創作物

全裸学校計画 二章「講堂」

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  • 全裸学校計画 二章「講堂」
    • 講堂
    • 委員長の主張1「うるさい声」
    • 委員長の主張2「心をキラキラさせること」
    • 花京院豪花の反対意見1「わたし裸になんてなりません!」
    • 委員長の主張3「心を破壊せよ」
    • 花京院豪華の反対意見2「あなたも文化を味わってるじゃない!」
    • 裸の聖母
    • 講堂2
講堂

「――この世界の全ての問題は、1人ひとりの心的態度で解決する、ただしそれが永続すれば……。ですからつまり、陰部は弱さの証。平等の象徴。概して裸というものは、虐げられた弱者の形を表している。したがって、全ての人間がその弱さの象徴である『全裸』のまま過ごすことで、世の中から争いが消えてなくなります。誰かを威嚇しようとした瞬間、どうしても陰部が邪魔になる。陰部が自分は弱い! 自分は弱い! と主張する。ちんこを出しながら人を攻撃するということはできないのです」

「はあああああああ!?」
「全裸ぁぁーーーーーーッ!?」
「全裸だとおおおーーーーー!?」
「おい風紀委員会! お前ら頭狂ってんじゃねえか!? 俺はやらねーぞ全裸なんて!」
「お前らだけで勝手にやれ!」
「風紀委員会でしょ? 風紀委員会が風紀乱してどうするんですかぁ~~~!」

 講堂は荒れていた。彼らの熱量は凄まじいものだった、大義正義が向こう側にあるように思えた。大義の元に思い切り俺達風紀委員会を罵倒できることに一切の迷いがなさそうだった。この大きな炎の渦の中で、我が一番的を得た発言をしてみせると好奇な顔をしている生徒が多くいた。

 もちろん委員長のファンも多く、彼らは委員長を心配していた。今日の委員長はどうしてしまったのだろう? 委員長側につきたいけど、ぜ……、全裸……? 何がなんだかわからない、とポカーンとした顔を浮かべていた。

「何が全裸だよ、俺たち全裸になって学校来なきゃなんねーのかよ、どこの宗教団体だよ」
「ふざけやがって……! いつもいつもくだらねー思いつきの企画しやがって! 振り回される方の身にもなってみろ、俺はお前らのオモチャじゃねー!」
「あのー……、委員長、それって男子達だけじゃダメなんですか? 私達女子も、その全裸になるんですよね? それって、その、レイプとか、その、されるんじゃないかって私怖いんですけど」
「ふざけんじゃねーぞブス!! てめぇなんて誰がレイプすっかよ! メガネ割るぞオラァ!!」
「牛乳瓶の底みてえな分厚いメガネしやがって! 世界でお前しか女がいなくなってもレイプされないから安心しろ!」
「そういえばこの女、この前の体育で自分でトスして落ちてきたボールを頭にぶつけて勝手に早退して病院に行ったんだぜ?」
「ギャハハハハハッッ!!!! スパイクされたヤツならわかるけど、そりゃねーだろブス!!」
「ブスほど自分の命を大事にするんだよなぁ!ギャギャギャギャ!!!」
終いには全く関係ないところに脱線して、しっちゃかめっちゃかになっていた。

「なぁペヤング、全裸ってその、みんなを元気にするためにやるんだよな? 十分元気のように見えるんだが」
「…………フッ」


 ペヤングはケツのポケットからタバコを取り出すとゆっくり火をつけた。
委員長が教壇に立ち、俺と水樹ちゃんとペヤングが後方で待機している形となっている。俺たちが話すターンも回ってくるだろうか? 委員長1人を矢面に立たせて俺たちは後ろで突っ立ってるだけだ。生徒達は俺ら3人には無関心そうだった。3人であやとりしていたとしても見過ごされただろう。委員長は俺達よりひとつ学年が上で(俺達が2年、委員長が3年)、委員会の長なのだから当然と言えば当然かもしれないが。

 全校生徒227名は既に騒いでも許される空気が出来上がっていた。生徒達は存分に後ろを向いたり思ったことを口々にしていた。呆然としたり、笑ったり、野次を飛ばしたり様々だったが、大体はニヤニヤしていた。

 さーて委員長、こいつらは俺達とは訳が違うぜ? 俺ら風紀部員はあんたと長く一緒に過ごしたことで狂っちまってるんだ、しかし民衆はどうかな? こいつらを説得するのは骨が折れると思うぜ?


「…………」


 委員長は罵詈雑言の集中砲火を浴びていたが全く怯む様子はなかった。中央の壇上で、背筋をしゃんとしていた。静かで力強く、それでいて慈愛に富み、自信に溢れているようだった。そして一人一人にパンを配って回りそうな様子で語り始めた。


「まずはあなた達が本当に望んでいることを当ててみせましょう。輝きたいのです。本当はもっと輝きたいんです、真っ赤に燃え上がって真っ白な灰になりたいんです。でもそうはいかない。毎日、スマホをいじってテレビをみて、他人の成果物を次から次へと消費する。そんなことを繰り返して、心の埃がゆっくりと、自分では気づかぬ間に堆く積まれていくのです。心の老廃物は便のように排出されません。いつも、どこでも、あなた達の中にある本当のあなたが叫びをあげている。ただ消費して生きる。それは一時的には満足しますが、寂しいのです。先日、部室の窓から、ある男子生徒の心を透視しました。


『家にいても学校にいても閉じ込められているような不安があるのは何だ? 今が一番楽しいはずなのに心いっぱい楽しみ切れないのは何でだろう?
心行くまで時間も体力もあるのに不完全燃焼した気持ち悪い気分が続く。よく寝て目覚めたのにまた眠らなくてはならないような感じだ。周りとはこんな状態で話したくないし悟られたくないから、いつも半分ぐらいの自分で対応している。感覚的に、反射の力を利用して会話している。


 スマホ、アプリ、ゲーム、ネット……確かに面白いけど言うほど面白いだろうか? 別に無くたっていいんだけど体が渇望して病まない。お腹いっぱい食べてもまだ飽くことを知らない。もうとっくに許容量を超えて便秘になっている。
他に何かしなくてはならないことがある気がするけどなんだろう? 俺達は一体どこから来てどこへ行くのか? 時間が膨大にある。この時間をまたゲームに費やしてしまった。夜寝る前に罪悪感を感じる。お母さんがパートに行って家事をして何でもやってくれる。お父さんが働いてくれてるからこうしていられる。そうして与えられた貴重な時間をいつもいつもドブに捨てている。


 だからといって、何をしていいのか分からない。何者かになりたい。何だっていい。何か大きなことして褒められたい。おっさんになって認められてもダメだ。それじゃあ遅い、今……今……今……! 今、俺は輝きたいんだ! 成功して金持ちになってお母さんをビックリさせたい。高級家具店で一番高いソファを買ってあげたい。俺もそこに座ってゲームしたい。


 彼女も欲しい。俺はビッグなことを成し遂げたから普通のカップルと違う。彼女には鬼のように尊敬されている。そして鬼のように蹂躙することができる。彼女の友達からも羨ましがられている。学校に行けば英雄だ。校長先生にも名前を覚えられている唯一の生徒だ。しかし、やっていることといえば、スマホいじってるだけだ。大好きなあの子は別の学校の男と付き合ったらしい。そんな……嘘だろ!? 反則だろ! 同じクラス内で付き合うルールだろ……!? 審判あの女を退学にしてくださいッ! まだセックスしてないはず! 絶対まだだ! 付き合うという契約書が回ってきて判を押しただけだ! 付き合ってるけど俺のことが好きなはずだ! こんなのたうち回る気持ちのまま、また家に帰ってゲームしなきゃならないのか?? 明日も明後日もこれが続くのか? 大人になったら変わるのか? 自動的に変わるのか? 俺は一生このままなのか……? もう嫌だ! いいかげんにしてくれ! こんなに苦しいのに俺はスマホをいじるしか能がないのか……!? もっと、みんな、俺を見てくれ! 俺を見ろ……!』


 …………。こんな悲痛な心の内を誰に一体さらけ出せるというのでしょうか? あなた方は何気なく廊下を歩き、授業を受けて、お弁当を食べていますが、心はいつもこんな風にのたうち回っています。私には聴こえてきます」

 生徒達は静かに聞き入っていた。いくらかの生徒が、胸の中を抉られたような悲痛な顔をうかべていた。


「……続けます。さて、世の中に流布されている自己啓発は少しだけ意識の高い人をさらに意識を高くする為だけに存在していて、人々の格差はどんどん拡がっていきます。それはあたかも人を出し抜いたり出し抜かれたり、捨てたり捨てられたりといったことを助長しているようです。つまりこれは……、一人ひとりが望まなくても、社会が人を馬鹿にせざるを得ない仕組みになっているのです。そんな社会に徹底対抗するために、そしてこれまで馬鹿にしてきた人達に対する謝罪を込めて私は全裸を主張するのです。


 全裸。宗教だと思うでしょうか? 全裸が宗教なら、大学に入って会社に就職して終身雇用に預かれるという思い込みも宗教ではないでしょうか? あなたたちは一度でも現実に立脚したことなんてあったでしょうか? 全裸……全裸……全裸……。ふざけていると思うでしょうか? ただ、学園をめちゃくちゃにして、人間という複雑な生命体を使った遊戯だと思うでしょうか? 後ろに控えている会員のペヤングはそこに惹かれているようです。あなた方の中にもそうした部分に興味がある生徒がいるかもしれません。面白そう、嫌だ、怖い、気持ち悪い、レイプされそう。授業サボれる。退屈しのぎになりそう。これは後ろにいる森永明治の意見。色々な感想があると思います。別にどんな動機や感情で始まっても構いません。行き着く先の精神は皆同じになるでしょうから。


 全裸の果てに何が待ち受けているかは分かりません。私にもわかりません。取り返しのつかない犠牲があるかもしれません。レイプは私が守ります。そこは命に代えても何とかします。一部始終を外部に漏れないようあなた達の将来は私が守ります。


 私はあなた方の心を透視してきました。ひたすら透明になって、あなた達の心の奥に何があるのか解剖してきました。するとどうも、薄粘っこい、些末な……、何か拭いたくても拭いきれない悪霊のようなものが取りついてるではないですか。カラオケに行ってもスポーツしても取り付いて離れない魔物があなた方の中に潜んでいる。まあ、これは先程の話しましたね。あなた方はそのまま大学に行き会社に行き結婚して40年働いて死ぬ。何か溜まった宿便のようなものがあり、これにずっと苦しめられながら一生を終えてしまう。これを強制的に排泄させたいのです!


『そういう人がいるのは知っている、だけど私は違う! 私は既に輝いている、だから放っておいて! 必要な人だけでやってほしい!』 そう思う人もいるでしょう。後ろにいる東国原水樹もそういう考えでした。最もな意見に聞こえますが、この考えは結局自分を苦しめることになります。自分さえ良ければいい。みっともない人、馬鹿な人、わからずやの人は放っておこう。自分達は自分達のできることをやっていればいい。自業自得だ。残念な人達は放っておこう……という鉄の暗黙が交わされている。変な病気をうつされたら困るといった顔で追い払おうとします。この愛のない鉄の暗黙が、私達が思い切りぶつかり合っていけない精神的背景を作っています。皆さん覚えがありますね?」

「期間は? 期間はどれくらいを考えているんですか?」
1人の女子生徒が声を上げた。
「1日です。たった1日で十分だと考えています」
「1日かよ!!」
「おい! 1日だってよ!
「なんだよ1日かよ」
「てっきり2週間ぐらいやらされるのかと思ったぜ」
「いや、てっきり俺は卒業までやるのかと」
「1日なら、俺はやってもいいかなと思うけどなぁ縲怐v
「いや、1日っていったって大したことだぜ?」


 1日。これはあまり長引かせると不測の事態をもたらすと考えた結果だ。委員長は長期に渡ってやりたがっていたけど、まずは1日やってみて、それから日数を伸ばしませんか? と進言してなんとか了解をもらったのだ。

委員長の主張1「うるさい声」

「あなた達はどうですか? 自分の心の内がうるさくてうるさくて仕方ないのではありませんか? この声を……、一生聞かなくてならないのか? 自分で制限できないため、いっそ海に飛び込んで死んでやろうと思ったりしませんか? 寝ても覚めても鳴り止まぬ内なる声。生命が続いている限り、私たちはこの声に振り回されます。一体、誰が何のためにこんな声を発しているのでしょう。どうしようもなくイライラしたり、どうしようもなく切なくなったり、どうしようもなく死にたくなったり、この声を無視できればどれだけ幸せでしょうか? 作家に自殺が多いのはこの内側の声に耳を傾け過ぎたからでしょう。しかしこれは作家に限ったことではない。あなた達全員の心の中に今起こっている。誰もが健康健全に生きているようで、いつもこの作家病に悩まされている。いったいこの心の声はどこから来るのか? なぜこんなにも私達を苦しめるのか?


 他人の声はどうですか? ニュースがうるさいですね。本当だか嘘だかわからないような報道がされています。たとえ本当だとしても、私達にどうしろと言うのでしょう? 人が殺された。高齢者が運転事故を起こした。起こる前に言ってくれるなら助かりますが、起こった後に言われてもどうすればいいんでしょう? 本当にニュースは必要ですか? ただ私達の気を引きたくて、大きな論争を巻き起こさせたくて、この指とまれとキャンプファイヤーをさせたいだけでしょう? 汚い炎です。周りを踊っているあなた達もね……。こういった報道に対するあなた達の声も汚いものです。自分が一番いいコメントを残してやろうとうるさくて適いません。利己心からスタートした主義主張は騒音でしかありません。自分の声もうるさければ他人の声もうるさい。いいからいい加減黙れと。みんなうるさい! 黙れ! みんな黙れ! いいから黙れ! そして自分が一番黙れ!


 人は黙っていられないからうるさいのです。誰かと話さずにいられない。ネットで吠えずにいられない。動画のコメント欄で喧嘩せずにいられない。公共放送機関も同じです。黙っていられないから事実をねじ曲げてでも低俗な情報を流すのです。例えば高齢者の運転事故は決して昔より増えてなどいません。十代や二十代の起こす事故の方が圧倒的に多い。もちろん1人あたりの単位ですよ?


 精神だけではない。身体も壊されている。人間は少食にすることでしか健康を保てないのに、そんなことはお構いなしにあの手この手を使って美味しい匂いを漂わせ誘惑してくる。誘惑するのはいい、誘惑するだけしといて後のことは勝手にしろという態度が気にいらない。防腐剤、増粘剤、pH調整薬、凝固剤、着色料、香料……、これらの化学薬品や添加物が一切ない食品などあるでしょうか? 国民がこれらを食べて身体が悪くなっても、どうにでもなれと思っているんです。私達はスーパーで買い物するしかないのにスーパーでは毒しか売られていない。近頃ではみんな健康意識は高いのだけど、取り入れ先の情報が間違っているし、頼りのスーパーがこれだから一生懸命毒を買い漁るしかない。そして病気になり、病院でも搾取される。文明社会にいる限り、ろくなものは食べられません。みんな、私達は食べ物に恵まれていて、昔の人や貧困国の人達は可哀想と思っているでしょうが、私達の方がよっぽど可哀想なのです。その証拠に50代以上の人間で、糖尿病、脳梗塞、パーキンソン、変形性膝関節症、認知症、高血圧の気が少しもない人間などいるでしょうか? 牛乳は血液の粘性を高めて喘息を起こす。スーパーのお弁当は一週間外に放置しても変色しない。今一度考え直して、芸能人の離婚ではなく、私達の命の危険に迫っていることを報道すべきではないですか? 当然、食品業界が黙っているわけがないですが。


 私達は恐ろしいことに女性化しています。精神だけでない。身体も女性化しているのです。ダイオキシンなどを代表とする環境ホルモンは、日常生活の中に深く溶け込んでいて、食器や洗剤などに70種類が指摘されていますが、これは内分泌を撹乱し、女性に対しては子宮内膜症、男性に対しては精子と男性ホルモンの減少を引き起こします。男性の精子は1938年には平均11300万あったのに1990年には6600万になっているとのことです。あなた達の精子は半分に減っているのです。最近、着床がうまくいかない人が増えていることや、女性がやたらと子宮癌や乳癌になって亡くなられているケースが多いですが、これが大きく関わっていることでしょう。我々を女性化させる環境ホルモンは化学薬品や洗剤や生活汚水に含まれるようですが、では洗剤を使うのはやめましょうということにはならない。考えもしない。提示もしない。提示ができない。自分達の生物としての機能を衰退させてまで何をやっているのでしょうか?


 真実より瞬間の快楽を選択することを繰り返した結果、もう戻ることのできないところまできてしまった。今ではもう何が正しくて何が間違っているのかもわからない。大事なことから目を逸らして、騒ぎやすいテーマだけに絞ってみんなでギャーギャー騒ぐ。寂しいから自分も参加してギャーギャー騒ぐ。あるいはボーッと見ているだけ。ボーッと見てる人の方がずっと多いでしょう。ボーッと見ている人もちゃんと参加しています。喧しい騒音がグルグル自分の中を駆ける様が病みつきになっているのです。ボーッとしているようで、忙しく脳内の信号をチカチカ明滅させて火中で踊っています。報道している人間もただ音に出して原稿を読んでいるだけです。全員狂っているのです。


 本源から離れたところで語るのではなく、本源に向かわねばなりません。こんなにイライラしてうるさくて寂しくて仕方がないのは、表層的なところでいつも踊って踊らされているからです。本源が叫び声をあげているのです。

委員長の主張2「心をキラキラさせること」

 私は両親の影響もありますが、日中こんなことを考えてばかりいて、いつも『心の置きどころ』を探してきました。果たして人はどこに立脚点を置けばいいのか? いちいち心が患わされたり戸惑うことが面倒でしょうがない。だからひたすら探しました。自分なりの答えとかそんなあやふやなものでなく、はっきりとした公明正大の真理です。もの凄い数の星々が縦横無尽に考えられない速さで移動しているに決してぶつかり合わないのは、天の計算がなされているからに他ならない。私の心にも天の住民票が記されているに違いないと思ったのです。それさえわかってしまえば、あとはそれに頼って全ての問題にあたるだけで何でも解決できてしまうと思ったのです。


 座右の銘、スローガンといったものとは少し違います。目に見えない森羅万象を完全に悟ることです。心がいちいち惑わされないためにはどういう心的態度でいればいいのか? 心のカーソルをどこに合わせればいいのか? それは点なのか線なのか? それとももっと大きな範囲か? いや、もしや、どこにも心は置いてはいけないのか……? ひたすら修行しました。そして見つけることができました。


 真理とは積極的な気持ちだけでいることです。前向きで、心の中心が光り輝き、他に何もない。ただ光だけがあるだけ。自分を越えて外にまで光芒に包む精神をいいます。逆に言えば消極的なマイナス感情を全て撤廃させるということです。理論上はこれだけです。これさえ守ってさえいれば、十中八九、真理の中にいます。


 積極的な精神だけを据え、消極的な精神を廃す。「さあ! がんばるぞー!」「おー!」というのとは違います。それは心に波風を立たせているだけです。静かに、消極的な気持ちを1つ残らず焼き尽くすのです。この違いは難しいかもしれません。心の中心に珠玉をイメージしその玉が汚れぬよう気を払うのです。負の感情を滅却しなさい。自分の中に負の感情が侵入してきたら必ず焼き殺しなさい。その都度レーザー照射して滅却させるのです……! 人間の仕事はたったそれだけなのです。『人間の仕事はいつもキラキラしてさえすればいい』トルストイの言葉です。キラキラとはテンションが高かったり、飲んだり騒いだりということではありません。心の底にある珠玉でもいいし中心でもいいし光柱でもなんでもいいですが、これを絶えず輝光させなさいということです。社会から泥をかけられても常に洗濯しなさいということです。あなた達の中にある光は自分はおろか周囲の人間にも浸透します。心の速さは光よりも速く、世界全体まで届き得るのです」

花京院豪花の反対意見1「わたし裸になんてなりません!」

「委員長、ずっと黙って聞いてましたけども、我慢できません。気持ち悪い、本当に気持ち悪いです。レイプから守ってくれると言いましたけど、どうやって守ってくれるんでしょう? 私は人前で裸になんてなりたくないし、なる必要があるとも思えません。これだけの人数を動かすのであれば、まずは成功体験の一つでもソースとして提示してもらいたいものです(あるわけないでしょうが)。言っておきますけど、私は絶対に裸になんてなりません。そういう生徒は他にも絶対にいるでしょう。そんな生徒達をどうするおつもりですか? まさか無理やり脱がすつもりでしょうか? 犯罪ですよ? そんなことしたら警察呼びますからね? 委員長は美人ですから、よっぽど身体にも自信があるんでしょうが、私達は違います。私達は、委員長の言うとおり、酸化した脂で造られた安いスナック菓子と薬品塗れのお弁当でできた貧しい体ですからとても見せられたもんじゃありません。委員長は本当は身体を自慢したいだけなんじゃないんですか? 個人的な性的趣味に巻き込むのはやめてください。一応こんな私でも両親から貰い受けたこの身体を大事にしてきました。貞操も守っています。確かに私たちはいつも暗澹とした黒い霧のようなものに囲まれていて息苦しい。いつでもどこでも聞こえてくる自分や他人の声が一日中鳴り響いておかしくなりそうです。でも心許せる親友や、家に帰ると暖かく迎えてくれる家族がいます。そんな人達によって随分と助けられてきました。委員長もそんな人の一人だと思っていました(ついさっきまでは)。私が全裸になったら、お母さんもお父さんも悲しむと思うんです。ペットのペルも悲しむと思うんです……。身体を守って生きるということは、今の私達が出来る最高の親孝行だと思うんです……! 私はこの学校に入学してよかったと思っているんです、以前、委員長は言いました。


 『あらゆる問題を瞑想によって解決しなさい。無益な思索によらず、神との霊交によって解決するよう努めなさい。心の中から教条主義的神学の垢を取り除いて、その代わりに、直覚という新鮮な癒しの水を組み入れなさい。自分の意識を内なる案内人に同調させれば、人生のあらゆる問題に対する答えを聞くことができる。人間は、自分の身の周りに悩みや問題を作り出す天才で、次々と作っては飽くことを知らないが、神もまた飽くことを知らぬ無限の救済者なのだ』


 これはある福音書の一節だと言われましたが、委員長はこれを大層お気に入りのようで何度も私達に言い聞かせてくれました。そして、みんなで瞑想しました。あの時間は本当に素晴らしいものでした。私はあれから毎日自主的に瞑想しています。あの時は瞑想で全て解決できるって言ったじゃないですか! あれは何だったんですか!? もう飽きちゃったんですか?? コロコロ方針を変えるのはやめてください! その都度本気になった私達が馬鹿みたいじゃありませんか!


 宗教臭くて遠い山奥へジムニーで乗り込んでいく様を両親は心配していましたけど、私が熱心に瞑想しているのを見て、豪華をあの学校へ入学させて良かったと言ったんですよ!? それをあなたは裏切った……! 私を、私の両親の気持ちを裏切った……! 私、委員長のことが許せません……!」


 花京院豪華は泣いていた。途中怒ったり泣いたり様々だった。いつも人一倍熱心で委員長の企画を言われた通り遂行したと思えば、真っ向から対立する唯一の人間も彼女だった。しかし、こんな風に泣き喚く姿は初めてだった。

委員長の主張3「心を破壊せよ」

「花京院さん、あなたの言いたいことはよく分かりました。あなたの怒りも、御両親への想いも分かりました。あなたが裸になったら、確かに御両親は悲しむかもしれません。今まで大事に育ててきた娘が傷物にされたと思うかもしれません。しかし、それは一時的なものです。親が子に期待するものはいつだって子の本当の幸せです。『娘が学校で全裸になった』それだけの事実を耳にしたら発狂するかもしれません。ですが肝心なのはいつだってあなたの心的態度ではありませんか? あなたが全裸にされたとメソメソ泣いていたらご両親は発狂するでしょう。しかしあなたがこの企画から宝玉を持ち帰ることができて、『全裸になってよかった』と心から晴れ晴れした顔で戻ったらどうでしょう? ヒマラヤにこもって修行するため、仕事を辞めて、嫁も子も捨てて急に出家したサラリーマンも同じです。最後に晴れ渡った顔を見せられたら親も他人も誰も何も言えないのです。


 あなたはソースの提示を求められましたが、そうですね。ある芸術家が非文明国に滞在したときの手記が残っています。これを口述しましょう。


『今晩はなんて美しい夜だろう。沢山の人たちが、今夜私と同じようにしているにちがいない。ここの人たちは気楽に暮らし、子供たちはひとりでに育っている。彼等は、どこの村であろうが、どんな路であろうが、どこにでも出かけてゆき、他人の家の中で眠り、食事をし、礼一つ言わない。お互い同士おなじことをしあっているからだ。彼等を野蛮人と呼べるものだろうか? 彼等は歌い、決して盗まず――私の家の戸は、何時も開けっ放しだ――人殺しをしたりしない。次の二つの言葉に、彼等の性質がよく出ている。「イア・オラナ」(今日は、さようなら、有難う、などの意)と「オナトゥ」(かまうもんか、どうでもいいさ、などの意)だ。それでも彼等を野蛮人と呼べるものだろうか? 私のはだしの足は、毎日砂利をふみ、大地になじんだ。ほとんどいつも裸の私の体は、もはや太陽を怖れない。文明は私から少しずつ離れてゆく。私は、単純な考え方をするようになり、わが同胞にほとんど憎しみを抱かなくなった。私は動物のように、自由に、今日と同じ明日を確信して働く。毎朝太陽は、みなのためにも、私のためにも、はれやかにのぼる。私は、無頓着になり、落着き、優しくなった。いつも、いつも。間違っているのは社会なのだ』


 そして、もう一つ、瞑想によって全てを解決するという方針は今でも私の中心として屹立しています。そう、全裸よりもこちらを私は優位だと考えています」

 意外だろうか、この言葉に反応する生徒は多かった。


「なんだって!?」
「瞑想の方が上だってよ!」
「そんな! 一番じゃねーのかよ! 2番か3番だかわかんねーような事を俺らにやらせようとしてんのか!?」
「ふざけんじゃねーぞ!? じゃあ瞑想だけやってりゃいいじゃん!」
「なんだよ、つまんね」
「じゃあ、つまりあれか? 俺達は瞑想をあれだけやっても変わらなかったから、2番か3番の全裸をやったとしても、変わらねえことははっきりしてるじゃねーか!」
「やめだ……! 俺は全裸なんてやらねえぞ!」

「瞑想によって全てを解決しようとする姿勢は正しい。今でもそれを大きく採用しています。今後も学校の方針の究極的なところではこれを推奨していくつもりです。しかし、心を破壊しなければならないのです。もう一度いいます。心の破壊です。これをよく覚えていてください。これが今あなた方が早急にしなければならない第一目標です。『心を破壊』と言うと、この世で最も聞こえの悪い言葉に聞こえるでしょう。私のことが悪い魔法使いのように見えるでしょう。心を大切に、心を美しく、心を開いて……、こころこころこころ……、この心というものを、世界は至上に置いてきました。だけど、どうでしょう? この心によってあなた方は苦しめられているのではないでしょうか? 先程話した内なる声と外の声もこれを指しています。心がうるさいのです。本来、瞑想の目的は心を破壊することにあります。意外でしたか? でも、本当です。あなた方が思っているあなたは、本当のあなたではない。心もあなた方が思っている心は、あなたの心ではない。あなた方が心だと思っているものは、『毎日の生活の中で堆く積もったゴミ』『精神の習慣的な反復作用』『ひとつの傾向』です。


 どうでしょう? あなた達は昨日も今日も同じことを考えて生きていませんか? 9割同じことを考えて1日が終わっているでしょう。汚れた水道管や血管のように、いつもいつもこびりついて離れない9割のゴミで埋め尽くされている。僅かなほんの小さな隙間から息を絶え絶えにして呼吸しているのです。瞑想で心を破壊できるんだったらそれに越したことはない。でも今のあなた達にはそれができない。実際にやらせてみてわかりました。あなた達は瞑想の前にやることがあった。あなた達は全裸になって、陰部を堂々と主張し、腰を前へ反りだし、真正面から人と太陽と向き合うことで、脳がのたうち回り気が狂い、息をゼーゼー切らしながら、それでも座り込むことなく、膝をガクガク震わせながらも立ち続け、そしてそれでも立ち続けることによって、進化しなければならないのです……! あなた達はいつも増やすことばかり考えている。肝心なのはいつだって減らすことです。減らして減らして死ぬことを提案したい。完全に心の中の病巣を焼き尽くす。心の中に大きな花火を打ち上げて内部から心を破壊するのです。全裸になっている間は、素晴らしい精神状態になるかもしれません。けど、また服を着れば元通りになるかもしれません。もしそうならまるで意味がないことになるのか? 人生は体験するためにあります。全員が全裸になって、何かが生まれるかもしれない。何も生まれないかもしれない。でも、体験することに意味がある。生きることに意味があるのと同じです。心を破壊することでキラキラした精神だけが残ります。まずは一緒に心を破壊しましょう……!」

花京院豪華の反対意見2「あなたも文化を味わってるじゃない!」

「委員長、これまでお話を聞いていて、どこか引っかかるというか、腑に落ちないところがありましたが、今はっきりしました。委員長、あなたは文化を否定しているのに、あなたはその文化をありがたく頂戴していることです。あなたのシワひとつない綺麗に誂えた制服も、あなたの心許ない視力を補強する金属も、手にされているマイクも、そしてご両親の大きな経済をバックボーンにしたジムニーの招集も、この学校も……! 成り立ちませんよ! 水道もガスも電気も交通機関も思う存分しゃぶり尽くしておいて、都合が良ろしいではありませんか?
委員長、あなたが生まれたままの姿で野原の切り株に座ってご高説されるなら分からないでもないですが、あなたは欲しいがままに文化の恩恵に預かっている……! 私はそういう人間が大嫌いです! 最後に言わせてもらいますが、なぜ今もあなたは服を着ているのですか?」


「そーだ! そんなに裸になりたいならそういう国へ行け!」


「そうだ! お前がどっかの部族と過ごせばいいだけの話だ!」


「同じ国で同じものを見て育っても、私とあなた方のように大きく人間が異なってしまうのは見てのとおりです。洗脳されるものとされないのができる。私が服を着て文化的な生活を送っているのは既に洗脳から解けて確かな自己を確立しているからです。とりあえず、円滑に暮らし余計な面倒事を巻き込まれぬよう行儀のいいふりをしているだけです。別にどちらでも構わない。少し楽をしたとしても、普段から魂の手入れをしている人間には不問です」


「なんだそれ!」
「ふざけんな! 証拠を見せろ! 証拠を! 「そうだ! 今すぐ服を脱ぎ捨てやがれ! 魔女が!」
「そうだ! 脱げ!」
「ヒロコー! ヒロコー!」
「ヒューヒューー! ヒロコーーーーーーーッ!!」
「脱げねーなら俺が手伝ってやろうかーー? ヒロコォォーーーーーーー!!」
「ヒロコー! ヒロコー!! ヒロコー!!」
「ヒーーローーコォォーーー!!!!」

 あまりにも汚い野次だった。これは生徒達が生徒達に向かって放たれている言葉といっていい。委員長に向けた言葉ではないのだ。取り合わなくていい言葉なのだ。
「委員長、脱ぐんだろうか?」
「さあな」
ペヤングはタバコを取り出して言った。
「一旦、休憩を挟みましょう!」
 水樹ちゃんが言った。
 この場で裸になれるものなのか? 全校生徒227人、554個の瞳で見られるってどんな気分なんだ?
「そして、勇気があるものとないものができる」
 そういうと、委員長は着ている制服を掴み、試合開始のジャンプボールのように宙へ放り投げた。

裸の聖母

 白い肌。ツンと上を向いた初々しい乳首。小さくも大きくもない乳房だが、中に鉄芯が入っているかのような張りがある。上品な裸だ。旬のアイドルの身体というより神話の彫刻に近い。エネルギーの結晶のようだ。周りに光粒がチラチラ舞っているようにも見える。陰毛も、春の小川のようにさわやかに咲いていて、今にも一本一本が、風に吹かれて郷里の丘へ運ばれていってしまいそうだ。
高校生はいつだって刺激を求めている。刺激は、委員長の覚悟。この状況でたった一人で全裸になったこと、今こうしてひとりの女子高生が堂々と全裸で屹立している非現実的な状況からきていた。


 彼らにとって、大人は全員出枯らしで退屈だった。いつだって若いカリスマを求めていた。誰かに先導してもらいたかった。心の底から崇拝できる人に、自分の人生を預けたくてしょうがなかった。


 おそらく委員長は計算して裸になったのではないだろう。細胞が燃え上がったのだ。そして全体の意思。講堂が委員長に全裸を求めた。


「全く恐れ入るぜ。ここまでやるとは思わなかった。才色兼備で筋金入りの金持ちだ。どこに不自由がある? 約束された将来をひな鳥みたいに口を開けながら待ってればいいのに。なあ森永、こんな女と誰が結婚したいと思う? 生活引っ掻き回されそうだし、うるさいし、度胸があり過ぎて何をしでかすかわからない。森永、お前、委員長と結婚したいと思うか?」
「しらねーよ」
「でも、いい身体だよな。これが残念な身体だったらどうなっていたかな」
 ペヤングは腕を組んで女体専門家のような口ぶりで話す。
「全裸になることはとても恥ずかしい行為だ。誰もがいい身体をしているわけじゃない。若いのに垂れ下がった乳首をしている者もいる。包茎もいる。短小もいる。塩っ辛いまんこもいる。だが、それでいい。これでもかと負け一色の姿を世界に晒すことに意味があり、前進があると思っていた。それが全裸の核だと思っていた。だが、今思い改まった。全裸は負けじゃない。勝者の姿だ。自分との戦いとのな」
 自分との戦いの勝利……。確かに今、瞬間瞬間に、委員長は自分と戦って勝利している。
「AV女優も全裸になって、男達にもみくちゃにされ白い海の中に沈められた。女の一番大事なものを売り渡してしまった。でも、彼女達はどこかホッとしているようなところがあると思わないか?。自分が大切にしていた全てを失った喪失感。ゼロ以下になった感じ。いくところまでいった。もうここより下はない。バラエティなんかでAV女優をみると、どこか逞しいよな。下品なことを進んでやる。不倫報道されたアイドルもまた然りだ。自分が今まで大事に守ってきたものを自分から壊した人間というのは逞しい。女芸人もそうだ。どこか男っぽい。グラビアアイドルも意外に男っぽいんだ。どうぞ抜いてください! てな具合にデンとしている。女は汚れる勇気をもって、自分をぶち壊すことで男に近づくことができる。女は内に男を住ませなきゃダメなんだ。だがな……森永……」
 ペヤングは新しいタバコを一本取り出して言った。
「果たして俺は女芸人と結婚できるのか、それが問題なんだ」
「わかったペヤング。少し静かにしてくれ」

 どれだけ偉そうな人間でも、裸であれば脆弱に見えてしまう。しかし委員長は違った。どこにも弱さがなかった。少なくとも、今、俺達から見て、弱い立場にいるように映らなかった。もっと深くいえば、実はこれはよく観察していなければわからないのだが……(しかし、これこそが何にも増して重要だと思われる……!)、委員長は少し、一瞬一瞬、弱くなったり強くなったりしていた。やはりというべきか、勢いよく全裸になっても時間が経てば精神的な推移が始まりだす。全裸で矢面に立っていれば、心の隙間に負の感情が入り込んでくる(それはまるで、委員長の決死の覚悟を嘲笑うかのように……!)。絶えず突き刺さる視線、不安か恥辱か、今すぐ逃げ出したくなるような、胸を手で覆いたくなるような気持ちが生まれてくる。だけど、委員長は、そんな消極的な気持ちを一回一回浄化しているように見えた。凡人はきっとそれにやられてしまうのだろうが、委員長は一瞬一瞬に迫ってくる弱い気持ちに取り合わず、瞬間的に何度も氣を更新しているように見えた。一瞬一瞬、死んで生まれ変わっているのだ。全く動じないわけではない。委員長も人間だ。何も感じないわけではない。その都度生まれ変わることで、立っていられるのだ。光の正体は、新しい生命だったのだ。生まれたままの姿で、生命力を瞬間、瞬間的に爆発させている……!


 どうしてこの人は講堂で、わざわざみんなの前で全裸になって、ここまでやるんだ? これぐらいの年頃の女の子だったら、彼氏と遊園地に行ったり、友達と集まってBBQやりたいんじゃないのか? くだらないゲームの課金でもいい、全巻集めた漫画を売ってまた買い戻してテヘへと笑ったり、そういうもんじゃないのか? 女子高生ってのは……! どうして全裸なんだ!? そしてどうして俺は委員長のことを放っておけないんだ?!? どうしてこんなに胸が苦しくなって、何かしたくてたまらなくなるんだ? 俺はまだ全裸が善玉か悪玉かわからずにいる。だけど、そんなことはどうでもいい。俺はこの人と一緒に戦場を駆けて一緒に死にたいのだ。

「森永。色々理由はあるさ。理由は、散々に渡って委員長が言った。服を着るとどうしても人間は偉そうになる。自分が服を着て相手が裸だったら征服者のような気分になる。相手が経営者だろうが首相だろうが見窄らしく、路肩の石ころのように蹴飛ばして当然だと思うだろう。人間を強制的に全裸して浄化を図る、それは彼等に全裸という光の鉄槌を振るうことだ。そのために委員長は全てを巻き込もうとした。俺は委員長のことを狂った夢想家だと思っていた。だがな……、この光はなんだ? 講堂には今、光しかない……。理由も糞もない。ただ剥き出しになった魂が暴走している……! それに呼応するように生徒達の心も何かに目覚めようとしている。委員長にはもはや何もない。全裸になる理由も服と一緒に消えてしまった。委員長は、ただ童心に帰り、真実の姿で全校生徒と戯れようとしている……」

講堂2

 生徒達は嬉しかったんだろう。文字通り、裸一貫で、自分たちに本気で向かってくれることが嬉しいのだ。何にも増して、その気持ちが嬉しい。刺激は落ち着いてくると、次は感謝の感情が講堂を支配した。一筋の滴が、ある男子生徒の頬を伝った。


「委員長あんたはやっぱり本物だ。俺はもう迷わない、一生あんたについていく!」
「いいぜ、委員長なってやるよ……、全裸!」
「あーー! 暑っちぃなぁー! なぁお前! 暑くねーか!?」
「まったくだ! 服を着ているのがバカらしいくらいにな!」
「色々言って悪かったな委員長。しかしなんだこの光は……? あんたの目と、真っ白な肌を見ていると心が洗われていくようだ、俺もアンタみたいになれるというのか?」
「委員長、あなたは間違っている。だけど俺達のほうが多くの間違いを犯してるのかもしれない」
「もう十分だ、ありがとう委員長! 服を着てくれ!」


 クソッたれどもが……! 恥ずかしくねえのか? こいつらは次から次へ意見を変えて……。いつも腐るほど漫画を読んで主人公に感情移入して物語を擬似体験しているくせに、肝心なことを何も学んでない。言っておくけど、お前らなんて突然現れたと思ったら、次のコマで主人公にふっ飛ばされてる雑魚だからな? なんでそっちを真似てんだよ。バスケ漫画でシュート入ったら、ワーッって叫んでる側だからな? あのとき読んで流した涙はなんだったんだよ……! あー、イライラするぜ……!

「私達は……私達は……」
 女子生徒たちはまだ決心がつかないようで、この怒涛の事態を飲み込めずにいた。
「みんな裸になるの!?」
「でも……でも……」
「裸にならなきゃいけないの!?」
「ならなきゃいけないとかそういう問題じゃないでしょ!」
「私は裸にならなければ委員長に申し訳が立たないような気がしているんだけど……!」
「それは委員長が勝手にやったことだし……!」
「本当に頭がおかしくなってくる……! 私も委員長が好きだし力になってあげたいけど、でも今回ばかりは……」
「ああ……! 委員長を一人裸にさせているのも悪い気がする、そして、この光は何!? この光に呑まれて全裸になってしまいそう……! それとも委員長への義理なの……!? わからない……! もうどうしたらいいの!?」
「花京院さん……!」
「花京院さん……! 花京院さん……!」


 女子生徒達は自分の頭で処理できる範囲を越えたらしく、すべてを花京院豪華に委ねた。花京院が脱ぐといったら脱ぐのか? いつだってこいつらは誰かの言ったことについていくしかしない。委員長がダメなら花京院。永遠に自分が先頭に立つ番から逃げ回る。
 花京院豪華は両の拳を握りしめて震えていた
「馬鹿な……、どうして……! どうして……! どうして全裸なんかに……!」
「お前が脱げって言ったんじゃん」
 ゲラゲラと一人の男子生徒が野次を飛ばした。
(なんなの!? どうして裸になってるの!? どうして立っていられるの!? どうかしてる……! まさか、本当になるとは思わなかった! 本当にこの人は女なの!? しかし身体は女以上に女の身体をしている……! 果たしてここでたった一人で全裸になることは偉いのか? 正しいのか? 頭では分かってる、間違っていることはわかってる! 委員長は今とてつもない残念なことになっている……! いや、本当に? 委員長は今、残念なことになってるの? なってない、明らかに私の方が劣勢になってる……! なぜ裸の女に還付無きまでに叩き負かされてるの……!? こうして委員長は目の前で裸になってピンピンしている! 委員長の理論だと裸になると弱くなるんじゃないの……!? 全裸になるって実はそれほどでもないの? 死ぬわけでもないし怪我するわけでもない、今、委員長の将来や希望が奪われたようにはとても見えない……! 私は一体何を嫌がっているの? 何を警戒してるんだろう? もうそれが分からない……! 私は自分でもよくわかってないことを大声に出して戦っている……! 自分を支えていたはずの何かがさっきまであったのに、今は見つからない……! みんなで裸になって見つかるものがあればよし、見つからなくてもリスクが無いからよし……? まさかそんなはずはない……! リスクがないはずは……! もうわからない……! いっそこの頭の霧を取っ払うために全裸になりたいぐらい……!)

 クソ……! どうしてこんなにイライラするんだ!? どっちに正義があるかなんか言われなくてもわかってる! 全裸だぞ!? 全裸! この世で最も人に強制しちゃいけないものだ、そんなことはわかっているのに……!
俺は気づいたら委員長をどかして前に立ち、全校生徒に向かって激を飛ばしていた。
「おめーら一体何なんだよ! いいじゃねーか全裸ぐらい! 簡単だろ! 服を脱ぐだけだよ! いつもやってんじゃねーかッ! 何をそんなに恐れてんだよ! みんなで脱げば何も恥ずかしくねぇだろーーがッ! 温泉と一緒だろ!? ここにひとりで裸になってる女もいるけどなッ! 失ったっていいじゃねーか、失うことが大事なんじゃねえのか!? 別に俺はてめえらの裸なんて見たくねぇんだよ! そんなにお前らが一生懸命鍵をかけて守ってるもんは大事なのかよ! 委員長の言う通り、そのせいで苦しんでいるかもしれねーだろ? だったらわかんねーけど、試してみたらいいじゃねーか! みんなで全裸になったら見つかるんじゃなくて、全裸になることが見つけたのと同じかもしれねーだろッ!? 俺も何言ってるかわかんねーよ! ああ狂ってるさ! 委員長は狂ってる! 俺だって狂ってる! でもお前らだって大概なもんだぜ!? 煮ても煮つかない不燃ゴミみたいに十数年生きるのも十分狂ってるぜ!? せっかく鍵を開けてくれるっていってんだ! 世話になればいいじゃねーか! もう自分で何言ってるかよくわかんねーけど……ッ!」

「森永くん……」

 後ろの方で水樹ちゃんの声が聞こえた。今、どんな顔で俺を見ているんだろう。
 女子生徒たちは火薬壺を見るような目で俺を見ていた。そして彼女達は何かに突き動かされるように口を開いた。それは彼女達の言葉だったのか、それとも講堂が出した言葉か。
「委員長、私達ぶつかってみようと思います。本当に今でさえ何が起きているのかわかりません。急に講堂に招集させられて、全裸になれと言われて、勝手になられて、もう何が何だかわかりません。全裸になる必要があるのかないのかよくわかりません。一度家に帰って考えてみたいと思います。でも委員長が本気だということはわかりました。私達もあなたと……、みんなと、ぶつかってみようと思います」
「私は私は私は私は――私は――私は――」
 花京院豪華は崩れ落ちた。地面に突っ伏して泣いていた。何も言わなかった。誰も何も言わなかった。花京院豪華はその端正な顔立ちの原型がわからなくなるほど泣いていた。委員長の右頬にひとつ光るものが流れ落ちた。そのまま講堂に長い沈黙が訪れた。

「全裸学校計画」シリーズ

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