たかだか50年ぐらい前だというのに、ヒトラーは1200万人殺して、スターリンは1800万人殺して、毛沢東は5000万人を殺した(ネット調べなので適当だが)。
たった一人の人間の無茶苦茶がまかり通る世界があったのだ。
ユダヤ人迫害、自分の地位を脅かしそうな知識人の虐殺、雀を何十万羽殺
たかが50年くらい前である。
そんな無茶苦茶な命令を出す奴は、馬鹿げているから殺してしまえということにならないのである。
その人が息している限り、どんな無茶苦茶な命令もまかり通る。
老衰して骨と皮になって、薄氷のように叩けば割れそうな身体だというのに、息をしている限りは威光が続く。
不思議なものだ。
ヒトラーが死ぬ最後の呼吸前までは絶対服従の姿勢を見せ、彼が息引き取った瞬間から暴君だとか史上最大の戦犯とか言い出す。
死んだと見るや、クワや鎌で打ちつけ、もう打ちつける箇所も残らなくなっている惨い死骸に何度も打ちつけるように、農奴が領主に一揆するときのようなことが起こる。ここで刮目すべきところは、ピクリとも動かなくなった遺体でなければ、クワも鎌も振り下ろせないことだ。
アマゾンの倉庫だったり電通のような大企業だったり、俺が務めていた小さなデイサービスだろうが、結局はたった一人の暴君に支配されている。
勤めてる人達のそれぞれの思想が合体して、全体が悪くなるということはない。企業はトップに君臨するたった一人の人間の性格が反映される。
ナポレオンは自分が戦争の勝利を重ねることができたのは兵士達の実力ではなく自分の力量にあると言っていたし、カエサルもハンニバルが偉大だからハンニバル軍が勝利したのだと言っている。結局はトップの人間がすべてだ。
それはいつの時代も変わらないしこれからもずっとそうなんだろう。
それでも昔よりはだいぶ良くなった。今はみんなそれなりに溌剌とした顔をして、仕事にやりがいを見出して生きている人もいる。殺されたり殺す心配とないと思ってるかもしれないが、俺はそんなことないと思う。
死んだような顔をして会社に向かっていく人間が俺の周りに何人かいる、こういった人が一人いるだけで十分クソな世の中だ。
ひろゆきが一生懸命ベーシックインカムの時代を模索しているように、俺も早くそういう時代が来ればいいと思っている。
ブロガーとかユーチューバーとかミニマリストとか、そういう踏み外れてしまった人間はみんな、ベーシックインカムベーシックインカムと言っている。
ベーシックインカムの時代が到来して、何事にも束縛されず征服されたり征服することもない世の中がベストだろうか。
だけどどこか腑に落ちないところがある。
働いてる人の顔を見ると、早く休みたい、ずっと寝ていたい、会社に行きたくないと書いてあるが、同時に、命令されたい、洗脳されたい、とも書かれている。
他人の命令通りに働くというのは、何も考えなくていいし、責任を取らなくていいし、気楽な面はあるのだが、それだけではなく、遺伝子レベルで、人に操られて洗脳されて、初めて息をしている感覚を覚える人間がいるのだ。そして、多いのだ、それが。
これだけ多くの職業選択の自由があるのに、みんな他人の道を歩もうとする。他人の仕事の手伝いをしようとする。
多くの人が、こうすれば絶対に儲かって確実に上手く行くという保証が用意されたとしても、たとえそれが絶対にうまくいくと約束されていても、3年か4年奨学金を使って学校に行き、資格を取ったり、就活するのは、自分から洗脳されたいからのような気がする。みんなと同じ道しかどうしても歩めない人がいる。
俺はいろんな職場で暴君を見てきたが、その暴君に対して歯向かえる人間というのは見たことがない。
面白いことに、飲み会とかで、その暴君に不満を覚える人間だけが集まっても、誰も悪口を言おうとしないのだ。
告げ口する人なんて誰もいないのに、好きなだけ思ってること言ったらいいのに、絶対に言わない。
せいぜい言ったとしても、「なんで、あの機材発注したんですかねぇ、誰も使わないと思うんですが、何か理由あるんですかねぇ?」と、大分濁した、とぼけた言い方をする。
本人が目の前にいなくても、心臓を握り締められているような気持ちがするのだ。「いや、やっぱり自分に問題が……」と考えてしまう。
仲間内の飲み会だというのに、ここをこうした方が良いような気がするのですが、と言ったふうに、暴君を非難している体にならないように慎重に話す。
それがまだ20代だったら可愛いものだが、
40代や50代の人間がそんな調子だ。
40代や50代の人間が、30代の上司の仕事ぶりについて、「なんで、あの機材発注したんですかねぇ、誰も使わないと思うんですが、何か理由あるんですかねぇ?」と揶揄するのが、精一杯の愚痴なのだ。
きっと、自分だけの時間の中でも、暴君を一生懸命正当化して、自分に非があると思い込んでいるんだろう。
こういう現場を見かける度に、そりゃ戦争起きるわ、と思ってしまう。
誰もノーとは言えないのだから。
アインシュタインは兵士全員が兵役を拒否すれば、全員を収容所送りにするだけの土地と金が国にはないから、皆で拒否すれば戦争を回避できると言った。
今も同じで、みんなが働くのをやめてしまえば、我々の勝利は間違いないのだ。
見方を変えれば、暴君が悪いというより、我々一人ひとりに勇気がないから、戦争もブラック企業も起こってしまうのだと思う。
ロベスピエールは今もあちこちに健在しているし、戦争は今も、この国で続いていると俺は思う。