ケイタとみかこ
「みかこ、悪いけど働いてくれない? 俺だけの給料じゃ厳しいわ。お前もずっと家にいてもあれだろ? ……。家事も、お母さんが全部やってくれるわけだしさ」
「私、働きたくない。あちこち体も痛いし、気分もよくない」
「う〜ん、じゃあ、ちょっと外に出て気分転換したら? いろんなところ、遊びに行ってきなよ」
「体が痛いから無理だっていってるじゃないッ!」
「ああ……。そっか……。支えてくれる友達と一緒なら、どう? そういう友達とかいないの?」
「友達ならいるッ! あなたと違って、友達はいる! あなたは自己中だし、B型で空気が読めないから友達いないけど、私はいるッ!」
「何をそんな怒ってんだよ。俺だって友達ぐらいいるわ」
「嘘! 絶対いないッ! あなたに友達なんているわけない! この前も隠れてタバコ吸ってたし、あなたの言うことはぜんぶ信じられないッ! 前の仕事も、売上改竄して、カルロスゴーンみたいなことしてクビになったじゃない!」
「……お前もさぁ、元々美術教師だったんだから、ネットで絵を描いて売るとか、オンライン絵画教室開くとかさ、身体痛くてもできることあるんじゃない?」
「絵は描きたくないっていったでしょッ! 絵は一度描き出すと完璧を求めだしちゃうから疲れるの! もう絵を仕事にしない! そういったでしょ! なんで忘れちゃうの! だからB型って嫌い!」
「じゃあ、そのままずっとゴロゴロしてるの?」
「私だってね……! 初めからあなたを手玉に取れると思ったから結婚したの! B 型で空気が読めなくて、チョロそうで、顔も悪いし息も臭いし、セックスと下手だし、この人誰とも結婚できなさそうだから、私が結婚したら操れると思ったからしたのッ!」
「お前、よくそんなこと本人の前で言えるなぁ。言っていいことと悪いことがあるだろ。俺だって昔モテたわ!」
「いや、私の方が絶対モテたッ……! 過去の彼氏はぜんぶ私から振ってきたし、彼氏いない期間もほとんどなかった! 今だって、付き合おうと思えばすぐ付き合える! でもあなたは無理……!」
以下 ケイタと俺(しまるこ)の電話
「まるで俺がモテなくて可哀相だから一緒に居てあげている口ぶりなんだよな」
「そんなことがあったんですか。よくまぁ、奥さんも禁忌を口にしますね。ケイタさん、舐められまくってますね」
「そうなんだよ」
「ケイタさんを手玉に取れるから結婚したっていうのは相当なカミングアウトですよ。この発言は離婚になってもおかしくない」
「まぁ、付き合ってるときからそれは感じてたけどね。口に出して言われると、きついね」
「そんなこと言われた後でも、子作りの為にセックスするんですよね? やれるんですか? そんなこといわれた後で」
「俺はやれるよ。穴があれば何でもいい」
「すごいなあ。俺はどんなに可愛くても、たとえ橋本環奈ちゃんでも、手玉に取れるから結婚した、なんていいやがったら、二度とセックスしないですね」
「ははは」
「でも、そこが結婚できる男とできない男の差なんじゃないかと思うんです。女も婚活に疲れてくると、愛や恋はどうでもよくなってきて、手玉に取れそうな男を捕まえにいくんですよ。男に男性的な魅力を求めてないんですよ、むしろない方がいいんですよ。その方が都合がいいから。給料も少なくても割り切れる。どこの馬の骨も似たような給料ですからね。そんなことより、相手をコントロールできるかどうかが重要なんですよ。そんな男の前では、下着姿でウロウロできるから楽だし、そんな醜態を見せても発情してくれる。ありがたくセックスしてくれるんですよ。一応は発情されたいみたいですね、女ってやつは。学生時代、見向きもしなかったような男と結婚できちゃうんですよ、女ってやつは。怖いですね」
「お前、それ、俺のことめっちゃディスってんのわかってる?(笑)」
「魅力がない男の方が早く結婚して、魅力がある男は限界まで結婚しないんすよ」
「お〜い、しまるこ〜(笑)」
「ははは、すいません。こんなこといっても怒らないところがケイタさんのいいところなんですけどね。本当に血が巡ってんのかわかんないぐらいです。ケイタさんを思い切り上下に降っても、一滴も出なそうです。穏和を究極に求めていったら鈍感に行き着くんでしょうか? でも、だからといって夫を舐めるのは間違ってる。最低ですよ、ケイタさんの奥さん! それにしても、夫婦が思い切り喧嘩すると、友達の数を競い合うんですね(笑)。自分の方が友達が多いんだぞ!ってガキみたいな言い争いになるんですね。めっちゃ面白かったです。人間的にどっちの方が魅力があるのかっていう論旨に迫っていってしまうんですね、それが一番面白かったです(笑)」
「しまるこ。俺もさ、たくさん出会い系で女と会ってきたけどさ、34になると、マッチングしなくなってくるんだよ。20代はもう厳しい。ていうか無理。まずマッチングしない。30以上の女としかマッチングできないんだよ。それでさ、31の女とデートするしかなくてさ、何にも楽しくないんだよ。辛くなってくるんだよ。34と31の男女が、居酒屋行ったり、ディズニー行ったり、熱海行ったり、レストラン行っても、虚しいんだよ。何も話すことなんてないし、さっさと結婚しなきゃいけない空気があるだけなんだよ。結婚前の手続きを淡々とこなしているだけっていうのかな? しかも、この期に及んで女は何もしないから、俺の独りデートなんだけど。二人でコメダに入ったとき、何してるんだろって思ったよ。入店拒否されてもいいぐらいだと思ったよ。熱いコーヒーを全身にぶっかけてくれッ!って思ったね。くだらない、二人の空気がくだらないんだよ。二人ともいい年して、自由に相手を選べる立場じゃないから妥協してるんだ。その妥協の中でコーヒーを飲まなきゃいけない。もう、これならいっそ結婚しちゃった方がいいなって思うんだよ。しまるこ。34でこれだからな? もしこれが40だったら、コーヒーなんて一滴も喉を通らないぞ? 今マッチングできてる30代前半の女とも、マッチングできなくなる。こうして不味い思いしてコメダでコーヒーを飲むことすらできなくなるんだ」
「それで妥協したってことですかね?(コーヒーコーヒーうっせえなぁ……)」
「妥協、うん、妥協……かなぁ。独身も寂しいからね」
「今はどうですか? 結婚してよかったですか?」
「そんなに可もなく不可もなくって感じかな」
「そうですか。そんな凄まじい言い争いをしていても、悪い方の気持ちじゃないのが凄いです」
「小遣いの方がつらいかな? 給料の端数だからね」
「端数……?」
「給料が25万8000円だったら、8000円が俺の小遣い」
「え?! 月に8000円だけですか!?」
「そうだよ」
「じゃあ給料が25万2000円だったら、どうなるんですか!?」
「2000円が小遣いだよ」
「どういうことですか!? 何なんですか!? お願いだからウソっていってください! 俺は今、奥さんじゃなくてケイタさんにキレそうです! あんた、自分でも生きてるのか死んでるのかわかってないでしょ!?」
「少しへそくりしてるけどね」
「そういう問題じゃないでしょう!? へそくりした結果、一万円になったから結果オーライじゃないんです! もともと2000円ということが問題なんですッ! ケイタさん、犬畜生じゃないですか! じゃあ今月の俺みたいに、 iPad Pro 12.9 インチとHUAWEIのMate 20X買って、合わせて23万の買い物したらどうなるんですか?」
「会社行ってる間に、メルカリで売られると思う」
「そんな馬鹿な……! ケイタさんのところは……、二世帯住宅で……、奥さんのお母さんがご飯も作ってくれて、洗濯もやってくれるから、奥さん、働く必要ないからずっとゴロゴロしているだけのくせに、給料が端数!?」
「ははは(笑)」
「なるほど、こういう風にいいように操れる男が売れていくわけか」
「言い過ぎだぞ、しまるこ(笑)」
「っていうかケイタさん、奥さんのお母さんにパンツ洗ってもらってるんですよね。恥ずかしくないんですか?」
「一緒に暮らしているんだから当たり前だろ(笑)」