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ジジイが電車の中でエロ本読んでた

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もうずっと前のことだが、コロナが騒がれる少し前、電車に乗っていたら、ジジイが電車の中でエロ本を読んでいた。

座りながら、膝の上に載せて、あまりにも堂々と広げていたので、はじめは新聞紙を広げているのかと思ったらエロ本だった。

隣りに大学生くらいの女の子が座っているのに、平気で広げているのである。

エロ本? ビニ本? というのか?  コンビニにいったい誰が買うんだというようなエロ本が置かれてあるが、こういう人のためか。令和だというのに未だに動画へ移行できない人への救助策である。国やローソンは、最後までこの手の人達の性処理の面倒を見る気でいるらしい。やはり年寄りに優しい社会である。

背筋が曲がっていて、鼻先がエロ本にくっつきそうなくらい近づいていたが、それは年齢のために背中が曲がっているわけでなさそうだった(まだそこまでの年ではなかった)

ジジイは画家がキャンパスを広げて夢を描くように、自分の世界に夢中になっていた。単純な発情というものをこえて、一種の神聖さ、それを己の魂として、大事に抱えていそうなところがあった。いればの話だが、孫より大事にしていそうだった。

初めて性を体験したときの喜びが、まだ続いているようだった。感情の源泉のような感情が、こちらにも伝わってくるようだった。小生はジジイよりずっと若く、ずっと最先端の機器で抜いているのに、その10分の1の恩恵も得られていない。

隣に座っている女の子は、ジジイを見て何を感じているだろう? 

別に構いませんよ。わたしはあなたの孫でもないし、あなたと付き合うわけでもありません。わたし達は、いま通り過ぎていった列車のように、別の線路を走っています。あなたは下りでわたしは上り、進行方向は逆です。永遠にぶつかることはありません。列車同士が離れていくよりも速く、わたしたちの距離は開いていくでしょう。お爺さん。どうぞお幸せに余生をお過ごしください。という顔をしていた。

もし彼女が自分のおじいちゃんの部屋に入って、エロ本が隠されているのを発見したら、(もうおじいちゃん、かわいい)と、一種の愛に似た感情を覚えるかもしれないが、隣のジジイには、ひとかけらの愛もくべる必要がないと、切り捨てていた。

キャーとかワーとか言うのは漫画の世界で、こういうとき女は冷静以上に冷静な顔をする。怒ったり怯えたり引いたりすることなく、昼下がりのティータイムのような表情をずっとし続ける。若い女の子でも、反応しない術を心得ているのだ。何一つ、変態に情報を与えてはならないと思っている。反応することは変態を喜ばせてしまうし、負けだと思っている。

座席はすべて埋まっていて、立っている人がちらほらいるといった感じだった。小生はジジイと女の子の向かいの座席に座っていた。

ちょうど、ジジイ達と小生の間に、サラリーマン達がつり革を握って立っていたのだが、サラリーマン達も、ジジイに驚きを隠せないようだった。

(ジジイ元気だなぁ)(なんだこれは? 新しい孤独死?)(こいつの年金稼ぐために俺たちは働いてるのか)(ジジイ。隣に女の子がいるから、あえて見せつけてるんじゃないだろうな?)(顔と本の距離が近すぎるだろ。そんなに近かったら肌色しか見えねーだろ)

立っているサラリーマン達から、そんな声が聞こえてくるようだった。

サラリーマン達は、もしジジイが女の子に何かしたらすぐに助ける気でいた。そしてあわよくば、それをきっかけに女の子と付き合おうと考えていた。しかし残念ながら、その可能性は、ジジイのちんこが再び若い頃と同じくらい隆起するくらい、あるいはジジイの陰毛が再び黒く生え変わるくらい、低そうだった。なぜなら、ジジイはエロ本以外目に入ってなかった。エサ箱に顔を突っ込んでいる犬のようにエロ本に顔を近づけ、内面的においても、犬が餌を食っているときと同じ精神状態に近いと思われた。つまり、いっさい周りが目に入っていない。

さて、満員ということもなく、立っている人がちらほらいるといった感じで、そんなに混んでいるというわけでもなく、しかし座席は全部埋まってしまっていたのだが、彼女ははたして、もし空席があったとしたら、そこに移っただろうか? それは、みなさんで判断していただきたい。

というのも、彼女は、ジジイとジジイが眺めているエロ本を興味深そうに見つめていたからである。

(どうやったらここまで下品になれるのだろう? 人間はここまで下品になることが可能なの? 完全に人間であることを放棄している)

女の子は、こっそり見るという配慮に欠けていた。堂々と見ていた。ジジイのことを怖いと思っていないようだった。

ジジイはエロ本に夢中だったし、ジジイから流れている覇気が弱く、まるで刺さってくるオーラがなく、このままずっと見ていても大丈夫だろうと安心させる何かが、ジジイから流れていた。いや、何も流れていなかったから、そうすることができた。

ジジイがエロ本を堂々と見て、女の子がそれを堂々と見るという、不思議な光景があった。

彼女はこのことを友達におもしろがって話したり、「今、電車でとなりに座ってるジジイがエロ本読んでる」と、友達にLINEを送りそうなタイプでもなかった。この情報を自分の中で完結させることを是としているようだった。

何を完結させるのか? 基本的に女性は下品なものから逃げるが、中には下品なものを下品のまま置いておき、下品と関係を持たないまま、下品を暴こうとする女性がいる。

さいきん、「転生したらスライムだった件」というアニメを見ていたのだが、そのアニメでは、スライムである主人公リムルが、ユニークスキル「捕食」を使って、個体を飲み込んで分析するシーンがたくさんあるのだが、彼女もまた同じことをしているように見えた。

それは非常にゆっくり行われていた。ジジイはページをめくるのがとても遅かったが、彼女もジジイを読み進める速度が遅かった。下層意識にある何かが自然に満ちる速度に任せていた。二人のページをめくる速度は同速に思われた。彼女はさきほど、自分の方がはやく走っていると心の中で言っていたが、小生には並走しているように見えた。

人間は、見ていることをバレずに人間を見ていられる自由が許されるなら、こういうことになるのだろうか? 誰もがあのように見て、あのように見られて、話すことができたら、我々が現在置かれている制限の開放になるだろうか?

彼女は手にスマホを持っていた。国立大学生特有の風格を備えており、電車内でスマホでゲームをやって過ごすような同世代の女の子と一緒に見られることを嫌悪しているようだった。

わたしはモンストとか、そういうのはやりません。今は『原神』というのが流行っているみたいですけど、わたしは「原」も「神」もしりません。学生が電車の中でスマホを触っているだけで原神やってると思うみたいですけど、迷惑です。わたしは単純に調べ物をするためにスマホを使っています。そんなに疑われるのが嫌なら図書館に行って調べろよ、というかもしれませんが、わざわざ文明の利器を遠ざけるような非効率な真似もしません。スマホを触らないでいることと、あなた達に原神をやっていると疑われながらも調べ物ができることを天秤にかけた結果、後者を選択しただけです。というような顔をしていた。

しかし、サラリーマン達からすると、彼女のそんな様子も可愛かったらしい。

電車内でスマホをやっている女は基本的にサゲマンだが、スマホをやらない女の子はアゲマンだと、男は基本的にそう考えている。この理屈だと、彼女はサゲマン側になってしまうことになるが、スマホに操作されているか、スマホを操作しているか、見ている側にはわかるものだ。彼女はサラリーマン達に、結婚するには最適な女性だと思われていた。

ジジイはエロ本を捕食し、女の子はジジイを捕食し、サラリーマンは女の子を捕食する。不思議な電車内の食物連鎖があった。

『エロ列車』

エロしか乗ってない。

女の子はやはり視線を動かさず、ジジイの後頭部をずっと見続けていた。もうそんなに見ても、景色は何も変わらないはずだが、それでもずっと見続けていた。調べ物をするらしいはずだったスマホは、おそらく30秒の消灯機能のために、もう長いこと、黒しか映していなかったと思われる。

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