出会い系「90人と出会って20人ほどやった体験談」

出会い系でいちばん大好きだった子 3

投稿日:2021-04-08 更新日:

最後の電話

それから2ヶ月くらい、彼女からまったく連絡がこなくなった。

ほとんど毎日のように電話がかかってきたというのに、急にパタンとこなくなってしまった。何か問題があることでもいってしまっただろうか。特に思い当たらない。2ヶ月。長い期間だ。もうとっくに就活の結果は出ているはずだ。

落ちてしまったのか? しかしあれだけ受けておいて、ぜんぶ落ちるということはないだろう。それはわからないが、仮に落ちたからといって電話をしてこなくなるような子ではない。落ちたらむしろ、そのことで電話をしてくる子だ。

小生は気になっていたが、電話をしなかった。それだけ気になっていながら、なぜ電話をしなかったのか。

ほぼ100%、彼女の方から電話をしてくれていたから、それに甘えてしまっていた。なんとなくそういう関係ができあがっていた。自分の方から電話をかけるのが恥ずかしかった。彼女は20歳、小生は32歳。12個も離れている。20歳の女の子が32歳の男を追いかけるという形であれば、清々しいものだ。なんとなく格好がつくというか、話の内容も就活の相談という健全極まりないもので、女学生が教授に質問しに訪れるような、昔ながらのいい時代の人間関係を思わせるような、一種の清涼感のようなものがあるけれども、32歳の方が20歳の女の子に電話をかけまくってしまったら、ストーカー感が生まれてしまう。

あれだけ何10回も電話をかけてきてくれたというのに、たった1回こちらがかけたところで、ストーカーになるわけでもあるまいし。かけてこないならかけてこないでも俺は気にしない人間だよ、とでもいいたかったのか。まぁ確かに小生はそういうところがある。女子校に赴任してきた新人教師のもとに、女学生がキャッキャとなついて、「しょうがないな」とやっている構図を勝手に描いて気持ちよくなっていたというか、そんな立場に酔っていたのかもしれない。そんなふうにかっこつけていたら、2ヶ月が過ぎてしまった。なんとも薄気味の悪い2ヶ月だった。

しかしとうとう我慢ができなくなって、LINEをした。「元気してる?(^o^)」と送った。「元気だよ」と、すぐに返ってきた。

「そっか、ならよかった」と返した。「ねえちょっと話したいことがあるから電話してもいい?」と言われた。小生は「うん」と返した。「じゃあ21時でいい?」と彼女から返ってきた。懐かしいやりとりだなと思った。21時。バイトが終わって家に着く時間だ。まだバイトを続けていたらしい。

話したいことか。なんだろう。話したいことがあるんだったら電話してくればよかったのに。そんなふうに思いながら、緊張しながら21時まで待った。ああ本当に久しぶりだな。緊張感と同時にワクワクも抱いていた。就活が終わってもバイトか。熱心なことだ。彼女がバイトをしていると思われる中、小生はハースストーンをやって待つことにした。

不思議だ。こんなに緊張するとは。彼女も緊張している気がする。性格とか相性とかいうものよりも、時間がいちばん人間関係に左右するものだと思った。

「久しぶり」

「うん久しぶり」

「結果はどうだった?」

「とりあえず受かったよ」

「本命のところ?」

「それは個人情報だから」

なんだ? 言いたがらないらしい。

「そっか、車通勤すんの?」

「それも個人情報だから」

「車はなるべくやめたほうがいいね。やっぱり自転車通勤がいちばんだよ。クロスバイクの有用さは知っておいたほうがいい」

「うん」

「ほんとに久しぶりだね」

「そうだね」

「自分がやりたいと思える企業に受かることはできた?」

「個人情報だから」

個人情報、個人情報ってうるせーな。 2ヶ月話してない間にマイナちゃんになっちまったのか?

久しぶりの会話はここで終了してしまった。彼女はいつものように会話をつなげてくれなかった。

「元気ないね」

「元気だよ」

「もう就活も終わったんだったら、あとは遊ぶだけじゃん。まだバイトやってんの?」

「うん」

バイトは答えてくれるらしい。いったいどこからどこまでが答えてくれるんだろう?

「どうせこれからずーっと長いこと働くことになるんだから、バイトやめてひたすら遊べばいいのに」

「就職するまでは働くってバイト先にいってあるし、そんなにすぐに代わりも見つからないし、高校時代から5年勤めてきたところだし」

「そっか」

「……」

彼女は黙った。小生ももう質問が思いつかなかった。初めて会ったときの、街をガイドしてくれた時の彼女が恋しくなった。ガイドさーん! 道がわかりませーん! 案内してくださーい!(>_<)

「やっぱり元気ない気がするけど。あ、好きな人とはどうなったの?」

「うん。あのね、電話くれてありがとう。わたしもあなたに話したいことがあったから、電話してきてくれてよかった」

「話したいこと? なになに?」

「わたしあなたのブログ読んだの」

背中が一瞬で冷たくなった。

「……」

「……」

「マジか。よくわかったね」

「だってあなた何でも話すんだもん」

「そうだね」

「あなたが普段話していることをネットに検索かけたらすぐに出てきたよ」

「そうなんだ」

「うん」

小生は彼女が落ち込んでいる理由がわかった。多分あの記事を読んだんだろうなぁと思った。

彼女にこのブログの存在は知らせていなかった。小生は記事をいろいろ書いているとは話していた。偉そうにペラペラ話し、それなりに収入が入っていると嘘や誇張を交えて話していた。彼女は何度も読みたいといって、そのブログ教えてよと頼まれたが、小生はかたくなに断っていた。

小生は彼女にブログの存在を知られるのは嫌だった。ブログにはほとんど女の悪口しか書いていない。出会い系で90人と出会って20人とやったとか、女の心理とはこうだ、自分が学生時代モテなくて、今も女に対する復讐心があり、その憎悪を撒き散らしていたり、そんな内容ばかりだ。モテないけど、こうすれば少しモテたとか、恋愛脳もいいとこで、一生懸命に愛や恋やセックスに対して必死になっている姿を、彼女に見られるのは嫌だった。

しかしいちばん見られたら嫌だなと思っていたことは、正直に自分の不安を書いている記事である。人生に行き詰まったり、あまりにも仕事ができなさすぎて、どこで働いても使い物にならず、普通の社会生活が送れないこと。更新が途絶えて、1週間も2週間も途絶えたりしていると、スランプなのか。よっぽど何か困ってるのかなぁと思われたり、悩んだり困ったりしている姿を、10個も下の大学生の女の子に見られるのが嫌だった。

いい年した男が、人生に行き詰まっている姿というのを、あまり見せたくはなかった。そうでなくとも、小生は、彼女にからっとした態度で接していたから。あれだけ自慢しておいて、1円も収入が入っていないこと。入っていないどころか、あまりにも内容が下品ということで、ブログの広告審査に落ちたのだ。そのためYouTubeの方で収益を上げようと試みてはいるものの、ダラダラして更新をサボっている。

やっぱり、自分の決めたことを守り通せず、ダラダラしている32歳の男の姿を見られることが、何よりも恥ずかしい。一応訪問マッサージの自営業をやっているから、それなりにポツポツと生きてはいるものの、年収は100万にも満たない。彼女のバイト代よりも少ないかもしれない。タップル(出会い系アプリ)のプロフィールには、600万と書いておきながら(笑)

ならば、落ち込むのは小生であるはずなのに、なぜ彼女の方が落ち込んでいるのか?

彼女のエントリーシートの文章をネットに公開して、それを記事にしたからである。

確か『最近の就活生のエントリーシートの文章がひどい』というタイトルだったように思う。彼女のエントリーシートについての話は先に話した通りである。あれから小生は一人でいろんなことをうだうだ考えて、考えた結果を記事にした。彼女の文章をそのまま載せ、彼女の文章が変わっていく過程。変わっていくけど何も変わっていかない過程を面白おかしく書いた(すぐに消すとはいえ、今回もまた同じことをしているわけだが)

彼女の文章ひとつひとつに、いやいやこれはこうだろ。とコメントを添えたりして。

なぜそんなことをしたかというと、特に書くこともなくて、うだうだやってるときに、ちょうど書けそうな素材が転がっていたからである。別に大して書きたいと思わなかった。むしろめんどくさいとすら思っていた。ただ、リアルタイムに自分に迫ってくるものを瞬間的に掴み取って書くという、書くための素材が全て与えられている状態だったら、何も考えずにすぐに書き始めることができたからである。題材を考えることがめんどくさかった。理由は本当にそれだけである。

自分の書きたいものがない人間は人の悪口を書くようになる、と、どこかの作家が言っていたような気がするが、本当にその通りだった。

単純にありのままのやりとりを記載したのであれば、ここまで彼女を傷つけることはなかったかもしれないが、小生はないことまで書いた。無論、記事を面白くするためである。企業名だったり、プライベート的な部分は伏せて書いたけれども、彼女が書いた文章を捏造したり、彼女の至らない部分をわざと誇張して書いた。

そしてその記事の最後の締めくくりとして、

「はぁー。一日中、エントリーシートの添削に付き合わされてしまいましたー。毎日ですよ。毎日こんな文章が送られてくるんですよ(笑) 何回言っても直んねーし。エントリーシートよりも問診票を書いて、左脳を小さくして右脳を大きくする手術を受けた方がいいですな。あ、でも何書いてあるかわかんないからお医者さんに伝わんないか(笑) 左乳房を右脳に移植できれば手っ取り早いのだが。しかしそれも貧乳だから無理か。あー、ほんとにめんどくせー。皆さんも小生の目になってくださいよ。小生の命より大事なハースストーンの時間を奪いやがって。き、気のせいか、小生の左の金玉が大きくなってる……! ま、前が見えない! う、うわぁぁぁぁぁーーーーーッ!! あーほんとにめんどくさかった。寝る(^_^)」

と書いた。

「あのね、まず最初にあなたに言っておきたいことがあるの。本当にあなたには感謝してます。何度も電話かけたのにそのたびにいつも優しくしてくれて。何でも相談に乗ってくれて、ほんとにありがとうございました。そしてあなたの時間を奪ってしまって本当にすいませんでした。いくら就活で困っていたとはいえ、あなたにもやりたいことがあったのに、嫌がってるあなたの気持ちも考えずに、押し掛けてしまって、ご迷惑をおかけしました。本当にすいませんでした」

冷たい声だった。今まで聞いたことのない声だった。そして早口だった。

「わたしもこれは自分でやらなければいけないことだったし、見ず知らずのあなたに頼んだり、無償でお願いすることではなかったし、ましてやアプリで出会った人に頼むようなことではなかった。本当にごめんなさい。あなたの方で、陰で馬鹿にして楽しんでもらえたみたいで、少しはお役に立てたみたいですが、でもネットのことだから何があるかわからないし、あの記事消してもらってもいいですか? 内定先に漏れる可能性だってあるし、私も裁判とかなんとかそういうくだらないやりとりしたくないので」

小生は「うん」というのが精一杯だった。

「恩を返せなくてごめんなさい。別に消してくれればそれでいいですから。本当に相談に乗ってもらってありがとうございました。本当にごめんなさい。これだけはちゃんとあなたに伝えたかったから伝えられてよかったです。ここまではあなたにちゃんと言わなければならなかったこと。でも、これから言うのは、ただのわたしの感情です。あなたがブログで好きに書いたように、わたしも言いたいこと言わせてもらいますね。あのさぁ、あなたもひどくないかなぁ? 自分のやっていることをさぁ、振り返ってみて、自分でおかしいと思わないかなぁ? なんであんなこと書けるのかなぁ? あれはひどくないかなぁ? 私あなたにあそこまで書かれるほどのことしたかなぁ!?」

どんどん怒気が強まっていった。

小生は「うん」も言えなくなっていた。

「やっていいこととやっちゃいけないことわかんないのかなぁ!? ああいうことを書いてさぁ! 人がどれだけ傷つくかそんなこともわかんないのかなぁ!? わたしそこまであなたに迷惑かけたのかなぁ!? もう30になってさぁ、仲良くしてた女の子に書くことなのかなぁ!?」

脳がぐらぐら揺れた。本当に今、このことが現実に起こっているのか信じ難かった。

「許せない」と彼女は言った。小さいけど力強い声だった。

「どうしてこんなことできるかなぁ!?」

「ごめん」と言いたかったけど、言えなかった。小生はあまりにも固まってしまって、何も言えない自分をまずどうにかしたかった。

小生は自分のやったことを強烈に恥ずかしく思った。先ほど彼女に送ったLINE『元気してる?(^_^)』というメッセージが、まず恥ずかしく思えた。向こうはよく、(^_^)←このマークを送ってこれるなこいつと思っただろう。案外、ここがいちばん恥ずかしかったかもしれない。

何も言葉が出てこなかった。なんて言ったらいいかわからなかったが、一生懸命言葉を振り絞った。

「悪いよね」

「悪いよ!」

「そのー、やっぱり記事を書くと悪口を書いてしまうというか、炎上狙っているというわけじゃないんだけど、過激に書いてしまうところがあって、事実をそのまま書いても、ただの日記になっちゃってつまんないというか。だから本当は別にそんなに思っているわけじゃなかったんだけど、つい書いちゃったというか」

「思ってもないこと書けるかなぁ!」

10個も下の女の子に凄まれて、すくみあがってしまった。

「なんか、外見の悪口も書いてなかった?」

「外見の悪口?」

確か小生の記憶では、エントリシートの悪口しか書いてないと思ったが、外見の悪口まで書いてしまっていたらしい。呼吸するように普段から悪口しか書いていないから、よく覚えていなかった。

2ヶ月前に書いた記事だったから、ほとんど何を書いていたが忘れてしまっていたが、少しずつ、記憶がよみがえってきた。確かに、貧乳だとか、化粧がへたくそで口紅が唇から飛び出して血を吐いているように見えたとか、徹夜でエントリーシートを書きすぎて痩せて骸骨になってしまっているとか、いろいろ書いた気がする。

「まぁ別に外見のことはいいんだけど、実際その通りだし」

「いや、本当はかわいいと思ってるっていうか」

そういうのはいらない、とでも言うかのように、彼女は無言で小生の言葉を圧殺した。可愛くなかったら2回目は会ってないのだが、もうこの辺りは何を言っても信じてもらえそうになかった。

「ひどいよ」

と言って彼女は泣いてしまった。

「ひどい」

泣き声はどんどん大きくなっていった。声が高いから、泣き声も高かった。

泣かせる理由が、あまりにもくだらなすぎる。なんだよ。ネットで女の子のエントリーシートを公開してぼろくそに言って泣かせてしまったって。あまりにもくだらなすぎる。これが32歳のやることか? 仲の良い女の子にやることなのか? 泣かれなきゃわかんないのか? 俺は仕事を辞めて一体何してるんだ? こんなことするために仕事を辞めて家から飛び出してきて、このクソみたいな六畳一間で文章書いてるのか? せめて記事を書いたことでアクセス数が急増したとか、みんなから感謝されたとか、誰か得したことがあればよかったが、何もない。何一つ得したものがない。ただ無意味に彼女を傷つけただけである。それも深く、深く。

「ひどいね」

「ひどいよ……!」

グスグスと、ずっと泣いていた。彼女は声を押し殺すように泣いていたけど、それでも大きくて、何を言ってもこの涙にかき消されそうだったから、小生は黙っていた。ずっと終わることのないように泣いていたから、小生はただその涙に飲まれていた。もう一生泣き止まないんじゃないかと思った。

彼女はこれまで生きてきて、こんな最低なことをした事はなかったし、こんな最低なことをする友達もいなかったし、信じていた人がこんな最低なことをする人だったなんていう体験もなかったから、こういうことをする人間をいちばん許せなかっただろう。

俺だってそっち側の人間でもあるんだぜ、なんて思ったが、人生で何度か彼女の側の方であったことも多かった気がするのだが。この一件で、小生が悪玉ということが決まったという采配に何ら異論は無い。

「ほんとにつらかったんだよ」

「うん」

「ほんとにあれから大変で、いちばん大変な時期で、何度もあなたに相談したかったのに、一人でがんばるしかなかった」

「うん」

「でも絶対に見返してやるんだって。絶対に一人で乗り越えてやるんだって、ほんとにがんばった。だからあなたには感謝してるところもあるの、そういうところでは。それがなかったら乗り越えられなかったかもしれなかったから」

「がんばったね」

小生がいなければ乗り越えられない就活って何なんだと思ったが、そんなに頼りにしてくれてたんだと思って嬉しかった。

小生はこのとき、彼女に会いたいと思っていた。彼女の泣き顔を見たいと思っていた。

どちらの涙なんだろうと思っていた。記事で悪く書かれたことか、それとも、めんどくさいと思われていたことか。どちらの理由で泣いてるのか、気になっていた。

「にゃー」

彼女の泣き声と同時に、猫の鳴き声も聞こえた。彼女と電話していると、よく彼女の膝の上に乗っかかってくる。アメリカンショートヘアの雌らしい。

「猫が心配してるね」

「あなたのYouTube動画見てたら、この子も一緒に見てたよ」

「そうなんだ」

「うん」

「笑ってた?」

「ううん」

「俺はさぁ」と、小生は口を開いた。今なら少し話せそうな気がした。

「男と女の友情があるかどうかなんていう議論にみんな花を咲かせるものだけど、俺は普通にあると思う。男同士の友情の形をそのまま当てはめることはできないけど、あくまで男と女のエチケットやマナー的なものは免れないと思うけど、たまにこうして電話で話すような関係というものは普通にあっていいと思う。すごい楽しかったって思ってるんだよ」

自分で言ってて、マナー守れてねーじゃねーか、と思ったが。

「お互いが結婚したあともさ、この関係が続いたらいいなぁなんて思ってた。大げさだけどね。まぁ俺は結婚できないだろうけど。なんとなく、日常の中で、こうして電話できる女の子がいるっていうのは、すごく楽しいもんだって思ってたよ。慕ってくれて嬉しかった」

「大丈夫。あなたは優しいから」

『大丈夫。あなたは優しいから』小生が結婚できないとか、モテないとか、孤独死するとか、そういうことを言うと、彼女はいつもこのセリフを言ってくれた。またこうして聞けると思わなかった。

「本当はもっとちゃんと書きたかったんだよ。本当のことを。もともと俺はへそ曲がりなところがあるし、あまり愛とか善とか、感謝を捧げるような記事を書くことは嫌いだから。本当は頼られて嬉しいくせに、ついつい照れ隠しで軽口叩いてしまうというか、素直に感情表現ができなかったんだよ。いつも、記事に書きたいと思ってたんだけど、正直に書いたら、しめっぽくなりそうだったから、照れ隠しでボロクソに書いちゃったというか。今思えば、素直に思ったことを書いてればよかったと思うんだけど、本当になぜか、一切いいことを書かずに、ひたすら欠点ばかりを拾い集めて書いたからね。どこにもそんなことをする必要は無いのに、そんなに別にたいして書きたいわけでもなかったのに、書くことがなくて、目の前に、ちょうど書けそうな素材が転がり込んできたから、それだけで書いちゃったっていうか、ほんとに誰も得しない。ほんとに馬鹿なことをした」

彼女は静かに聞いていた。

「まぁ俺はどこかよくわからないような風変わりなところもあるし、確かブログの記事の中でも、女とつまらない電話するのがいちばん嫌いだの、いろいろ書いてたから、そういうのを読んだのもあったんだろうね。たとえめちゃくちゃ楽しそうに話していたとしても、その後に『本当はあの電話つまらなかった。退屈だった』っていうと、その言葉の方を信じるのが普通だよね。俺はどっちかっていうと、その人がいくらつまんないだの楽しくないとか言ってたって、ペラペラ調子良さそうに話していたら、そっちの姿の方を信じるんだけど。まぁそこには個人差があるか。まぁつまり、言いたい事は、俺があれだけ楽しそうにしてたんだから、そっちの姿の方を信じてほしいっていうか」

自分でもよく動く口だなぁと思った。

小生はごめんと言いたかった。ずっと言いたかったが、それほどこの場に似つかわしいようで、似つかわしくない言葉は無いように思われた。軽く感じた。軽くて、彼女の胸に届く前に、宙に浮いていってしまいそうだった。

そんなふうに思っていたら、彼女の方から言ってきた。

「わたしもね、ほんとに悪いなって思ったの。あなただってあなたのやることがあるし、大変なのわかってるのに、いつも遅くまで電話しちゃって。ほんとに迷惑かけちゃったなって。ごめんなさい。私もちゃんと電話して、謝ろうって思ってたの」

「いや、もしめんどくさかったら、ちゃんとめんどくさいって言ったり、用事があるって言って濁したり、それ相応の対応や伝え方があったはずだったからね。そしてそのサインを見逃すような鈍感でもないでしょ? だからやっぱり俺が悪いんだよ」

「もしめんどくさいって思ってるんだったら、言ってほしかった。無理して付き合ってくれてたのかなぁと思ったら、ほんとに申し訳ないなって思ってきちゃって」

「真面目だね」

「真面目だよ!」

彼女は大きい声を出した。また怒らせてしまった。不用意に言葉を放つからこういうことになる。

自分のことを真面目と言えるだけの真面目さが確かに彼女にはあった。

真面目で、優しくて、いつも一生懸命に生きている人間ほど、いつも傷ついてるような気がする。彼女はこうして傷つく姿が似合っているように見えた。泣いてる姿が似合っていた。

「しかしよくブログにたどり着いたもんだね」

「うん。あなた何でも話すから。あなたが電話で話した言葉をヒントに検索かけたらすぐに見つかったよ」

「そうなんだ」

確かに、小生は気持ちよくなってくると、なんでも話してしまう癖がある。

「ほら交代浴のやつ」

「ああ、あれで、あれかぁ!」

『交代浴はいいよ。昔、仕事で、患者さんの骨折の治療がなかなか捗らなくて、普通2週間ぐらいすればそこそこ良くなっていくんだけど、ぜんぜん治っていかなかったから、交代浴っていう物理療法を試しにやってみたんだけど、それだけでほんとによくなってしまった。スポーツジムに行ってもさ、何度もサウナと水風呂を行き来すると、肌はめちゃめちゃ綺麗になる。普段使われない皮膚刺激が活性されるんだろうね。全身をラップで包んだり、タール剤を全身にまんべんなく塗りたくると、一分も持たずに人間は死んでしまうなんてことも聞いたことある。肥田先生は全身を亀の子タワシで擦るっていってた。肥田先生はいろんな健康法を試したけど、これが一番効果があったといっている。スポーツジムに行ったら必ず交代浴やってるけど。ぜんぜん違うね!』

こんなふうにペラペラと酔っ払いみたいに話していた。彼女もこの話を熱心に聞いていた。女はやっぱり美容的な話に弱く、肌がきれいになるという方法を聞くと試さずにはいられなくなるらしい。

彼女の探究心には恐れ入る。まさかこれが仇となるとは思いもよらなかった。交代浴の話なんてしなければよかった。まぁ、そういうことでもないか。小生は何でもペラペラと話しすぎるから、遅かれ早かれこうなったことだろう。

「わたしも電話しようと思ってたけど、怖くて。ひどくいわれたらどうしようと思って」

「ひどくって、俺に?」

「うん」

「いうわけないじゃん」

「でも書いたじゃん」

「そうだね」

「記事だったらともかく、直接いわれたら、たぶん耐えられないと思ったから」

直接悪くいう人間とまで思われてしまっていたのか。直接悪くいう人間ってなんだ? なんだそいつは? そいつはなんでそんなことするんだ? もしいたら、そいつの人格を疑うが、同じ感想を、彼女は小生の文章に見たのだろう。

「でも電話してくれてありがとう。このまま何も言わずにお別れになっちゃったら悲しいから」

「うん」

「でもこれが最後ってわけじゃないから」

彼女は、最後じゃないと言ってくれた。おかしくなりそうなくらい嬉しかった。

「会いたいとは思わないけど」と彼女は言った。

「そっか」と言って小生は笑った。けっこう傷ついてしまった。

「会いたい?」と彼女は尋ねた。

「どうだろうね」と小生は答えた。彼女が会いたくないと言ったから、つい小生も言ってしまった。

ここら辺が男同士の友情と、男と女の友情の違いである。男同士でこんなことをやっていたら、友達でもなんでもなく、ただのゲイである。

「ごめんね」

「うん」

小生はやっとごめんねと言うことができた。彼女が当たり前のように「うん」と言ってくれたことが嬉しかった。

「ねー最近さぁ、『累-かさね-』って映画見たんだけどさぁ、ほんとにすごい面白かった! ああいうの書けばいいのに」

「書くわけないじゃんそんなの」

「見たことあるの?」

「ないけど」

「せっかく文章うまいんだからさぁ」

「文章うまいって、何か記事読んだの?」

「私も読者だから」

「あーんな、クソみてーな気持ち悪いブログ! 20歳の女の子がやってきちゃダメでしょー! 荒れ狂うジャングルに、子リスが間違えた足を踏み入れちまうようなもんだよ!」

「あの小川っていうのは何?」

「しらん(笑)」

「ねぇ、今回のさぁ、この事、小説にできそうだね」

「今回のって、この騒動の話? こんなの! 馬鹿が女の子のエントリシートをネットに晒して泣かせただけの話じゃねーかよ! そもそもジャンルがなんだよ!」

「すごい素敵な話になりそう」

やはり女というものは、きらびやかな幻想に支配されやすく、変な男の変なブログに、自分のエントリーシートを晒されたという、とても気持ち悪い出来事さえ、美しい物語にしてしまう。『累-かさね-』のように重ねられてしまう。

「でもよかった。ずっとこれからも電話してたいって思ってたから」と小生は言った。

「うん」と彼女は言った。

「変な関係だけどね」と小生は笑った。

「ちょっと物知りなお兄さん」

「回避型」の終局

このあと小生は、彼女をぼろくそに書いた記事を読み返そうとした。しかしどうしても読めなかった。いったい自分がどれだけ悪いことを書いたかと思うと、怖くて怖くて読めなかった。そんなにひどいことを書いたわけではないと安心したかった。早く確かめなければと思っていた。でも読めなかった。小生が一人で安心したところで、彼女が泣いたことに変わりない。あれだけ泣かせておいて、悪くないもクソもあるはずがない。そんなにひどいこと書いてなかった、なんて思えたところで何の意味もないことだ。でも確かめなければならないと思っていた。

自分の書いたものがどうしても読めなくなったことは、後にも先にもこの時だけである。それに、もう解決したのだから読み返す必要もないと思った。解決。ほんとに解決したのか? 何か心に引っかかっているものがある。きっと彼女も同じものを抱えているだろう。それが何なのかわからなかった。結局読んだ。読み始めるまで3日かかった。一度だけ読んで、すぐに消した。

小生は他の記事もいくらか読み返した。彼女に読まれたら困るなぁというものを読んでいった。あー、これも読まれたのか、これも読まれたか、ははは、これも読まれたのか、と乾いた笑いしか生まれなかった。

彼女はあれもこれも読んだ。読んだ上で、「これが最後じゃないから」と言ってくれた。そう思うと嬉しくなった。そんな女性はきっと貴重だから。本当にこの言葉を信じていいのかわからないが。あのとき電話で感じた体温は、信じてもいいあたたかさだったような気がする。

彼女にはこれからも読まれ続けるのだろう。一度知ってしまった以上、彼女は読んでしまうだろう。実際に読者だと言ってたし。小生はその視線を感じたまま書き続けることになる。出会い系では初めてのことだ。

親だったらどうだろう。母親にだけは、ブログの存在を知られたくはない。そしたら死ぬ。中学、高校、予備校、大学、専門までいかせてもらっておいて、一人暮らしニートになってしまったなんて、口が裂けても言えない。

母親だって、一度知ったら毎日読むことになるだろう。1つ記事を書いたら、4回は読み返されそうな気がする。そして多分コメント欄でごちゃごちゃ言ってくると思う。まあ、そしたらアク禁にするけど(笑)

それだったらまだいい方だ。多分人格や精神を疑われて勘当されると思う。心底から気持ち悪いと思われ、二度と実家に帰れなくなると思う。母親だったらね。

まぁいったって、自分が思ってるほど人は気にしてないし、別に大した事なんて本当のところは書いてないし、考えすぎだね。

小生はそれから彼女に電話をしなかった。彼女の方からもなかった。

あんなことがあった後で、電話をしなかったらどうなることが予想されるか? 彼女は、彼女をぼろくそに書いた小生の方を本当だと思うだろう。ああ、やっぱり電話をしてこないってことは、もう私と関わりたくないんだ。やっぱりめんどくさかったんだ。私と関係を続けたいと言ったのは嘘だったんだ。そう思うだろう。ナルシストな考えで恐縮だが。

もう一度電話をしようと思っていた。すぐにでも電話しようと思っていた。しかし、何を話していいのかわからなかった。彼女の就活は終わった。もう相談に乗ってあげられることは何もない。

別に普通に近況だったり、また家電の話でもすればいい。何かをきっかけに、また恐ろしい勢いで2人で話し始めるだろう。何を話したっていい。何も話さなくたっていい。次に電話をするときは、どこに内定をもらったか教えてくれるかもしれない。マイナちゃんみたいに、個人情報ですって言わなくなってるかもしれない。好きな人とはどうなったのか教えてくれるかもしれない。何を話すではなく、話すことだけが重要だ。

しかしなぜそんなに電話をしなければならないのか。そんなに急用か。別に付き合うわけでもないし、結婚するわけでもないし、たまに、月に1回くらいの割合で話せたらいい気がするが。いやそれも多いか。年に4、5回ぐらいがちょうどいいか?

しかし彼女の方から電話がないのはなぜだろう?

やっぱり記事で、言いたい放題、女の悪口を言ってたり、詳しく女を分析したり考察ばかりしているから、自分もそう思われているのか、これから関わっていく上で、丸裸にされるように観察され続けるのか。話してる分にはそういうところを見せないけど、陰ではいろんなことを思ってるのか。いったん電話を切ったら、そんな思いがこみ上げてきたっておかしくはない。そう思うと、気持ち悪くなったのかもしれない。あるいは、こじれた痛い中年男として、見方が変わったかもしれない。会いたいと思わないって言ってたしな。ダメだ。時間が経つと、悪い方に考えていってしまう。

そもそも彼女と電話する理由って何なんだろう。友達? 普通に新しく出会い系をやってたら、たくさん出会いはあるかもしれないし、彼女に固執する必要なんてどこにもないんじゃないか? もともと順風満帆に人生がうまくいくようになっている子だ。小生が関わったことで、いらない傷を負わせてしまった。小生とさえ会わなければ、彼女の人生において一度も経験することのない類の傷だったはずだ。

彼女はどうしたって人を傷つけられない人間だが、小生はまったくためらいなくそれができてしまえる。小生のような人間が、彼女とあまり関わるべきではないのかもしれない。電話なら、いつも話せる友達がいるじゃないか。もういいや。忘れよう。でも、彼女から電話がかかってきた時は応じよう。それは彼女が小生を求めている何よりの証拠だから。そうだ。それがいい。もともとそういう関係だったじゃないか。

気づいたら、小生は、彼女と電話しなくても済むような理由ばかり探していた。

そんなふうに考えていたら、2年が経ってしまった。

もう、仕事も慣れてきた頃だろうか。もしかしたら、もう結婚しているかもしれない。それは早すぎるか。でも彼氏くらいはできたかもしれない。

もう、これだけ期間が空いてしまうと、電話どうこうの話ではなくなってくる。彼女はもう忘れているだろう。自分の夢を形にできる子だから、その世界で一生懸命戦っていることだろう。そんな時に、余計なことを思い出させなくていい。

もう忘れているだろう。小生の顔も名前も思い出せないだろう。小生も彼女の顔をよく思い出せないでいる。

彼女のことを、この2年の間、よく思い出していたけれども、思い出さない時はまったく思い出さなかった。思い出したり、忘れたり、思い出したり、忘れたり、もう3ヶ月経っちゃったしなぁ、もう半年経っちゃった。1年。2年。思い出したとしても、時間が経つたびに、どんどん電話ができなくなっていった。

しかし何の因果か、自己啓発本に啓発されたか、異様に英気がみなぎった瞬間があり、その勢いでもって、小生は彼女にLINEをした。異様な英気をもってしても、凄まじい緊張感からは逃れられなかったが。

『元気してる?(^_^)』

と送った。

彼女はLINEの返信がとても早い人だったけど、既読にならなかった。2日たっても3日たっても、まったく既読にならなかった。ブロックされてるのか何なのかわからない。ブロックされた相手にLINEを送ったことがないからよくわからなかった。

2ヶ月たっても、3ヶ月たっても、既読にならなかった。2年ぶりだったとしても、結婚していたとしても、こちらが連絡さえすれば、彼女は応えてくれる気でいた。だから送ってしまえば、あとはどうにでもなると思っていた。そんな傲慢な気持ちが、宛先不明となり、自分の元へ返信されてきたようだった。

遅かった。いつも、こんなふうにもたもたばかりしているから、大事なものを失う。何をしたとか、何をやったとか、悪い記事を書いたとか、これからも悪い記事を書き続けるとか、そんなことはどうでもよく、話したいと思ったときに話せばよかった。

ブロックされているとしたら電話もつながらないか。じゃあ電話してもしょうがないよな。ブロックってそういうことだし。小生は電話のアイコンをずっと眺めていた。小生はどうしても電話のアイコンを押すことができなかった。なにがグイグイ系だ。本当はグイグイ系じゃないんだよ。ブログの読者の人に教えてもらったけど、こういうのを「回避型」っていうらしいよ。

それからしばらくして、LINEの友達リストを整理していて、本当にやり取りする人間だけを残して、後は全部消してしまった。彼女もこんな風に消したのかもしれない。5人まで絞った。今もLINEの友達登録者は5人だけである。そのうちの1つはヤマト運輸である。

彼女の、LINEのアイコンとホーム画面は2年前のままだった。彼女がプロフィールを更新した事は見たことないし、女の子にしてはそういうところは全く無頓着ぽいところはあったけど、さすがに2年間も同じホーム画面ということもないだろう。これはブロックじゃなくて、使われてないアカウントか。

もう一度LINEを送ってみたらどうなるのか。既読になるわけないよな。以前ならなかったものが、どうして今なるというのか。電話のアイコンを押したって、どうにかなるわけでもない。どうせ使われていないアカウントだから、と思って消した。今はもう影も形もない。

「ドン引き」「寝ろ」「大丈夫、あなたは優しいから」「ちょっと物知りなお兄さん」

たまに、夜になると、彼女と電話したくなる。これが彼女の願っていた小説かどうかわからないが、とりあえず書いてみた。『-響-』とはぜんぜん違う物語になってしまったと思うけど、全力で書いてみた。

今も彼女がこのブログを読んでいるかどうか知らない。やっぱりもう読んでない気がする。やっぱり書かれるのは嫌だったかね。ごめんね。ちゃんとすぐに消すから。

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