女は出会い系をやるとき、同級生の男に連れ出してほしいと思っている。
働いている女も一緒で、会社の男が連れ出しにきてくれるのを期待している。
彼女たちと会うとき、彼女たちはふと、学校や職場の男のことを思い浮かべていることがわかる。
「このままだと、本当に私、この人と付き合っちゃうかもしれないよ?」
と、後ろ髪を引かれるように、学校や会社の男に助けを求めていることがわかる。
べつにサッカー部のキャプテンでもない、生徒会長でもない、普通の、アジダスのスニーカーを履いた、学ランの下にパーカーを着ている、普通の男の子だ。
女慣れしていない、でもそこそこ美形の、地味で、整えたらまあまあかっこよくなりそうな、地味だけどちんこはまあまあでかい、ロリとかレイプとか、あんまりハードすぎるAVは見てもらいたくないが、普通のAVを見ている、そんな男に助けに来てもらいたいと考えているようなのである。
まるで両親に勝手にお見合いをさせられているように、ドラマの結婚式で「ちょっと待った!」と割り込んでくるシーンのように、クッパに攫われたピーチ姫がマリオが助けにくるのを待っているように、このデート中に、息を切らして学校や会社の男が駆けつけてくることを期待している。
自分勝手だということはわかってる。アプリに登録したのはわたしだ。自分で登録しておいてこんな被害者意識を持つことは間違っている。これは目の前の男の人に対しても失礼だ、と彼女自身もよくわかっている。
しかし、彼女らに限らず、みんな、なるべくなら、同じ学校、同じ職場、同じテリトリー内で恋愛関係になることが当然だと思っていて、同じ輪の人間が外部の異性と付き合ったという話を耳にすると、「それはルール違反でないか?」と警笛を鳴らすような顔をする。
出会い系の男は、奥のソファに座らせてくれるし、水が少なくなっていると、注いできてくれる。食べ方も綺麗だ。会話の神経も行き届いている。
しかし隙がない。なんだこの男は? 出会い系ロボットなんじゃないか? 確かに、わたしは同級生の男にこういう男になってほしかったはずだが。
校庭の隅やグラウンドの土埃の匂い、渡り廊下にかかる橙色の日差しが消えてしまっている。
何かが、あまりにも早く流れていく。沖まで流されてしまいそうになる。気づいたらホテルに連れ込まれて股を開き、老後を築いていそうになる。
やっぱり引き返して、同級生の男に期待しようか? うーん、でもやっぱり、あいつらはお母さんに生返事するように、「うん」とか「ああ」しか言わないし。わたしから距離を縮めて告白したら余計につけあがるだろうし、あいつらのためにもならないだろう。うーん、あいつらが今、デートに割り込んできて連れ出してくれたら、わたしも本気を出せそうだけど。それでも、付き合うかどうかはわからないけど。
この出会い系の人も、同じ学校にならなかっただけで、別の学校で育ってきただけなんだから、けっきょく同じなんだけどね。
べつに、わたしは同級生の男が好きというわけではない。なんとなく、あいつらの存在が気になるだけで。こうやって出会い系の男とデートすることは、あいつらに対する裏切りのようにも思える。
なぜ?
べつに、好きというわけでもない。もし、あいつらがデートをぶち壊しにきても、付き合うかどうかは別だ。
でも、どこかでぶち壊しにきてほしいと思っている。これはなぜだろう? でも、本当に、ぶち壊されたら困ってしまう。
出会い系の人にもすごい迷惑がかるし、「なんですか? この茶番は。そういうことなら初めに言ってほしかったです」と言われて、席を立たれるだろう。そのとき、その姿を見送るわたしは、一体どんな顔をすればいいだろう? 出会い系男への申し訳無さから、出会い系男と付き合わなければいけない気になってくる。
出会い系から帰ってきて、次の日学校で同級生に会うと、異世界から戻ってきたようにホッとする。だけど、誰もこの冒険に気づいてくれないのは悲しい。
女は、基本的に、外部の男とデートしたという事実を、学校や職場の男に知られたいと思っている。
さすがに、自分でマッチングアプリに登録して会ったことは知られたくはないが、友達に紹介されて“しかたなく”会ったという体なら、“しかたなく”であれば、フライデーのように広められたいと思っている。
そして、それを知ったときの男たちの反応を見逃さないようにチェックしている。(え? 今なんていった?)(外部の男?)(はるかちゃんが?)というような、彼らの、暗く沈むトーンや、胸の中に走る一抹の切ない感情を、見逃さないようにチェックして、それを一緒に体感しようとする。
甘酸っぱくて濃い、胸がギュっと締め付けられるような、熱く焦がれる想い。彼らの胸の中に走るその、歯を食いしばってちんこを握りしめて寝るような、見ているだけで泣きたくなってしまいそうになるその感情を、女は抱きしめるように共有したいのである。例えば自分が処女を失ったことを同級生の男が知って泣いたら、一緒に泣きたいのである。
(もう取り替えしがつかなくなっちゃったね)
コツーン、コツーン、と、新しく続いていく道を、新しい男と手をつないで歩いていくのを、振られた男の立ち位置に立って、一緒に見送っている。
(連れ出しに来てくれなかったね)
なぜこの視点に立つことができるのか? それは、ボディビルダーの男が自分に発情するように、彼女たちもまた、自分の髪や肌や胸や柔らかな曲線美に発情することができるからである。
男が女のおっぱいを見て興奮するように、女も自分のおっぱいを見て興奮することができる。女性は女体に興奮するのだ。
よく女がふざけて仲間の女の乳を揉みしだいているが、あれは痴漢する男と同じ心理からきている。