眼をしている。

 委員長だからまだ許されている発言だ。俺が言ったら二度と顔を合わせてくれなくなるだろう。委員長が言いたいことは、つまり、精神的なベーシックインカム的なことを言っているのか? ……しかしどうでもいいけど、もっともらしい論理を展開しながら、水樹ちゃんに下ネタをぶつけるのは気持ちよさそうだった。

「委員長。その件で俺の方からも水樹に一言言っておきたいことがあるんだが、いいだろうか?」

 ペヤングが割って入ってきた。こういう時のぺヤングは死ぬほどうざいことを言う。そして死ぬほど話が長い。

「どうぞ」

「水樹。お前はセックスしたことがないから分からないかもしれないが、人間はどうしてセックスすると思う? ただ単に棒を穴に装填させて一丁上がりという工作をやりたいからだと思うか? 贅沢な性処理をしたいからだと思うか? 違うんだ水樹。人はセックスしている時だけやっと正直になれるんだ。2人で全裸になって行為に及んでいる時はまるで宇宙にいるような気分なんだ。たとえ行きずりの一夜だとしても、その瞬間だけは真っ赤に燃え上がる。相手の中に本当の自分を、そして相手も俺の中に本当の自分を映し出す。ホテル前のデートではカフェで常識的な取るに足らない話をして、男も女も飽き飽きしている。お互いうんざりしながらもやらなくてはならない予定調和を成す。まったく杓子定規な習慣事で役所の手続きと変わらない。取り敢えず進行させねばならない。しかし純白なダブルベッドの中ではどうだ? 全ての人間らしい役割から解放されて、真っ白な世界の中で自由に呼吸ができるんだ! 口数は少なくなる……、ぼーっと壁を見ながら放心することもある……、しかしセックスの時はそれが許されるんだ……! まるで部屋に1人でいる時と変わらない自分の存在が許されるんだ……! その時、俺はこう思うんだ。やりたいからやるんじゃない、女の前で俺は本当の自分を曝け出したかったんだってな……! そして一番肝心なところは女も同じことを考えているということだ……! まあ俺もセックスしたことないんだけどな」

…………。

 みんな口をポカンと開けて唖然としている。

「つまり俺が言いたいのはこうだ水樹。本当はみんな裸を見せたがっているということなんだ。見たいんじゃない、見せたいんだ。別におかしいことじゃない、性犯罪者的な考えと思うか? その通りだ水樹。彼らと一般人の差は忍耐力に差があるだけに過ぎない。思考はなにも変わらない。この学校の男子生徒も、通りすがりのサラリーマンも、みんなお前にチンコを見せたいと思っている。そして、お前も見せたいんだ水樹。なに? 違うって? いや、俺はお前以上にお前のことを知っている。全裸になったら大事なものを失ってしまう恐怖はあるけど、生まれたままの姿をじっくり舐め回されるように見られたいとお前は思っているんだ。これだけ抑圧された世界で動物の性が爆発したとしてもおかしいことじゃない。みんな抑えつけられて苦しそうな顔をしているじゃないか? そういう意味じゃ性犯罪は犯人だけの責任とは思えない。俺達みんなの責任かもしれない。まぁそれはいい。本当はみんな素っ裸になって頭を思いっきり爆発させて踊り狂って生命エネルギーを爆発させたいんだ。人と人との間にある壁を完全に破壊しようってのに、やりたい人だけどうぞ、私は可愛い女の子だから遠慮しておきます、という態度はどうなんだ水樹?」

「え……え…………」

 水樹ちゃんは2人のキチガイに詰められて何が何だか分からなくなってしまったようだ。こうやってAV女優が誕生するのだろうか?

「女子力はとても大事だ。この世界で女が生きていくことは頭がいいことや運動ができたり難しい資格を持ったりお金があるより、いい男を捕まえて結婚すること。それが一番だということはわかっている。俺も女として生まれていたらお前と同じことをするだろう。それに、たった一度しかない青春だ。子宮から湧き出すピンク色のフェロモンをまき散らし、あどけない笑顔を見せたり、廊下を小走りで駆けたり、授業中に隙のある寝顔で寝てみたくもなるだろう。昨今では、深夜の萌えアニメの視聴者は女ばかりになってきている。女アイドルグループも女性ファンが多く占められている。それだけ今の女の子は(昔からだろうが)、天才的な女子力を持つ女を崇めてその域に近づこうとして、もがき苦しんでいる。私もこんな風になりたい。私もこんな風に煌びやかな自分を演出して、もっと……、女というものを楽しんでみたい……!

 AV女優も、今では本当に可愛い子が増えたな水樹。どうしてあんなに若くて可愛い子がAVに出るのか不思議だろう? エッチな姿をこれでもかと惜しみなく見せてくれる。ブスやババアの方がもったいぶるぐらいだ。彼女達は金のためにやっているんだろうか? 確かにそれはある。だがそれだけじゃない。もっと大きなモノの為に彼女達は戦っている。彼女達は本当は見られたいんだ。自分の人生で一番若くて綺麗な自分を多くの人に見てもらいたいんだ。だがアイドルやモデルになるのは至難だ。その点AVは手軽に出ることができる。今じゃ競争も激しくなっているのかもしれないがな。

 もったいないと思ってるんだ。事実、もったいない。俗世間で女の子やってても、その辺にいる冴えない男と付き合ってセックスして終わりだ。せっかく素晴らしい美貌と身体を手にしてもつまらない男に独占されて終わりだ。そしてしばらく経つとセックスもおざなりにされる。本当はもっと私の身体は価値があるのにおかしい……。一生懸命美を磨いて、美意識を頭からつま先まで張り巡らせ、やっと手に入れたのに……! 私の身体を有り難がってない……! 見た目だけじゃない。ふるまい、性格、対応、心まで化粧をしている。朝起きて一歩外を出てからの女は戦いの連続だ。女として、どれだけ自分の価値があるか男達に見せつけなくてはならない。ブスは気楽だ。何もしない。何もしないで勝手に誰かが好きになってくれると信じている。自分でもよくわかってない自分の良さを、誰かが(異性が)見出してくれると思っている。お前はそんな女には決してなるな水樹。

 ブスのように下品なことで馬鹿笑いしたくなる日もあるだろう。お笑い芸人のようにパイを顔面に投げつけられたくなる日もあるだろう。だが彼女たちは忍んでいる。いつも戦っている。いやはや、俺や森永が可愛い女と付き合えないのもわかる気がするな。彼女達はそれだけ努力してきたんだから、そんな簡単に私をあなたにくれてやらない! と拗ねたり引いてみたくなるんだろう。だがそうはいっても、思い切り後ろから突かれてみたくなる夜もある。今まで我慢して生きてきて、たまには女を開放してみたくなる。浴びるほど酒を飲んで酔っ払って、イヌころのような四つん這いにさせられて、ケツを鷲掴みにされて真赤になるほど叩かれ、思いきり声をあげてみたい。今まで出したことのないような声をあげて絶頂に達してみたい! アンアン……! なんて生易しいもんじゃない。ンン…ーーーーンンンヴォォォォオオオーーーーッッ!!!!! って恐竜みたいな声で叫んでみたいんだ。大体の男はつまらないセックスしかしないから、こういう風にはなれない。これについては本当に申し訳ないと思っている。俺が男を代表して謝罪しよう。

 つまり、真面目に美に取り組み、女としての喜びを覚えながら生活しているが、それでも不満を持っているのが女というわけだ。もっと認められたくて、もっと激しく求愛されたくて、思いっきりセックスされたくて、そんな風に生きているのが女であり……水樹、お前だ」

 水樹ちゃんの顔は青冷めてひどく気分が悪そうだった。つーか、全然一言じゃねーじゃねーか。

「さて全裸計画を実行したとしよう。全裸になって廊下をフラフラしていたら、それこそ女の価値が下がると思うだろう? 嫁にいけたもんじゃない。どんな顔して神父の前で誓っていいかわかったもんじゃない。今まで通り、女の子として優等生でいたいというお前の気持ちはわかる。だが、お前も疲れただろう? もう楽になっていいんだ。本当は全裸になって春の香りが漂う桜小道を歩きたいんだろう? 素っ裸で両手いっぱいに陽光を浴びて、光の端々が細胞の深層まで差し込まれ、ツンと乳首から可愛らしい芽が出て満開の大輪が咲き誇るだろう。大きな安寧をお前は得るだろう。自分でも信じられないような生命エネルギーが湧いて出るだろう。これを水樹、お前一人でやっても楽しいに違いないが、一人じゃ寂しいだろう? みんながいる。お前は一人じゃない。お前は何も減らない。減ったとしてもみんな減るから大丈夫だ。お前が心配していることは何も起こらないんだ」

 水樹ちゃんはただぼんやりして首を傾げている。たまにペヤングの発言が質問型の語尾になると、力なく反応するだけだった。

 話の内容がわからなくなってくると、とりあえず頷いてしまう人間がいる。馬鹿だと思われたくないのか、これ以上相手に説明させるのが忍びないのか。何にせよ早く切り上げようとする。どんなに突飛な話だろうと迷宮に入り込むと、初めに持っていた常識的な判断力は機能しなくなるもんだ。

「次。森永」
「は?」
「あんたよ」
「は?」
「全裸」
「お……、おれですか~~~ッ?」
「………………」

 水樹ちゃんがチラリと俺の方を見てきた。私は無理、あとは森永くんに託しましたという顔だ。

 ふぅ…………。

「俺は何て言うか、今の社会や全裸に不満があるわけじゃないんです。そんなに楽しいわけじゃないけど、ひきこもることもなく普通に毎日学校に通ってます」
「…………」

 それでという顔で委員長は俺を見る。

「全裸ですか……? はっきり言ってどっちでもいいです。俺1人だけ全裸にさせられるのはごめんだけど、みんなで赤信号渡れば怖くないように、みんなで全裸になるんだったら俺は別に恥ずかしくないかなって思うんです。
ペヤングのいう見せたいとか見られたいとかいう奴はまぁわからんでもないけど、本当にできるんならやってみたらいいんじゃないですかね? できるんならですけどね? そういうバラエティ番組がやってたら俺は視ると思いますよ? 毎日学校で同じような日々が続いて退屈してましたから、全裸の日だけはずっと起きてられそうです」

「フ……。水樹の裸も見れるしな」

「ペペペペペペペペペ……ペヤング……ッ! おっおっおっおっおっ……ッ! 俺はだなッ!?」

「森永くん」

 水樹ちゃんはがっかりしたような顔をした。どっちつかずより肯定側だった俺の意見に。

 ペヤングという男は、いつもアヒルだかチョウだか分からないコスチュームを着て黒いグラサンをかけて学校生活を送っている。身長が184cmあるのだが体重は60kgしかなく、押せば折れそうなくせにいつも偉そうにしている。誰も本名を知らない。いつも突然現れて最後に含蓄深いことを言って、自分が一番会話のセンスがあるような顔をして去っていく。だからクラスでは嫌われている、とペヤングと同じクラスの水樹ちゃんが言っていた。漫画でそういうキャラを見過ぎた結果ああなったのだと俺は思っている。こんなふざけたキャラクターが許されているのは、この学校自体がふざけていて、和歌山県と奈良県の間の奥地に在るからだろう。委員長と委員長のお母さんである理事長のおもちゃになっていて、恐ろしいほど自由な校風になっているからだ(委員長からすると、それでも俺達は飼われたモルモットに過ぎないらしいが)。

 さて、ここからは作者が話を補足させて頂こう。まだこの辺りでは森永の意思はフラフラしているが、いずれ我々は彼の異常な意思からくる数々の行動に驚かされることになる。

 今回の章では、風紀委員らが部室で全裸計画決行の賛否に終始し、一応のところ蜂起が決定されたようだが、次の章ではいきなり講堂で全校生徒達と大きなバトルを繰り広げることになる。実はこの章の話し合いの後、決行の方法についてすぐに議論が開始され、多くの時間が割かれたのだが、それをそのまま掲載するのは読者にとってあまりにも緻密で退屈な時間になるだろうから割愛した。全裸計画が可能に至った背景は、物語の進行に伴い都度紹介していくことになるが、「鈴木広子の家庭背景」と「学校の地理」の二点が、可能に至った大きな要因であることは間違いのでここで補足する。

 委員長こと鈴木広子(すずき ひろこ)の家庭は大変裕福である。広子の父親はパチンコチェーンストア協会長で、パチンコホール企業の就業人口のトップに位置する。母親は舞台となったこの学校の理事長なので、広子はとんでもないサラブレッドだったといえよう。

 広子の家庭の教育方針は、巷に溢れる成功哲学のそれより更に進んだものだった。両親達の並外れた成功は、潜在意識は実現するという理念に支えられており、人間の成したいことは強く願望することで必ず叶うというものだった。心を静かにして、限りなく静かにして、そのまま静かにしていると、心の中に一条の光が差し込まれ、心の内側から自然に自分の成すべきことが感知できる。その内側から浮かび上がる声を何よりも大事にし、それを鈴木家では御神託と考えられていた。自身の最奥には神が眠っており、瞑想することで神の存在を感じることができる。神とは、外界に表れる物体ではなく、あくまで自分の内に在ると広子は小さい頃から教えられてきた。神の御言葉を聞いたからには何よりもその実現を優先させなければならなかった。そのためにかかる時間や費用はいくらでも捻出することが許された。人格形成や人生成功の為に浪費を惜しむことは最大の罰とされた。「人生は体験するためにある」「思ったことは即実行しなさい」どこかに転がってそうな体験は嘆息され、独創的であるほど褒められた。

 広子が頼めば母はなんでも承諾した。例えば授業科目の変更。聖書やヨガの経典が教材として利用された。大喜利が授業科目になったこともある。単なる暗記よりもセンスの育成に広子が傾倒した為だ。お題に対してたった一言で正解を導き出す為にはどうするべきか広子自らが教鞭に立って指導した。文部科学省で指定されている修得総単位数74単位以上、必履修教科、総合的な学習の時間を押さえた上でこういった特別授業が履修登録された。古来の東洋思想の再生をテーマに体育は武道に、朝夕のホームルームには一時間の祈祷を、あるいは一日中祈祷することもあった。また、広子は授業内外問わず、廊下ですれ違っただけの男子生徒を一目見ただけで彼の抱えている心の闇を暴けだし、部室に連れ込んで4時間に渡る人生相談をしたこともあった。男子生徒は涙を流しながら何度も頭を下げた。こんなことが続いて広子は生徒達からとても愛されていた。

 また、この学校が私立学校であることや和歌山県と奈良県の間の奥地に位置していることも補足しなければならない。元々は都市に位置していたが、広子が思う存分に学校を操作したいが為に母に頼んで今の場に移してもらったのである。山奥の湖畔に立つ不要となった宗教研究施設が林間学校に利用されていた建物で、それを広子の両親が買収した。すぐ側にコバルトブルーの山上湖があり生徒達から人気があった。この湖の特筆すべき点は、足を踏み入れても魚が逃げないところだろう。逃げないどころか近寄ってきてチロチロと脛を舐めてくる。これは学校の方針で魚を捕獲してはならないと決められていることや、宗教研究施設時以来、その長い歴史で魚達は一度も人間によって危害を加えられた経験がないからである。

 全校生徒227名は指定された場所に朝に集まると、合計57台のジムニーによって送迎が行われる。河原桶林道はほぼ廃道でありオフロード車でないと走行がままならない為である。渓流というより源流のようなフィールドであり、緑も多く川も綺麗で鹿もいる。切り株や木の残骸の上を走るとタイヤがバーストするので一度車から降りてどかして進行しなければならないこともあった。学校に到着するまで1時間ほどかかるが、河川の増水と崖崩れで通学中に休校になることもあった。

 過去に成した広子の成果事業を全て寄せ集めても全裸計画の小指ほどにも届かないと思われたが、実際に全裸計画は実行された。それは以上が大きな要因であった為である。

 俺は日課である、大量に録画して貯めておいたバラエティ番組のCMをカットしてブルーレイに焼くという作業をしながら日々を送った(ただカットして焼くだけ。一度も見返さない、それを一日やる)。

 一糸纏わない姿で生活するってどうなんだろうか? 本当に委員長の言うとおり、魂の救済というやつが図れるのだろうか? 俺たちはそんなことをしなくちゃならないほど本当に追い詰められているのだろうか? 周りが全裸で俺も全裸で、果たしてそんな生活をして楽しいのだろうか? 人間が人間らしく生きるためには服が必要で、今ある些細な幸せすらも破壊してしまうのではないのか?
俺はそんなことを考えながら過ごした。そしてある日、全校生徒は講堂に集められた。

「全裸学校計画」シリーズ

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